コロナ禍後の世界№6-2
コロナ禍後の百貨店はどう立て直していけばよいのでしょう?
コロナ禍が終焉しても一般消費者の購買は今まで以上にネットに移って行くでしょう。コロナ禍下で百貨店の主顧客層であった中年層はネットの利便性を充分知り、そのショッピングの楽しみ方も広く理解されたからです。
また、メーカーは百貨店に店舗を構えても百貨店自体の集客力が激減し集客できない現状下で、従来型店舗=15坪・販売員5名・商品在庫2000万円・売上200万円/月では全くの赤字になっています。そしてコロナ禍を口実に、従来ではとてもできなかった百貨店内不採算店舗(数百店舗~千数百店舗)の整理を一挙にこの2年間で断行してきました。 その結果、百貨店の実店舗ではフロアー丸々空いてしまったり、虫食い状態は当たり前の状況で、さらに客足が百貨店から遠のく要因になっています。特に地方の消費者は相次ぐ百貨店の破綻や商業施設の閉鎖で買いに行く場所を失い、必要に迫られネット販売に頼らざるを得ない状況下に置かれたことも大きな要因です。
百貨店では、大手メーカーがどんどん不採算店や不採算ブランドを整理してしまい一流がだめなら一流半、それでもだめなら二流でも売り場が埋まればよいとばかり、無節操に条件さえよければどんどん取引先を取り換え、結果MDは魅力を低下し続けてしまい、結果消費者が離れていく悪循環に入りつつあります。食品のみが集客と売上をかろうじて守っていますが、集客の低下を理由に他移転をチラつかされ、百貨店の利益率はどんどん下げられています。
また少しでも売り場から利益を出そうと場所貸し化=賃貸化も試していますが、華々しくデビューした超一等地の銀座SIXでさえ高い賃料に見合わず撤退するブランドが後を絶ちません。場所貸し化が成功するはずの都心の一等地ですらこの有様ですから、地方のシャッター通りに位置する百貨店ではなおさら立ち行くはずがありません。
こんな状況下なので、ネット販売へのシフトとか強化とか掛け声ばかりが威勢良く聞こえてきますが、その実態は通販事業カタログをデジタル化したくらいのレベルで、賞味期限の長い食品ギフトを展開するレベルか、取引先HPへリンクを張るぐらいが関の山です。伊勢丹が300数十億円かけて仮想空間へ出店をしましたがゲーマー向けでとてもショッピングの実用性はまだまだです。
メーカーも同様で、ネットを理解している役員があまりにも少なく、いても従来のシステム管理担当で新しいネット販売戦略やソフトの活用までは全く手つかずの状況です。大手のソフト会社は法外な料金でここぞとばかり同じシステムをあちらこちらに売りまくっており、百貨店やメーカーはいい餌食になっています。
そして百貨店もメーカーも戦略的なネット販売を構築する前にバラバラと開発してしまった顧客システムや商品管理システム、在庫管理システムなどの一本化に四苦八苦状態で、とてもネット先行のファストファッション各社には追いつくどころか、新しいシステム導入を進め、実店舗との連動を済ませたユニクロやZARAの背中すら見えないのが現実です。ましてや需要予測による生産体制構築や顧客の検索記録から消費ニーズを予測するレコメンド機能、在庫移動管理など次世代ソフトの活用策はユニクロより100年遅れているのが現状です。
百貨店はネットの有効性や可能性に本当に気付いているのでしょうか?
ネット販売を行うためのシステム構築や受注システムに連動した在庫管理、配送管理など相当額の投資が必要になるのです。販売の仕組みを作る上で重要なことの一つに在庫をメーカー管理か、さもなくば百貨店管理か、というのがあります。メーカーは自社HPで販売できれば利益率が良くなるので売れ筋商品を百貨店在庫にはしたくないのです。百貨店はそれを防ぐためと売れてから商品移動をしていては消費者に届くまで時間がかかりすぎるので在庫を自社管理下にしたいのです。このような現実を前に経営層はネットの全貌を理解しておらず、システム担当は膨大な費用の申請に尻込みし、雀の涙ほどの予算でできることのみをせっせと行い、結果継ぎはぎだらけで運用しにくく且つ新しいニーズには対応できない無用の長物だけが残る羽目になるのです。
それより重要なのは百貨店がネット時代の実店舗とネット販売の両方をどうしていきたいのか、という戦略が全く組まれておらず、ただ対処療法的に「売上を増やす」目先の戦術に無駄な資金と時間を投資しているだけという点です。本来なら「消費者はこれからどういう購入スタイルを採るのか」「自社の実店舗とネット販売の強みと弱みはなにか」といったマーケティングの大原則すら行われていなかったり、理解していなかったり、戦うための準備が全くできていません。まずは新時代消費に向けて、現在の新しい技術やノウハウを理解し、自社の顧客が何を望んでいるかを確実に把握し、そしてはじめてその対応策を戦略レベル・戦術レベルに落とし、タイムテーブルを組み実現させていくことが不可欠になってくるのです。
現在の百貨店最大の課題は実店舗でもネットでも「集客」です。
1億円の指輪を買い求めるお客様から3足1,000円の靴下を買いに来るお客様まであらゆる階層のあらゆるニーズに対応すべく今までMDを構成してきました。その中でもちょっと高級、大衆向けなどの差はありましたが、概して中産階級といわれた大多数のお客様のニーズ対応を主眼としてきました。
そして常に時代の人気ブランドやアイテムなどの商品を提供してきましたが、消費者のライフスタイルの多様化や社会環境の変化で消費に対するニーズや傾向は時代の変化とともに大きく変わりました。消費のチャンネルが多様化し、小売りの業種業態も増え、購入手段が画期的に選べる時代に、3足1000円の靴下をわざわざ買いに来る消費者は最早いなくなったのです。良いものが安くなったからといって百貨店の期末バーゲン目当てに来る時代は既に終わっているのです。 同時にあらゆる顧客に満足を提供する時代も既に終わっているのです。
私は前から「消費者ニーズの多層化」を話しています。※1 消費者は高級品なブランド品も買えば安価なユニクロも買うといういくつかの顔を持っているのです。ですから、従来のマーケティングの富裕層だとか一般層だとかの収入分けや、カジュアルだのエレガンスだのテイスト分けの売り場展開も消費者は気に入らないのです。ましてや年齢分けなどは消費者を愚弄している以外の何物でもありません。
それよりは、消費者のライフスタイルや趣味嗜好にあった商品を提供するべきなのです。全身シャネルも全身ユニクロもダサいと知っていて、自分なりのファッションを楽しんでいるのです。自分よりファッションセンスの良い友達やプロの販売員の言うことは神の言葉のように盲信しますが、昨日まで大根を売っていて今日は衣料に派遣されてきたなどというノンプロの言葉など鼻にも引掛けないのです。
百貨店に消費者を呼び戻すためには、今一度百貨店のMDを見直すことです。ターゲットを見直すことです。
次回はそのMDについて話をしたいと思います。
※1拙書 「お客様、閉店です」繊研新聞社刊