コロナ禍からの復興2021№14

百貨店の優位性として「経験豊富なバイイング力」「圧倒的多数の優良顧客保持」を挙げました。更にはネット販売はせず、来店しないと買えない販売手法導入」ということも提案しました。

百貨店はこの70数年一般大衆相手にその売り上げを進捗させてきました。高級品販売と言うと一部の富裕層相手と思いがちですが、一般消費者がCHNELも買い、UNIQLOも買うという話を前回しました。ですから決して富裕層のみを狙った業態に変更するのではないということを再度念を押したいと思います。

更に都心店では高級品を買う顧客数が多いので成立するが、地方店では高級品を買う絶対客数が少ないので高級志向は成立しないという意見もありますが、今離れてしまっている顧客をどう取り戻すかという問題で、顧客数の絶対数は決して少ない訳ではありません。顧客を引き留めるのはMDなのです。地方店では競合化しているスーパーやロードサイド店達とどうMDで差別を計るかが課題で、百貨店でしか買えない商品が展開されれば必ず消費者は戻ってきます。

富裕層でも一般層でも「高級品」を買いたいと思った時に必ず来店する店に現在の店舗を創り直す事は大変重要であります。現在のような何処でもネットでも買える商品が、それも衣料中心のMDでは現在の消費者のライフスタイルを満たすことができないのです。

地方の百貨店ではまず消費者をどう呼び戻すかが最大の課題でありますが、物販機能だけの施設としての百貨店では存続することは難しいです。物販機能は来なければ手に入らない商品MDを組み、それ以外に消費者の生活に無くてはならない機能を導入させることが必要です。

病院、歯医者、保育所、屋上公園、金物屋にクリーニング屋、靴&バッグ及び衣料の修理屋、染み抜きや、着付屋、旅行センターに御用聞き屋、などなど高齢化社会対応や使い捨て対応に積極的に応じることでSGDs対応を果たす事が消費文化の担い手である百貨店の責務でもあるのです。

そして百貨店再生に大変重要なのが販売力の強化です。

現在の販売員は派遣されてきた取引先の販売員がほとんどで自社販売員はまず存在していません。せいぜい売り場では案内係かレジ要因です。派遣社員にしても自社製品の商品知識や製品知識はほとんど無く、お客様の意向にうなずくだけの販売が主です。あとは在庫運搬くらいしか仕事をしていません。

主導権はすべて素人の消費者に委ねられ、販売員はただ立っているだけの存在に成り下がっていますが、本来は販売すべき商品情報、これはどんな特徴長があるのか、どんな意図の下創られたのか、どんな拘りやストーリー性を持っているのか、今年のトレンドとの関わり具合は、などの情報と、素材や材料、縫製の特徴、きたらどんな感じか、何と合うのか、何と合わないのか、などの製品特徴情報はきちんと把握させるべきであります。

更には昨今のSGDsとの関係やトレーサビリティ、製造現場状況、などの知識も不可欠な時代であります。これらを完全に把握したうえで、新しいマーケティング手法で得た個人情報を基に何を進めたらよいか瞬時にシュミレーションできるスキルが販売員には求められます。在庫状況などはいちいち席を外すことなくAIで検索し、専門の品出し要員が試着場まで運んで来れば無駄な作業は無くなります。

最高のサービスとは、消費者のニーズを確実に読み、ニーズに合った適切な商品を、いち早く提供することです。環境は豪華にこしたことはありません。工事現場の便所並みの狭い試着室や、きちんと座れるところが無い場所での靴の試着などは論外であります。売り場をこれでもかと商品で詰め込むやり方では全く意味がありません。

消費者は来店に向けて販売員を指名し予約する形式は如何でしょう。待つことなく、自分の好みを十二分に把握した販売員が用意する商品に期待して出かけるだけでよいのです。事前に要望を話しておけば完璧です。

販売員の評価は売上高だけでなく、顧客の来店頻度や購買点数、新客獲得率などが加えられるべきです。一人の正販売員に補助要員を付け、正販売員が休みでも補助がきちんとフォローできる体制は必要です。

コロナ禍からの復興2021№13

百貨店の優位性とは?

百貨店に消費者が期待するものは「一流品で百貨店でしか買えない商品とそれにふさわしい高級なサービス・空間環境」であることは前回述べました。それは決して「効率的」とか「万人向け」といったコンセプトではあり得ません。だからと言って「金持ち専用」とか「VIP専用」が良いという意味でも無いのです。

今日の多様化した消費者はただ安いからとか高いからとかでモノの価値を判断しません。自分にとって価値があると思えば価格は二の次で、欲しいと思ったモノであれば大枚を叩いても手に入れたいと思うのです。従来の消費者と違うのは何でもかんでも流行のモノは手に入れるとか、ブランドだから欲しいといった価値観では無いと言う点であることです。

ですから消費者が百貨店に期待するのは、富裕層だから高級品だとかブランド品指向すべきという従来のマーチャンダイジングとは一線を画するものということをまず認識すべきであります。現代の消費者は全身LVは嫌味で全身UNIQLOがはダサいと知っています。しかも今日ラグジュアリーブランド品を一つも持っていない人はこの日本において稀有な存在だと言えるでしょう。人々は一般層も富裕層も共にLVもUNIQLOも日々の生活の中で上手に使い分けしているのです。

現在の消費者は自身の明確な消費に対する価値観とライフスタイルを持ち、自身の価値観に合ったものを合った時に合った場所で買いたいのです。そこには宝探しをするような、誰にでもでは無く自分だけの価値観を満たしてくれるわくわく感が不可欠なのです。

消費者はネットにはネットでの利便性や価格性、専門店では専門店ならではの限定品やヴィンテージ品などの拘り品、量販店では価格と流行のバランスなどが求められ、百貨店では百貨店でしか買えないものを求めているのです。何処ででも、ネットでも買える商品をただ平然と並べても消費者には受けないのです。でも残念ながら今の百貨店にはその要望に応えることはできません。オリジナルを創っている百貨店はほぼ皆無となってしまいました。最近はメーカー商品の一部を変更しただけの自社限定品がせきのやまだからです。

品質も百貨店に望まれているのは一般品と同じでは無く、素材や縫製、デザインなどをはじめ「流石」と言われる逸品でなければなりません。専門店で売っている商品と同じものを売っているだけでは、消費者は百貨店に来店はしません。百貨店に来店を促すには「他では手に入らない」、ことが一つの重要な点になります。「わざわざ来店しなければ手に入らない」ものでも自分の価値観と合致するものであれば消費者は間違いなく来店し、購入するでしょう。

更には「ネットで売っていない」という事もこれからは重要な要素に成ってきます。簡単に24時間、何処ででも好きなように商品を選べて購入できる現代は大変便利である一方、個を大切にする消費者にとっては自己を主張する商品を探すことが重要な課題となっています。それは単に「他人と同じは嫌」というものから「自分の欲しいもの」を徹底して追求するという欲求に消費者が変化してきたからです。それはあくまで自己主張の一環であり、自分に取り「楽」なものの選びなのです。

かつて百貨店は元来世界中にバイヤーを派遣し、世界中から珍しいものや王侯貴族に愛された銘品、大量生産できない貴重な限定品などを探し出し消費者に提供してきました。「新しい」「珍しい」「素晴らしい」「これしかない」商品は百貨店でしか買えなかったのです。百貨店には世界中にパイプがありながら現在では全く活用されているとは言えません。何故なら大量生産品を大量販売することに慣れてしまい、少量限定品を販売することを止めてしまっているからです。残念なことです。

しかしこのバイイング能力は他業種では真似のできない重要な財産であります。営々と築いた海外とのパイプは一朝一夕にできるものでは無く、他業種の追随を許すものでは無いからです。この能力を再認識して再評価することが不可欠です。これが百貨店のもつ優位性の第1です。そして消費者の「拘り」を満足させるのです

次に百貨店が優れているところとは、外商顧客をはじめとする他業種と比べて圧倒的な数を誇る優良顧客を持っていることです。カード会員は大型店で百万単位ですし、郊外店でも数十万単位で保持しています。社会的地位の高い方や高額納税者はもちろん地方の有力者で百貨店の顧客でない方は居ないと言っても過言ではありません。

これらは他業種では真似のできない指向性の一定化した顧客層です。大根からカシミアまで購入する層なのです。この顧客層は利便性や価格によって集まった層では無く、百貨店のファンとも言える層で、購買手段が多様化・便利化した現在でも百貨店を支持するコアな層なのです。しかも一過性でなく親子2世代という層もかなりいるのです。他業種では見られない層なのです。

現在AI企業は消費者の会員化に莫大な費用と時間をかけています。なぜなら会員化は宝の山だからです。AIによる消費者の個分析は、消費者の嗜好性や需要予測などを核実に当てる事ができるようになっています。従来のような大まかなクラス分析では為しえなかった正確さで予測が可能となっていきました。このデータはあらゆる企業があらゆる分野で活用できるので膨大な利益を獲得できるのです。

単にモノを販売するだけでなく、需要予測やC to C、モノ創りの方向性決定やコラボの材料とあらゆることがビジネスに想定できるのです。

しかし百貨店はこの宝の山を何ら活用してはいません。せいぜいバーゲンの案内状を送る時に使用しているぐらいですが、この顧客層の活用の仕方により百貨店は他には無い圧倒的な強みを発揮できるはずなのです。AIによる多方面からの分析により、マスで捉えず個で捉え直せば(それが可能になるのです)、この消費者が好きなもの、欲しがるものの予想がつき、その嗜好性によりベーシック商品が好きなのか、或いはシンプルなデザインを好むのか、流行はどの程度追及するのかなどの詳細ニーズが予測できるので、無駄の無いニーズ対応が可能になるのです。

ネット販売と言ってカタログを電子化しただけで喜んでいる現状では為しえない、真のAI活用でピンポイントの顧客ニーズ対応が可能となるんです。しかもネットでは買えず、わざわざ来店しないと買えない情報が個々の消費者に個々向けにカスタマライズされ送られてくるのです。その精度は現在各販売員がせっせと書かされている新作のご案内レベルとは比較にならないほど、個ニーズに合致した情報となるのです。

この二つが百貨店の他業種には真似のできない圧倒的な強みなのです。

コロナ禍からの復興2021№12

百貨店はコロナ禍後はどうなるのでしょう

今迄百貨店は①ネット対応の遅れ②消化仕入れの依存化③消費者ニーズの読み違えを挙げて来ました。これらの対策を行う事は絶対不可欠でありますが、その前に百貨店の存在意義を考え直す必要があります。

百貨店はその成立以来高級路線が基本で、進物物や贅沢品は百貨店の独擅場でした。庶民がまだまだ低所得層が多く購買力が大きくない時代でも、「ハレの日は百貨店という」庶民の憧れでありました。百貨店に行くというと、わざわざよそ行きに着替えて行ったものです。

百貨店で売っているものは品質が良く、高いけれど安心できる商品、持っていたり身に着けているだけで他人から羨望の眼差しで見られる商品で、百貨店の包装紙は絶大な人気を誇っていました。海外の商品もいち早く取り入れ、今世界を席巻しているラグジュアリーブランドは日本の百貨店が育てたと言っても過言ではありません。※1

※1  世界を席巻したラグジュアリーの代表格であるLVは高島屋に身売りに来たことがあります。しかしビニー ル素材のバッグなど百貨店素材では無いと断ってしまい、営業応援として当時の特選売り場の課長を出向させた 経緯があります。CHANELも同じです。名誉顧問の黒田氏が今のCHANELのコンセプトやテーマカラーマークを決め安売りやバーゲンを止め、仕入れて販売していたBAGや靴をオリジナル製作に変えたのです。

取引先も、百貨店に卸す商品は他業態とは一線を画して品質の保持や差別化を自負していました専門店に卸す商品とはブランド名も素材も品質も異なるものだったんです世界的には専門店が高級品で、百貨店はスーパーより一格上くらいのレベルというのが常識ですが、日本では小売りの王者として圧倒的な品質を誇り、独特の地位を誇っておりました。「高級品は百貨店」というのが今日まで続いている消費者の認識であり、望みでもあるのです。

高度成長期までは日の出の勢いで成長を続けてきた百貨店ですが、社会の成熟期に入ると同時にスーパーや専門大店の台頭にそのシェアーを少しづつ減らし、通販や専門店、駅ビル、ファッションビルなどの急速な拡大を受け更にそのシェアーを落とし続けました。

それでも「小売りの王者」の地位は揺るがず小売りの頂点として君臨し続けましたが、だんだん進取先取りの気風は無くなり、他社との差別化を計るために積極的に自主制作したPBも辞め、消化仕入売り場を拡大して販売員も商品も持ち込ませ、百貨店は実質大きな箱の、何でもあるようで実は何も特徴の無い場所貸に成り下がっていきました。

更には売り上げ減少を食い止めようと自主的に商品開発や売場開発するのではなく、安易に集客できるUNIQLOやニトリ、果ては大型ディスカウント業種を店内に導入し始めたのです。もはや小売りの王者としての誇りは微塵も感じられず、本来は自社が行うべき集客もせず、他では買えない優良かつ高級な商品も展開せず、安易な道ばかり模索し、何処にでも売っている何処にでもある商品が軒を並べるだけの業態に落ち込んでしまったのです。

百貨店でしか買えなかった商品は失われ、何処ででも買える商品しか置かなくなり、特別感があったサービスも経費節減の為にどんどん無くなり、結果、他業態との差がなくなってしまい、百貨店はその存在意義を失ったのです。消費者はわざわざ都心まで出かけ手も仕方が無いので、地元の総合ショッピングセンターで十分満足し、百貨店では手に入らなくなった拘りがある商品のある路面の専門店で消費を増やすようになっていったのです。

それはお客様が百貨店に何を望んでいるのかという基本をすっかり忘れ去ってしまった結果です。売れているUNIQLOや家電量販店の集客力の大きい業種を店舗に導入したい気持ちはわからないでもありませんが、消費者は百貨店に何でも期待しているのではないことに気が付くべきです。UNIQLOが欲しい人は直営の大型店舗に行き、近くで便利だから百貨店に来たとしても他売り場に寄ることはもちろん無いのです。

そしてネット販売の登場です。年老いた経営層はネット販売の重要性を理解するどころか、知らないものは排除するという鉄則に則り、百貨店の対応は恐ろしいくらい遅く、その内容も通信販売の電子版くらいというお粗末な対応しか取りませんでした。各社のシステム部はその重要性を上層部や営業部に上申することを怠り、営業部はわれ関せずという態度、経営層は形だけ整えれば十分といった体でした。

今となって「ネットとリアルの融合」だとか「オムにチャンネル」だとか騒ぎ始めていますが余りにも遅きに失し、後発の異業態や全くの小売素人企業のネット販売にすら後塵を拝する状況下に甘んじています。百貨店がネット事業に本気で参入したとしても、販売している商品は既に取引先のHPで販売されており、直接そちらに行ったほうが便利なのです。

敢えて百貨店で買うとしたら、ポイントを集めるためにだけでしょう。ポイントは集客や売り上げに有効とされていますが基本は「値引き販売」なので、楽天やZOZOがやってる「ポイント何倍日」には到底太刀打ちできません。ポイントを有効活用している消費者はそこのところをよく知っており、すぐその場で欲しいという場合を除いては、百貨店で衝動買いをするという状況では無くなっているのです。

消費者は上手く百貨店とその他の業種を上手く使い分けています。そして年々百貨店で購入する必然性やメリットが薄れていくのも事実です。何故なら「百貨店でしか買えない商品、味わえないサービス」がどんどん失われており、わざわざ百貨店で買う意味が無くなっているからなのです。ところが残念ながら百貨店はこの事実に気付いていません。

口を開けば「ネット対策」と言いますが、それもヴァーチャル空間を望外なコストの上に創ったり、プラットフォームを遅まきながら創ったり、もはや100年遅い施策しか考えられていません。

何故、百貨店の優位性を再認識しないのでしょう。