新しい百貨店とは? 新業態の百貨店№4

3) コト寄りの拠点として新しい生活提案を行うこと

百貨店は今迄の物販施設としての機能だけでは生き残れません。場所貸し化やブランドを詰め込んだ形でも、SC化でも専門特化型でもごく一部の百貨店しか生き残れません。消費者は「モノを買う」ためだけにはわざわざ時間とお金をかけて買い物にはもはや来ません。「今この瞬間」だけしか味わえないコトや「此処でしか買えない」か「此処で買うのが好き」といった此処」でしか楽しめないコトが集積され、時間と空間が自分の好みで展開されている場所にしか興味が無いからです。「何処でも」「何時でも」買える「場所」や「モノ」には時間を費やす暇は無く「たまたま」ではなく「わざわざ」求めなければ得られないもの、イベントなどの一過性ではなく、日常的に提供され消費者自身の生活の糧になるべき「コト」が望まれるのです。そういった意味で教養や知識を身に着けられる「学習」であったり気の置けない仲間が集うカフェレストランで過ごす「時間」であったり、多種多様の「コト」の集合体に進化をしなければなりません。もっと身近に言えば「料理教室付きあるいはレストラン付きの食品売り場」や「修理・お直しは勿論パーソナルコーディネーターとお茶を飲みながらファッション談義ができる衣料品売り場」などが当たり前になるのです。そうでなく単にモノを販売するだけの施設ではネットにかなうはずが無いのですから。

巨艦沈む シアーズの倒産

「電話帳」で有名な米国小売大手のシアーズが倒産しました。ネット台頭に伴う消費者の買い物スタイルの変化について行けなかった事が原因だそうです。かつてシアーズは消費の拡大に伴い店舗が無いエリア向けに「電話帳」と渾名されるほど分厚いカタログで生活全般に渡る商材を販売し急速に伸びた企業です。その後リアル店舗を郊外型ショッピングモールに展開し、廉価な商品と幅広い品揃えを中心に消費者の支持を集めてきました。米国消費の拡大に併せて拡大してきたシアーズは時代のニーズに対応して伸びたといえます。しかし、創業125年たち、会社が硬直化し時代の変化に乗り切れなくなり今回の結果を迎えました。シアーズだけでなく米国の小売りはアマゾンをはじめとするネットの台頭に顧客を奪われ続けています。今年だけでもリミテッド、トイザらスなどの大手企業から靴のナインウェスト、健康サプリのビタミンワールドなど数多くの企業がその歴史に幕を閉じました。どの企業も消費者ニーズを確実に掴み伸びてきた企業です。しかし企業努力のスピードを上回る速さでネット拡大に伴い消費者の購買手法やニーズそのものが変化してきたのです。消費者は正直です。自身のニーズに合ったものしか求めません。今迄は商品自体が良ければ問題はありませんでした。今は価格や品質は勿論、手元に届くまでのスピードやサイズ交換の利便性、24時間可能な購買時と時間やスピードなどの利便性が求められます。今迄の配送時間・コストや商品交換の手間、色・サイズの在庫状況と取り寄せ状況など既存の体制では全く対応できないのです。今迄の勝ち組は早急に商売の「仕組み」改革に取り組まねばなりませんが、日本の小売り大手はどこまで真剣に向き合っているのでしょうか?残念ながら真摯に対応を図っているどころか、検討すらされていないのが現実です。

 

 

緩~い時代は最先端!

流石創造集団の行っている「限界集落再生」現場である石川県小松市滝ケ原に行ってきました。一つは代々6家族が自宅の延長として各屋の庭と氏神様を祭る神社の境内に自生している「苔」を大事に守り続けた「苔の里」です。ここも高齢化が進み「苔」を守り切る事ができず荒れるがままに任さざるを得ないという状況下に、流石創造集団がボランティアとして都会の田舎暮らしや苔好きを集め、「苔」維持の清掃ボランティアとして定期的に送り込むと同時に村内にある廃屋を休憩所として整備したり(改装設計は隈健吾氏)、スウェーデン大使夫妻をお呼びして海外デザイナーに苔の持つ美を紹介するなどして世界に向けて啓蒙活動をおこなっています。そのそばに位置する滝ケ原地区は限界集落で現在数件しか残っておらず、やはり高齢化が進み過疎が静かに進行しているエリアでした。此処にある廃屋を流石創造集団は、手作りで改装し苔の里に来るボランティアや海外からのアーティストたちの為に民泊施設やカフェなどをオープンさせ、村の雰囲気を一変させています。施設の外観は昔のままの古い蔵や納屋ですが中には北欧家具や最新デザイナーの椅子やテーブルがあり、快適空間を創出しており、そこには緩~い空気が静かに流れています。この環境に憧れた若いスタッフが住み込み、地元の方と結婚し、年内には赤ちゃんまで生まれます。そんなカップルが2組、滝ケ原を支えています。農家のおじいちゃんと一緒に野菜を育て、おばあちゃんと一緒にご飯を作り、みんなで寄り合って晩御飯を食べている姿は何ともほほえましい限りです。しかも海外デザイナー達も滝ケ原の環境にすっかり溶け込み一度来ると必ずリピーターになるそうです。これもnetのおかげでしょう。宣伝は口コミとSNSだけだそうです。気張らず、お金をかけず、地元の方と一緒に、緩~い時代の最先端を垣間見た気がします。皆さん、ぜひ一度滝ケ原へ行ってみて、時代を感じてください。