シン・百貨店 第1章 第3項ー6

人材の活用と活性化

百貨店が業態として生き残るためには生産性の向上は不可欠になります。其の為には従来のようなただ集客を図り、売り上げ確保をするのではなく、客単価の向上・顧客の来店頻度の向上・購入点数の拡大を軸に売上高ではなく利益額確保を目指していくべきです。

そのためには前回➀MD強化②新しい売り場展開③新しい売り方が不可欠の述べてきました。これに加えて集客できた消費者を固定化し、再来店を確実にするためには販売員の手腕が大変重要になります。現在ではネット販売の為、コーディネートを主に掲載して販売員のファンを作る手法が流行っていますが、それより格上の接客サービスが求められます。マス相手の総花的なコーディネートではなく、個々の顧客に対するプライベートコーディネーターです。

その為にはトレンドは勿論、顧客の持っているワードロープ、色・デザインの好み、鉄板コーデからTPOを踏まえたコーデが揃えられる実力が不可欠になってきます。これはマニュアルでは設定しえない高度な接客レベルになります。

一方、AIやネット機能を十二分に理解し、活用できれば販売員は必要が無いという声があります。ネット販売こそが主流化し実店舗はそのサブでしか成り得ないという考えです。顧客のビックデータを活用できれば、シーズン最適のコーディナートを提案できるという考えです。実際、AIとチャットしながら購入する仕組みは一部で実験が始まっていると聞きます。顧客がどこまでそれで満足するかは判定までしばらく時間がかかるでしょうし、満足度が高くなるか否かは現時点では何とも言えません。

また一方実店舗の生産性を高め、安定した収入を得るためにはディヴェロッパー化が一番という考え方もあります。販売員そのものが要らない仕組みです。但しテナントには販売員が必要ですが、ディヴェロッパー側には一切販売員は必要ありません。

どちらが経営的に正解か不正解かはわかりません。しかし一つだけ言えることがあります。消費は文化であり、生活の一部であり、百貨店のそれは生活必需品以外の消費であることです。そこではモノを買うのではなく、自分の事をよく知ってくれている販売員という頼もしい味方がいるからこそ、わざわざ時間とお金をかけて来店してくれるのです。ある時は話をするため、ある時は情報を得るため、ある時は実際のモノを買うために販売員に会いに来るのです。

百貨店から販売員を排除し、「接客販売」を取り除いて効率化一本で小売業を行うとしたら他のどの小売り業態にも勝つことはおろか生き残る事さえ難しいでしょう。消費者の百貨店に期待することは「効率化販売」ではないからです。

そのための要が「販売員」なのです。

しかしその肝心かなめの販売員が今迄のように売っても売らなくても給与が一緒ではいくら旗を振っても販売員は踊りません。まして入社2~3年目の若手が売場監督然として朝礼をしても取引先からのベテラン派遣社員は動きません。派遣社員は基本的に百貨店より自社事情を優先させますので、在庫や売れ筋などの確保は派遣社員任せになり、百貨店社員は到底そこまで目が届きません。

そこで前回派遣社員ではなく百貨店自社社員を増加すべきと話しましたが、そういうと必ず人事部は反対します。何故か近年自社社員は全て管理要員で販売員は採用してはいないのです。人件費を抑えることが人事部の唯一無二の目的と化し、社員教育や自社社員の強化育成などは全く行われてはいないんです。

そこで給与体系もジョブ型に変える事を大前提に、中途社員を大量に入社させることを提案します。他社で経験あればもちろん、なくてもきっちりと自社の販売教育を施しその道のプロを育成すれば従来の売り場の壁の花の販売員の数十倍の価値があるでしょう。売れば売っただけ給与が得られれば、販売に対するモチベーションは大きく向上します。欧米の売上歩合制度の導入も検討すべきです。良い販売員を確保するためには売り上げに見合った収入を保証すべきなのです。

更に、販売員であることに誇りを持ち、他社に引き抜かれないためには大幅な給与アップだけでなく、現場を知る営業関係の役員に登用することも必要になってくるでしょう。現場に精通した者が経営層に居ることはこれからは不可欠です。それが無理なら、社長以下全役員が毎日1時間売り場に立ち最低1点販売することを義務ずけることです。

某百貨店で大変優秀な販売員&バイヤーを引き抜き中途入社してもらったことがあります。彼女らの売れ筋や流行、顧客動向やニーズに対する情報量は一般販売員の数十倍もありました。センスも良く会話も上手く瞬く間に固定客を増やす、MDも急速に良くなりましたが、人事は中途採用は社員と認めず、くだらない純血主義で昇給や昇進すらさせず、彼女達のやる気を全く奪う結果となりました。

その中の一人は全日本販売員接客コンクールで、シャネルと並び第1位を獲得したにもかかわらず、某百貨店の人事はコンクール開催も知らず、社内に紹介すらしませんでした。こんな人事部は全く存在価値が無いとしか言えません。

人事は本来の社員の能力向上策を全く持たず、時代に合った人事政策など夢のまた夢で、いくら優秀な人材を採用しても直ぐに辞めていってしまう現状を止めることはこのままでは不可能でしょう。

これからの百貨店は人事政策をメーカーからの派遣社員に頼るだけの人事政策でなく、生産性を上げるべく販売員のモチベーション向上の為の施策を早急に確立すべきです。

百貨店はそこに努める全ての社員の意識改革が不可欠です。特に上層部や各セクションの長は業態としての百貨店はどうあるべきか、そのための組織は、そして人事政策は、を真剣かつ早急に行うべきです。インバウンドが戻って浮かれている場合では無いのです。百貨店はその機能と機構とすべての部署の役割を見直さねば生き残れない時代になったのです。