クーデター俱楽部 2025年4月  04.07

クーデター俱楽部 4月度

議題

第3章 現状の課題と対策

項目1ー2 地方及び郊外の百貨店がとるべきお客様第一主義

百貨店の地方店や郊外店に生き残る策はあるのでしょうか。

前項で述べたように大都市での店舗は高級店としてMD・環境・サービスを固定客向けに特化すれば客数ではなく、客単価向上で生き残りを図れますが、大都市以外ではインバウンド客や富裕層の数が限られており、高級化路線では対処できません。日用品や低価格衣料は郊外型SCに顧客を奪われ、老齢層は公共交通機関であったバス路線の廃止が大きく響いています。駐車場も郊外の広大なSCの駐車場にはその便利性で比肩できません。嘗ての一流立地であった駅前や商店街は最早消費者にとって行き易く買い易い立地では無くなっているのです。しかもそのMDは「モノ」中心であり、百貨店の集客の目玉ともいえる化粧品やブランドはほとんど揃っていないのです。ラグジュアリーに関しては逆選別で、大都市に本店が在ったとしても、完璧に交渉余地は無いのです。

加えて地方の最大の弱点は人口減です。どんな商売をやろうとしても街に活気が無くては中々難しいです。人口を増やすことは難しいですが、今居る顧客、離れてしまった顧客、未だ来店していない顧客、を呼び込むことは可能です。

ではどうすれば良いのでしょう

やはり自社の顧客を洗い出し、徹底したニーズの把握から始め、「モノ」中心ではなく「コト」でも集客ができる施設に業態変更をするしか生き残る道はありません。地方では特に生活に密着し、ニーズはあるが供給できていない「コト」や「モノ」をどう集積・運営するのかが大きな課題です。今までの消化仕入れで場所貸しに近い商売形態では存続は不可能です。何故なら取引先大手は商品在庫や販売員経費が大きく経営負担になっているからです。それ故、百貨店業に固執することなく地域の核になるような施設への変更が求められます。例えば役所や郵便局は勿論、ボランティアやNPO法人に街興隊の事務所、保育所、託児所、病院、子供用ジムやインターナショナルスクール、シェアハウスにライフスタイル型ホテル、大型レストラン、本屋にカフェ、パン屋に花屋、床屋に美容院、等々例に挙げた幾つかの業種が揃えば、人々がわざわざ集う、自然に集う場所になりうります。単なる商業施設ではなく、通りすがりの客ではなくモノを買う為だけの来店ではなく、目的を以て来店したくなる業態に進化させなければ生き残るすべはありません。

しかし実際は未だにブランドの招聘や大きな面積を借りてくれる取引先を探しているのみで、従来型の百貨店を夢見ています。誘致できてもドン・キホーテにパチンコ屋がせいぜいで、商業施設としては最早成立してはいません。自社の存続のみを夢見て肝心の顧客の事はさっぱり置き去りにされています。自社が時代に取り残されており、顧客のニーズを満たしていないことに気付くべきです。今の地方の消費者は何を望んでいるのでしょう。地域によりそのニーズは異なるでしょうが、老齢者向け食品やギフト雑貨品、男性客用にはスポーツ用品とゴルフ用品、若年層には原宿や渋谷のギャル対応専門店、ヤングミセスには子供用品‣衣料は不可欠でしょう。其の販売方法もわざわざ来店できない顧客に対して巡回カーを出して送迎するとか、カタログを配布し電話でオーダーを受け配送するとか(当然返品可)何か新しい販売手段を開発する必要があります。コト寄りのイベントが大きな力を発揮する場合もあるでしょう。新しい時代の消費者ニーズを徹底して洗い出し、できる事から早急に手を打つことが望まれています。

これからの主顧客層は少数ながらも若い層からミセス層までのターゲットするのが一番良いと思われます。何故なら若い層は学生から30代までSNSなどで情報の伝達が早く都会の情報にも通じているため、都会の憧れのライフスタイルを提案できる施設になれば大きな集客が見込まれます。また集まって女子会やママ友とのお茶会をする場所が無いことが彼女達の大きな不満であり、1か所で用事が済む施設があれば迷いなくそこに集中するでしょう。来店客数を増加が難しい地方では来店頻度を増やしたり、購入点数増加を図ることが重要です。その為には消費者がわざわざ来店したくなる環境やサービス、それにソフトが充実し、若いママ族や学生が楽してる空間を提供し、且つ便利でそこにいるだけで優雅な雰囲気と空間を提供することが大前提かも知れません。そして施設が人気になれば自然と新規顧客が増えていくものです。よくTVで閉店する地方の百貨店に対するインタヴュ―で「閉店するのは残念」という声がありますが、そういう人々が実際来店購入しなかったからこそ閉店の憂き目にあうのです。

しかし改装の為には莫大な資金が必要ですが、不動産の流動化や証券化などで賄うやり方もあります。クラウドファンディングを取り入れる手法も最近ではよく聞きます。経営の刷新も不可欠ですし人材の不足も課題です。同時に主銀行からの協力も必要です。最近よくファンドを入れて再生する百貨店が多くありますが、実際に再生MDを組んだりリーシングを行う人材がファンドにはおらず、結局百貨店を売り飛ばしてしまうケースが増えています。銀行から小売りサービス業を全く知らないばかりか理解する気もない社長が送り込まれ、残った資産を食いつぶしていくケースも多々見かけます。再生ファンドも小売の置かれた状況とその根本理由を把握せず、結局残された資産を食いつぶすか持ち逃げして終わりというのが最近のトレンドです。問題は山積みですが社員のやる気こそが百貨店再生の唯一の望みですが、若手は勉強不足で新しいチャレンジ精神も持ち合わせず、かつての地元名門企業に就職したというだけで満足しており、現状の突破口を探そうなどという人材は残念ながらほとんど見受けられません。かつて百貨店に居ただけの人材を雇っても、旧来のやり方しかできず、あまり意味がないようです。できる事と言ったら昔の縁故で都会から一流ブランドを招聘することを期待されますが、百貨店問屋が新規に地方や郊外の百貨店に取引を始めることはまず在り得ないことを認識すべきです。

要するに百貨店再生を旧型モデルの百貨店を目指すやり方は無理という事です。それは百貨店側の希望であって、顧客のニーズでは無いからです。繰り返しますが、今の消費ニーズを再確認し、そのニーズに対応するというシンプルな小売りサービス業の原点に立ち返ると、現状の対策は自然と判るものです。経営層はこの点を自覚して対策を構築すべきなのです。近年の百貨店衰退は時代のせいでも、立地のせいでもありません。消費者の欲しいモノ、望むモノを提供できずネット販売に対して全く対抗策を打ち出すことができず、無策のまま無駄に時間のみ経過したいうのが門燈の理由です。そこには口先だけの「お客様第一主義」ではなく、本当に自店や地域の消費者に対して、何が必要かを真剣に考えてこなかったつけが回ってきただけのことです。

クーデター倶楽部 2025年3月  03.03

クーデター俱楽部 3月度

議題

第3章 現状の課題と対策

項目1 再構築すべき顧客第一主義

「お客様第一主義」とは何なのでしょう。『顧客のニーズや期待を最優先に考え行動すること』で、全ての商品・販売方法・展示方法・各種サービス全部がお客様を意識して行われていることを示します。しかし嘗ては「お客様は神様です」とばかりセールをしたり、ポイントを加重に付与したり、マニュアル通りのバカ丁寧な言葉で接客したり、売らんが為に何でもする事がお客様の為になるという認識でした。それは来店促進策であったり、客単価アップ策、購入点数増、などの販促策でしかありませんでした。そこには本当の意味でのお客様に対してのサービスはありませんでした。何でも売れれば勝ちだったのです。このようなお客様第一主義は現在では全く通用しなくなりました。誰にでも対応できる品揃えやサービスの時代は終わったことを認識しなければいけません。

それは何故でしょう?

大衆が分裂し分衆になり、更に個に解れ、個は多層化してニーズの多様化が一挙に進んだ結果です。嘗てのような大流行はファッションでも娯楽でも影を潜め、消費者は一人一人が望むモノが他人と大きく異なり、更には「モノ」を所有することの喜びから「コト」を体感・体験することへニーズは移っていったのです。これにはIT進化が大きく関わっています。欲しいものはいつでもどこでも定価でもセール価格でも買え、「ライブ」は人気でもCÐは売れずネット配信で聞き、LVやCHANNELは好きでも高すぎて一部の人しか買えず、別に買わなくてもデートの時だけリースすれば良いという感覚が広まっています。実際リースやサブスクで好きな「モノ」はいくらでも手に入れることが(たとえ一時的でも)できるようになると消費者の「モノ」離れは増々進んでしまいました。ITの進化により消費のモノに対する価値観が劇的に変化してしまったのです。

贅沢感、優越感、お得感、時間的節約、など消費者が望むものはで一人一人まるで違うニーズが溢れています。この多様化したニーズに対応しきれなくなった結果、百貨店は「安くて品質が良い」「低価格こそ消費者ニーズに対応できる」とばかりこぞってユニクロやニトリ、果てはドンキホーテ迄誘致して価格競争に自ら参入し、結果どの百貨店も自社の固定顧客を失っていきました。この点は大塚家具の価格政策ミスによる失敗とよく似ています。更に経費を削減する為にひたすら消化仕入れを増やし、もはや自社バイヤーが買い付け自社販売員が販売する売場は全体0.1%すらありません。何処の百貨店へ行っても同じブランドが同じように展開され、入口の看板を外したら何処の百貨店か判らない始末です。そして場所貸し化し、何処ででも買える商品ばかり並んだ百貨店に最早消費者を引き付ける魅力は全く無くなってしまったのです。

お客様のニーズや期待に逆行するが如くの無策の結果です。それ故お客様のニーズに対応する前に重要な事は、自社に取り固定客ともいえる核になるお客様は誰かという事が一番知るべき課題です。そのお客様は自社に一体何を求めているのか、自社の何に価値を見出しているのか、という事を再度確認・認定することが不可欠です。

そのため、自社のお客様を十分知り尽くし、そのニーズに対応できるMD構築や販売方法を時代のニーズに合わせ、単に「モノ販売」のみならず「体験や体感販売=コト販売」を逸早く展開することが必要だったのですが、そのニーズを感知する感度が全く失われてしまったのです。一番重要な事は、大きく変化した消費者は「今何を望んでいるのか」という事を徹底的に把握することですし、「百貨店に何を望んでいるのか」、更には「自社にを何を望んでいるのか」を知り、細分化され多様化し、且つ多層化した消費者のニーズを把握する事が不可欠となります。従来の顧客データのように定量情報のみではなく、定性情報を拡大して収集且つ分析をすべき時代になったのです。それも膨大なデータを収集分析し、AIを使って消費者のライフスタイルを把握することが今後の消費者対応の一番の肝になるのです。しかし残念ながらこのような動きに対応しようと改革を進めている百貨店は皆無です。

IT活用というとネット販売を増やそうとカタログの電子版を必死で造ったり、コトよりというと、そのニーズに対応すべく従来の旅行会社のありきたりのプランを売ろうとしたり、百貨店の対応は視点が100年遅れています。ITの劇的進化により、従来の「MD」や「売り方」では目新しいモノもコトも発掘できていないのです。消費者が求めているものはそんなものではないからです。百貨店は「誰にでも」ではなく「自社のお客様」を絞り、この方たちが望む「モノ」や「コト」を他社に無いことを前提に構築しなければなりません。ネット販売でも売っておらず、当然他の百貨店でも販売していない、自社にわざわざ来店していただけなければ手に入らない貴重な「モノ」や「コト」が必要なのです。従来通りの定量マーケティングで顧客増を一定の枠に括るというやり方では現在の消費者ニーズは全く掴むことができません。定性マーケティンでもより深耕化され、当事者のライフスタイルが浮かび上がる内容の調査でなければ意味を成しません。

もっと言えば外商が行うような「個」のお客様だけのオリジナルなサービスさえ開発すべきなのです。スーパーや低価格商品しか買わないお客様向けに商品を揃えても全く意味がありません。むしろ自社の固定客を失うだけだと先程述べましたが、自社の顧客が望むモノやコトが揃えられなければ、やはり固定客は離れていってしまいます。要するに消費者の求める、それも自社のコアの固定客のニーズを最優先して把握し、品揃えやイベントなどを強化すべきなのです。百貨店は「誰にでも」から「自社の提供するレベルのお客様」に的を絞って経営されるべきなのです。こう言うと駅ビルや駅隣接型百貨店は「あらゆる年齢層・所得層・ヤングからミセス・学生から社会人迄あらゆる消費者がターゲットだから無理」という答えが返ってきます。これらの百貨店担当者は店の前を通る消費者は全て自社の顧客だと勘違いしているのです。店の前を通っている消費者の9割以上は店に来ない只の通行人なのです。年に1回、九州物産展や北海道物産展で弁当だけ買う消費者は固定客でもなければ駅型百貨店の顧客でも無いのです。まずこの自覚が全く足りません。通りすがりに何となく入店してウインドーショッピングだけしていく消費者相手にMDを全部揃えようとしたら、店舗面積はいくらあっても足らないでしょう。百貨店はスーパーや専門店ビル、駅ビルでは無いのです。品揃えを量と価格で押し切る業態であってはならないのです。

百貨店の掲げる顧客第一主義とは、自社固定客及び同等の価値観を持つお客様に対し、他では買えない商品やコトを徹底して品揃えし、完璧な製品知識と商品知識を持ち、且つ顧客ニーズに沿った説明が完璧にでき、各売り場では販売員ではなく完璧なコンセルジュとして接客することです。それに自社の顧客自身が経験・体感できる「コト」を創造することも大変重要です。「旅行」がお望みなら、普段は入れない行けない場所に入れたり行けたり、普通では絶対会えない人、例えば映画スターや有名人と会食できるとか、パリコレを自社店内で行いオーダーができるとか、考えればいくらでも百貨店ならではのアイデアはあるはずです。環境も大事です。工事現場にあるトイレのような狭い試着室やベビーカーで入れないトイレなどは論外で、優雅な空間と時間を過ごせるよう、効率を追求する従来の詰込み型売場は廃し、多数のお客様を無差別に来店いただくより、目的をもって来店される固定客相手にターゲットを絞らざるを得ないでしょう。固定客が欲しいモノやコトが必ずある、これが新時代の顧客第一主義となるでしょう。

そうすると今主流のインバウンド客はどうするのか、という問いがすぐ聞こえてきそうです。確かに百貨店に占める彼らの売上高は決して少なくはありません。しかし、目先の売上を取るか長い顧客である固定客を取るか、じっくり考える必要が有ります。インバウンド客が望むモノはほとんどがラグジュアリーブランド品の雑貨か宝飾・時計であります。しかも何年も通してブランド価値を誇る不動のブランドはエルメスとシャネル、加えてLV位だけです。LV傘下のブランドは一過性の人気のモノが多く、バッグやシューズが主力です。グッチなどは中国人向けデザインの商品を数多く作り、あまりにも中国人向けと中国人から背を向けられ、売り上げが激減しています。ケリンググループもリシュモングループも売れ続けているブランドはそうそうはありません。しかもラグジュアリーグループは百貨店の上位顧客や外商顧客の名簿を全部取り込んでしまったので百貨店は用済みなのです。規模が小さい内は百貨店で育ててもらい、大きくなったらさっさと出てしまい、好立地に自社ビルを建て、ビルが寝あがったら売却するという,最早不動産業に近い存在になりつつあります。売れても数%の利益率しか取れず、4年に一度の改装は全額百貨店持ちで、販売員迄百貨店から送り込んでいる状況では、この先何時までこのビジネスモデルが続くかわかりません。

高級百貨店の代名詞である米国NYのバーグドルフ・グッドマンはどのブランドもケース一台やコーナー展開で、自社固定客が望む商品をバイヤーが選別して展開しております。靴売り場は全ラグジュアリーが一つの売り場で展開されており、全て自社バイヤーによる買取品であります。故に売れない商品は季節中でも素早く値下げされ、売り残しが無い販売体制がとられています。日本みたいに年2回のバーゲンでは売り切ることが不可能です。お客様が望めば「プライベートショッパー」というスーパーコンシェルジュが存在し、お客様のありとあらゆるニーズに答えてくれます。

このように見てくると百貨店は高級化路線しか生き残れないと思われがちですが、これらの路線が可能なのは大都市部にある百貨店のみです。地方や郊外型百貨店には通用しません。この件は次回に続きます。