コロナ禍からの復興2021№4

従来のマスマーケティングでは、今の顧客ニーズを把握・対応する事は至難の業難です。ネット顧客を実店舗に呼び戻すことなど到底できません。しかし、「わざわざ来店してもらう」必然性がなければ実店舗の存在意義は残っていないのです。その必然性を生むためには以下の事が肝要になります。

一つ目は実店舗の持つ顧客各々が望むニーズを確実に正確に把握することです。その為には顧客をマスで捉えず、個々のニーズを捉えられる新しいマーケティング手法を開発・導入することです。二つ目はその新しく把握された顧客ニーズに対応し得る実店舗の新しいMD・サービスを再開発することです。

消費者個々のニーズを捉えるためには、小売業が溜め込んだが全く活用されていない膨大な顧客データを新しい手法でAIを活用し分析することが絶対条件の一つになります。消費者の欲しいモノとは従来のマーケティングでは得られない、消費者個々の「感性」※1に関するキーワードで括られ、商品に付帯されたメタデータにより提案されるものです。

※1「感性」で括られたメタデーを商品に付帯することで、買った商品からその顧客の趣味嗜好が想定できます。 購入点数が増えれば増える程精度は増します。従来の多変量解析とは比較にならない詳細さで顧客を分析可能となります。このデータを「感性メタデータ」と称します。

「スポーツ好きで、便利なSUVでよく夫婦で海へ行き、海辺のレストランでイタリアンを食べるのが好き。時々は地元の名もない食堂で地魚を食べ、帰りに道の駅へより地元名産品を探すのが好き。TPOを大事にし、カジュアルやきちっとした洋服もどちらも着こなしは上手いが、夫人は足が太いことを気にし長めの上着に普段はパンツを多用するが、お出かけはシャネルのロングジャケットにZARAのフェイクファーのショートスカートで。ご主人もユニクロのセーターにエルメスの45カレを好んで首に巻く。ホームパーティもよく開催し手料理を振舞い、皆でビオワイン比べするのが好き。実年齢は高いが、マインドは30~40歳」

こんな消費者に何を薦めるべきか?またどうやってこの消費者が何を望んでいるのか分析できるのでしょうか?

今迄の購買商品に感性メタデータを付与し、商品に付帯した感性メタデータを分析すれば、個の消費者がどうゆうモノを好み、どうゆうときに必要とし購入するか、どういゆコンプレックスを隠せる商材を基本的に望むか、どういうコーディネートをしたら冒険したコーディネートを楽しめるか、顧客の最新の趣味嗜好がAI分析で90%以上把握できるのです

従来の多変量解析の需要予測ではなく、感性メタデータAI分析では個々人の好みが商品を選択することで判別でき、同じ感性メタデータを持つ商品をべば、消費者の好みと一致する仕組みです。個々のデータを集積し、グループ化すれば商品に付帯された数十から数千までのメタデータで、似たようなメタデータで反応した消費者が違う商品を選定していたら(アイテムで)、其の商品を購入する確率が高く、販売員が推薦すれば購入する確率は格段と向上する仕組みです。

この感性メタデータを使った実店舗の品揃えは当然ブランド別ではなく、感性趣味嗜好別店舗となります。高級志向本物志向の消費者向け店舗、実用性・機能性志向消費者向け店舗、清潔志向消費者向け店舗等、感性に合わせた店舗展開することで、消費者ニーズに対応できることになります。とりあえず何でもおいているブランド店舗ではなく消費者が望んでいた商品が揃っている店舗になるのです。

販売員もこの店舗別に商品説明は勿論、コーディネート提案できるコンセルジュ化が求められ、その為の新たな接客技術の獲得が新しい課題となります。店舗もブランド別ではなく顧客嗜好別MD店舗に換えられるので、販売員は今迄以上に自分の顧客のことを知らなければなりません。そうなると給料も売上歩合制度が良いかもしれません。

コロナ禍からの復興2021 №3

AI技術の革新は加速度的に進み、従来では不可能どころか思いも付かない事が可能になりました。その結果人々の生活の便利さを広げただけでなく、社会の既成概念すら大きく変化させました。

特にネット販売の拡大は消費者の生活スタイルを一変させ、従来の価値観や小売り業の在り方も変えてしまいました。ファッションは試着しなければという人もまだまだいますが、多数のサイズや色を取り寄せ、自宅で試着し、中から欲しいものだけ残し後は返品すればよい、という新しい購入ルールが確実に拡大・定着し始めています。

結果、簡単に返品させない百貨店やブランドはもはや購入場所対象外となってしまい、それすら判らず「ネット販売」を金科玉条に戴いて、システム対応に投資もせず、カタログを電子化しただけのHPでは消費者の心は動かす事はできません。

百貨店や大型商業施設は「ネットと実店舗の融合」と称して、ネット商品の受け取り場にしたり、ネットでも店頭でも買える、ということを謳い文句にしていますが、そんな陳腐な政策で、コンビニやスーパーならいざ知らず、繁華街に位置する大型商業施設が行う施策としては陳腐です。そんな事でわざわざ高い電車賃と時間を掛けて来店はしません。

では実店舗は全く不要の存在になってしまうのでしょうか?

いや、そんな事は絶対ありません。その為には大型施設はまず集客する方法を考えねばならないのです。それも最新のAI技術を利用して、新しいマーケテイングを行い、MDを、実店舗を、販売ルールを、接客を、そして商品を一新させ、集客策を考えるべきなのです。早急に実店舗に顧客を誘導する手法を開発しなければ実店舗の存在意味は無くなってしまいます。

しかしコロナ禍で消費者は三密はおろか不要の外出を控えるためにわざわざ繁華街まで出てこないのではと思わのが一般的です。正にその考え方は消費者に浸透しています。

だからこそ、「わざわざ来店していただく必然」を実店舗は提供する事が絶対不可欠なのです。コロナ禍が終焉すれば、或いはこの状況に消費者が慣れれば消費者は戻ってくると考えている経営者が居れば、おめでたい限りです。

実店舗では商品ではなく、そこにいる販売員と話がしたくて来店する顧客や、販売員が進める商品を買えば安心という個客もたくさんいらっしゃいます。このような顧客は来店頻度も購買単価も高いのが特徴です。しかし「絶対数が少なく実店舗を維持しうる顧客数が足らない」と、ONWARDの鈴木社長は話されます。ONWARDはそれゆえ、撤退した店舗を年間数回POPUPで展開販売することにしたそうですが、実に懸命だと思います。

しかしそれだけでは、実店舗は従来のままでの存続は難しいでしょう。特に単一ブランド展開している店舗はネット販売に勝てるはずがありません。なぜなら実店舗は商品展開のアイテム数・色数・サイズ数、ブランドの全てにおいて、ネット販売で展開される物量とは比較にならないからです。

それでは、所有する全ブランドを集積させ、フルアイテム・フルサイズ・フルカラー揃えた店舗展開は可能でしょうか?ネット販売に対抗して「ネットでも、実店舗でも買える」という事はこういうことになります。しかし、郊外の大型店舗ならいざ知らず、都心や繁華街では利益の出ない店舗となるでしょう。しかし、「ショールーム」と割り切り宣伝費で運営されれば可能かもしれませんが、在庫品の処分を考えると頭の痛い問題であります。

ONWARDは今から10年前に今日が来ることを予想し、同じ商業施設にブランド毎にばらばらに店舗が展開されている不効率を解消しよう、お客様の利便性を向上させようと、全ブランドを1ブティックに集約した案を高島屋と研究を開始していました。それは一人の消費者が多様化・多層化しているという事実の下、年齢別・テイスト別・価格別等という分類では消費者を括る事はもはやできないという厳然たる事実の認識からでした。

今日これらの分類は進化した消費者を見分けるのには時代遅れの産物以外の何物でもありません。ブランドを排し、1か所にフルアイテム揃えた実店舗は販売員効率や商品製作上でも、また在庫管理面でも大変有効であるというシュミレーションが出ていましたが、実店舗全店で行うわけにはいきません。それだけの商品量を生産しても売り切る事が出来ず、SALEでも処分ができず作れば作るだけ赤字が増えるだけだからです。基本的に「マスマーケティング」ではこの顧客のニーズを把握し対応する事は出来ないのです。

コロナ禍からの復興2021 №2

コロナ禍の下で潮が引くように店舗から顧客が消えた小売業の誰もが、飲食業の奮闘を横目で見ながら、「ITとリアルの融合が必要」と言います。其の具体策として「リアル店舗でネット商品の引き取り」とか「リアルで商品を見たり試着したりして、購入はネットで」とかがよく策として語られています。

しかしこんなレベルで顧客は戻るのでしょうか?答えは否です。実店舗の使い方としては実にお粗末としか言いようがありません。コンビニや近所のスーパーなら有効な策かもしれませんが、わざわざ時間とお金を使ってくる百貨店や繁華街に立地する商業施設が取るべき策では在りません。

前回話したようにIT技術で生活を便利にするだけの施策では顧客は満足しません。顧客の生き方=ニーズをより素晴らしいものにするために、顧客に対して何が必要かという視点が欠けているからです。そして来店することが「ついで」ではなく「目的」になるような施策が不可欠なのであります。リアル店舗の持つ意味合いを顧客サイドから見て意味・意義のあるものにしなければネット販売だけで全てが事足りるほど技術は進歩しています。

それでも実際に商品を見て触り感じてから買いたいという欲求は消えませんが、ただそれだけで顧客を実店舗に呼べるかというとそうではありません。何故なら店側が「わざわざ来店していただく」必然性を見出していないからです。将来は実店舗はいらなくて、全てネット販売になるかのような動きしかしていません。

ネット販売の前に完全に打つ手を見失い、誰もが「ネット販売」だけを念仏のように唱え、遅まきながらネット販売への参入を試みている状態では、先行しているネット販売業者に追いつくどころか100年以上の差がついてしまいます。今更「ネット販売」と称してカタログをネットに置き換えただけで顧客のニーズに対して何のソフトも考えず、ただただ商品を売ろうと必死なだけでは顧客の心を捉える事はできません。

ではこれからの小売業はどうしたらよいのでしょう?やるべきことは二つあります。

まず一つ目はITを来店促進の為に活用することです。ネットやIT技術で販売をするのではなく、顧客一人一人に合わせた来店促進策を行うことです。従来のように顧客を一括りにしたマーケティングではなく顧客個々に対応したマーケティングはIT技術の進歩により初めてなされるものです。従来でも外商顧客のような特別客には個別マーケティングが存在しましたが、一般消費者にも同じような対応が可能となったのです。

二つ目はモノ創りです。ただのブランド品やオリジナル品というだけではなく、徹底した消費者サイドに立ったモノ創りで、消費者の生活に潤いであったり、自信を持たせたり、安らぎであったり、信念に対する答えであったり、「ここでしか買えない私の望んだとおりのもの」がこの店なら手に入るというモノなのです。簡単にネットで手に入るモノではなくわざわざ来店すれば100%自分が満足できる商品が手に入るなら、消費者はわざわざ来店します。

次回はこの2つを詳しく考察していきます。

コロナ禍からの復興 2021

人類が未だ嘗て経験したことが無い未曽有の大惨事であるコロナ禍は経済活動に大きな爪痕を残しました。特に「三密」を避けるということで飲食業界は大打撃です。営業時間を短縮されたり、席数を間引きしたり、配達を活用したり、持ち帰り・弁当を始めたりありとあらゆる工夫を重ね、生き残りを賭け必死に知恵を絞っています。

一方小売業は百貨店をはじめとするする大型商業施設に人が集まる物産展を中止したり、正月の福袋を事前予約制にするなどの対策しか打てていません。特にファッション業界は地方を中心に閉店の嵐を起こしており、具体的に打って出る方策はONWARDが17ブランドを集積したONWARDクローゼットを展開し、人頭効率を図っているいるぐらいであります。

結果、地方はもとより郊外店や都心店ですら商業施設にはテナントが撤退した「穴」が目立ち、条件交渉や家賃交渉等の話ばかりが耳に入ってきます。経済紙でも百貨店終焉の記事ばかり目立ち、某アナリストは三越伊勢丹が28か月、高島屋が170か月、H2Oなどは19か月の余命などと分析し、それに対し業界御意見番を自認する某氏が百貨店はまだまだ大丈夫と太鼓判を押すなどの反論が話題となっています。

しかし、一番の課題は商業施設側が「コロナが終焉したら、客足は戻ってくる」と安易な根拠無き楽観論に染まっていることです。「ネットの躍進で購入形態は色々に分散されるだろうが、飲食をはじめ消費者は商業施設には自然と戻ってくる」という趣旨であります。

果たして本当にそうでしょうか?

コロナ禍で変化したのは表面的な人々の規制された「生活」ではなく、基本的な「生き方」だからです。今までの小売業は消費者のニーズが「モノ」中心だったので対応することが可能でした。しかし今回は個々人の「生き方そのものをどうするか」という答えを求めているのです。

新常態=新生活向けの社会基盤整備用のPS環境整備やテレワーク用の自宅改装,はたまた郊外移住などの仕事をする上での対策は種々語られています。コンサルティングやセミナーは未曽有の活況を呈していますが、小売業に対しての具体的は全く語られてはいません。外から見た一般論化か、銀行家や投資家から見た、ROE(自己資本利益率)が大事だとか不動産賃貸業への展開を図れとかの総花的な意見しか見受けられません。

何故なら小売りの素人達が偉そうに何を言っても小売りの根本を理解しておらず、ましてや消費者のニーズを理解していなくては偉そうに知ったかぶりを言っても問題の根本的解決には何の役にも立ちません。小売業の問題はやはり小売業の現場が解決しなければならないのです。

そのような状況下で誰もが判る対策が在ります。それは「IT」を活用しなければ生き残れないということです。こう言うとすぐネット販売の事だと思う方が多いと思いますが、それだけではありません。ITと活用した「顧客管理策」「情報提供策」「集客策」など実店舗を生かした取り組み策がかなりあるのです。しかしネット販売ばかりに気を取られ、現在存在する実店舗の活用策へのアイデアは小売業の何処からも聞こえてきません。

しかし、ネット販売を先行するアリババやAmazon等は実店舗の優位性を良く研究しており、消費者に取りネットと実店舗をどのように活用したら一番最適かを模索しているのです。アリババは銀泰百貨店グループを、Amazonはホールフーズを買収し、ネットとリアルの融合を日本の小売業みたいに口先だけでなく実践し始めているのです。

更に消費者の生活自体を変えうるコロナ禍により、消費者のより良い生活だけではなくより良い人生までの生き方までITによりサポートしようと考えているのです。単にモノを売るだけの企業と、消費者の望む生き方までも視野に入れ支援しようとする企業の差はもはや文化を超え文明レベルに達してしまったと言えるでしょう。