クーデター倶楽部 2025年2月  02.15

クーデター俱楽部 2月度

議題

第2章    百貨店は誰の為に、何の為に存在するのか

当然ながら「お客様第1主義で、消費者のライフスタイルを豊かにし、非日常を感じられるスペースであること」と説明してきました。しかし時代毎に消費者の望むMDやサービス、買い方は大きく変化し、特にITの進化により消費者のライフスタイルは劇的変化を遂げていますし、今後もたゆみない変化を続けることでしょう。その為に絶えず消費者のニーズを捉え続ける必要があります。

それは単に「モノ」を売るだけの企業から形を変え、「コト」まで提案し「常に人々が集える・足を運びたくなる」必然性があり且つ地域一番の集客性がある企業を目指すということなのです。これがライフスタイル百貨店です。ライフスタイル百貨店は現在在るサービス業のあらゆる形態・種類を包含し、消費者のニーズに対応しうるもので、百貨店が唯一生き残る手段です。更に重要な要素は此処に来ないと味わえない、体験できない、買えないといった要素をキチンと揃えられているという事です。「コト」を体験できる施設とは現在ではなかなか出会う事が出来ません。一時期テナントとしてエステサロンなどの導入が流行った時期がありましたが、色々な問題から定着しませんでした。故に消費者が常に集いたくなる施設は何かという問いを常に考え、常に変化させていかなくてはならないのです。

現在は子育てを支援する形で郊外のGMS等では、子供が体験できるIT施設(リトルプラネット・マイジム等)やママ友がゆったりベビーカーと一緒に食事がとれるレストラン(100本のスプーン・おもちゃ等)が導入され、従来のフードコートでは味わえない・体験できない「コト」寄りのテナントが大幅に進出し始めています。百貨店では新規顧客が取れないとよく言いますが、新規顧客のニーズを把握していないだけなのです。パンが流行れば正面玄関に導入すれば良い等と、安易なMDでは決して新規顧客は定着せず、一過性の消費者が少々集まるだけでそこでそのパンを食べれたりお茶を飲めたりするスペースが無ければ、「モノ」を売るテナントの誘致でしかないので、いずれ廃れ、また違うテナントを誘致すればよいというショッピングセンター的発想でしかありません。消費ニーズが「寛ぎ」や「ゆっくり」な時間と空間を求めているからです。

ライフスタイル型百貨店では「モノ」の販売と「コト」の体験が同一場所で行える事が最重要な点です。その為には小型テナントを集積するのではなく、ある程度効率を落としても余裕のあるテナントやショップが不可欠になるのです。現在のように安易な消費仕入先で埋め尽くし、結果他店と同質化してしまうより、自社のオリジナル性が担保され消費者のニーズに対応できるのです。

しかし何処にも無い「コト」や「モノ」を提供することは言うに易しで実際は大変難しい問題です。それこそどんな売場創りが、フロアー創りが必要か共有できるコンセプトが大事になります。既存の「コト」と「モノ」をミックスした売場はある程度開発可能性は大きいですが、「モノ」自体の開発は心機一転してバイヤーに本領発揮してもらわねばなりません。其の基本はPB商材開発にたどり着きます。従来のPBはメーカーの売れ筋を大量買取を条件に自社タグネームを付けることでそれっぽくしていました。結果、多量の売れ残しを発生させ、各社在庫倒れとなりPBは廃れました。目的として他社との差別化を謳ってはいましたが、実際は低価格大量販売による売り上げの拡大が目的でした。

しかし今回のPBはお客様の為のPBです。現代では価格最優先ではありません。それはスーパーに任せ百貨店は「本物」をキーワードに定番からトレンドまでを製作する必要が有ります。バイヤーは本物を提供する為に再教育される必要があります。消化仕入れになれたバイヤーは実質何の役にも立たないからです。食品からファッション、おもちゃや家具まで全部ではなくともその中心にはPB商材が必要になってくるのです。それは自社のネームを冠する為、最高の「モノ」でなければなりません。

以上の結果、「モノ」と「コト」とそのMIXが、PB商品を加える事により消費者ニーズに強く響く事になるのです。

更にお客様第一主義を貫くためには上記のように新業態売場やフロアーが不可欠ですが、その消費ニーズを常に捉えるには「現在のお客様ニーズの把握と分析」が不可欠になります。かつて百貨店にはマーケティング部というのがどの企業にも在りましたが、現在はたぶん皆無でしょう。所謂市場調査では消費者のライフスタイルやその傾向まではデータが取れ、目先のMD対策はできても中長期の業態としてMD・サービス・施設などの新しく時代合った企業への変革提案などは無理で、役員クラスがその情報を何にどう活用すべきかを理解していなければ、ただの数字でしかありません。

百貨店は顧客情報を山ほど持っていましたし、現在でも数十万から数百万までの顧客データは待っています。カード顧客です。しかしそのデータは「モノ」を買った記録でしかありません。将来の購買予測やライフスタイル分析までは全く行われていません。このデータを何の目的に使うか、その為に他のデータとどう掛け合わせて欲しいデータを得るかなどの基本的目的が無かったのです。それ故これからのマーケット分析はITを活用し「何のデータを・どうやって・何のために」収集分析するかが不可決になります。そして消費者ニーズに対応する為、わざわざ時間と費用を掛けても来店したくなる施設開発が求められるのです。

上記を踏まえ、百貨店の存在意義は「他業態では実現できない消費者の潜在ニーズを把握し、そのライフスタイルを満足させる時間と空間を提案且つ提供する。MDはオリジナル或いは他社とコラボした他所では手に入らない商材を中心に、消費者の生活ご褒美品を提供する」。これにより「わざわざ来店する」「一ランク上のご褒美品」「此処でしか買えない・体験&体感できない」業態へと進化でき、激化するサービス業の中で生き残る事ができるのです。

クーデター俱楽部 2025年1月  01.27

クーデター俱楽部 1月度

議題

第1章 百貨店衰退の本質的原因

嘗て小売りは「お客様第1主義」を謳い、消費者の欲しいものを揃える為、海外の一流ブランドや今迄見たこともない商材を発掘・提供したり、普段では手に入らないものまで常備展開することにより、消費者の夢と憧れを提供してきました。サービス面でも素晴らしく快適な空間を提供し、対面接客でお客様の満足度を高め、「安心と信用」を提供していたのです。各時代毎に消費者が夢を感じる「モノ」と特別感を与える「サービス」を確実に提供してきたからこそ、消費者の支持を圧倒的を得られ小売りの頂点として君臨できたのです。

ところが現在では効率化とリスクヘッジを最優先化させ、いつの間にか「お客様第1主義」を忘れてしまったのです。百貨店は何の為に存在しているのかという原点を、「お客様の為にある」と明確に言えず、株主の為に利益を稼ぎ出すことのみ唯一の政策の原点になってしまっているのです。我々は小売サービス業であり決して貨物タンカーや大型賃貸ビルを建てる土木建設業はなく、目の前に立ち、千円、一万円と商品を購入してくれる方々が私たちのお客様なのです。

更にIT技術の劇的向上で消費者のニーズやライフスタイルは大幅に変化しました。何時でも、何処でも、欲しいモノやコトの情報が手に入れられ、従来のMDや販売手法、サービスでは消費者のニーズを喚起できなくなってしまったのです。消費者は欲しい時に欲しいものを買うという消費の原点に立ち返り、今必要でないものには全く興味を示さず、安いから取り合えず買っておくという購入モデルは全く姿を消してしまったのです。

百貨店では「モノ」よりから「コト」寄りとよく言いますが、それは「モノ」を売るのでは無く「コト」を売るのだと言われます。しかし所詮「売る」という認識から脱却できていません。百貨店が言う「コト」とは何を指すのでしょう?「旅行」「イベントチケット」位しか思い浮かびません。しかし消費者が望む「コト」とはそんなものではありません。もっとライフスタイルの中で、日々の生活の中で、家族や友達と、自分のライフスタイルに合った空間や時間を体感することなのです。

百貨店再生の第1歩はお客様の為に百貨店はどう役立つ事が出来るか」を定義し直し、全面的なMD改革、仕入れ方式の改善、売り方や売場展開方法、サービスの改革と新規開発、をITのあらゆる技術を駆逐し活用し、かつ今までにない活用方法まで生み出し消費者に提供・満足して頂く事なのです。

しかし残念ながらこの事を理解している百貨店は在りません。相変わらずブランドがどうのこうのといった思考しかないのです。

且つて百貨店は消費を文化と捉え、消費ニーズを牽引してきました。その為に積極的に文化や芸術、更には海外の有名品や日本では未だ知られていない優れた商品やデザイナーを紹介してきました。これらは全て消費者に対する小売業の使命と考え行ってきたのです。そこには未だ情報があまりない時代にいち早く企業の責任として消費者に情報を提供してきたのです。百貨店は利益度外視で、仏教関連の仏像展や美術関連の有名画家展や器展、はたまた駅弁大会や北海道物産展など、普段では見る事が出来ない、手に入らない、コトやモノを提供していたのですが、残念ながら今では売り上げが見込める物産展のみが存続しています。全てが売上中心主義に陥ってしまった事が原因です。

これらの文化催しや商品催しは集客に役立っていたのですが、企業として売り上げが見込めないものは「悪」とみなされ、ただ「モノ」を並べていれば売れる、立地が良いので客は黙っていても来る、といった過去の栄光に浸っているだけでは消費者に支持されるはずがありません。故に百貨店は今こそ、消費者ニーズをどう把握し、どうしたらそのニーズに対応できるのか早急に検討すべきなのです。更には顕在化していない、しかし確実にあるニーズをも把握・予測し、上層部から現場まで一丸となり理解・認識していくべき時代になったと思います。

クーデター倶楽部 2025年 再生元年

初めに

日本の小売業が大きな岐路に立たされて10数年経ちます。ITの急速な発展とそれに伴う消費ニーズやライフスタイルの劇的変化を理解できず、無策の内にズルズルと時間のみが過ぎた事が主な原因です。その間大都市部中心に膨大なインバウンド客が雪崩込み、ラグジュアリーブランドをはじめ、薬にお菓子といった土産品まで所謂爆買い現象が発生し、ひとまず都市部の大型店はコロナ前近くまで業績を戻しています。しかし目先の売上にのみ一喜一憂し、ITが齎す更なる影響の拡大を小売業としてどう導入し活用するか、その為に小売業態自体を根本的に変革させていくという課題をすっかり忘れてしまったのです。今のままのインバウンド頼みの経営ではその恩恵を受けない地方の大型小売店舗のみならず、今の業態では大型小売業はほぼ全滅するしか道は残されていません。人口の減少に相まって地方の百貨店や総合スーパーは閉店ラッシュで、業態としての大型小売業の衰退はすでに始まっています。

大型小売業とは、広義のサービス業(サービス・接客・商材)と言えます。特に百貨店は世界の一流品や国内の上質な商品を幅広く揃え、高級オーダー品から食品まで品質の良さを商品知識豊富な販売員から非日常な空間で購入でき、消費者に夢と商品に対する信用を提供してきました。塩一つ買うのも近所のスーパーで買うのと優越感が違い、ギフトならその包装紙が齎す贅沢感は他では得難いものでした。総合スーパーはその膨大な品揃えを低価格で提供することにより、所謂ワンストップショッピングを従来の価格より安価に且つ安易に購入できるMDで生活密着型として成長してきました。地方ではなかなか買えない商材が安価で大都市と変わらず簡単に手に入るようになり、地域住民の生活を間違いなく向上させてきました。

しかし今日、消費者はどちらの業態にも背を向け始めています。

百貨店に対して消費者は「買い物」をするのに豪華な環境・設備、丁重且つ的確なアドヴァイスを含んだ接客により、とても優雅で煌びやかな時を過ごすことができたのですが、現在では効率化一辺倒の政策が長く続き、消費者ニーズの変化を「モノを売る」という観点でしか見ていません。効率化とリスクヘッジの為に消化仕入れを拡大し続け、販売員すら自社社員ではなく、商品知識のないアルバイトに毛が生えたレベルの販売員しかおらず、見せ方、売り方まで消費者ニーズに対応出来うるものではありません。遅まきながらのネット販売は先行する企業から既に業界スピードでは100年程後れを取り、IT技術をもってして何ができるのか全く理解も研究も遅れてしまいました。MD的には他社や他店との同質化が顕著となり、何処へ行っても何処で買っても同質化してしまい、消費者の望む商材、売り方、見せ方に全く対応できていないのです。このような状況ではネット販売に対抗しうるはずがなきのです。

総合大型小売業であるスーパーは「他業態より圧倒的に安い」を謳い文句に、世界中から国内まで朝早くから夜遅くまで生活用品全般を低価格で提供することにより、消費者のニーズに応えてきました。特に食品は直ぐにでも食べられる調理済み品から、冷凍・冷蔵製品に関しても、圧倒的品数を誇り大家族でも1人でも利便性では日常生活には欠かせない業態で始まりました。しかし最近ではオリジナル商材で価格を更に下げた専門業態スーパーや大型専門店にMDで負け、利便性ではコンビニ業態に完全に包囲されてしまったのです。単なる価格競争では立ち行かず、消費者の求める利便性ではコンビニに勝てないのです。何でも有るは何も無いと同義語となってしまったのです。

どちらも業態も、消費者ニーズがIT革命によりその生活の中の価値観や生活スタイル全般を変えてしまった事に全く気付かなかった結果なのです。

今日の消費者は小売業に何を求めているのでしょう。

今年は大型小売業の、時代に即し、消費者ニーズに合った業態開発について研究を進めていきます。

本年度は「百貨店の再生」を図るべく、現在消滅の際に在る百貨店業態を根本的に変革させ、次世代にも残る消費者に支持される業態開発を提案いたします。

第1章 百貨店衰退の本質的原因

第2章 百貨店は何の為に存在するのか

第3章 現状の課題と対策

項目1 再構築すべき顧客第一主義

徹底した消費者ニーズの獲得&分析を行い、それを基にMD・サービスの新規構築を行う。

項目2 組織のと再構築&活性策と人材育成

マーケティング戦略部・経営戦略部・IT戦略部・営業戦略部・人事戦略部・宣伝戦略部などを再編及び新設し、時代に                        合った具体的目的を付与し、数字で図り結果を評価する。従来の総合職的発想を捨て、専門職の新規開発や大幅な中途                        採、外国人起用の道を開く事。現場販売員の役員登用。昇給の為の子会社での現場作業経験3年を導入。要するに人員                          数ではなく社員の能力開発を早急に行い、能力評価型組織にすること。

項目3 IT技術の応用策開発

徹底した機械化による省人手化と、対面接客時の活用策、来店促進策、新規顧客データ獲得策と新規分析

項目4 消費者ニーズ対策のMD

消費者の望むMDとは、従来型仕入方法からの脱却・新規売り場開発=MDmix型売場・此処でしか買えないもの、                        ネット販売との対抗・PB復活・買取政策拡大「モノ」ではなく「コト」販売の強化/ショーの開催・制作現場公開・新                         規文化催&商品催

項目5 コラボの推進による新業態開発

ラグジュアリーとのコラボ開発(商品・ショーの導入)やライフスタイル型売場開発(カフェ+カジュアルレストラン+             本屋+作業場など)異業種mix

項目6 新たな集客策

新たな価値観で自分のライフスタイルを持つ消費者をどう集客するか。従来の媒体ではなくどう「コト」を形にするか。                消費者に取り興味があるものをどう集客に結び付けるか。

項目7 社員がどう幸せに生き生きと仕事ができるか

サービス業の根本要素である社員の為の対策。

これらの課題と対策を各項目毎に検証していきます。

何でも有るは何も無いと同じ

恐竜化するGMS

百貨店と同様にGMSの苦戦が伝えられてきます。先月イトーヨーカ堂が北海道・東北・信越から撤退を発表しました。全123店舗のうち17店舗が第1弾で26年までに33店舗を閉店させるとのことです。更には首都圏からの撤退も始まるようです。

1か所で何でも揃うGMSは正に百貨店の廉価版として、主として郊外や地方で圧倒的な売り上げ規模を誇ってきました。しかしGMSが出店した後はぺんぺん草も生えないと言われたくらい巨大化を続けたGMSは、同業他社や地元商店街を圧倒的規模で圧し潰し、地域の顧客を独り占めにしてきました。その無敵だったGMSも今日、規模からいえば取るに足らないコンビニや、専門店に売上を取られ今や不況業種にならんとしています。最後にはその巨大な胃袋を満足させるだけの餌が無くなり破滅した恐竜絶滅の危機と同じ状況下にあるのです。

その最大の原因は消費者ニーズの変化です。

今まで収益を支えてきた衣料品はユニクロやZARA等大型専門大店に食われてから久しいですが、具体的な対策は取られてきませんでした。ライバルのイオンは衣料品在庫整理を15年から始め、23年上期に10年ぶりに黒字化しましたが、まだまだ予断を許しません。ヨーカ堂はやっと先日衣料品の製造を外部委託=㈱アダストリアにすることを発表しましたが、企画・製造・配送まで外部で販売のみ自社ということですが、在庫を買い取るとなると今迄とどれくらい経費節減になるか興味を惹かれます。

GMSの先駆けとなったダイエーが倒産した最大の理由は、完全な計画経済=前年踏襲主義でした。全く売れないPB商品でも前年100%~103%を続けたそうです。会社の全体予算が103%ならそれを下回る計画をバイヤーや統括する部長たちは下方修正できなかったそうです。結果膨大な在庫を抱え、資金繰りが悪化し倒産しました。これは売れない理由を商品に求め、消費ニーズ対応マーケティングを怠ったからにすぎません。消費者のニーズに対応しなかったからです。

圧倒的集客を誇った食品も、肉の品揃えが良くしかも安い「ロピア」に、中食は圧倒的な品揃えの「福島屋」に、輸入品の瓶・缶物は「成城石井」に、高級品は「明治屋」に、徹底した安さ狙いは「OK」というように専門スーパーに消費者は目的買いの場所を変えてしまったのです。専門的な品揃えを行う業種業態に流れています。消費者は何でも一か所で揃う便利さではなく、自分のライフスタイルに合った商品に拘る消費スタイルに変わってしまったのです。自然食品に拘る、価格に拘る、肉に野菜に魚に拘る、時間を惜しみ中食が豊富な店に拘る、など消費者一人一人が自分のライフスタイルに忠実にこだわった結果、自分の納得できる消費スタイルに拘るのです。

つまり消費者は「何でも一か所で揃う」利便性から、「自分の望む商品がキチンと揃う」ことを望むようにそのニーズを変えてきたのです。かつて百貨店から電化製品がヤマダ電機やビッグカメラに、おもちゃはトイザらスや総合家電に、生活雑貨はMUJIやハンズに取られたように、今度はGMSが同様に専門大店にそのシェアを奪われるようになってきたのです。いくら大型店でも、自分が欲しい商品の品揃えがごく一部では消費者にとって魅力は薄いのです。特に目的買いが主役の今日の消費ニーズでは漫然と「何かないかなあ」とショッピングをする消費者は少なくなってしまい、目的をもって比較購買できることが必要になっています。特にネットで欲しいものを探し、店舗で実物を見ることが主流の今日では、「何でも揃っている」は「何もない」のと同義語なのです。

構造的な遅れ

また、GMSはレジ要員や品出し要員など人件費が嵩む構造であることと、複数の階にまたがる広い売り場を抱えて、水光熱費も重く、高コスト体質になっているのです。近年、ユニクロなどは無人レジを強化させ、ZARAは品出し要員しか店舗におらず、客がレジに来て初めて近所にいる品出し要員がレジも兼ねるといった具合です。スーパーも無人レジ導入が少しはありますが、商品自体に値札を張りにくいという商品特性から、あるいは値下げの為値札を張り替えるといった作業の為、なかなか自動化レジが進みません。一部の店舗や起業では「パワープライシング」※1導入実験が始まっていますが、もっともっとIT技術を導入すべきであります。人件費削減や値札張替えなどの人的作業を削減しなければ高コスト対してはいつまでたっても改善できないでしょう。

高コスト体質改善しなければ生き残れないことは明白ですが、スーパー業界では今また規模による拡大戦略で生き残りを図ろうとする再編が始まっています。イオン主導ですが、ドラッグストアーチェーンの合併や、中小スーパーの統合で生き残りを図ると岡田会長は話しています。地方は人口減少が特に進み、同業間の競争が激化しています。その為利益幅の大きいPB商品を開発・販売しなければならないという理論ですが、かつて百貨店も「差別化」と「利益率改善」を目標にPB戦略を取っていた時代がありました。どの百貨店も数十億から数百億の在庫を抱え、PB戦略は破綻しました。

中小のスーパーは効率の悪いアイテム(主に衣料)を切り捨て食品特化やドラッグストアーに業態変更や提携して生き残りを図っています。それ故、スーパー業界はイオン主導での生き残りを賭けた再編の嵐に突入しています。低コスト高収益のPB商品開発や電子商取引ECなどデジタル投資などの開発費は1社では負担が大きいからです。セルフレジや電子棚札などの投入も未だ十分とは言えず、コンビニやドラッグストアと共存するには競争力を早く身につけねば生き残りはほぼ不可能と言えるでしょう。その為に、単純労働作業はAI化やITの活用が不可欠であります。

これを思うと規模拡大戦略より、専門特化型スーパーをより突き詰めて開発した方が良いような気がします。同時に中央バイイング方式による物流経費の無駄(秋田のねぎを買い付け一度東京へ運び、それからまた秋田に送る、といった無駄)や売れ残り廃棄する食材を減らす方策を研究した方が、時代に合っているような気がします。2024年問題がすぐそこまで来ているときに、旧来のやり方の改良版では生き残ることは難しいでしょう。

共稼ぎ家庭が約7割の日本では、食事をする時間や育児をする時間が十分とれている状況ではありません。それ故、商品で言えば調理済み食品(中食)への要望は年々増加し、ウーバーイーツ等の利用の急速な拡大を見ても今後のスーパーの在り方の一つに中食専門スーパーが在ってもおかしくないでしょう。現に冷凍食品専門店の「ピカール」は急速に店舗数やコーナー展開を増やし続けています。

消費者ニーズに対応するには「漫然としたお買い得」ではなく、「欲しいものがきちんと揃えられている」ことのほうが重要で、価格の安さが最優先というのは極一部の消費ニーズであって、もはやマスには成り得ず、新時代の消費者ニーズに対応できません。今日の消費者は欲しいものは価格が最優先ではなく、自分の欲しいものが欲しい時に在れば買うのです。しかもニーズは多様化し、大量生産品の大量消費はごく一部のメーカーのごく一部の商品のみなのです。従来のような「欠品は悪」ではなく「売り残しこそ悪」という発想に転換すべきで、確実に売り切れる量の生産に切り替えるべきです。

百貨店かく闘うべし

革新を続けて老舗になった百貨店

百貨店がバブル以来の好調と聞こえてきます。しかしこれは都心型の百貨店のみの話で郊外や地方百貨店の苦境は依然悪化の一途を辿っています。絶好調の中身は「インバウンド景気」が唯一の原因で、残念ながら自主努力による好調要因は見当たりません。一種の神風のおかげです。

嘗て百貨店は世界の良いものを逸早く取り入れ、それも商品に限らず、売り場や見せ方売り方まで革新を続けてきたのに、最近の30年で百貨店が他業態に先駆け取り入れたものなど、何一つないのです。革新どころか過去の亡霊に捕らわれているとしか言いようがない状況です。

経済全体の動きをみるに、株価は上昇を続けて36000円台を付け、輸出企業を中心にこれまた絶好調と言えます。しかしこれは言わずもがな『円安』効果以外のなにものでもありません。輸出企業は未曽有の好決算を誇る一方物価も高騰し、それに見合う賃上げは為されておりません。年金も見直されましたが物価高騰レベルには達せず、実質支給減となっています。企業が圧倒的好景気なのに消費者の生活は良くなっているとは言えず、社会全体に閉塞感が満ち溢れています。

何故なら好調とされる企業は輸出業やインバウンド関連のみで、物価上昇に見合う賃金の上昇は得られず、日銀が円高に舵を切ったとたん一挙に不景気が襲ってくるのが明らかだからです。インバウンドもラグジュアリーブランドのみが好調で、日本経済そのものに影響を与えている訳ではないからです。この景況感が健全なものではなく、危うい外的要因の上で成り立っているという事実を消費者は認識しているからです。

何故百貨店を始め日本経済はこの体たらくなのでしょうか。

基幹産業の自動車が、電気自動車へ世界的規模のシフト転換に一挙に進む事を見誤り、ハイブリット車へ寄り道し市場を食われたこと、半導体が韓国や台湾の安価なメーカーにシェアーを奪われたこと、露対ウクライナ戦争の煽りで物流の滞りや経費増、コロナ禍による流通のストップ、など多種多様な原因が挙げられます。どれも合ってはいるのでしょうが、それだけではないような気がいたします。

百貨店も消化仕入れが9割を超え、場所貸し業と化し、商品も売場創りも販売員までさえも他人任せとなった結果同質化し、果てはネット販売対策に大きく後れを取り、未だに実効ある対策やネット販売を取り込むことができていません。特に先取先取りの気風で業態を確立させた時代から、いつの間にか新しい商材の発掘や開発、消費者がワクワクするイベントの消滅、効率優先の商品仕入れと、自らの立ち位置を見失い典型的な活力を失った業態に成り下がっていたのです。消費の王者と言われ消費者動向指数は当の昔にスーパーに奪われ、家電や薬品、ファッションまで専門大店に奪われてしまい、わざわざ百貨店に行かなければ手に入らないものなど無くなっているにも関わらず、新しいコトへのチャレンジが全く為されていないのです。

2001年政府は1990年代のインターネット革命を背景に、通信網の整備や人材育成、電子商取引(EC)を推進し、行政や産業のIT化を狙ったはずでした。確かにインターネット3000万世帯、超高速インターネット世帯1000万世帯に整備するという目標こそ達成されましたが、ITを活用した新産業の創出や人材の育成はおろそかにされ、デジタル化の先導役として期待されたエレクトニクス産業が韓国や中国勢の台頭で事業撤退や再編縮小に追われたため、攻めのIT投資や新たなビジネスモデルへの構造転換を進められませんでした。

その為、デジタルベンチャーを育てる機運に欠け、銀行はベンチャー企業に「黒字化してから来てください」などと言う始末で、更には貸し剥がしまで行い日本のベンチャー企業は海外と比べ圧倒的に不利な状況下で戦わずを得ず、大きく育つ企業はほとんど無いといった状況下にあります。

一方大手上場企業は既存の技術の発展のみに気を配り、新しい使い方や可能性の発見をお座なりにしました。結果、世界に誇るべき技術はガラパゴス化し、世界に伸びるヴェンチャー企業との提携は勿論、共同開発や新事業領域の開発など全く世界に後れを取る羽目になったのです。

そのよい例が、2001年に世界シェアー40%を誇った大型汎用機も、リスクを取って赤字覚悟の投資を続けたアマゾンの「クラウド」にその座をいとも簡単に奪われもはや汎用機は過去の遺物と化しています。クラウドは世界シェアー66%を誇り日本企業がそのクラウドに支払う総額は10兆円にもなろうとしています。

あるTV番組で富士通の技術担当役員が話していましたが、「我々は技術者の宿命だと思いますが、より良い性能のモノを創りたい、創れば勝ちという欲求のみに全力を注ぎ、消費者が使いこなせない程の高性能半導体で更に進化したソフトや機能を搭載した新型の安価なPCに駆逐される運命となったのです。」。消費者サイドのニーズ対応ではなく、自己満足のなせる結果だったのです。

NTTのiモードも世界に冠たる最先端技術で、携帯電話機を携帯PCに変えた画期的な技術でしたがソフトウェアーとして開発するのではなく、機器として製造販売することに力点を置いたことが経営層の大いなる判断ミスでした。apple社からソフトウェアーとして一緒に提携して世界の携帯電話のソフトウェアーを牛耳らないかという誘いに、「弱小メーカーと組んでも販売に寄与しない」と役員会はapple社からの申し出を拒否したそうです。apple社はその後インテル社と組みIOTの発想を膨らませ、独自で囲い込み、自社開発に拘る日本企業と圧倒的な差を広げていくのです。

この問題の本質は価格戦争ではなく、完全に次世代の消費者ニーズの読み違えと、製造業に固執し、ソフトウェア業に進化・転換できなかった日本企業の前近代性が大きな壁として存在したことなのです。特に時代を読みこれからの自社の発展の為の方向性を読むのが仕事である役員達の責任は大変重要であり、既得権益の中ので安全第一主義でいれば絶対大丈夫と考えているのでは先は長くないでしょう。

今日みたいな技術革命の時代は、それを「今までとは違ってどう取り入れ、どう使い、どう売り込むか」といった発想が無ければ成長・発展どころか置き去りにされ、いずれ他企業に吸収されるのが落ちでしょう。今の技術革命は蒸気機関の発明が時代を大きく変えていったレベルを遥かに凌ぐものであります。技術者も消費者もその活用方法を模索している状況下で、新しい発想力を持つ者がその領域を独占できるのです。其の独占が持つ意味の凄さは想像を大きく超えるものでしょう。誰も想像できるレベルでは無いのです

新技術は、消費者が「何」を「どうやって見せ・知らせ・教え」「どう使ったら」より便利で快適な生活が送れるかという視点が無ければ成り立たないのです。発明者でも気づかない使い方や発展の仕方、利用の仕方があり、誰かその活用法を思いついた企業や人がその領域を独占しうるのです。無駄な報告ばかりで議論しない会議ばかり開いたり、自社の「独自性」より「横並び」ばかり選んでいる企業や役員達ではあらゆる業種業態で生き残りは望めないでしょう。

私は「今の時代は明治維新」だと話をします。海外から今迄見たこともない新技術がやってきて、ガス灯や電気が付き、機関車が走り、電信や電報。工場には蒸気機関で動く機械が据えられ、大量生産が可能化した時代。まさに今のIT革命に匹敵する大変革の時代です。現在と違うのは時の政府が先見の明があり、今までの習慣や旧弊に捕らわれず、自ら積極的に欧米文化を取り入れ海外に負けない技術開発に邁進したことです。特に軍事面ではわずか50年程で世界第1位の技術立国になりました。民生面でも義務教育や病院の近代化、身分制度の廃止など世界に先駆けて官民一体となり、欧米諸国の進んだ文化・技術をとりいれました。。400年続いた武士社会がいとも簡単に崩壊し、近代化を図れたのはひとえに官民共に若い世代が社会をリードしたことです。時代の変化を理解できない年寄りたちは何の寄与もせず、次代の彼方に消し去られたのです。

これを現在に当てはめると、「前年踏襲主義」「安全主義」「他社事例」など常に横並びの発想ばかりでリスクを取る経営が為されてはいません。初めから失敗すると判っているものに投資はあり得為せんが、リスクが在っても可能性が大きいものに対しては挑む姿勢が現在のわが国には見られないのです。「失敗して赤字に成ったら責任問題」「赤字になって株価が下がったら投資家に面目がない」などの話しか日本企業の役員達からは聞こえてきません。

百貨店は明治維新の混乱期をチャンスと捉え、積極的に外国製品を逸早く紹介・販売したり、海外の万博へ出店し日本の伝統工芸品や文化を提供してまいりました。靴のまま入れる店舗展開をしたり、定価販売を取り入れたり、アイデアの宝庫だったのに、今や完全に時代と消費者ニーズに取り残されてしまった結果が今日なのです。

新しい販売法右方であったネット販売も活用できず、売り上げを左右するラグジュアリーブランドを育てたのは百貨店なのにもかかわらず、逆に店の一等地を明け渡し、彼らに店最大の宝である顧客名簿や外商顧客句を奪われてしまったにも拘らず、彼らの言いなりになっています。

百貨店もインバウンド景気に頼らず、今後の社会や消費者ニーズを見据え、「どうあるべきか」を今こそ考える時代だと思います。特に地方百貨店はインバウンドの恩恵を被る事が無い為、即急に抜本的対策を練る必要が有ります。もう一度革新を興し、前年踏襲主義から脱皮し、チャレンジし続ける事だけが百貨店の生き残れる道だと信じます。

シン・百貨店 第1章 第3項―7

AI技術の可能性

前回、ネット上でAI接客の可能性の話をいたしましたが、チャットGPTの登場で一段と技術が進化する可能性が深まってきました。最初にチャットGPTが出た時、人々はこれが何の役に立つか十分に理解していたとは言えません。IT全般に言えることですが、その技術がどう役に立つのか、何ができるのか、全くと言ってよいほど理解できませんでした。PCが普及し始めたころ、よくSE(システムエンジニア)達は聞かれたそうです。「コンピューターで何ができるのですか?」と。SE達はこう答えたそうです。「何ができるのかではなく、あなたは何がしたいのですか?」と。

この会話が未だに続いているのです。そして「どう活用するか」という答えを考えた一部の人達に膨大な富をもたらしたのです。バナーシステム、レコメンド機能、ビッグデータ、インターネット通販などなど。初めに考えた先駆者は従来では考えられない富を得ています。

それでは新しい技術=GPTを何に使えるのでしょうか?

チャットGPTは人工知能AIの利用法の一つですが、小売りの世界では販売員として使えるのではという議論が出始めています。あらかじめ各売り場顧客の購入履歴をデータ入力すると同時に前に話した需要予測システム※1の基本データを合わせれば、その顧客に合った最適の商品やコーディネート提案ができるからです。

※1需要予測システムの詳細はクーデター倶楽部2023.06.19版をご覧ください。

AIを顧客接客に応用すれば、ネット上で販売員のアドヴァイスを受けながら顧客の好みの最適商品を提案するのみならず、同時に顧客の好みや趣味嗜好傾向、コンプレックスまでより正確なデータを取得でき、アルゴリズム化してそのデータを販売できるレベルまで高度化できるのです。普通の販売員よりより多くの顧客情報を持ち、より洗練されたコーディネート提案ができ、今年のトレンドを取り入れた顧客が望む提案を行うことがいとも簡単に可能になるのです。

この技術の応用はリアル店舗でも可能です。店舗入り口にカメラを設置し、入店者の識別を行い、判別した顧客情報を即座にデータ端末に送り返せば販売員は勿論、端末上のアヴァターが完璧に顧客と会話しながら接客を行います。あらかじめ店頭在庫情報をビッグデータで取り込んで顧客向けに商品を、色サイズともに揃えておけば確実に顧客は商品を手に取り、試着ができるのです。

実際各社は顧客データの取り込みを始め、ビジネス化しています。来店顧客を小型カメラで捉え、店内での行動を記録し、どんな顧客がどんな物に手を触れ素材を確かめ、価格をチェックし、サイズを確認し、色違い・サイズ違いの存在を調べたか、試着をして買ったか買わなかったかなどのデータを集め、顧客ニーズを把握してアルゴリズム化していくのです。このビックデータは確実に他社が欲しがり、データのアルゴリズムが詳細であればあるほど高価で取引されていきます。

こうなりますと一般の販売員は最早必要とされません。倉庫にストックを店頭に品出しする係が居れば事足りてしまいます。顧客は端末でAIとチャットしながら(文章ではなく口頭入力でまるで話すように)買い物が可能となるのです。

AIの特徴は誰にでも同じ会話をするのではなく、各個々人人別に合った接客が可能という点です。下手な販売員より数段上の、顧客ニーズに対応した接客が可能なことです。これこそが新しい時代の百貨店を始めとする小売業がネット販売に一矢報いる重要なカギになるのです。

ネット通販は基本的に消費者が自分で商品を探しに行きます。そして膨大な資料の中から自分の望む商品を見つけ出していく楽しさがありますが、同時に手間も掛るのです。一方AIでは顧客情報をあらかじめ持ち、分析してあるので接客を楽しみながら自分に合った商品を提案してもらえるという利点があり、一般のネット通販をスーパーとすればチAI接客は百貨店のサービスといったレヴェル差があるのです。

今後AIを活用したサービスは格段に増えていくと思われます。ネット販売の一つの大きな曲がり角でもあります。後れを取った百貨店のネット販売はこの機に一気に後れを取り返す大いなるチャンスでもありますが、百貨店は何処まで気づいているのでしょう。百貨店は生き残るために、今こそ全力でAIの活用に資金を投じ、時代の流れに戻らないと、増々取り残され10年後は存続できないでしょう。

シン・百貨店 第1章 第3項ー6

人材の活用と活性化

百貨店が業態として生き残るためには生産性の向上は不可欠になります。其の為には従来のようなただ集客を図り、売り上げ確保をするのではなく、客単価の向上・顧客の来店頻度の向上・購入点数の拡大を軸に売上高ではなく利益額確保を目指していくべきです。

そのためには前回➀MD強化②新しい売り場展開③新しい売り方が不可欠の述べてきました。これに加えて集客できた消費者を固定化し、再来店を確実にするためには販売員の手腕が大変重要になります。現在ではネット販売の為、コーディネートを主に掲載して販売員のファンを作る手法が流行っていますが、それより格上の接客サービスが求められます。マス相手の総花的なコーディネートではなく、個々の顧客に対するプライベートコーディネーターです。

その為にはトレンドは勿論、顧客の持っているワードロープ、色・デザインの好み、鉄板コーデからTPOを踏まえたコーデが揃えられる実力が不可欠になってきます。これはマニュアルでは設定しえない高度な接客レベルになります。

一方、AIやネット機能を十二分に理解し、活用できれば販売員は必要が無いという声があります。ネット販売こそが主流化し実店舗はそのサブでしか成り得ないという考えです。顧客のビックデータを活用できれば、シーズン最適のコーディナートを提案できるという考えです。実際、AIとチャットしながら購入する仕組みは一部で実験が始まっていると聞きます。顧客がどこまでそれで満足するかは判定までしばらく時間がかかるでしょうし、満足度が高くなるか否かは現時点では何とも言えません。

また一方実店舗の生産性を高め、安定した収入を得るためにはディヴェロッパー化が一番という考え方もあります。販売員そのものが要らない仕組みです。但しテナントには販売員が必要ですが、ディヴェロッパー側には一切販売員は必要ありません。

どちらが経営的に正解か不正解かはわかりません。しかし一つだけ言えることがあります。消費は文化であり、生活の一部であり、百貨店のそれは生活必需品以外の消費であることです。そこではモノを買うのではなく、自分の事をよく知ってくれている販売員という頼もしい味方がいるからこそ、わざわざ時間とお金をかけて来店してくれるのです。ある時は話をするため、ある時は情報を得るため、ある時は実際のモノを買うために販売員に会いに来るのです。

百貨店から販売員を排除し、「接客販売」を取り除いて効率化一本で小売業を行うとしたら他のどの小売り業態にも勝つことはおろか生き残る事さえ難しいでしょう。消費者の百貨店に期待することは「効率化販売」ではないからです。

そのための要が「販売員」なのです。

しかしその肝心かなめの販売員が今迄のように売っても売らなくても給与が一緒ではいくら旗を振っても販売員は踊りません。まして入社2~3年目の若手が売場監督然として朝礼をしても取引先からのベテラン派遣社員は動きません。派遣社員は基本的に百貨店より自社事情を優先させますので、在庫や売れ筋などの確保は派遣社員任せになり、百貨店社員は到底そこまで目が届きません。

そこで前回派遣社員ではなく百貨店自社社員を増加すべきと話しましたが、そういうと必ず人事部は反対します。何故か近年自社社員は全て管理要員で販売員は採用してはいないのです。人件費を抑えることが人事部の唯一無二の目的と化し、社員教育や自社社員の強化育成などは全く行われてはいないんです。

そこで給与体系もジョブ型に変える事を大前提に、中途社員を大量に入社させることを提案します。他社で経験あればもちろん、なくてもきっちりと自社の販売教育を施しその道のプロを育成すれば従来の売り場の壁の花の販売員の数十倍の価値があるでしょう。売れば売っただけ給与が得られれば、販売に対するモチベーションは大きく向上します。欧米の売上歩合制度の導入も検討すべきです。良い販売員を確保するためには売り上げに見合った収入を保証すべきなのです。

更に、販売員であることに誇りを持ち、他社に引き抜かれないためには大幅な給与アップだけでなく、現場を知る営業関係の役員に登用することも必要になってくるでしょう。現場に精通した者が経営層に居ることはこれからは不可欠です。それが無理なら、社長以下全役員が毎日1時間売り場に立ち最低1点販売することを義務ずけることです。

某百貨店で大変優秀な販売員&バイヤーを引き抜き中途入社してもらったことがあります。彼女らの売れ筋や流行、顧客動向やニーズに対する情報量は一般販売員の数十倍もありました。センスも良く会話も上手く瞬く間に固定客を増やす、MDも急速に良くなりましたが、人事は中途採用は社員と認めず、くだらない純血主義で昇給や昇進すらさせず、彼女達のやる気を全く奪う結果となりました。

その中の一人は全日本販売員接客コンクールで、シャネルと並び第1位を獲得したにもかかわらず、某百貨店の人事はコンクール開催も知らず、社内に紹介すらしませんでした。こんな人事部は全く存在価値が無いとしか言えません。

人事は本来の社員の能力向上策を全く持たず、時代に合った人事政策など夢のまた夢で、いくら優秀な人材を採用しても直ぐに辞めていってしまう現状を止めることはこのままでは不可能でしょう。

これからの百貨店は人事政策をメーカーからの派遣社員に頼るだけの人事政策でなく、生産性を上げるべく販売員のモチベーション向上の為の施策を早急に確立すべきです。

百貨店はそこに努める全ての社員の意識改革が不可欠です。特に上層部や各セクションの長は業態としての百貨店はどうあるべきか、そのための組織は、そして人事政策は、を真剣かつ早急に行うべきです。インバウンドが戻って浮かれている場合では無いのです。百貨店はその機能と機構とすべての部署の役割を見直さねば生き残れない時代になったのです。

シン・百貨店 第1章 第3項-5

ネット時代の店舗の在り方は

ネットが勃興し瞬く間に実店舗売り上げを凌ぐまで成長した今日、実店舗の在り方も従来通りでは立ち行かず、再構築しなければなりません。消費者の消費に対する意識の変化は、細分化し、多様化し、従来のマス対応でどこにでもあるブランド毎に店舗を並べていれば集客できることは不可能となり、過去の常識は全く通用しない時代に入っているのです。

現在各百貨店が実店舗の活用策としてネット商品の受取場化とか、試着場化とか、あるいは商品を見せるだけの展示場化などを模索しています。しかし、こんな馬鹿げた策はありません。ネット販売時代にリアル店舗はどうあるべきかという根本的解決には成り得ないモノばかりで、小売業として本気で生き残れる策とはとても思えません。

一方、大丸百貨店を中心に百貨店自体をディベロッパーに業態変更しようとする動きがあります。持て余した百貨店の売り場を改装し、テナント貸しにより収入の安定化を図ろうとするものです。

代表例はGINZA6ですが、これはこれは都心型の大型百貨店のみに通用する施策です。立地が良く集客がし易く路面程家賃や経費が掛からないメリットがあるのでテナントにはうれしい施設です。百貨店では消化仕入れの為、売上に対する歩合売上が家賃として徴収されますが、テナントでは一定額の家賃さえ払えば売り上げがいくら上がっても賃料は変わらないからです。しかも「銀座に店がある」と言えば大変聞こえが良いからです。

しかしこの策を実行するには膨大な数の社員の早期退職が不可欠になります。従来300名で運営していた店舗を場所貸し化すれば運営・管理業務だけで10名も居ればあとは外部委託で済んでしまうからです。大型店舗を多数抱える百貨店では配置転換も可能ですが中小規模の百貨店では無理な施策であります。しかし、郊外や地方店ではなかなかこのようにテナント化の推進は進んではいません。形態を変えてもテナントが商圏自体に魅力を感じなくては出店してもらえないからです。

そこで既存店舗を売却し店舗を移動・小型化する動きも出始めています。これはかつては一級であった立地が商圏の移動や来店手段の変化で一級ではなくなってしまっってしまい、現在地での復活が不可能と判断され、立地の移動と商圏に見合う大きさにダウンサイジングさせねば生き残れないと判断されているからです。

自社の商圏に見合った規模に縮小・コンパクト化し、かつ移転することにより効率の良い小型店舗として存続を図るやり方では、直近では山梨の岡島百貨店がこの手法で再生を図り、再出発しました。旧店舗は売却し、それで得た資金で移転を果たし、店舗を小型化することにより無駄なスペースや老朽化したスペースの設備維持費や人件費を削減し、収支改善を目指したのです。

小型化により残るMDは化粧品と食品が主役となり、衣料はほとんど無くなりますが、最大の課題は消費者にデイリーに足を運んでもらえるMDの構築とイベント性の保持による集客力の強化です。岡島もその点を理解し、週替わりのイベントコーナーを設けましたが、どれだけPRでき且つ集客できるかが今後見守りたいと思います。

これらは根本から生き残りをかけて百貨店を改革させようとする中から出てきた発想です。しかし、百貨店に都合の良い改革では上手くいくとは思えません。何故なら、なぜ現在のように百貨店が凋落したのかその根本原因追求が為されなければ、消費者から再び支持を得ることは難しいからです。

では百貨店凋落の原因は何なのでしょう?

最大の課題は百貨店に魅力が無くなったことです。ネット販売の急成長やライフスタイルの多様化で何処ででも買える商品をわざわざ来店して迄購入する必然性が無くなり、ネット販売では買えない商材のみが集客要因化しているからです。その他、SPA台頭による圧倒的な価格破壊、人口の減少と少子化、多様な購入チャンネルの普及など様々な要因が挙げられますが、百貨店凋落の最大の原因は「消費者のニーズの変化」に対応ができず、消費者がわざわざ来店する魅力がなくなったためなのです。

百貨店特有の接客販売も自社社員ではなく取引先からの販売員にしてしまった結果、百貨店独自のマニュアルを超えたサービスができなくなり、画一的で人間味の欠けた接客しか残っていません。かつて消費者は「何を買うか、何処で買うか、誰から買うかというように消費者は販売員に附いていくのです。

ネット時代に相応しい百貨店の魅力は何なのか?どうすれば売場に再び消費者が戻ってもらえるのか?百貨店は何をどう対応すべきなのか?やるべきことは沢山ありますが、新しい時代の百貨店売場で重要な点は3点です。

一つ目はMDです。

先にも述べましたが、何処にでも売っている商材や、ネットでも買える商材ではわざわざ来店を促すことは難しいです。やはり世界の逸品やここに来なければ買えない店のオリジナル商品を揃えることが不可欠になります。HELMESやCHANELなどの工場で一流の素材と一流の技術で制作されたものは自社のオリジナルとして十分な価値があります。数を売るためでなく、上質なものを求める百貨店本来の顧客や、若くてもモノを長く大事に使うエシカルな消費志向者向けには最善であります。かといって決して高額品ばかりでなくり上質な定番品や、未だ日本に紹介されていない銘品を探し、紹介することも百貨店の大きな使命の一つです。キーワードは「安くて、良い」ではなく「上質で適正価格、且つ品が良い」です。

「此処に来なければ買えない」商品があるという決定的な来店動機を生み出すことが不可欠です。

二つ目は売場の展開方法です。

従来のような効率を追求するために、各売り場を5~30㎡に詰めて展開し、数を追求するような売り場では消費者は満足しません。サイズや色デザイン全てが一同で見られなければネットに敵わないからです。また販売員を派遣できる消化仕入れを軸に置いたため、ナショナルブランドばかりとなり、何処の百貨店へ行っても全くと言ってよいほど品揃えが同質化してしまったのです。消費者からすればこんなに詰まらない業態はありません。わざわざ各店を見て回らなくても、いや来店などしなくても商品が全部見えているのですから。

次世代に求められる売り場創りの基本は「地域一番主義」です。これは館全体で規模やブランド集積を誇る従来の発想ではなく、展開するブランドやテナントが地域で最大の面積・品揃えを誇る「売場」を説明する言葉になります。まずネットに対抗できるフルアイテム・フルサイズ・フルカラーを展開できる売り場面積を保持し、ネットでは体験できないサービスを提供することが不可欠になります。売場が大きくゆったりと商品が見え、試せ、情報を得られる売り場開発が必要なのです。

大きな試着室に、同伴者がゆったり座れるソファ、販売員は指名制で店舗来店は完全予約制。茶菓の提供にアルコールの提供まで無料でサービスされ、その場でのサイズ直しや当日の自宅届け、修理サービスに保管サービス、洗濯サービスなどあらゆるサービスを有料・無料で執り行うことが重要になってきます。

これらの付帯サービス機能を以てして同業他社の追随を許さない売り場創りが不可欠になっていきます。あらゆる分野での1番ではなく特定分野やアイテムでの1番を目指すのが他社との最大差別化に成ります。

三つ目は新しい売り方です。

せっかく来店しても商品知識もなく、センスも良くない会社の指示通りしか話せない販売員しかいないのでは、アドヴァイスを受ける気にもなりません。販売員は売場のスターでなければなりません。一流メーカーからの派遣社員でも、メーカーの正社員ならある程度教育を受けているでしょうが、それで十分とは言えません。現在各社とも入店教育は施していますがその多くはレジの打ち方、店内符丁、カードのポイント付加率、などどうでも良いコトばかりです。

各百貨店の代表として販売する訳ですから、基本は自社販売員に戻すべきです。こんなことを言うと人件費が膨れるとか、販売員に負荷がかかりすぎるとか、人事と組合が共同戦線をがっちりと組んで迫ってくるでしょう。今までは百貨店に集客力があり、一流の顧客が数多く来店なさっており、それなりの売上が取れたからこそメーカーは派遣社員を送り込んでいたのです。しかし、販売員派遣の経費に見合う売り上げが取れなければ当然販売員は派遣してきませんし、売り上げが一定金額見込めなければ、店においてある在庫は死筋となり、期末には不良在庫としてメーカーに重く圧し掛かってきます。

コロナ禍で多くの百貨店が苦戦し、結果大手アパレルをはじめとする多くのメーカーが派遣社員どころか店自体を退店させたのは自明の理なのです。オンワードなどは数百店舗撤退したおかげで、売上減より無駄な制作費や人件費を削減でき、それだけで黒字化したほどです。

もし販売員を自社社員に切り替えたら当然仕入れ値を改定しなければなりません。最低でも10%から15%、雑貨などは20%から25%は最低改善できるでしょう。更に買取に変更したら、15%や20%の上乗せは十分可能でしょう。しかし、このままでは売上は上がっては来ないでしょう。何故なら販売員の尻を叩いても販売員自身にメリットが無ければ人はなかなか動きはしません。

そこで、販売員に対してインセンティブが必要になってきます。基本収入の70%は基本給で後は売上歩合製に変更するのです。予算達成したら基本収入100%がもらえるように制度変更し、予算を2か月続けたら売り上げの1%、3か月続けたら3%を各自にバックするのです。欧米では当たり前の制度です。逆に予算が3か月いかなければ移動対象者となり、減給されるのです。実際はもっと細かい規定が必要ですが概略はこんなものです。

まずは「そんなことはできない」と頭から否定する人材を排し、「チャレンジしてみよう」という人材を活用すべきなのです。その為には人事制度の大幅改革が不可欠になるでしょう。(次回続く)

 

シン・百貨店 第1章 第3項ー4

ネットでの宣戦布告

前回で百貨店がネット販売を強化するにはネット上でのディヴェロッパー戦略=ECプラットフォーマー化を取るべきだと申し上げました。現在のような中途半端な自社HPのままでは、在庫管理システムも十分でなく、展開商品量もすぐ切れてしまい、配送システムも未整備で返品すら満足に受けきれない現状では、とても専業ECプラットフォーマー(PF)に太刀打ちできるものではないどころか、未整備な古いシステムの維持費や人件費などで利益などとても出せる状況では無いのですから。

すでに百貨店の多くは専業ECサイトに立ち向かう事を諦め、中元・歳暮などやギフト商品を細々とカタログ販売と併用して行っているにすぎません。写真の撮り方や販売員によるブログ作成だとかを有名ブロガーに多額の金を払って教えを乞うたり商品バイイングに参加させたり、一体何をやっているのやら理解ができません。先行するPFから100年も後れを取っています。

しかし、先行するPFに意外な落とし穴が待っていました。「商品を見ないで物を買う」というネット販売の根本手法に、偽物・不良品・詐欺商品といった商品が溢れ出したのです。ECプラットフォーマーは必死になってこれらの販売業者や商品を削除すべく日々努力をしていますが、イタチごっこの態を示しており、撲滅は難しい状況です。専業ECネット上では本物であるという担保は機能していません。あくまで消費者が自己判断で購入を決めるのです。

そこで消費者は百貨店の持つ「信用」に気付き始めました。百貨店が「絶対的に信用出来るもの」のみを取引先から仕入れてきた実績の価値はここ十数年に勃興したECPF企業では真似のできないものだからです。しかも百貨店は一般大衆相手ではなく、自社カード会員やその他で囲い込んだ百万人を超える顧客をすでに持っているのです。これらの顧客を核に従来の信用のおける取引先と連動した商品展開を行えば、一見客しかいない専業ECPFとは一線を画した企業として認知されるはずです。

今がチャンスです!

百貨店は今こそ、新店舗開店と同額レベルの資金を投下し、本格的にEC販売に参入する時なのです。その為にはシステム開発(顧客データ管理・在庫把握・取引先HPとのリンクなど)に100億以上の開発費がいるでしょう。保安体制の確実な、即時取引ができる体制にはこれでも少ないくらいです。大手のサイト運営者はデータ管理に数百億円の投資を行いデータ保存・分類・安全対策を行ってきたのです。今こそネット事業に本当に参加するなら受注システム・配送システム・返品システム・再生工場まで一貫した体制を取れる仕組みを組まねばならないのです。

この基本システムの上に更にデータ分析をしてリコメンド機能まで自動的に付加する位は最早当たり前で、今後は商品を探したり、オーダーを受けたりする機能も求められるでしょう。そして売れるまでの時間を想定し、過ぎたら自動的に値下げになるシステムなどは始まっています。

ユニクロなどは流通時間の短縮や返品商品の再生期間短縮迄視野に入れた効率化を推進していると聞きます。無駄な在庫を持たず、売り切りごめんで在庫ロスを削減する、こんな芸当までやっているのです。モノを売るに「効率」を徹底したやり方の追求を行えば、此処に行き着くのでしょう。しかし百貨店のネット販売はその対極を行くものでなければなりません。

数を売るより、本物で上質なモノやコトを提供するのです。安易に値引きをするのではなく、修理や保管まで受け追うサービスを有料で付け、「高いがそれに見合う価値があるもの」を扱っていくのです。しかもトレンドや流行にはいち早く敏感に商品を取り揃えるため、バイヤー組織は長い耳を持ち、取引先と連携してモノ創りにまで入り込む必要も出てくるでしょう。

しかし残念なことに、リアル店舗でも大きな売り上げシェアを占めるラグジュアリーブランドは自前のHP以外に商品展開を許してはいません。当然と言えば当然ですが、百貨店はネット販売の黎明期からもっと早くアプローチしていれば可能性もあったものを、今となっては完全な手遅れです。替わりにラグジュアリーブランドが製造委託している工場やメーカーと提携し、オリジナル商品を開発して販売していくことが不可欠になっていくのです。

何処ででも買える商品ではなく、来店しなければ買えない商材やブランド開発の延長線として高品質でラグジュアリーブランドに勝るとも劣らない商品を適正な価格で販売することは、ネット販売の大きな柱になるでしょう。その際、定番商品より今期のトレンド商材をどこよりも早く紹介し、予約販売できたら大きな勝機が来ることは間違いありません。

この案を実行するためには、何よりもネットに明るい人材に、それも若くデジタルに強い人材を起用し、所謂経営層は口を出さず且つMD本部の機能を強化し、モノ創りができるチームを一日も早く作ることです。そして販売方法や値引き方法、返品や新商品紹介のリコメンド機能などを早急に取り入れることです。

百貨店はもう一度、「モノ創り」から始めるのです。そして百貨店復活の狼煙を上げるのです。

追伸

昨年の11月からコロナ禍の為、クーデター倶楽部の定例会を中止せざるを得ない状況下になり、当ブログをお読みいただいている皆様に大変ご迷惑をかけた事を、此処に謹んでお詫び申し上げます。尚、5月より月2回の更新を目指していきますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

クーデター倶楽部 議長

シン・百貨店 第1章 第3項-3

新しい業態開発・ネットビジネスの在り方

百貨店では今、右を右を見ても左を見ても「ネット販売に力を入れている」という論説ばかりが耳に痛いです。しかし通販カタログをそのまま転載したような画面造りで、どこの百貨店でも大した売り上げは取れてはいません。ネット販売技術やソフト開発は日進日歩と言うべきレベルにもかかわらず、百貨店のネットビジネスは旧世代の考え方から脱却できず、時代の波に大きく後れてしまっています。

なにより、ネット販売の根本的に不可欠な、瞬時にできる在庫確認、選びやすいサイズ表記や素材表記に賞味期限、簡単な検索機能と返品機能、無料の送料などが百貨店のHPでは全くと言ってよいほどできていません。消費者からすれば今や当たり前の機能が全く備わっていないのです。

第一に商品在庫を持っておらず、売れた商品の消込は勿論、色・柄・サイズの検索する事すら儘ならないのです。メーカーから預かった、或いは買い取った在庫が切れてしまえば完璧な売り逃しになりますし、その前にメーカーのHPに消費者は移ってしまいます。返品も複雑な手続きが無ければできません。結果、百貨店のHPで売れる商材はギフト詰め合わせ位しか無いのは頷けます。

しかもネットというこの新しい技術をどう使えばよいのか、百貨店に知恵がありません。信じられない事にただ商品を掲載さえすれば売れると思っている人が経営層に未だに数多く居るという事実です。また現場では写真の撮り方や販売員のコーディネート提案、ブロガーによる商品推薦、といったレベルの販売策しか採られてはいません。本来その使用策を検討すべき宣伝部は全く出番がありませんし、システム部などは全く存在すらしていません。他業態から100年は遅れている所以です。新しい技術やソフトの導入など、考える余裕すらないのでしょう。

ネット販売が始まってから早や二十数年経ちますが、百貨店は積極的に研究・取り組むことはしてきませんでした。何故ならまだ海のものとも山のものとも判らない技術に投資をするという先見の明が無かったのです。というよりネット技術そのものを理解する経営層や、それを支えるシステム部の理解がなかったことが最大の敗因でしょう。いつの時代も最先端技術を逸早く取り入れた支配者や国が世界を制覇してきました。小売りの覇者であった百貨店は次の時代を生き残るためにも積極的にこの新しい技術を注視し、導入すべきでした。しかし残念ながら否定から入ったのです。役員会で説明しても単語一つ理解できず、「娘に聞いたが、君の言う事は可能性であって無理がある」という、役員会で決定すべき事項を専門家に確認するのではなく、娘に確認しただけで堂々と反対するといったことを筆者は経験しています。

百貨店がネット販売事業を行うには莫大な費用が掛かります。

まず、在庫確認が即時可能なためにメーカー在庫と連動しうる在庫ソフトを開発する必要が有ります。在庫の有無や色・サイズ・柄違いのある場所提示等を即座に消費者が把握できることが初歩の初歩です。売れた場合の在庫消込や、在庫のある店舗紹介、を可能にしなければなりません。商品売り切れの場合の速やかなHPからの削除も不可欠です。当然売上管理データソフトも必要です。まずは基本的在庫管理ソフト開発です。

次に、関連商品へ簡単に移動できるメタ付け機能です。写真だけのコーディネートではなく実際に選択した商材のコーディネートをセットして見せるサービスも今や不可欠です。購入途中にECサイトを離脱する率は90%あると言われていますが、購入途中でキャンセルした顧客にお得なクーポンなどを提供するポップアップ機能など販促に関する機能は導入を図り、新機能の追加は必須です。

現在では商品にメタデータを付与し、消費者の消費性向を分析し、消費者の嗜好に沿った商品を紹介する機能もあります。この機能ですと消費者が嫌いな、或いは感じているコンプレックスなども把握でき、それに該当する商品は紹介せず、本人すら気が付いていない嗜好商品を紹介することにより売り上げを高めることができる機能まで開発されています。

また、メタデータはメーカーにとって需要予測が可能になり、生産調整や売れると予想されるSKUだけ生産することにより、無駄な生産を抑えることができるなどとのメリットもあります。完全なるバイオーダーで、余計な在庫を抱える無駄も売れ残す不安も解決されます。

次に展開商品自体のデータを一元管理するソフトや商品自体の動画紹介化するソフトなども必要でしょう。更に掲載商品の売れ行きが悪ければ価格を変えることができるダイナミックプライシングなども一部業種では当たり前になっています。これらのソフト開発は自社向けオリジナル製作かありものかで大きく開発費は変わりますが、管理運営ソフトには同額の大きな費用が掛かります。システムが予定通りに動いているか否か監視し、不都合があればシステムを止めることなく自動的に修正できるソフト開発もいる事でしょう。

思いつくだけでもこれだけの機能が必要ですが、開発には百貨店1店舗分の費用が掛かります。商品調達・商品掲載・商品受注・商品在庫確認・配送・返品受付・再在庫などの流れをこなすには膨大な設備も必要になります。これらを分業で行うやり方も今では十分開発されており、クラウドを使った商品管理の流れは当たり前になっています。

先行した企業は上記の流れを大手のプラットフォーム企業を使って行っています。楽天、ZOZOなどです。これら企業は謂わばディベロッパーで自身では販売は行いません。その代わり来街した消費者の購買・非購買を問わず膨大な商品閲覧履歴を分析し、購買へ結びつくような有料アドバイスサービスを行っています。また、検索結果の先頭に自社商品が来るような有料サービスやランキング形式の推薦方式など様々な売り込みサービスも行っています。

食べログやヒトサラのように独立したショップ紹介サービスも商売として大きく成長しています。ネットに関する新しいビジネスはありとあらゆる方面や業種を超えて広がり、従来の単純な広告や販売補助を超えた業態が出現しています。これらをどう活用するか、或いは自社が必要としているサービスが何かあれば解決しうるソフトは必ず製作可能なのです。要は新しい技術をどう活用するかの知恵がまだまだ使用者側で遅れているのです。

百貨店がこれからネット時代を生き残るために、一販売業者として参画する以外にも方法はあります。それはネット上にプラットフォーム創設というディヴェロッパー化戦略です。自社オリジナル商材も造れない、テナント商品もなかなか集まらない、ギフト商品しか売れない、というのであればいっそ自らがディベロッパーの第三極となりネット事業に参画していくという考えです。これは次回詳しく説明していきます。