百貨店新業態への進化 2

 次に重要なことは百貨店がただ買い物をする場所から「空間を楽しみながら時間を過ごせる場所」に変わる必要があるという事です。買い物以外でも「ちょっと行ってみようか」と消費者が新しい「ワクワク感」を求め何かを期待する場所に変わる必要があります。ちょっと背伸びをした贅沢感や、普段とは一味違った非日常を楽しませてくれる場所です。また自分のライフスタイルに合った商品やブランド、店舗がこれまた好みの環境下で展開されていることは勿論、顧客が望んでいるサービスやソフトがきちんと提供されていることが基本になります。

空間や環境は高額な内装費を4~5年で繰り返し投資して中身をコロコロ買えるのではなく全館レベルで統一され、物販面積と同等のサービス面積があることがこれからは必要になってきます。最新のデジタルマッピングや若手クリエーターの作品がフロアー内随所に展開されていたり、ロボットが商品を運んでいたり、最新ITにより自社カード顧客と連動した差別化サービスが受けられたり、豪華な休憩室にビジネスルーム、ご年配の顧客には歌舞伎役者によるトークショーに高僧による説法会、若い顧客には超一流コーチによるダンスレッスン教室や、一流モデルによる化粧教室やコーディネート術教室など、世間で話題になっていること、モノ、人がその場でしかも見直に接することが・体験することができる空間が必要です。昨日TVで話題になったことやモノ、人がその翌日には百貨店に登場するなんて、お洒落だと思いませんか?

お茶を飲むのも買物をするのも、何処にでもあるチェーン店では無く、此処にしかない店舗が求められます。海外の超一流店でも良いですし、日本の薀蓄を持った個店でも良いのです。誰もが憧れる店である必要があります。お茶を飲むのも、衣料を探すのも「どうせなら、あそこに行こう」という店舗の必要があるのです。チェーン店であれば此処にしかない店舗でなければなりません。さらには「わざわざお茶を飲みに来る」ためだけの店であれば文句なしです。食品売り場などは単に食材を販売するのではなく、置いてある食材を使ったメニューのレストランを併設すべきです。最近ではイオンが始めていますが、百貨店こそ行うべきです。普段食べれない高級材料を使った手ごろな値段(それでも街場の1000円ランチとは一味違う)のレストランが作り方も売っているコーナーもちゃんと紹介していたら今晩何を造ろうか悩んでいる主婦には絶対受けるでしょう。自分が食べて美味しかったモノを家族に食べさせたいと思うのは当たり前の事だと思いますから。高級ワインもボトルでは買えなくてもグラスなら飲んでみたいと思う人は星の数ほどいると思います。

今あるような簡単で安くて早いサラリーマンの昼食向け飲食はこれからの百貨店には必要ではありません。(当然立地的に必要な場合もあります。例えば駅隣接型やショッピングセンター内展開型など)

これらの店舗やブランドは現在のような箱型のブティックが年齢別やグレード別に整然と並ぶ展開では無く、テイスト&ライフスタイル別にランダムに壁の無い展開が望ましいです。消費者が「次は何があるのだろう?」と路地を抜けていくような新しい導線開発が求められます。今の大分類(婦人服・婦人雑貨・紳士服など)展開ではワクワクしません。目指すブランドに直行して他は全く顧みないものです。ゾーン展開もライフスタイル型でファッション・雑貨・飲食・リビング等が混然一体となった、テイストで括られたゾーン展開が望まれます。衣食住が一体となった大型の売場がこれからは不可欠でしょう。

また、物販だけでなく喫茶やレストランは言うまでも無く、サービス機能も求められます。

老若男女を集めるには、病院から銀行、塾・保育園、漢方もできる薬局、介護用品売場から介護し易いようなリフォームのモデルルーム、生活を楽しくする食器や雑貨売場、衣料の修理・洗濯・リフォーム売場、また季節外衣料の預りルーム、趣味のお茶・御花・御香は勿論これらの教室、映画・オーディオの機器&ソフト、拡大コンシェルジュ機能、旅行相談、

あれば嬉しいという機能を盛り込み、百貨店を消費者が買い物以外に活用できる施設に変えていく事が必要です。

 特に最近の女子は(年齢軸ではありません!)「緩い」空間を好みます。男子はなかなか理解し難いところがあるのですが、アンティークっぽい環境は大好きです。最近オープンした新木場のCASICAや浅草扇町のIRIYA+CAFÉなどは何時行っても女性で満員です。

どちらも自分からカウンターへ行って注文するカフェが併設されていますが、注文しなくて座っているだけでも文句を言われず、ホッとするには最適の空間です。高い内装費を払い、4から5年で買えてしまうリフォームでは消費者は付いてはきません。

 

百貨店新業態への進化1

 続き・・・・・・

「24時間、世界中から、どんな商品でも」自宅で買えるネットに対抗するためには、「わざわざ来店したくなる魅力」が不可欠になります。では「わざわざ来店したくなる魅力」とは商品的にも環境設備的にもサービス面においても、来店しなくては手に入れられなかったり、体験できなかったりするモノやコトが満載であることです。

嘗て百貨店はONE STOP SHOPPINGを標榜し「何でもあります」を謳い文句に舶来品を初め世界中から消費者が初めて見る「珍しいモノ」や「素敵なモノ」を処せましと集め展開していました。大食堂では見たこの無い洋食や一流店の味が気軽に楽しめ、エレベーターやエスカレーターなどは百貨店に行かなければ一生乗ることなど無かったのです。屋上の遊園地からバーゲン会場まで、子供から大人に至るまでの夢の遊園地でした。

 しかし今日多層化した消費者には「何でもあるは、何にも無い」に映ってしまっています。実際効率化を推進するあまり多数のブランドを展開するため、売れ筋しか並べられない小さな売場では、どれも同じような商品になってしまうのは必然と言えます。さらに消費者の関心事が急速に変化しているにもかかわらず、相変わらずブランドのAが良いだのBが良いだの短史眼的で、大きな変化の流れを見ていないのが現状です。結果、百貨店はつまらなくなったのです。単にヤングのファッションブランドを幾つか入れたから「若返り」だとか「消費者に対応した」といっているうちは全く時代の流れから遅れてしまっています。

 それでは基本的品揃コンセプトは何なのでしょう。品揃えはネットで買えるモノを展開しても太刀打ちできませんから、「ここでしか買えないもの」を展開することが不可欠になります。わざわざ来店して貰うには、バイヤーが世界中から選りすぐった商材であることが第一義であります。今まで消費者が見た事も無い新製品、デザイン的に最新、今まで一部の人の間だけで人気だった銘品、大量生産できない手造りの逸品、などです。世界的な有名ブランドも良いですが、機能に格段に優れているとか、限定品、などが消費者ニーズに合致するでしょう。

 また選んだ商品を仕入先がネット販売できないようにするためには、オリジナル化して完全買い取り化するしか方法はありませんので在庫リスクは現状の消化仕入れと比較にならないほど高くなります。しかし恒常的且つ案手的に売上を確保するには百貨店が独自で商品開発をしなければ商品確保は難しくなる一方です。何故ならナショナルブランドは売上追求より利益重視に傾き、直営店に商品を優先配布し、残品が多く出る百貨店には売場を埋めるだけの商品展開量を回さなくなるからです。その為、自社のオリジナル商品=PB商品開発がどうしても必要になります。

 PB商品は百貨店全盛期に「差別化戦略」として華々しくほとんどの百貨店が手掛けましたが、自社及びグループ内しか商品供給をしなかった結果、競合するナショナル商品より価格面でも商品面でも見劣りが目立ち、販売量も最低生産量すら販売しきれなかった経緯から今や殆どの百貨店の殆どの自社製作商品は消えてしまいました。現在成功しているのは、ナショナルブランドより製品グレードも高く価格も安い価格で10万枚と群を抜いて売っている高島屋のカシミヤセーターくらいです。PB開発はこれからの百貨店において不可欠なMDですが、モノ造りができるバイヤー育成には膨大な時間が掛かり、結局ナショナルブランドメーカーに「こんなモノが欲しい」といった依頼生産しかできないでしょう。

 また万人向けの商材をPB化しても難しいでしょう。多層化した消費者のニーズに対応するにはターゲット層を大きく絞り込む必要があります。従来の「中産階級向け」という大まかなマーケティングから、一段進化させる必要があります。同じ中産階級向けでもライフスタイルを提案したいくつかのゾーン向けに商材を絞り込むことが必要です。定番商品からトレンド商品まで、1点ものからオーダー品、ヴィンテージ商品もこれからは必要です。それも衣料から家具・雑貨、時計など蚤の市的商品も完全レストア済みであれば是非導入したいアイテムです。従来は「売り切り御免」は品揃えとしては恥で、商品継続ができるモノこそが百貨店の商材と言われてきましたが、現在の多層化した消費ニーズに対応は不可能で「売り切り御免」だけど常に新しい商材が入ってくるというのが新しい展開方法でしょう。

 また百貨店は若手クリエーター発掘のインキュベーターとしての役割を果たせねばなりません。売上至上主義と効率至上主義では消費者は戻りません。他の業態と違い小売りの王者として再び君臨するには目先の利益のみを追うのではなく、将来の為の投資をすべきです。それも不毛なリニューアルばかり行うのではなく(実態はリフォームです)、地元や地域の若い才能を支援することが望まれているのです。彼等は自らクリエートしたモノをバイヤーに見せるのは展示会がありますが、販売する機会は全くと言ってよいほど無いのです。彼らのオリジナル、それもほとんど手造りで1点もの、が新しいモノを探している消費者にはたまらなく魅力的に映るはずです。しかもデザイナー自らが店頭で販売したら、デザイナーも消費者の意見を聴け、消費者はデザイナーに要求を言えるのです。新宿高島屋8Fでかつてエスカレーター前の一等地に若手デザイナーのコーナーがあり、週替わりで展開されていた時はデザイナーの友人、後輩、学生が入れ替わり立ち代わり販売しながら消費者と触れ合っていました。正に時代を先取りしていましたが、効率化の前にあっけなく無くなってしまいました。