何処へ行くのか、百貨店 ! №2

百貨店不調の原因の一つである消費者ニーズ変化が続いています。

拙著「お客様、閉店です」でも述べましたが消費者ニーズの多様化・多層化が止まりません。一つの流行に右に習えとばかりに消費者が一斉に同じ方向を向くという事は、現在の消費者にはありません。正に成熟社会の到来であります。十人十色と言うように、大衆が分裂して分衆に、更には個に成っているのです!ファッション衣料が苦戦しているのは消費者がファッション衣料に拘ることを、流行に乗ることに価値を見出さなくなっている証左でありますが、その他にも消費ニーズが従来の価値観とは大きく異なる事象がいくつも見受けられます。その一つに、下町の活性化が挙げられます。インバウンドが原因で東京では浅草や谷根千などが、大阪では難波周辺が活性化されているとよく言われますが、それとは別の理由で下町が今とても熱いのです。クリエーターやアーティストが創作活動と販売機会の場所として、家賃が安く、比較的広い店舗や倉庫・工場跡などが人気となったことが始まりでした。自己表現に拘り、それを自己の存在意義の礎に据えたクリエーター達は手作りでヒューマンタッチ溢れる作品を自由な環境で生み出したいと陸続として下間違いを目指しています。未だに原宿や青山・恵比寿がお洒落な場所だと固執するクリエーターも多いですが、所謂クリエーターではなく商売人が多いです。その動きに従来の組織に馴染めない若い世代が共感し、素人感満載の手作りのショップで、従来の商業ペースト違った空間と時間を楽しんでいるのです。白川清澄に始まり、浅草寿町・蔵前・入谷・亀戸・東陽町などは今やトレンドのメッカです。昔からの老舗と最新鋭の店舗が緩く共存しているのです。こういったエリアの喫茶店は注文しなくて座っていても文句も言われず、地元のおばちゃんがバックからお菓子を取り出し、若い世代のお客に分け与え、平気で店内で食べています。また老舗の甘味屋では地元の婦人会と最先端ファッションに身を包んだクリエーターが一緒にあんみつを食べているのです。この「緩さ」が時代のキーワードなのです。丸の内や青山などで感じる「組織」や「規則」などといった従来の堅苦しさや気取った感覚は消費者には受け入れにくくなっているのです。その青山で一番集客を誇っているのがLVショップでもアップルストアーでもなく、土日に開催される流石創造集団が主催する「ファーマーズマーケット」なのです。このマーケットは全くの手作り感満載の素人によるイベントが今や1日2万人もの集客を誇るようになっています。出展者は農家の生産者自身やオーガニック信奉者が自ら農家から直接仕入れて販売をするもので販売しているものはまさに「手作り」商品そのものです。此処にはオーガニックを求めてくる人や、新鮮な野菜を期待するレストランシェフなど多種多様の人々が集います。共通しているのは「何かないかな」とマーケットの空間とぶらぶら冷かして歩いて時間を楽しんでいることです。明らかに目的を持って行動しているのではなく、緩く流れる時間軸に心地好い発見や体験ができる愉しい空間に身を置く事により、自分自身をリフレッシュしているのです。

今、私達の周りでは今まで経験したことのない全く新しい価値観が芽生えており、それが急速な拡大をしているのです。あれよあれよという間にネットが広まったのよりもっと速く価値観の変化は進んでいるのです。是非、既存の価値観に縛られる事なく、広い視野で物事を見てください。

何処へ行くのか、百貨店!

百貨店の不調が止まりません。予算どころか前年すら達成できない月が1年以上も続いています。そのため巷からは「ネット時代に対応が無策」「爆買い頼み」「殿様商売で価格が高い」「欲しいもの、買いたいものが無い」など袋叩き状態です。無責任な経済評論家からは「百貨店から不動産賃貸業化へ」と業態変換を求める声の大合唱です。「GINZA   シックス」を立ち上げた大丸松坂屋や二子玉川開発の「東神開発」を主軸に店舗展開をおこなっている高島屋は不動産業の先駆者として営業利益率の良さを度々取り上げられ、最近ではこの動きに追随して丸井や他の百貨店も賃貸業化へとまっしぐらに進んでいます。こうなると何処見ても、何方を向いてももう「百貨店は存続しえない」というのは共通認識であるかのようで、不動産賃貸業しか生き残る道が無いかのような報道が続いています。   

でも本当にそうなのでしょうか?

確かに、従来のままの百貨店MDや展開方法では今の消費者ニーズに到底対応できるものではありません。あまりにもマーケティングを軽んじ、消費者ニーズを読み違え、いや、読みさえせず、自己満足の極みの商売に胡坐をかいていては消費者が満足するはずもありません。だからと言って安易に商売替えをおこなって良いのでしょうか?百貨店問屋やメーカーにおんぶに抱っこした結果、どこの百貨店も同質化してしまい更にはネット販売に追い打ちをかけられ、わざわざ百貨店に行く必然性が無いことは事実です。しかし、「ここでしか買えない」「販売員からでしか得られない情報」など百貨店がもう一度強みとして消費者に支持される要素を再構築できたら、活路は見いだせるはずです。都会の百貨店は立地は一等地にありますが、地方では鉄道を中心に発達した町の中心に存立するため、車社会の現在、決して一等地ばかりとは言えません。しかし、現在では「便利だから行く」から「わざわざ行く」消費者ニーズというのもかなりの消費行動の中で大きな割合を占めています。結局、一番の消費の要諦は「わざわざ行っても欲しいものがある」「行くことが愉しい」ということだと思われます。しかし今の百貨店はあまりにも自分たちで汗をかくことを忘れ、目先の「効率」のみを追及して売上高に固執し、小売業で一番大事な「消費者」のことを忘れてしまっています。自社の事情ばかり優先し、売れない理由は「経済情勢が悪いから」だと逃げていては消費者の支持を得ることなどできるはずがありません。だから今の百貨店は「必要の無い」存在になってしまうのです。

現在の消費者ニーズに百貨店はどのように対応すべきなのでしょう。旧来のように年齢別・テイスト別・アイテム別にブランドを括って展開するだけではネットには勝てません。来店して百貨店の空間が「愉しい」と感じられるMDや展開手法を開発することが不可欠になります。所謂「ライフスタイル型」展開がその一つの答えになるでしょう。百貨店は旧来の大分類・中分類といった分類区分展開を止め、テイスト別に衣食住を総合展開することが求められます。服がずらっと並んでいるだけの展開から、自分好みのテイストの服があり、雑貨があり、家具があり、そして喫茶やレストランがあり、その他旅行やスポーツ・趣味雑貨が一堂に展開されていれば自然に回遊し、「何かないかな」というショッピングに時間を使い、空間を楽しんで頂け、結果、購買に繋がると思います。高度成長期の消費者と違い、成熟期の消費者は「ものを買うのではなく、ものを買うプロセスを買う」ということを認識しなければなりません。しかも展開されている商品が「ここでしか買えない」ものであったり、飲食も「ここでしか味わえない」ものであれば間違いなく消費者は自然に来店いただけるはずであります。そのためには百貨店はメーカーとのコラボによるオリジナル商品や自主仕入れ商品を展開する必要があります。基本的にネットで買えるものを展開しても意味が無いからです。百貨店再生はこれからです。安易に不動産業へ転換してしまえば、二度と百貨店業へは戻れないのです。ただ利益さえ出れば良いという考えでは百貨店は守れません。消費文化の担い手として、百貨店を守るという矜持を捨てては存在意義はもはや無いと言わざるを得ないでしょう。