コロナ禍後の世界No.6-4
百貨店の採るべき新しいMDとは?
百貨店が高額品を販売するためにはMDの変更だけでは足りません。徹底したサービスの再構築・高度化が必要です。
1000円のTシャツを売るのではなく10万円のTシャツを売るのですから、ハンガーで什器にブル下げているのではなくきちんとディスプレイされ商品は引き出しの棚の中にきちんと畳まれて保管されていなければなりません。販売員がきちんと製品説明・商品説明、トレンドコーディネート・ベーシックコーディネートが説明できなければなりません。洗濯の注意から保管の注意など多岐に渡るお客様の関心毎には適格に且つ確実にお答えする体制と販売員教育が不可欠になってきます。決してメーカーからの派遣社員ではできない、百貨店ならではの接客技術を磨く必要があるのです。
一番の接客力は商品知識です。製品知識とは異なり、商品のトレンド性やコーディネート情報、今年流の着こなし、顧客の感性や好みに合わせた提案などが商品知識の根幹を成します。製品知識は素材や洗濯情報、お手入れ方法、保管方法など製品に関する情報になります。
同じ商品でも顧客の年齢・テイスト・使用目的・趣味嗜好などで勧め方は異なります。どの顧客に対しても同じ接客や通り一遍の接客では顧客は満足させられません。近年の百貨店売上低迷の一因はこの接客にあったと私は視ています。マニュアル通りの接客ではネットで商品情報を完璧に頭に叩き込んだ消費者には敵いません。マニュアルから一歩も二歩も進んだ接客が為されなければ、専門店の商品好きの販売員やオタッキーな販売員には敵わないのです。ブロガーのコーディネート力には敵わないのです。
更に最近ないがしろにされているVMD(ヴィジュアル・マーチャン・ダイニング)が重要になってきます。新しい時代の新しい顧客層=新富裕層や、オーセンティックでベーシックなライフスタイルを好む富裕層、には各々に対して店側がきちんと提案しなければ商品価値が十分には伝わりません。売り場で展開している全商品にスポットライトを当て、品番や売り場単位を超えたライフスタイルやスタイリングで見せていくことが求められています。そのためには只のディスプレイでは顧客の興味を引き付けることは難しく、色々の情報を瞬時に伝えられるVMDを販売員はきちっと理解の上、計画的に展開スケジュールを組んで実施されるべきなのです。
このような自社販売員を育てるべく、全日空のCAにお辞儀の仕方を学んだり、言葉使いを学んだりせず、自社教育をしっかりと人事部にお願いしたいです。百貨店は全日空のお手本になった企業にもかかわらず、本末転倒し、教育を放棄した人事部などリストラされるべきです。顧客に対して決して友達言葉など許されるはずも無く、私服などもってのほか、きちんと制服に身を包んだ正社員が※2接客をすべきなのです。教育を全く為されず、新入社員から販売員管理ばかりやらされている百貨店の社員は販売員としては現状最低レベルといっても決して過言ではないでしょう。優秀な販売員を中途採用したり、給与制度に売上インセンティブを付けたり、ともかく優秀な販売員確保が急務です。
また、販売の為の環境整備も不可欠です。現在百貨店で高級というとブティック形態が主流です。しかし、街中の個店をそのまま持ち込んだような店舗はもう飽きました。それより、フロア全体を一つのラグジュアリーな壁の無い圧迫感ない回遊性の高い空間に設え、高級家具什器や広い試着室、ゆったり展開された展示什器で、消費者はゆっくりソファーに座りながらお茶を飲みながら販売員が運んでくる商材をゆっくり吟味する、といった環境が必要でしょう。ニューヨークのバーグドルフやロンドンのセルフリッジなどを研究するべきです。
仕入れ先の言いなりに3年に一度、300万円/坪も掛けて内装を一新するなんて馬鹿な事は早々止めるべきです。ラグジュアリーブランドはただでさえ百貨店の優良顧客名簿を横取りし、望外に儲かっているにもかかわらず条件を毎年悪化させ、店舗の至近距離に大型店舗を展開させ、百貨店内店舗はストック場位の位置づけに貶めています。それでも対抗しうる自社オリジナル高額ブランドを持たない百貨店は屈辱的に従わざるを得ないのが現状です。早急にラグジュアリーブランドを凌ぐ高級品開発を行うべき理由がここにもあります。
効率追求型の狭い空間に什器や商品を詰め込んだ売場展開は、あくまでも売場主義で顧客主義ではありませんし、消費者はそんな場所で商品知識も製品知識もない販売員から物を買いたくはないのです。ましてや、今後狙う顧客は自分のライフスタイルに合った「何か良いもの」を探しに来られるのです。決して「良くて安い」商品を探しに来るのではありません。価格ではなく、自分の趣味嗜好や興味を十二分に満足させてくれる商品であることが最重要なのです。何しろアイテム毎に世界の一流品で売場が満たされているのです。どの商品も主役でなければなりません。そして売場はそれら商品が映える場所でなければならないのです。
百貨店は今までの中間プライス戦略を捨て、高いがそれなりの価値がある商材の発掘及び生産を行うべきだと説いてきました。何処にでもある、何処ででも買える、皆が持ってる、といった商品を販売していてはいけません。百貨店が販売するには何の価値もないのです。同じ館内にユニクロやZARAも要りません。一般服も服飾雑貨も要りません。必要なのは世界から選りすぐってきた商品のみです。同時に次世代に羽ばたくデザイナーや工房、職人などの作品や商品をインキュベートすることも大事です。館内に嘗てあったような美術画廊やサザビーズのような高級オークションが在ってもよいですし、今一度自社ターゲット戦略、MD戦略、販促戦略、などを再構築すべきなのです。
これからは営業部やMDなどの真価が問われる時代です。頭の古く固い役員層の言いなりでは生き残ることはできません。今までの成功体験ややり方では全く通用しなくなることを自覚しなければなりません。今こそ目覚めるときです。