コロナ禍からの復興2021№7

新時代の小売業が狙うべき層があります。

一つは旧来からの富裕層です。資産を株や不動産で持ち、昔からの銘品や高級品には慣れています。生活は以外と地味で先祖からの資産を減らさない事が唯一無二の仕事であり、目立つ事を避けるきらいがあります、しかし本物を見抜く眼力は鋭く、サービスには大変厳しいものがあります。

一方、新富裕層はITや投資で若くして巨万の富を得た層です。この層は若くして立ち上げた事業を先行企業に売ったり、これから急激に伸びそうな企業に投資をしたりして、短期間であまり苦労もせず好きなことをやり稼いだ層なので、金使いが荒く、自己を主張できる事や物に惜しげもなく大金を使い目立つことが大好きです。資産は動産(株)がほとんどです。

この新旧富裕層は、片一方は目立つことなく買い物をしたく、他方は徹底した自己顕示欲を具体化してくれることが至上命題なのです。どちらの層も従来の店舗では受け入れがたく、これらの層だけをターゲットにした品揃えとサービスを提供できる実店舗が必要になってくるのです。

これらの客層を今迄の小売業は高収入層は全く相手にしてきませんでした。それはマーケティング分析がなされていなかったためであります。金持ちは全身シャネルでユニクロは着ないと思い込んでおり、ターゲットの外に位置づけしていたからに他なりません。しかし、感性メタで分析すれば同じ商品でも購入理由が判るため、今迄取り込めなかった層が見え、取り込むことが可能になるのです。

これらの顧客層対応の実店舗のコンセプトは「ここでしか買えない」になります。そして嗜好性メタは、高級・唯一無二・オーダー・品質・高機能・素材・使い心地等が挙げられますが商品だけでは駄目です。最高レベルのサービス、それも個々の顧客に合わせたサービスが必要不可欠です。

富裕層向けの商品・サービスはただの高級とか限定等では反応しません。店舗のオリジナルで最高の素材に最高の機能にデザイン、限定生産のカスタマイズ可能、家宝クラス、皇室御用達レベル、美術館レベルのモノもあれば、世界的有名デザイナー、人間国宝、新進デザイナーによるデザインや制作された商品です。

新品だけでなくアンティークやヴィンテージ品も必要です。誰にでも判りやすい一流品からマニア垂涎の的といった商品やマニア以外は見向きもしないものまで揃える必要があります。高収入層の趣味嗜好や希望に添える商品を提供するのです。

ビキューナのセーターやコート、鼈甲の眼鏡、スネークウッドの杖、海泡石のパイプ、等の最高の素材を使用した商品群は全て手創りの商品ですが、材料が手に入りにくく幻の商品と言われています。このような商品は欲しくてももはや材料が手に入らないとか、職人が廃業してしまった等の理由で簡単には手に入る商品ではありません。しかし、何処にでもある商品ではないので高額所得層のニーズは大きいのです。

コロナ禍からの復興2021№6

今後、ネットでも実店舗でもどちらでも買えるという事は、「便利」「誰でも」という点で従来の顧客層にも受け入れられるものである一方、MDの課題が大きく圧し掛かります。

MDを新しく構築するにあたり重要なのは、「感性メタ」で使われる「嗜好性」や「自慢&劣等感」を始めとする消費者のニーズを表すキーワードの選定です。従来の縦横レベルで括られる4フェイズレベルではなく、数百から数千のキーワードで選定された商品を新しい切り口で括らなければなりません

一概に「スポーティ」といっても個々の消費者が感じ取るイメージは全く違うという説明を前回しましたが、これから製作される商品は全て感性メタデータを付加して意味付けし、どこまでを「スポーティ」に含むかをマーチャンダイザーがセレクトする必要があります。

その為に新しく構築するMD担当や生産チームを組んだり、販売員組織を再編したり、販売員の評価方法を新構築したり、モノ創りから販売方法・顧客管理手法に至るまで、会社全体の組織を換える必要があります。そして全商品にメタデータを付与するという作業が待っています。

更には今あるブランド店舗を新しいMD店舗に変換するにはMD自体以外にも幾つか問題があります。まず店舗面積です。嗜好別MD店舗は大型化し広範囲から集客できる店舗になるはずです。その為今迄以上に同一商圏内に複数店舗は不必要となります。利便性を考えれば都心に、休日型にするなら郊外のSCにと複数のMD店舗が開発されなければなりませんが、今のブランド店舗総面積や総販売員数の1/10で運営は十分可能で効率化が進みます。

次はMDの発信方法です。その実店舗が何を発信しているのか単なるSNS発信だけでは十分ではありません。完全な顧客ニーズ管理の下、徹底した顧客管理が求められますので、専用の部署は不可欠になります。

同時にVMDの重要性が見直されるべきです。店舗にカメラを設置すれば顧客導線のみならず視線把握もでき、たとえ購入しなくても非購買分析ができ次回のモノ創りには大変参考になるはずです。

そして完璧な個々客の嗜好性把握と管理および分析です。これはAIを駆使して行います。同じスポーティでもベーシックよりかトレンディか購買顧客の購入理由の分析が欠かせません。次の購買に関わってくるからです。これらのデータから売れた理由や売れなかった理由、顧客の好みが何処にあるのか、などが見えてくるのです。

ここまで消費者が潜在的に嗜好するものが判り、それに対応するMDが組め、実店舗に反映されれば今迄の顧客や離れてしまった顧客、ネットのみを利用する顧客層までも取り込むことができるようになります。しかしこの「ネットでもリアルでも」買える店はわざわざ集客を図るにはまだまだ弱い部分があります。

ネットで済む部分は問題ありませんが、(何故なら、返品・取り換えが大変簡単且つ便利に行えるからです。ただし一部のネット販売は相変わらず返品させないために、難しい作業を要求しています)実店舗に来店させる為の必然性が未だ十分ではないのです。試着や手に取ってみるだけならネットで取り寄せ、気に入ったものだけを残し後は返品すれば済むのですから。やはり「わざわざ来店する」為の動機がなければ消費者は益々実店舗への来店は減り続けるでしょう。

それは顧客サイドから考えると良く理解できます。何故なら誰もが同一レベルの商品を同一レベルのサービスで望んでいる訳ではないからです。一般顧客のニーズ対応は新しいMDで新しく展開される実店舗で対応が十分ですが、従来のブランド型展開MD下ではターゲットの対象外とされた層に対する対応がなされていないからです。

コロナ禍からの復興2021№5

新しいマーケティングで顧客の詳細な感性まで把握した後は、その感性や顧客の潜在的ニーズに合った商品をどう展開するかという大きな問題が次に来ます。

従来の年齢別・収入別・テイスト別マーケティングでは今の多様化した顧客を分析する事はできず、大まかに括られた「そうであろう」顧客に「きっとこうだろう」という自己に都合の良い考えかたで作られた商品をブランド毎にブランドの都合で展開されているに過ぎないからです。

従来のブランド別展開では、使用する生地や縫製工場が一緒で、パタンナーまで共通、期初こそブランドコンセプトに則ったMD政策が取られますが、いざ商品化になると今期の売れ筋情報に大きく引きずられ、本来は違うはずのターゲットに同じような商品が提供される結果がここ数十年続いています。

こうして作られた商品はどこのブランドでも代り映えがせず、常に変わりゆく多様化した消費者のニーズに合致するはずもなく、コロナ禍以前から、安くて、簡単に返品取り換えができ、そこそこトレンドで、そこそこお洒落なユニクロやZARAに大きく商圏を奪われ続けているのです。しかもこれらブランドの形だけを真似て、販売スタイル、物流システム、サービスポリシーなど全く無視しても成功するはずは120%無いのです。

かつて無印良品が流行り始めた時、そのコンセプトの持つ凄さや支える強力なスタッフ陣を理解せず、「〇〇良品」だとか「良品××」だとか同じようなネーミングだけの商品が巷の大型スーパーや専門店に溢れかえったものですが、今や残っているものは一つとしてありません。

今迄の轍を踏まないためにもメーカーはモノ創りを一から考えなおし、形骸化してしまったブランドを一旦全部破棄し、新しい顧客感性ニーズ別のMD展開や店舗展開を構築すべきであります。新しく括られた顧客層は新しい明確なコンセプトで括らえ揃えられたた商品群で商品を選べなければなりません。

ネットでも実店舗でも買える事を前提にしたMDでは、「スポーティライフスタイル」「リラックスライフスタイル」「トレンディスタイル」等の新しい括りののMD店舗が想定されます。そこには一つのテイストで括られたMDではなく商品の持つ消費ニーズ対応要素をきちっと把握したうえで括られたMDであるべきです。

例えば「スポーティライフスタイル」には当然スポーティなデザイン・機能・素材は勿論、シャープな色柄で細く見える、着て楽、重ね着が楽、価格が適度、など幾つもの商品が持つ要素の中からどの要素で消費者が選ぶか、ある程度顧客の需要予測からポイントの高いモノを展開されるようになるでしょう。そしてこの店では決してAラインのワンピースは展開されません。

この店舗はネットでも買え実店舗でも買える為にフルサイズ・フラカラー・フルアイテムを擁する為に大型化し、ブランド別ブティック展開より確実に現顧客層を確保でき、且つ店舗を集約することにより人件費削減、売場家賃軽減のほか、関連販売やコーディネート販売の効果が期待できます。

この店舗ではただ衣料品を販売するのではなく「スポーティ」に暮らす為の関連商品も置く必要があります。スポーツの為のシューズは専門店に任せますが、お洒落な近所を歩く為のカジュアルシューズやソックス、爽やかな香りのルームフレグランス、アクセサリーや洋品小物も当然ディスプレイではなく売るための質量が展開されるでしょう。

この新しい実店舗の顧客層はこの店のファンで固定化されるのではなく、その時の気分で、あるいは潜在する感性のニーズに突き動かされて幾つかのコンセプトやMDの異なる店舗を渡り歩きます。