再生なるか、百貨店№8「地方百貨店の哀愁」№3

「街興し」の核たる百貨店はどうあるべきなのでしょう。

  まずは従来発想の「物販」中心店舗の概念から脱却する必要があります。従来の百貨店は、モノを売ったり買ったりするのには便利でしたが、消費者は「モノを買う」という行為が生活の中で重要なポジションを占めなくなり、一般品や必需品を買うにはより簡便なネットやTV通販を利用する時代になっています。1分でも早く1円でも安く時間やお金を節約し、その分自分の趣味や他の興味ある事柄にシフトさせています。一方、ファッションを中心に高額品、例えばブランド品などはちゃんと試着をし、販売員からきちんと納得のいく商品説明を受けて購入します。このように2極化された消費者はどちらをとっても頻繁に来店することはありません。そして現在の消化仕入れによる販売体制を維持するだけの売り上げを確保することは至難の業なのです。大手ファッションメーカーやラグジュアリーブランドは百貨店から軸足を徐々に路面店に移して自己利益確保に走り出して久しいです。故に百貨店はずらっとブランドを並べただけの売り場展開から、まず第一に集客ができるMDを考えなければなりません。それには展開するアイテム自体の検討と新しい展開方法開発 の2つが必須です。

  集客に重要な事は大きなイベントで半期に一度大人数を集客するのではなく、日々消費者が集う事が重要であります。さらには百貨店に導入される新しいMDが消費者の日常生活に無くてはならないモノにする必要があります。例えば、行政施設、病院、介護施設、保育園、銀行、郵便局、学校、塾などが考えられますが、その他にも各種教室(嘗ての友の会的でもかまいません)はヒップホップダンスやハワイアン、料理から陶芸に絵画、ヨガはホットヨガが良いでしょう、それに地元のクリエーター達の為の工房や産品の製作体験場も面白いと思います。消費者が自然と足が向く施設になることが不可欠です。従来のブランド展開もただ販売をするだけでなく、お直しや修理・洗濯に保管などの専門ソフト提供店も必要なのです。これらのソフトをただ導入するだけでは従来もありましたが、それなりの結果しか残せていません。そこで展開場所や営業時間など従来発想とは違う展開方法が求められます。それは今までの婦人服や紳士雑貨、リビング用品に子供服売り場などの展開では消費者は「時間と空間」を楽しむことはできません。ただの買い物になってしまうからです。それを変えるためには、「ライフスタイル型」展開が必要です。テイストで区切られた切り口の売り場展開です。衣・食・住に趣味まで加えた売り場のフロアー展開です。ファッションがあり喫茶やレストラン、雑貨売り場に趣味の教室、クリエーターの工房があり、フロアー自体がまるで街のように回遊でき、「何かないかな」とコトとモノを探す時間が楽しいフロアーを創る必要があります。従来の大分類発想からの完全なる決別です。一つのテイストで括られた消費者の生活シーンを想定し、日常に必要なモノやコトが括られて展開されることが今まさに必要とされているのです。最近ではアイテム集積MDである食品スーパーでも、単にアイテム別に商品を売るだけでなくレストランを併設し、そこで楽しんでもらった料理を自宅で再現できるように写真付きのレシピをレストランに置いて、食べた食材を全て買えると同時に料理方法まで提供して購買を促す手法を模索しています。従来の陳列方法を工夫したり、試食販売することから大きく踏み出しているのです。また一部の専門店では売るだけでなく、洗濯修理、季節外の保管まで行う企業が出現し、消費者の再来店や固定化に大きく寄与しているともききます。かように従来の延長線上の考え方ではなく、新しい顧客のニーズを先取りしたソフトや提案ができた企業は消費者の大きな支持を得ているのです。百貨店はこれらの企業より巨大で地域の消費者の生活に対し責任があります。売れれば何でも良い、利益さえ上がり株主が満足さえすれば良いという目の前のお客様を無視した経営では存続などできるはずが無いのです。全てはお題目ではなく、百貨店に働く全員が心から「顧客満足」とは何かを考え、実行することが求められているのです。来店していただき時間と空間を楽しんでもらい、結果としてモノやコトを消費していただくという精神です。

  この新しい「ライフスタイル」展開では大きな売り場面積を必要とします。現状の郊外や地方都市に立脚する百貨店ではなかなか難しいかもしれません。全てを一つのビル内に収めるには厳しいものがあるでしょう。ましてや百貨店は独り勝ちではいけないのです。そこで地域全体を売り場と考え、街全体に回遊できるスタート地点として百貨店が存立価値が出てくるのです。消費者は宝探し的感覚で街を歩き、新しいお店や気持ちの良い道や町並みを自ら発見することで、「時間と空間」を楽しめるのです。それには百貨店で一番重要になるのは「街全体」を紹介する目に見える観光センター的業務が必要になります。街の楽しみ方や店舗の紹介、イヴェントの開催、近隣の見所や工房・畑・史跡などへの送迎サービスや観光ツアーの開催などです。昨今、無印良品は里山を買い取り、自社の顧客に参加費を取り、畑田圃へ送客して、草むしりから田植え,そして稲刈り・収穫まで一年を通してイベントを開催し続けています。消費者は家族連れや友達同士で自然や田舎ライフを体験し、新しい経験と知識を得て大満足して帰るのです。村は現金収入と同時に来訪者の増大で活気を取り戻し、都会の消費者は自然と田舎生活を満喫し、どちらもウィンウィンの関係で今後更に拡大する勢いです。金井会長に話を伺うとこれからは廃校になった小学校を宿泊施設に改造して、レストランの代わりに自分たちで収穫した野菜や魚を使ってキャンプフィヤーや給食室で皆で鍋料理を作ったりしてよりディープな田舎生活を楽しんでもらえるようにするそうです。(千葉県大多喜村)

このよう型の新しい消費は従来ですと旅行会社の独擅場でしたが、これからは地域が主体と成り生活全般の商材を扱う「百貨店」こそが担うべき業務の一つと思います。