IT時代の新しい売り方№7

最後に登場するのが③の「ここでしか買えない実店舗」になります。この業態はネット時代だからこそ展開できる業態です。逆説的に聞こえるかもしれませんが、簡単にネットで検索・購入できるからこそみんなが簡単に手に入るもので無いものに特定の消費者は興味を示すのです。

「他の人より先に手に入る」とか、「誰もが買えるわけではない」とか、「わざわざ行かないと買えない」とか「簡単」「誰でも」「いつでも」「どこでも」とは全く反対の、従来のマーケティングでは推し量れない消費者行動を喚起するのです。

この店舗ではネットを一切否定するのではなく、逆にネットを利用して商品の紹介は徹底して行い、先行販売や限定品、限定コラボ品やヴィンテージ商品、絶版商品などの希少価値商品の販売を行うものです。その為、MDの拘りに共感する顧客がわざわざ訪ねてくるのですが、商品数は限定されており早い者勝ちなので消費者は目を皿にして商品情報に注意を払うのです。

従来の魚屋やブランドショップやセレクトショップと違う点はまさにこの点に在ります。ネットを最大限利用して商品を徹底して紹介・売り込みを行うのです。商品自体は当然商品の持つストーリーをきちんと説明することにより、SDGを意識した商品だとか環境保護活動をしている企業の商品だとか、あるいは乳首が透けない白いTシャツだとか、ストレッチが効いてしわにならないTシャツだとか、太っていて背の低い人向きの幅はあるが竹の短いTシャツだとか、消費者個々の拘りにちゃんと答える品揃えになっているのです。

企業レベルより個人レベルで運営されることも多いので一等地に立地するより路地裏や住宅地で密かに展開されることが多く、尋ねるにはそれ相当の情報が必要になります。それも土日しか営業しないなどのスタイルが多いので、よりレアな感じが消費者ニーズを掻き立てているのです。

これとは真逆の店舗も在ります。一等地に立地し、徹底した接客を売りにした店舗です。商品は高額品を先行販売、限定販売、オーダーなどに限り、他との差別を図りますが何よりも来店しないと買えないのです。

一般的に百貨店の外商顧客やIT長者などの新富裕層がターゲットになりますが、この層は意外にもネットで簡単に注文するよりは、店頭で実際に商品に触り、素材感や縫製,造り、デザイン、サイズ、色合い等を確かめて買うのです。どんな要求にも応じて顧客満足を最大限に満たす店舗です。

顧客は店舗が己の好みを充分理解し自分の好みに合った商品を選択して紹介してくれるのですから、消費者は楽にお洒落が、それも自分だけのお洒落が、誰もがお洒落と言ってくれる商品を揃えて待っていてくれるので大変便利な店になります。何処にでも売っているブランド品ではなく、好きなブランドの自分だけのオリジナル商品や、他人が持つ半年も前に手に入れられたり、自分の好みにマイナーチェンジされた世界で1つだけの商品等が手に入るのです。

その為には店舗はあらゆる手段を使って個々の顧客の消費ニーズ傾向を把握しなければなりません。カード履歴や店舗内に設置したカメラから顧客の手に取るが買わない商品チェック(非購買履歴把握)や、興味を引く商品に付属したメタデータ把握などのITを駆使した情報収集です。それが在って初めて成り立ちます。

基本的にはマス相手ではなく特定顧客相手の高級店になります。それゆえ販売員は通常のレベルでは立ち行かず、コンセルジュレベルが必要です。顧客のライフスタイルレベルに合わせるため、ライフスタイル全般にわたる知識や最新情報やこれからのトレンド情報などハイレベルで希少な情報が求められます。ただの高級レベルでは成り立ちえません。

この2種類がわざわざ消費者が商品を求めてに消費者が来店し購入する店舗になりますが、この2種類以外にもわざわざ来店させる店舗は出てくるかもしれません。

現在はこの3種類がコロナ禍後の小売業の主力になるとみられていますが、どの業態でもネットを活用しないと存立しません。どのようにネットを活用するかが今後の一番の焦点になります。誰も考え付かなかったネットやITの使い方を編み出した者がこのレースの勝者になるでしょう。その為には物流施設や配送網、返品受け付け体制や再生体制など、販売の為の総合力が問われることは間違いありません。同時に中間搾取的な業態はもはや存続しえないでしょう、残念ながら・・・・・。

IT時代の新しい売り方№6

「ネットでもその場でも買える店舗」は現在多くの実店舗が試みている業態です。特にファッションに向いているとされ、多くのファッションショップが大なり小なりチャレンジしています。この方式だと現代の忙しい女性達にも、40代~50代の実際手に取り試着をしないと納得できない層にも受ける業態です。

百貨店はこの業態を指向していますが、業態の基本的構造や課題に気が付いておらず、構築にはまだまだ程遠い状況です。この業態はネット対応するためには膨大な商品データ集積機能のプラットフォームが必要で、また、ネットに負けないフルアイテム・フルサイズ・フルカラー展開の品揃えができないとわざわざ店舗に来る意味が無いのですが、それができるのはユニクロやZARAなどの大企業しか現在はできていません。

店舗はフルアイテム・フルサイズ・フルカラー展開する為には現在のような15坪や20坪では不可能で、最低でも50坪~100坪無いとちゃんとした品揃えはできません。メーカー側も単に大型化するだけでは販売員が増え、在庫が増えるため、生産数の増加や在庫管理が大変な負担になってしまいます。

そこで多数あるブランドを1つの店舗に纏める必要が出てきますが、ECの品ぞろえに対抗あるいは対応する為には大型化は不可欠であります。オンワードなどでは17のブランドを1つに纏めた新しい実験店舗を始めました。これは今から12年前に今日あることを想定した故石田専務と計画していた新ショップです。

複数のブティック展開のブランドも、マークと看板を外したら素材もデザインもほぼ同じ売れ筋に偏ってしまっている現状では、わざわざブティック展開する必要もなく、無駄に人件費と顧客を分断化しているだけという認識が石田専務と合致したため、新宿高島屋で全ONWARDブランドを紳士&婦人で1000坪展開しようとしたものでした。

これによってフルライン・フルサイズ・フルカラー展開を行い中途半端な店頭展開MDを改め、ネットでも店頭でも買える新業態を目指したものでした。これによってライフスタイルに対応すべく足らない雑貨は共同で開発し、浮いた人件費で値入率を上げ、買取化することによりONWARDのリスクを削り、販売員は売上歩合制を導入し、定価販売、上得顧客先行割引販売、一般顧客先行販売、一般バーゲンと4段階での販売計画を立て、売り切れごめんを目指し、展開商材スケジュールから投入時期変更迄、全く新業態の売り場を目指したものです

更にネットと実店舗ではネット在庫と店舗在庫のシステム連動が不可欠ですし、自由な返品システムも構築しなければネットでの販売は拡大しません。消化仕入で自社で在庫管理もできない百貨店に優先的に商品を展開するメーカーやブランドは次第に減り、自社ECサイトへ誘導するのは自明の理であります。百貨店はその点をしっかり認識するべきであります。いつまでも神輿を担がせ続ける事はもはや不可能なのです。

大丸のように場所貸し屋になるか、伊勢丹のように自社サイトを構築し格取引先を無理やり伊勢丹サイトに登壇させるか、どちらにせよ従来の中間搾取型小売業態は生き残ることはできないのです。この業態を推進する為には商品的にもユニクロなどの実用品・定番展開型かZARAのように多品種展開の売り切り御免型かどちらかになる必要が有ります。従来のブランド展開の異様に中価格・中アイテム展開では消費者は満足することは無いでしょう。

IT時代の新しい売り方№5

http://www.coupdetat.jp/1922/

これからの実店舗は以下の3種類に大別されるでしょう。

① ショウルーミング化店舗                                                                                                                                                           ② ネットでもその場でも買える店舗                                                                                                                                             ③ 実店舗でしか買えない店舗

①は「見せるだけ」で購入はネットで行うという店舗です。「サービスとしての小売り」をコンセプトにしたIT機器の新製品や様々な商品を「実際に体験さす」という体験型店舗になります、

店頭にはサンプルのみの展開のため在庫負担がかかりませんし、大きなスペースも必要としません。また販売員すら必要ありません。基本的には、様々な分野のブランド・企業に店舗を区画として提供するだけでなく、「店舗のサブスクリプションサービス」をしているからです。

スタートアップ企業やスモールビジネスで展開する新興企業や個人には最適の展示場となります。但し新商品の発表の場という意味合いが強い店舗で期間限定展開が肝になります。一定の認知がされれば後はSNSの出番です。

2015年に米国サンフランシスコに創業された企業で2020年夏に有楽町と新宿の2店をオープンさせましたが新しい形態のD2Cとして注目を浴びています。ITを駆使した新商品は特にメーカーの実験場としては申し分ありません。新宿店内には無人店舗でオーダージンズを購入できるサービスを提供しており、IT技術をかつようしてストレスフリーな洋服の購入体験・全く新しいブランド体験づくりに挑戦しています。

この試みは従来の「接客」の意味を全く変え、人に代わってより機能的で効果的なモノづくりとそのモノ作りの過程までが販売に不可欠で、消費者が納得して購入することまでを、「販売員」ではなく「体験」することで納得させるという人類史上画期的な「売り方」であります。今後どこまで消費者が使いこなすか,あるいはこの販売システムについてこれるか大変興味をそそられるところであります。

また、渋谷PARCOにオープンした「βOOSTER STUDIO by campfire」もものを売らない店であります。こちらはクラウドファンディングを通じて誕生したプロダクトや、リテールストアに展開前のプロダクトをなどを展示するショールームであります。リテールストアへの販路拡大に向けたテストマーケティングや新商品開発サポートを目的としたショップです。

天井にはカメラを設置して来店者を解析し、展示製品に関心を寄せた人数や属性、店舗内の行動パターンや回遊でデータを出店者に素早くフィードバックし、「仮説検証」や「市場ニーズへの迅速な対応」などの製品開発をサポートするのが目的なショップで、購入は運営するクラウドファンディンぐのサイトから購入する形態を取っています。

どちらの店舗も従来の無人員販売店舗とは異なり、店舗の存在意義が明確に異なる店舗として注目されます。すくなくとも次世代の若き消費者がどのように反応するか見守りたいです。

IT時代の新しい売り方№4

40代・50代の彼女達が現在の実店舗で満足できない理由の第一は、実店舗にフルアイテム・フルサイズ・フルカラーが揃えられていないからです。

取り寄せで買うくらいならネットで買ったほうが早いからです。わざわざ実店舗に行っても購入したい商品が揃っていないのでは行く価値がまずありません。

大手ファッションメーカーのONWARDは試着中心で購入はネットという専門店を開発します。「ONWARD・クローゼット」は郊外のSCに50数店舗展開されますが、現状の婦人服17ブランドを一堂に会し、其のブランドサンプル品のみを置き、購入はネットでもその場でも可能(一部サイズ・カラー・アイテム取り寄せ?)になるそうです。

ただかなりの大型店にならなければ全アイテム・全サイズ・全カラーを展開できないため、郊外では採算が合っても都心の家賃が高い場所ではなかなか効果測定が難しそうです。

この方式だと余計な在庫生産や展開をしないで済むため生産効率は大幅に向上します。百貨店商材が中心なので試着ができ、触って見て確認できることはミセス層には安心でき、大変良いアイデアだと思います。

第二に販売員の「売らんかな」という姿勢です

サイズが合わなくても「お似合いです」は無いだろう,馬鹿にするな!が消費者の声です。商品に関する知識も充分教育されているとは思えません。

「消費者が欲しがる商品が無ければ似たような代替品を売れ」というのが小売販売の基礎として教わることなのですから。 現在は販売員より消費者のほうがより知識も多く、色々なブランドを横断的に見ているので、自社ブランドしかみていない販売員では情報面で勝てません。

それゆえ、コーディネートやTPOなどの深い専門的なアドヴァイスをできるような販売員育成が不可欠になってくるのです。もっと言えば其の商品を着て、何処へ,誰と、いつ、何をしに行くかわかればそれに関するすべてにアドヴァイスができるコンセルジュとしての販売員が求められるのです。

かつて消費者は、第一段階に何を買うか、第二段階に何処で買うか、第三段階で誰から買うかと、消費傾向を変えてきました。そして今正に第四段階でどんな人から買うかという段階に入ったのです。

なぜなら買い物に費やす時間より自分のライフスタイルを豊かにしてくれるコトやモノに時間もお金も割きたいのですから。もはや買い物は最優先課題では無くなっているのです。 ではどうしたら一番消費にお金を使うこの年代層を取り込めばよいのでしょう。

第三に店舗がブランド別になっている割には同じ生地、同じデザインでタグを変えても全く分からない商品が多すぎるため、消費者としてはコーディネートの為にはいくつかのブランドの実店舗を渡り歩く必要が有り、現代の女性たちには受けないのです。

先ほど述べたONWARDの実験店は17ブランドを集合させる店舗なのでこの点は解消されるでしょうが、意外と同じような商品が多く、かえって消費者は戸惑ってしまうかもしれませんね。

実際今後中高年層はネット販売に傾斜していくでしょうが、サイズ確認は勿論、高額品や素材が気になる商品などは実店舗で試着をしたいという欲求は無くならないと思われます。それゆえ今後はネットでも実店舗でも買える店というのが主力になるでしょう。

しかし、すべてがそうなるとは思えません。実用品や消耗品は充分ネットで、ちょっと高級品はネットで見て実店舗で、あるいは其の逆という流れが主流にはなるでしょうが、店が無い地方や高級高額品が欲しい場合はネットだけで消費者は満足できるのでしょうか?特に新富裕層や旧来からの年齢層が高い富裕層は実店舗での商品を自分で確認してからでないと購入しない傾向が出始めています。

では実店舗はどうなっていくのでしょう?あるいはどうあるべきなのでしょう