再生なるか、百貨店?№3

脱時間給制度が検討されています。

今、政府や財界は新しい「働き方」の具体策として「脱時間給」制度を提案しています。これは未だ始まったばかりの改革ですが、流通業に置き換えて考えてみると、大変有効な施策のように思えます。ショップで一生懸命働いてバリバリ売り上げを挙げるAさんと、ただ一日中接客もしないで時間を過ごし、やたら残業をしたがるBさんでは当然会社に寄与する価値が違いますが、現行の「時間給」制度では給料は残業をするBさんの方が高くなってしまいます。これでは企業はもちません。日本の古き慣習である「企業に勤めるのであって、職種で務めるのではない」という思想の弊害部分でしょう。海外では販売員で入社すればずっと販売員ですし、バイヤーで入社すれば辞めるまでバイヤーです。その代わり企業にどれだけ貢献したかという「業績主義」なので、売れば売るほど売上歩合金が入る仕組みになっています。日本のいくら売っても給料が変わらないというのとは根本的に仕組みが違うのです。販売員だが役員より給与が高いと言う人は海外では結構いますが、日本ではありえません。また、「販売員で役員」というのも海外では当たり前にいますが日本では皆無です。日本は会社の中のあらゆる部署を経験することにより出世し、判断力を養うことが条件となっているからです。全く考え方が海外とは異なっています。しかし昨今、労働生産性の観点から働き方を見直すと、どうみても「脱時間給」で「成果主義」の要素を取り入れないと人頭生産性や時間生産性を上げることはできません。日本の百貨店は労働組合が強く、「悪平等」的な考えがまかり通っています。やはり頑張った人にはそれ相応なメリットを与えなければ、人はやる気を無くします。かつて伊勢丹の大西社長と販売員の「売上歩合制度導入」を話したことがあります。基本給を今の7割に抑え、代わりに売上歩合制をつけると言うものです。やった人が成果に応じた給与を得られる仕組みです。この導入に課題は何かと大西さんが尋ねたので、「一番の課題は組合の説得、2番目が基本給の設定割合、3番目が実験売り場の設定」と話しました。それから1年後に実際30の実験売り場を設定し、店全体が予算を切る中、18の売場が予算をクリアーし10の売場が前年クリアー、結局前年を取れなかったのは2つの売り場しかなかったと教えてくれました。百貨店の改革とはこのような、従来の常識に捉われないで業態の根本から見直すことではないでしょうか?今後、人で不足が叫ばれている業種の百貨店は人頭生産性向上策として大いに研究すべき課題だと思います。伊勢丹が今後この売り場を維持拡大するのか、それとも組合主導で潰されてしまうのか大変興味があります。

再生なるか、百貨店№2


百貨店からディベロッパーへ

現在百貨店は大丸や高島屋の不動産シフト成功に右へ倣えとばかりに、「売り場の賃貸化」へ急速に舵を切っています。自主で商品を買い取り、自社で販売していこうとした伊勢丹の大西社長がクーデターにより失脚してからというもの、どの百貨店も安易な『場所貸し屋』に成り下がろうとしています。取引先を脅かして値入率を下げさせるのが限界点にまで達した今日、商品も販売員も取引先負担ではこれ以上の商品利益率向上は望めません。その結果、より確実に利益を確定するために不確定要素の多い「販売業」から「テナント業」へシフトする流れが大きなうねりとなり始めているのです。しかし初めからディヴェロッパー業をおこなっている企業と百貨店からの転換では基本的に大きな要素が異なっているのです。それは抱える社員数です。因みに高島屋が運営する㈱東神開発は総員200名足らずで国内12か所海外2か所の業務をこなしています。取り扱い売上高で3,000億円、実売上高でも450億円は優に超える金額を叩き出しています。1店舗で数百名の社員がいる百貨店とは根本的な経費構造が違うのです。ですから単純にディバロッパー業に進出しても、社員数が減るわけではないので経費が削減するわけではありません。利益は簡単には出ないのです。百貨店は十年後を見据えて人員削減に入るでしょうが、それまで持ちこたえるか否かは判りません。所詮、ディベロッパー業への転換とは社員の首切り以外の何物でもありません。また、ディベロッパーに不可欠なフロアー全体および全館のMDを組めるマーチャンダイザーの育成も百貨店では未成熟です。各アイテムごとに分けられた百貨店のバイヤー達はライフスタイルに沿ったMD構築までは学んでいません。細かい小さな部分へ入っていくことは得意ですが、大きな全体の流れを見る訓練は受けてはいないのです。その為、外部のコーディネーターに頼ってみたり、商品を売ったこともない企画会社の言いなりにゾーンを構築してしまうのです。概して自社内で組み立てることは苦手です。唯一自社に優れたマーケティング部門を持っていた伊勢丹のみがマーチャンダイザーを育成できるでしょうが、大西社長なきあとの新体制では疑問符が付きます。

 しかし、一番重要なことは、概して一等地に存立する店舗を場所貸しにして利益を稼ぐことは企業の本分ではありますが、それだけでは今までもあった駅ビルやファッションビルと同じで、文化としての消費をリードしていく存在ではありません。百貨店が独自の業態開発を指向せず、ただのディベロッパー業ではその存在意義が問われます。大丸がこの春開業したギンザ6はもはや百貨店とは言えず、事務所ビルに付随する商業ゾーンとしか言いようがないのです。

 

 

再生なるか、百貨店?№1

百貨店はどうすれば再生できるのでしょうか。

MDの再構築、新しい売場展開策の確立、プロのバイヤー&販売員の育成、どれも早急に行わなければなりません。消費者の百貨店への興味をもう一度喚起するためには避けては通れない絶対条件です。しかしこれらだけでは十分ではありません。何故なら百貨店を脅かす要因である「ネットのサービスに対抗しうる」サービスが不可欠だからです。現在ネットが可能にしている「即日配送」や「商品検索機能」「多彩な決済機能」などは本来百貨店がなすべき機能だと思います。よく、「リアルとバーチャルは違う。リアルしか出来ない事をやればよい」という意見をよく聞きます。しかしそれは間違いです。ネットはリアルの数十倍から数百倍の商品量を持ち、文字通り「無いものは無い」という規模です。しかも遅くても翌日には配達してくれるのです。買った商品も気に入らなければ30日以内なら返品・取り換えも自由で、レシートが無ければ返品できない百貨店とは雲泥の差です。消費者はこの利便性を買っているのです。ですからリアルはネットができることは全て可能にした上で更にリアルでしか出来ない事をやるべきなのです。ネットに対抗するためには、店舗でしか買えない商品が、フルライン、フルサイズ、フルカラー揃っており、試着がきちんとできるというリアル店舗の強みはそのままに、検索機能の代わりにプロの販売員が消費者の好みを取り入れながら、今年の流行を確実に取り入れたコーディネートを提案でき、翌日には微妙な丈やサイズ修正を済ました商品が届けられる、というネットの利便性は全て取り入れたサービスが不可欠です。特にMD的には従来の単品集積ではネットに到底勝てませんし、ブランドショップ集積でも同様です。ネットに対抗しうるのはネットができない『ライフスタイル型MD集積』しかありません。一つのテイストで括られた『衣・食・住』全てを網羅したゾーン展開でしか無理なのです。ネットの検索機能はあくまで単品検索がベースなので消費者の希望する商品は探しますが、提案は出来ないのです。そしてこの「ライフスタイル型MDゾーン」を効果的に活用するためには販売員の大胆な能力開発が必要になってきます。ゾーン全体の商品に詳しいのは当然、どんな素敵なライフスタイルがあるのか説明すると同時に消費者にイメージ付けできなければならないからです。その為には徹底したプロ化教育が必要なのです。現在残念ながら『ライフスタイル型』売り場を成功させている百貨店はありません。それは百貨店が自主でMDを組まず、取引先ブランドショップを単に導入しているに過ぎないので、取引先は当然売れ筋商品を前面に出し、自ブランドのライフスタイル型ゾーンでの立位置や役割を理解していないため、ゾーン全体が同質化した商品で溢れてしまうのです。また、ライフスタイル全般を語れる販売員もいません。(百貨店自体の販売員がそもそもいません) サービス機能も未だネットに100年遅れている状態です。在庫管理に至っては全くできていないというレベルです。フェラーリと自転車くらいの差があるでしょう。

しかし、百貨店の消費者ニーズに対応できていない課題は見えてきました。次には「リアルしかできない」ことをどれだけ真剣かつ早急に構築するかです。それは『提案型』ゾーンであること、販売員がプロで新しく消費者個別に合った相談ができること、環境自体が楽しめ時間と空間を楽しめること、買い物という行動自体に新しい発見があること、そしてネットの持つサービス機能も持つことです。その為にはありとあらゆる百貨店機能の見直しが求められます。これから新店やリニューアルを予定している百貨店は、ブランドのAが良いとかBが良いとかいうレベルのMDではなく、もっと深いところに根差したMDを検討すべきです。