クーデター倶楽部 2025年3月 03.03
クーデター俱楽部 3月度
議題
第3章 現状の課題と対策
項目1 再構築すべき顧客第一主義
「お客様第一主義」とは何なのでしょう。『顧客のニーズや期待を最優先に考え行動すること』で、全ての商品・販売方法・展示方法・各種サービス全部がお客様を意識して行われていることを示します。しかし嘗ては「お客様は神様です」とばかりセールをしたり、ポイントを加重に付与したり、マニュアル通りのバカ丁寧な言葉で接客したり、売らんが為に何でもする事がお客様の為になるという認識でした。それは来店促進策であったり、客単価アップ策、購入点数増、などの販促策でしかありませんでした。そこには本当の意味でのお客様に対してのサービスはありませんでした。何でも売れれば勝ちだったのです。このようなお客様第一主義は現在では全く通用しなくなりました。誰にでも対応できる品揃えやサービスの時代は終わったことを認識しなければいけません。
それは何故でしょう?
大衆が分裂し分衆になり、更に個に解れ、個は多層化してニーズの多様化が一挙に進んだ結果です。嘗てのような大流行はファッションでも娯楽でも影を潜め、消費者は一人一人が望むモノが他人と大きく異なり、更には「モノ」を所有することの喜びから「コト」を体感・体験することへニーズは移っていったのです。これにはIT進化が大きく関わっています。欲しいものはいつでもどこでも定価でもセール価格でも買え、「ライブ」は人気でもCÐは売れずネット配信で聞き、LVやCHANNELは好きでも高すぎて一部の人しか買えず、別に買わなくてもデートの時だけリースすれば良いという感覚が広まっています。実際リースやサブスクで好きな「モノ」はいくらでも手に入れることが(たとえ一時的でも)できるようになると消費者の「モノ」離れは増々進んでしまいました。ITの進化により消費のモノに対する価値観が劇的に変化してしまったのです。
贅沢感、優越感、お得感、時間的節約、など消費者が望むものはで一人一人まるで違うニーズが溢れています。この多様化したニーズに対応しきれなくなった結果、百貨店は「安くて品質が良い」「低価格こそ消費者ニーズに対応できる」とばかりこぞってユニクロやニトリ、果てはドンキホーテ迄誘致して価格競争に自ら参入し、結果どの百貨店も自社の固定顧客を失っていきました。この点は大塚家具の価格政策ミスによる失敗とよく似ています。更に経費を削減する為にひたすら消化仕入れを増やし、もはや自社バイヤーが買い付け自社販売員が販売する売場は全体0.1%すらありません。何処の百貨店へ行っても同じブランドが同じように展開され、入口の看板を外したら何処の百貨店か判らない始末です。そして場所貸し化し、何処ででも買える商品ばかり並んだ百貨店に最早消費者を引き付ける魅力は全く無くなってしまったのです。
お客様のニーズや期待に逆行するが如くの無策の結果です。それ故お客様のニーズに対応する前に重要な事は、自社に取り固定客ともいえる核になるお客様は誰かという事が一番知るべき課題です。そのお客様は自社に一体何を求めているのか、自社の何に価値を見出しているのか、という事を再度確認・認定することが不可欠です。
そのため、自社のお客様を十分知り尽くし、そのニーズに対応できるMD構築や販売方法を時代のニーズに合わせ、単に「モノ販売」のみならず「体験や体感販売=コト販売」を逸早く展開することが必要だったのですが、そのニーズを感知する感度が全く失われてしまったのです。一番重要な事は、大きく変化した消費者は「今何を望んでいるのか」という事を徹底的に把握することですし、「百貨店に何を望んでいるのか」、更には「自社にを何を望んでいるのか」を知り、細分化され多様化し、且つ多層化した消費者のニーズを把握する事が不可欠となります。従来の顧客データのように定量情報のみではなく、定性情報を拡大して収集且つ分析をすべき時代になったのです。それも膨大なデータを収集分析し、AIを使って消費者のライフスタイルを把握することが今後の消費者対応の一番の肝になるのです。しかし残念ながらこのような動きに対応しようと改革を進めている百貨店は皆無です。
IT活用というとネット販売を増やそうとカタログの電子版を必死で造ったり、コトよりというと、そのニーズに対応すべく従来の旅行会社のありきたりのプランを売ろうとしたり、百貨店の対応は視点が100年遅れています。ITの劇的進化により、従来の「MD」や「売り方」では目新しいモノもコトも発掘できていないのです。消費者が求めているものはそんなものではないからです。百貨店は「誰にでも」ではなく「自社のお客様」を絞り、この方たちが望む「モノ」や「コト」を他社に無いことを前提に構築しなければなりません。ネット販売でも売っておらず、当然他の百貨店でも販売していない、自社にわざわざ来店していただけなければ手に入らない貴重な「モノ」や「コト」が必要なのです。従来通りの定量マーケティングで顧客増を一定の枠に括るというやり方では現在の消費者ニーズは全く掴むことができません。定性マーケティンでもより深耕化され、当事者のライフスタイルが浮かび上がる内容の調査でなければ意味を成しません。
もっと言えば外商が行うような「個」のお客様だけのオリジナルなサービスさえ開発すべきなのです。スーパーや低価格商品しか買わないお客様向けに商品を揃えても全く意味がありません。むしろ自社の固定客を失うだけだと先程述べましたが、自社の顧客が望むモノやコトが揃えられなければ、やはり固定客は離れていってしまいます。要するに消費者の求める、それも自社のコアの固定客のニーズを最優先して把握し、品揃えやイベントなどを強化すべきなのです。百貨店は「誰にでも」から「自社の提供するレベルのお客様」に的を絞って経営されるべきなのです。こう言うと駅ビルや駅隣接型百貨店は「あらゆる年齢層・所得層・ヤングからミセス・学生から社会人迄あらゆる消費者がターゲットだから無理」という答えが返ってきます。これらの百貨店担当者は店の前を通る消費者は全て自社の顧客だと勘違いしているのです。店の前を通っている消費者の9割以上は店に来ない只の通行人なのです。年に1回、九州物産展や北海道物産展で弁当だけ買う消費者は固定客でもなければ駅型百貨店の顧客でも無いのです。まずこの自覚が全く足りません。通りすがりに何となく入店してウインドーショッピングだけしていく消費者相手にMDを全部揃えようとしたら、店舗面積はいくらあっても足らないでしょう。百貨店はスーパーや専門店ビル、駅ビルでは無いのです。品揃えを量と価格で押し切る業態であってはならないのです。
百貨店の掲げる顧客第一主義とは、自社固定客及び同等の価値観を持つお客様に対し、他では買えない商品やコトを徹底して品揃えし、完璧な製品知識と商品知識を持ち、且つ顧客ニーズに沿った説明が完璧にでき、各売り場では販売員ではなく完璧なコンセルジュとして接客することです。それに自社の顧客自身が経験・体感できる「コト」を創造することも大変重要です。「旅行」がお望みなら、普段は入れない行けない場所に入れたり行けたり、普通では絶対会えない人、例えば映画スターや有名人と会食できるとか、パリコレを自社店内で行いオーダーができるとか、考えればいくらでも百貨店ならではのアイデアはあるはずです。環境も大事です。工事現場にあるトイレのような狭い試着室やベビーカーで入れないトイレなどは論外で、優雅な空間と時間を過ごせるよう、効率を追求する従来の詰込み型売場は廃し、多数のお客様を無差別に来店いただくより、目的をもって来店される固定客相手にターゲットを絞らざるを得ないでしょう。固定客が欲しいモノやコトが必ずある、これが新時代の顧客第一主義となるでしょう。
そうすると今主流のインバウンド客はどうするのか、という問いがすぐ聞こえてきそうです。確かに百貨店に占める彼らの売上高は決して少なくはありません。しかし、目先の売上を取るか長い顧客である固定客を取るか、じっくり考える必要が有ります。インバウンド客が望むモノはほとんどがラグジュアリーブランド品の雑貨か宝飾・時計であります。しかも何年も通してブランド価値を誇る不動のブランドはエルメスとシャネル、加えてLV位だけです。LV傘下のブランドは一過性の人気のモノが多く、バッグやシューズが主力です。グッチなどは中国人向けデザインの商品を数多く作り、あまりにも中国人向けと中国人から背を向けられ、売り上げが激減しています。ケリンググループもリシュモングループも売れ続けているブランドはそうそうはありません。しかもラグジュアリーグループは百貨店の上位顧客や外商顧客の名簿を全部取り込んでしまったので百貨店は用済みなのです。規模が小さい内は百貨店で育ててもらい、大きくなったらさっさと出てしまい、好立地に自社ビルを建て、ビルが寝あがったら売却するという,最早不動産業に近い存在になりつつあります。売れても数%の利益率しか取れず、4年に一度の改装は全額百貨店持ちで、販売員迄百貨店から送り込んでいる状況では、この先何時までこのビジネスモデルが続くかわかりません。
高級百貨店の代名詞である米国NYのバーグドルフ・グッドマンはどのブランドもケース一台やコーナー展開で、自社固定客が望む商品をバイヤーが選別して展開しております。靴売り場は全ラグジュアリーが一つの売り場で展開されており、全て自社バイヤーによる買取品であります。故に売れない商品は季節中でも素早く値下げされ、売り残しが無い販売体制がとられています。日本みたいに年2回のバーゲンでは売り切ることが不可能です。お客様が望めば「プライベートショッパー」というスーパーコンシェルジュが存在し、お客様のありとあらゆるニーズに答えてくれます。
このように見てくると百貨店は高級化路線しか生き残れないと思われがちですが、これらの路線が可能なのは大都市部にある百貨店のみです。地方や郊外型百貨店には通用しません。この件は次回に続きます。