百貨店新業態への進化1
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「24時間、世界中から、どんな商品でも」自宅で買えるネットに対抗するためには、「わざわざ来店したくなる魅力」が不可欠になります。では「わざわざ来店したくなる魅力」とは商品的にも環境設備的にもサービス面においても、来店しなくては手に入れられなかったり、体験できなかったりするモノやコトが満載であることです。
嘗て百貨店はONE STOP SHOPPINGを標榜し「何でもあります」を謳い文句に舶来品を初め世界中から消費者が初めて見る「珍しいモノ」や「素敵なモノ」を処せましと集め展開していました。大食堂では見たこの無い洋食や一流店の味が気軽に楽しめ、エレベーターやエスカレーターなどは百貨店に行かなければ一生乗ることなど無かったのです。屋上の遊園地からバーゲン会場まで、子供から大人に至るまでの夢の遊園地でした。
しかし今日多層化した消費者には「何でもあるは、何にも無い」に映ってしまっています。実際効率化を推進するあまり多数のブランドを展開するため、売れ筋しか並べられない小さな売場では、どれも同じような商品になってしまうのは必然と言えます。さらに消費者の関心事が急速に変化しているにもかかわらず、相変わらずブランドのAが良いだのBが良いだの短史眼的で、大きな変化の流れを見ていないのが現状です。結果、百貨店はつまらなくなったのです。単にヤングのファッションブランドを幾つか入れたから「若返り」だとか「消費者に対応した」といっているうちは全く時代の流れから遅れてしまっています。
それでは基本的品揃コンセプトは何なのでしょう。品揃えはネットで買えるモノを展開しても太刀打ちできませんから、「ここでしか買えないもの」を展開することが不可欠になります。わざわざ来店して貰うには、バイヤーが世界中から選りすぐった商材であることが第一義であります。今まで消費者が見た事も無い新製品、デザイン的に最新、今まで一部の人の間だけで人気だった銘品、大量生産できない手造りの逸品、などです。世界的な有名ブランドも良いですが、機能に格段に優れているとか、限定品、などが消費者ニーズに合致するでしょう。
また選んだ商品を仕入先がネット販売できないようにするためには、オリジナル化して完全買い取り化するしか方法はありませんので在庫リスクは現状の消化仕入れと比較にならないほど高くなります。しかし恒常的且つ案手的に売上を確保するには百貨店が独自で商品開発をしなければ商品確保は難しくなる一方です。何故ならナショナルブランドは売上追求より利益重視に傾き、直営店に商品を優先配布し、残品が多く出る百貨店には売場を埋めるだけの商品展開量を回さなくなるからです。その為、自社のオリジナル商品=PB商品開発がどうしても必要になります。
PB商品は百貨店全盛期に「差別化戦略」として華々しくほとんどの百貨店が手掛けましたが、自社及びグループ内しか商品供給をしなかった結果、競合するナショナル商品より価格面でも商品面でも見劣りが目立ち、販売量も最低生産量すら販売しきれなかった経緯から今や殆どの百貨店の殆どの自社製作商品は消えてしまいました。現在成功しているのは、ナショナルブランドより製品グレードも高く価格も安い価格で10万枚と群を抜いて売っている高島屋のカシミヤセーターくらいです。PB開発はこれからの百貨店において不可欠なMDですが、モノ造りができるバイヤー育成には膨大な時間が掛かり、結局ナショナルブランドメーカーに「こんなモノが欲しい」といった依頼生産しかできないでしょう。
また万人向けの商材をPB化しても難しいでしょう。多層化した消費者のニーズに対応するにはターゲット層を大きく絞り込む必要があります。従来の「中産階級向け」という大まかなマーケティングから、一段進化させる必要があります。同じ中産階級向けでもライフスタイルを提案したいくつかのゾーン向けに商材を絞り込むことが必要です。定番商品からトレンド商品まで、1点ものからオーダー品、ヴィンテージ商品もこれからは必要です。それも衣料から家具・雑貨、時計など蚤の市的商品も完全レストア済みであれば是非導入したいアイテムです。従来は「売り切り御免」は品揃えとしては恥で、商品継続ができるモノこそが百貨店の商材と言われてきましたが、現在の多層化した消費ニーズに対応は不可能で「売り切り御免」だけど常に新しい商材が入ってくるというのが新しい展開方法でしょう。
また百貨店は若手クリエーター発掘のインキュベーターとしての役割を果たせねばなりません。売上至上主義と効率至上主義では消費者は戻りません。他の業態と違い小売りの王者として再び君臨するには目先の利益のみを追うのではなく、将来の為の投資をすべきです。それも不毛なリニューアルばかり行うのではなく(実態はリフォームです)、地元や地域の若い才能を支援することが望まれているのです。彼等は自らクリエートしたモノをバイヤーに見せるのは展示会がありますが、販売する機会は全くと言ってよいほど無いのです。彼らのオリジナル、それもほとんど手造りで1点もの、が新しいモノを探している消費者にはたまらなく魅力的に映るはずです。しかもデザイナー自らが店頭で販売したら、デザイナーも消費者の意見を聴け、消費者はデザイナーに要求を言えるのです。新宿高島屋8Fでかつてエスカレーター前の一等地に若手デザイナーのコーナーがあり、週替わりで展開されていた時はデザイナーの友人、後輩、学生が入れ替わり立ち代わり販売しながら消費者と触れ合っていました。正に時代を先取りしていましたが、効率化の前にあっけなく無くなってしまいました。