コロナ禍からの復興2021№12

百貨店はコロナ禍後はどうなるのでしょう

今迄百貨店は①ネット対応の遅れ②消化仕入れの依存化③消費者ニーズの読み違えを挙げて来ました。これらの対策を行う事は絶対不可欠でありますが、その前に百貨店の存在意義を考え直す必要があります。

百貨店はその成立以来高級路線が基本で、進物物や贅沢品は百貨店の独擅場でした。庶民がまだまだ低所得層が多く購買力が大きくない時代でも、「ハレの日は百貨店という」庶民の憧れでありました。百貨店に行くというと、わざわざよそ行きに着替えて行ったものです。

百貨店で売っているものは品質が良く、高いけれど安心できる商品、持っていたり身に着けているだけで他人から羨望の眼差しで見られる商品で、百貨店の包装紙は絶大な人気を誇っていました。海外の商品もいち早く取り入れ、今世界を席巻しているラグジュアリーブランドは日本の百貨店が育てたと言っても過言ではありません。※1

※1  世界を席巻したラグジュアリーの代表格であるLVは高島屋に身売りに来たことがあります。しかしビニー ル素材のバッグなど百貨店素材では無いと断ってしまい、営業応援として当時の特選売り場の課長を出向させた 経緯があります。CHANELも同じです。名誉顧問の黒田氏が今のCHANELのコンセプトやテーマカラーマークを決め安売りやバーゲンを止め、仕入れて販売していたBAGや靴をオリジナル製作に変えたのです。

取引先も、百貨店に卸す商品は他業態とは一線を画して品質の保持や差別化を自負していました専門店に卸す商品とはブランド名も素材も品質も異なるものだったんです世界的には専門店が高級品で、百貨店はスーパーより一格上くらいのレベルというのが常識ですが、日本では小売りの王者として圧倒的な品質を誇り、独特の地位を誇っておりました。「高級品は百貨店」というのが今日まで続いている消費者の認識であり、望みでもあるのです。

高度成長期までは日の出の勢いで成長を続けてきた百貨店ですが、社会の成熟期に入ると同時にスーパーや専門大店の台頭にそのシェアーを少しづつ減らし、通販や専門店、駅ビル、ファッションビルなどの急速な拡大を受け更にそのシェアーを落とし続けました。

それでも「小売りの王者」の地位は揺るがず小売りの頂点として君臨し続けましたが、だんだん進取先取りの気風は無くなり、他社との差別化を計るために積極的に自主制作したPBも辞め、消化仕入売り場を拡大して販売員も商品も持ち込ませ、百貨店は実質大きな箱の、何でもあるようで実は何も特徴の無い場所貸に成り下がっていきました。

更には売り上げ減少を食い止めようと自主的に商品開発や売場開発するのではなく、安易に集客できるUNIQLOやニトリ、果ては大型ディスカウント業種を店内に導入し始めたのです。もはや小売りの王者としての誇りは微塵も感じられず、本来は自社が行うべき集客もせず、他では買えない優良かつ高級な商品も展開せず、安易な道ばかり模索し、何処にでも売っている何処にでもある商品が軒を並べるだけの業態に落ち込んでしまったのです。

百貨店でしか買えなかった商品は失われ、何処ででも買える商品しか置かなくなり、特別感があったサービスも経費節減の為にどんどん無くなり、結果、他業態との差がなくなってしまい、百貨店はその存在意義を失ったのです。消費者はわざわざ都心まで出かけ手も仕方が無いので、地元の総合ショッピングセンターで十分満足し、百貨店では手に入らなくなった拘りがある商品のある路面の専門店で消費を増やすようになっていったのです。

それはお客様が百貨店に何を望んでいるのかという基本をすっかり忘れ去ってしまった結果です。売れているUNIQLOや家電量販店の集客力の大きい業種を店舗に導入したい気持ちはわからないでもありませんが、消費者は百貨店に何でも期待しているのではないことに気が付くべきです。UNIQLOが欲しい人は直営の大型店舗に行き、近くで便利だから百貨店に来たとしても他売り場に寄ることはもちろん無いのです。

そしてネット販売の登場です。年老いた経営層はネット販売の重要性を理解するどころか、知らないものは排除するという鉄則に則り、百貨店の対応は恐ろしいくらい遅く、その内容も通信販売の電子版くらいというお粗末な対応しか取りませんでした。各社のシステム部はその重要性を上層部や営業部に上申することを怠り、営業部はわれ関せずという態度、経営層は形だけ整えれば十分といった体でした。

今となって「ネットとリアルの融合」だとか「オムにチャンネル」だとか騒ぎ始めていますが余りにも遅きに失し、後発の異業態や全くの小売素人企業のネット販売にすら後塵を拝する状況下に甘んじています。百貨店がネット事業に本気で参入したとしても、販売している商品は既に取引先のHPで販売されており、直接そちらに行ったほうが便利なのです。

敢えて百貨店で買うとしたら、ポイントを集めるためにだけでしょう。ポイントは集客や売り上げに有効とされていますが基本は「値引き販売」なので、楽天やZOZOがやってる「ポイント何倍日」には到底太刀打ちできません。ポイントを有効活用している消費者はそこのところをよく知っており、すぐその場で欲しいという場合を除いては、百貨店で衝動買いをするという状況では無くなっているのです。

消費者は上手く百貨店とその他の業種を上手く使い分けています。そして年々百貨店で購入する必然性やメリットが薄れていくのも事実です。何故なら「百貨店でしか買えない商品、味わえないサービス」がどんどん失われており、わざわざ百貨店で買う意味が無くなっているからなのです。ところが残念ながら百貨店はこの事実に気付いていません。

口を開けば「ネット対策」と言いますが、それもヴァーチャル空間を望外なコストの上に創ったり、プラットフォームを遅まきながら創ったり、もはや100年遅い施策しか考えられていません。

何故、百貨店の優位性を再認識しないのでしょう。

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