コロナ化後の世界 №6-6

地方百貨店はどうやって生き残るべきでしょうか?

前前回に百貨店の目指すべきMDは高級化路線しかないと言いましたが、地方百貨店にも同じことが言えるのでしょうか?残念ながら同じではありません。地方でも百貨店は高度成長期やネットがない時代に消費者の上昇指向ニーズを一手に引き受けていました。都会でしか買えない商材や大手メーカーの商品をきちんと品揃えし、非日常を具現化して圧倒的支持を得ていたのです。

しかし今日、大都会の百貨店でさえネット販売に押され、消費者ニーズ&ライフスタイルの変化に翻弄され、従来のMDでは立ち行かなくなっているのです。絶対的消費者数が少ない地方では百貨店がもはや大手メーカー店舗が存立しうるだけの売り上げを維持できず、赤字拡大傾向から脱却できる見込みがない中では全国区的な大手メーカー商材を展開するのは不可能です。ラグジュアリーブランドのような高級品は売上だけでなくイメージ戦略に合わない地域には出店しませんし、国産高級品も在庫に成り易く経営を圧迫するでしょう。そこで高級品はその売り方を研究し、外商顧客中心の販売スタイルで展開すべきでしょう。

現在地方百貨店を視察に行きますと、フロアーのあちらこちらにブランドや大手メーカーが撤退した空き地が目立ち、その場所を埋めるべくちぐはぐな感が否めない、アイテムもテイストも全く違う商材がPOP・UPショップとしてだらだら展開されているのが目につきます。もはやMDがどうとかいう以前になってしまっています。取り合えず何でもよいから場所埋めをしとこうという結果でしょう。

ネット全盛時代にどうMDを組むかという課題は、A社が駄目ならB社を入れるといったことではありません。消費者ニーズ変化にどう対応すべきか、という基本的課題を解決すべきで、その結果どう館全体に集客するか、フロアー全体を構成するか、そのパーツとして具体的売り場展開策を検討すべきなのです。30年全盛を誇った商業施設としての役割、特にブランド別ブティック型売り場展開はもはや消費者の支持は得られず、百貨店側からしても面積効率を悪化させる元凶となり、改装経費も膨大になるので新しい売り場展開策を模索すべき時代になっています。

それ故、MDを組む前に実店舗の役割を明確にしておく必要があります。

従来のようにただ商品を並べても消費者は戻ってきません。それよりもう一度地元消費者が必要と思う施設として、大型店舗を活用するべきであります。百貨店は施設としては駐車場から食堂まで展開しています。飲食を新規開業しようすると莫大な経費が掛かる厨房陽が要りませんし、POPUPやイベント展開に必要な催場もあります。あとは地元に何を提供したら、消費者が集まってこれるかというこの一転に尽きます。

百貨店は大抵旧市街の一等地に立地しており、周囲はシャッター通り化しています。ちょっと離れたロードサイドには大型専門大店が軒を連ねており、各店舗の大きさと品揃えには到底勝てません。百貨店としての規模はあってもアイテム毎では到底彼らの敵ではありません。彼らに対抗するにはやはり百貨店でしか売っていない商材と、ワンストップの利便性を提供するしかありません。

時代はモノからコトへと大きく消費者ニーズを大きく変えてしまい、単に物販の店舗を集積しても消費者は呼び戻せません。ロードサイドの大型専門店や総合スーパーも決して楽な状況ではないのです。コンビニやネット販売の拡大で、「便利」というキーワードは大型商業施設からは消えてしまい、消費者は違う他の価値を求めてそれら施設へ行っているのです。残念ながら百貨店はその他の価値観から漏れてしまい、消費者のターゲットから大きく外れてしまった結果が今日なのです。

それをもう一度消費者ニーズの価値ある存在として受け入れてもらうにはどうすべきなのでしょう?

それには消費者がわざわざ来店してくれるコンテンツを店舗に積み込むことです。例えば、郵便局や銀行などの公共事業。病院に歯医者、保育園に塾、ジムやカラオケ、老人ホームやマンションがあっても良いかもしれません。更に食堂では昼間は起業したい地元主婦や若手による専門店(弁当や・ラーメン屋・焼肉屋・蕎麦屋・寿司屋/てんぷらや)。夜はクラブにバーに変化する二毛作業態化を図ります。何しろ地方都市の中核に返り咲く商品ではないMDを組むのです。

4か月に1回の外商フェアーでは普段扱えない高級品を、ファッションフェアーでは大手メーカーのPOPUP展開を、物産展や商品催しを常に展開して集客を図ることが百貨店の一番の業務になります。食品は思い切って成城石井のフランチャイズになるコトも良いかもしれません。地方に成城石井が展開できたら大型スーパーにでさえ対抗できます。制度化粧品は百貨店の独占です。地元のクリエーターの消費jjは積極的に取り上げ、ふるさと納税対象商品になるよう支援するのも手です。

百貨店のOGやOBは日給1000円の義勇兵として、店舗周辺の清掃や児童や老人の送迎バス運転、老人ホーム巡回などを行い、地元活性化を助けます。何しろ、お殿様と言われた百貨店が立ち上がり汗をかく姿を消費者に見せることが重要なのです。これなくしてMDは始まりません。地方百貨店は「街おこし」と一体になり、地域商店街や街全体の活性化の大きな役割を担うという発想が不可欠なのです。

しかし百貨店は従来の百貨店としての存続は計画してはいけません。もう百貨店形態では成立せず、存立しえないからです。あくまで地域の中核施設として、消費者が望むライフスタイル全般のニーズに対応すべき施設に転換するかが最大の問題なのです。商業施設から集合施設へ転換をすることが不可欠なのです。

地方百貨店の存続は、実店舗とネット販売との連動が不可欠になります。特に上手くネット販売を実店舗と組み合わせることが重要です。何故なら消費者が望むものすべてを店頭に揃えても、全部売れる保証はなく、衣料など特に色・サイズのあるものはどんなに売れても必ず残るものが出ることと、売れるまで時間がかかるという点です。店頭回転率は恐ろしく悪く、商材は販売チャンスを失してしまうことが多いということです。取引先は、買取以外の消化仕入れや委託仕入れでは商品を寝かすことになり、残れば在庫負担が重くのしかかります。

これを解消するのがネット販売になります。在庫はメーカー在庫を利用し、売れたらメーカーから納品しても直送しても良い、新しい売り方を研究すべきです。店頭にはフルカラー・フルサイズではなく、サンプルのみの展開で試着をして貰い、欲しければお取り寄せという方式です。この方式だと、メーカーの負担も少なく済むし、百貨店もブランド商品を維持できます。

この時店舗はブランドごとのブティック方式ではなく、メーカーの全ブランドを一か所に集め展開する方法か、テイスト毎にブランドやメーカーの垣根を越えて一緒に展開する方法が現実的でしょう。更に撤退してしまったメーカーには年4回、季節ごとに全ブランドを集めたPOPUP展開を要請します。季節商材を期間を決めて販売することにより、メーカー側も在庫を回すことができ、ロス削減になります。

実際オンワード樫山では撤退した百貨店で年3回のPOPUPショップを展開し、1年分の売り上げを超える売り上げをたった6週間でたたき出しております。経費が掛からない分確実に利益が出ており、新しい売り方として注目を集めています。

商品はネットでは全国展開商品と地域限定地元メーカー商品を掲載し、幅広い地元層に対応します。実店舗では通常ネットで販売していない地元商材と食材が中心になるでしょう。

地方百貨店は地元の郊外型総合ショッピングセンターと競合しても、ロードサイドの専門店と競合しても残念ながら勝てません。それよりわざわざ来店させる集客策を、MD面や宣伝面で徹底して研究するほうが重要です。現在ロードサイドに在ったかつての物流倉庫を専門店に貸し出したり、駐車場を完全賃貸しにしたり、自前の戦略なしで細々と生きている百貨店ばかりです。企業再生ブラーカーに頼り最後の資金を騙し取られたり、社員を減らすことばかりで一切打って出る施策を持たない経営層ばかりです。

こんな状況下になっても危機感すら持っていない経営層は想像以上に多いです。経営層も社員も自社だけは絶対つぶれないと思っている百貨店は多いです。でもそんなことはありません。閉店は目の前に迫っているのです。

 

コロナ禍後の世界 №6-5

百貨店の採るべきネット販売MDとは

ネット販売の急速な拡大の裏には、利便性向上の為の飽くなき技術革新の進歩があります。検索機能から受注・返品機能、そして物流・配送機能、更には商品管理や追跡機能と、複数にわたる業界の連携と膨大な投資による拡大意欲がネット販売の隆盛を支えているのです。

百貨店は実店舗の再構築と同時にネット販売にも本格的に参入すべきですが、今から百貨店が自主でネット販売を強化するといっても、システムも商品も現状レベルでは出遅れ感は否めず、規模・機能・商品の厚み&奥行きで先行企業から100年は遅れています。通販カタログのデジタル化や実店舗の宣伝版レベルのネット販売では新聞掲載広告の置き換えにすぎません。

新規に巻き返すにはまず新しい技術を理解でき、その機能で何をすべきかを発想できる人員が不可欠になります。現在ではネット技術者は揃いつつありますが、ネット戦略を構築でき、百貨店のネット販売はどうあるべきかという指針を出せる上層部が必要です。IT用語すら理解できず、否定から入り、投資も小出しで田舎の温泉旅館みたいな継ぎはぎのシステムを開発させた経営者は要りません。従来のシステム部では対応できません。新規に中途採用で人員を募集すべきです。まずはIT時代に相応しい陣容を整えるべきです。

では体制が整ったとして、百貨店がやるべきネット販売のMD戦略は如何あるべきでしょう?

実店舗では高級品MDを取るべきですが、ネット販売ではどうあるべきでしょう。ネットでの高級品は難しいものがあります。やはり手に取り素材や機能、サイズ感や素材感を実感しないと高級品は難しいからです。だからと言ってメーカーから仕入れた何処ででも買える一般商材でよいのでしょうか?それは違います。実店舗と同様、百貨店のネット販売でも他業種や他業態と同じものでは顧客がわざわざHPに来るとは思えません。やはり百貨店ならではの商品が求められるでしょう。同時に百貨店の強みであるギフト商材も展開する必要があります。

現状多くの百貨店ネット販売にみられる通信販売商材や、既存カタログ商材をデジタル化するだけでは全く意味がありません。基本的にはいわゆる百貨店品質を維持したオリジナル商材が不可欠でしょう。実店舗のPB商材より価格的に求めやすい定番商材と、どこよりも早い新商材、埋もれて世に出ていない高品質商材、職人技が光る手作り商材などや、販売拠点やルートを持てずに販売機会がないけれど機能やデザインが優れている商材、などを百貨店バイヤーが世界や国内から探し出し、販売するのが百貨店らしいネットMDです。百貨店はこのような埋もれている才能を発掘し、紹介するインキュベート機能=パトロンであることが不可欠なのです。

そのためには長い耳を持つ必要があります。常に新しい消費者の動きや消費者ニーズ、街の片隅で随時発生する新しい商品開発や、ネット上で話題になるコトやモノの情報や動向を常に最先端で捉えたり、夜のニュースで紹介された商材を翌日には店頭で紹介したり、一方で常日頃こんな商材があれば良いなあ、といった商材を開発したり、消費者の意見を常にリサーチ&収集することが不可欠になります。

方法はAIを使ったメタデータ収集と分析が必要になります。従来のような顧客アンケートでは無く、ネットの視聴履歴や検索記録、既存メディア情報や広告反応データなどあらゆる生活全般情報からのメタデータが必要であり有効です。これらの膨大なデータをどのように分析し、活用するかがこれからの企業の実力になり、圧倒的差がついてくるでしょう。

バイヤーはメーカーの新製品を導入するだけの業務から、自ら消費者ニーズに対応しうる商材をあらゆる手段を駆使して探し出したり、メーカーや消費者とコラボして開発したり、消費者ニーズの深堀を行うことが求められます。開発した商品は買取を基本とし、詳細なスケジュールを持った販売計画に則って展開されます。商品は潤沢に用意されるというよりは売り切りごめんを基本に、常に新製品が投入されるようスケジュール化されねばなりません。いつでも買える商品は必ず在庫として残りますし、バーゲンに価格変更しても消費者はもはや踊らないからです。

一方百貨店が得意とするGIFT商材も定番メーカーだけでなく、切り口を変えた展開が求められます。よい例が食べログが展開している「秘書の選んだ手土産」というのがあります。一流企業の秘書が、役員が持っていくための手土産を選んだという代物ですが、百貨店が得意とする誰もが知っている老舗ではなく、最近人気だとか、若い子に人気、デザインがかわいい、体に良い、だとか若い世代の秘書目線で選定された商品群で非常に面白いものがあります。百貨店のバイヤーがまず知らない隠れた名店やヒット商品があるのです。

何処にでもある、誰もが知っている、という発想から「秘書」という特定の、一種憧れの職業の人が選んだという安心感に支えられ、誰もが興味を引くのです。このようなMDの切り口はネット上では広範囲の消費者に支持を受け易く、実効も大きいものがあります。これに続くMDの切り口があればネット上での販売に大きく貢献することは間違いありません。

一時、有名ブロガーが発信する商材が圧倒的人気を誇ったことがあります。最初これは歌手や有名人の着ているものがヒットしたり、食べているものが人気になったりするのと似ていました。しかし直ぐにブロガーが行うコーディネートや着こなしに人気が集まっていることが判明し、独自のセンスやライフスタイルが「ウリ」になっていたのです。そこで一部の百貨店やメーカーはこぞってブロガーを活用しましたが、それは正解でした。しかし、現在では一程度期間が過ぎると新しいコトやモノの発信が減り、人気ブロガーも少なくなっています。

やはり消費者の身近な感覚で受けたけれど、常に新しいものを提案し続けることは難しかったと言えるのでしょうか。百貨店のバイヤーはこれらの経験から、自身の感性や情報網に磨きをかけ、本来のバイヤー業務を遂行すべきです。先輩から引き継いだ大手取引先におんぶで抱っこの仕入れ姿勢では生き残れません。ここいらで目を覚まし、自分の足で歩くときです。

優秀なバイヤーが育ってもそれだけではネット販売は成功しません。ネットでは価格の他、返品や交換のやり易さや、サイズ表示・機能表示の見易さ、商品の探しやすさなどの機能は当然必要です。在庫管理だけでもリアル在庫が把握できなくては販売などできませんし、返品・交換商品は直ぐに再生できる体制を自社内に持つ必要があります。従来のようにいちいち取引先に戻していては時間ロスが大きく、販売機会を逃す危険が増大します。百貨店はこれらの新体制を早急に組むと同時に、遅れを挽回するために今までにない機能を取り入れ、消費者にアピールする必要があります。しかも百貨店サービスとして修理・保管などの他業種では無いサービス機能や、他業種でも未だできていないサービス機能も付加する必要があります。

それは消費者の趣味嗜好を完全に把握できる機能です。ネットでは検索した商品を履歴としてデータ把握ができる機能が可能で、音楽業界が盛んに活用している機能です。リコメンド機能と言いますが、消費者が検索した複数の音楽をデータ化し、消費者のききたい音楽の傾向、あるいはアーティストの曲をAIが判断して消費者にSNSで推薦してくる機能です。

この進化版が㈱ソケットと㈱ノーマジーンの共同開発の「感性メタデータ」機能になります。これは商品に数千の感性/感覚表現メタデータが付加され、複数検索された結果の共通項目から消費者の趣味嗜好さらにはコンプレックスまで判断する優れものです。この機能を使うと消費者本人も自覚していなかった消費者の隠れたニーズまで高精度で判断でき、その結果消費者のニーズに合致した商品をリコメンドできるという仕組みです。消費者が検索中にリコメンドが可能なので、検索中にヒットする可能性が飛躍的に拡大します。実験では売上が2桁の伸びをしたそうです。

これは一つの例で、このような新機能ソフトは毎日開発されており、この機能をどう使うかが販売側の能力になってくるのです。

ここでは感性メタデータがポイントになってきますが、流行商品も当然販売するので、年3回、NY、PARIS、MILANOからその季節のキーワードを取り入れて流行にも対応でき、常にシステムソフトが更新できるようになっているそうです。

後発の百貨店がネット販売に参入するにはこのような新しいソフトや機能を谷先駆けて導入し、消費者の利便性やニーズに素早く対応・提案できることが不可欠になってくるでしょう。

他には無い商品・サービス・機能がなければ百貨店がこれから参入しても勝てないでしょう。