クーデター倶楽部 2025年6月  06.06 

クーデター倶楽部

議題

第3章 現状の課題と対策

項目2ー2 変革に対する阻害要因

日本の小売業はこれまでIT革新技術を消費者対策として一体どのように活用してきたのでしょう。「ネットとリアルの融合」と称してカタログ商品をただネットに掲載するだけだったり、インフルエンサーに写真の撮り方を学んで売場商品の紹介をしたり、ネット仮想空間におもちゃのような売場を創造し、おもちゃの人形が店内を歩くだけのレべルの、到底対応策とは言えない噴飯物の対策でしかありませんでした。どれも途方もなく高い料金で契約し、無駄な資金を流出させただけでした。これは全て現場から役員に至るまで「何かやらねば」と焦り、所謂コンサルタントと言われる業種に騙されまくった結果なのです。私の知る限り日本で最初にネットでモノを販売したのは高島屋でした。既製品を売るのではなく双方向性機能を使ってYシャツのオーダーを行ったのです。これは画期的でした。高島屋はシステムとして通販部門を活用し、製造は販売部が、配達は物流部が連携して行ったのです。次に定性商材として化粧品を販売もしました。今から30年近く前の話です。しかし、ITの可能性を理解していた専門家が居なかったことが災いとなり、結局担当者が変わると新規実験は行われなくなり、通販の一部門になり果てています。当時自社商品は無く、メーカー商品に消化仕入れで依存していたため、在庫確認システムや配送手順が手作業の為、非効率だったのです。各部署を横断的に指揮できる担当役員がITをまったく理解できなかった、或いは理解しようとしなかったことが非常に悔やまれます。ともあれ高島屋のチャレンジ精神は尊敬に値します。

現在の顧客データとは、住所・年齢・性別・収入・職業などではなく、SNSアドレス・携帯番号が先ず不可欠になります。個人情報の取り扱いが厳しくなったために上記データはまず取ることは不可能です。そこでカメラの画像分析技術を活用し画像データから顧客像を分析します。その為、店頭入り口から店内隅々まで防犯カメラを設置し顧客の動線や、購買動向を把握していくのです。進んだショッピングモールなどではすでに実用化されており、電子化された店内案内版に極小カメラを導入し、顧客が何を見たか、その後店内をどの様に歩き、どの様な店に立ち寄りどのような商品を見たり手に触ったり、或いは試着したり試食したりして、何をいくら買ったか、ギフトか自家用かなどを店内カメラで追いかけ、顧客の年齢から服装、乗ってきた車や使用したクレジットカードで個人を詳細なグループ化することが主力になっています。

また、食品スーパーなどでは更に曜日別・時間帯別・チラシ配布費別などの消費者データを取得し、販売戦略に活用しています。最近ではこのデータの販売すら行われています。これらのデータはチェーン店であっても、自店の顧客データにより自店の立地特性(これは住民特性でもあります)、顧客動向をより詳細に把握でき、MD政策や値下げのタイミングや時期を計ったり、営業政策全般に応用できるのです。その結果今は手書きで夕方に価格変更を行っていた作業を電子表示に変更すれば、売れ行き動向を見ながら一日何回も価格変更が可能となり、一律値下げによる利益損失を防ぐとともに、顧客はいつ来店しても適正価格で購入することができるようになり、フードロスも削減でき、三方良しと為ります。

またSNSやSNS上の広告で消費者ニーズ傾向を把握する手法も採用されています。どのような投稿や広告に消費者は反応しているかなどですが、従来の顧客アンケートのように数百単位ではなく、数万から数十万までの或いはもっと大量のデータを獲得できるのです。特にインスタで「映える」写真に対する言い値の数が数十万を遥かに超えるインフルエンサーの掲載商品の分析も大変有益です。自社データではなく公開データを自社分析に応用するためのたいせつな情報源でもあります。

ITが益々進化し、社会のあらゆる場所で使われるようになった現在、人工知能とも言えるAIへ進化は続きました。そしてまさに人工知能である生成AIが急速に発達しています。この生成AIは膨大なデータ資料を組み合わせ、人間に代わり質問に対する答えを導き出してくれます。一部の企業ではこれから圧倒的に拡大し運営方法を模索するであろうAIに対する対策として、全社員の昇級試験にAIの基本知識や財務・販促などの知識を身に着け検定資格を所持することを必須とした改革を実施しています。特に役員に対しては経営判断するのに現代のテクノロジーを自由自在に自ら駆使して、自分なりの判断をデータを以て行うことが求められます。また別の企業では長年日本企業で言われ続けてきた「縦割り組織の弊害」を除くべく、IT技術を用いて全社横断の迅速な情報共有による多方面からの分析を行い単なる経験値からの判断でなく、若い社員の斬新な判断も加える事により時代の消費者ニーズに対応すべく変革を行っています。従来の前年主義や前例主義が全く役に立たないことを企業が認識し始めているからです。

経営戦略や営業戦略、人事や宣伝などをどう限られた資源を有効かつ効率よく再分配するか。或いは全く足らないIT技術の技量や認識をどう社員に再教育させるか。経営層に時代をどう再認識させ、自社の生産性向上をIT技術をどう使って向上させるのか、といった事を企業全体で改革を始めなければ今の上場企業は10年後に9割は生き残っていないでしょう。現在の日本企業の最大の課題は、経営層の時代激変の根本的理解不足と若手の勉強不足による無知識、更には企業内での地位に甘んじる中間管理職層の変化を嫌う体質という3つなのです。

これらの課題を克服するためには、まず組織の改編と業務内容の見直しが不可欠になります。