百貨店復権への道 第9回

百貨店で商品が売れなくなった理由はこれまで何度も①ネット販売対応の遅れ ②リスクを取らないMDの同質化③消費者ニーズ変化対応の遅れと指摘してきましたが、これらの理由に共通する課題は百貨店が自社独自の「商材」を持つ事を放棄した点にあります。

ネットの急速な拡大で何処でも何時でもモノが買えるようになりましたが、それはそれだけ消費者は自分の欲しいものに対して妥協がなくなったことを意味します。このことにいち早く気づいたSPAやメーカーは安価で流行を取り入れたネット販売向きのオリジナル商品を製造して、ネットでの新しい売り方や促進策を構築し、ブランドの特性を前面に打ち出し百貨店の顧客を奪っていきました。百貨店は愚かにもそんなSPAやメーカー商品を店内に導入し集客を図ろうとしましたが、駅ビルやファッションビルと根本的に異なる客層に受けるはずもなく、期待した売上や買い回りもなく百貨店の客単価を落とすだけの結果となっています。ネットで成功した企業は「安価だけど良質」なモノを返品自由で販売する一方、1点もののコレクター価格で販売するかデザイナーとのコラボで今しか買えない限定品であるとか、消費者の購買意欲を沸かせる商品を購買意欲が増す売り方で販売しています。消費者は何処でも売っているもの、何時でも買えるものより「これが欲しかった」と思える商品を探して購入しているのです。百貨店には残念ながらそう消費者に思って貰える商品が無く、何処でも売っている大手取引先の商品しか置いていません。そんな何処でも買える、またはメーカーのネットで買える商品では仕入れ先の在庫幅の奥行には到底勝てません。百貨店向きの商品が店頭で売れたとしても仕入れ先は自社ネットですぐさまフルサイズ・フルカラー展開してしまい、百貨店はあくまで展示場化してしまうからなのです。これが百貨店でモノが売れなくなった一番の理由で、顧客が百貨店が扱う商品自体に顧客が興味を示さなくなったからなのです。百貨店はそこでリスクを取り新人の商品を発掘するとか、小さなメーカーと協力してブランドを立ち上げるとか、かつてのように世界中からバイヤーが探すか、ラグジュアリーブランドとWネームのオリジナルを造るなど「百貨店でなければ売っていない商材」を持つしかないのです。「ここでしか買えない商品」を提供すべきなのです。百貨店は大量生産大量販売するメーカーのように多数の販売拠点は持ち得ません。ですから少ない店舗で売上が取れる商品を販売しなければなりません。決して安価で大量販売しなければ利益の出ない商材ではなく、こだわりの強い高級品になります。決して価格が先行してはいけません。ラクダのシャツの需要は一般では少ないけれどギフトの世界にはきちんとあるべきなのです。エルメスの別注は百貨店しか造れないのです。特に次の時代にヒットするであろう若手の商品を発掘、販売することは百貨店の大きな使命の一つであります。何処ででも、何時でも、誰でも買える商品を店頭にただ並べていたりネット上に載せても、商品自体が顧客の興味を特別に引くもので無い限り百貨店やそのネットには顧客は来ないのです。これが①と②の答えなのです。

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百貨店復権への道 第8回

過日、流石創造集団の黒崎社長と元伊勢丹社長の大西さんと3人で、コロナ禍後について話し合う機会がありました。その会話の中で黒崎さんから、『最近のコロナ後の話は全てどうやって以前の状態に戻すかという視点ばかりで、この禍をきっかけにどう新しい社会の仕組みや会社の在り方、働き方、取引先との在り方など進化させる議論の方向性になっていない』という話がありました。特に『百貨店は生産者と消費者の間に在り、中間搾取しているだけだから機能が便利なネットに顧客を奪われるのは当然』とも仰有っていました。正にそのとおりで、今回販売先が休業で売り先に困っている取引先に対し、何ら救済の手を差し伸べてはいません。取引先A社が潰れたらB社にすれば良いとばかり、何ら対策は取っていないのが現状です。ネットしか販売チャンネルが無くなると、我先にネットに雪崩れ込み、同じメーカーの商品があちらこちらで販売されています。当然取引先も自社でネット販売しているので、百貨店に利益を払ってまで競合するネット販売に売れ筋在庫を廻す筈もなく、百貨店が販売するネット商品は年々その売上を下げるのは誰が見ても明らかです。また、大西さんはこの話を受け、『コロナ禍前はモノが売れず、此からはコトよりだと言われ続けましたが、やはり売り方や役割の変革と同時にモノをもう一度見直す必要が有るのでは?』と言う提案がありました。こちらもごもっともで百貨店が扱うモノ自体を、そのグレードや品質、独占レベルなどあらゆる角度から再検討されるべきで、売れない商品をどんなに提案しても売れないのはモノ自体に問題があるからです。次回からはモノの観点から百貨店再生への道をさぐります。

百貨店復権への道 第7回

消費者がネットに求めるサービスは利便性とスピードです。百貨店もこれは見習わなくてはいけません。素早い在庫確認や配送、気楽な返品自由、圧倒的な品揃え、用途に沿った売り方(ばら売り・ヴィンテージ・再生など)などは至急導入されるべきでしょう。またファションショーなどの情報は同時性で、ショー開催中にモデルが着ている服が買える(注文できる)のは当たり前になっています。百貨店はこれらの利便性を越えねばなりません。ファッションショー展開中に同じ商品が店頭に並んでおり、気に入った物は試着ができるといったレベルは最低限特権として必要でしょう。ネットの持つ利便性とスピードをリアル店舗が凌駕することは決して難しいことではありません。前回述べた高級化と同時にスピードはこれからの価値観の中で絶対的重みを持ちます。欲しいものは1秒でも早く欲しく、誰もが持つ前に持っていることはその人のステータスにもなりうるのです。世界の距離はどんどん縮まり、人々の生活は24時間化していきます。夜は寝るためのものでなく、働いたり遊んだりするための有意義な時間帯へと変貌していきます。テレワークは当たり前になり、出社せずとも週1回のブランチ出社で十分となり、生活のコアタイムはますます薄まり、人々の時間に対する自由度はますます増えていくのです。月曜から水曜までは自宅でテレワーク、木曜日は休んで子供とグアムに泳ぎに行き、金曜日は午後からブランチ出社、土日は夫婦で札幌にスキーといった自分の価値観で生活を楽しむ人々(新富裕層)はますます増えていきます。この層を取り込まない手はありません。それには今までのMD、展開方法、接客方法、サービスでは太刀打ちできないのです。百貨店はネットが持つ全てのサービス機能は保持し、その上に店舗でしかできないサービスを加えるしか生き残る道はありません。百貨店がネット販売をすることは当たり前ですし、それも自前で行わなければ今までの顧客データは全てプラットフォーム企業に奪われ、百貨店自体が独自のリアルで無ければできないサービス&品揃えができなければ生き残ることはほぼ不可能なのです。

百貨店復権への道 第6回

では百貨店が提供する、あるいは百貨店に消費者が期待するサービスとは何なんでしょう?「必ず欲しいモノやコト」が手に入るという1点に尽きます。これは決して路面展開の高級ブランドが有るとか、ユニクロが店内にあるという事ではありません。プロの販売員が顧客を一目みるなり、好みや嗜好を見抜き、顧客自身ですら思いつかなかったニーズ、素敵なコーディネートや着こなし方、更にはTPOに合った靴バッグはもとよりアクセに化粧品の仕方まで提案できることを指します。顧客が望むものをいち早く見抜き、すべてにおいて完全に揃えることです。しかも外商が行っているように、完全なP to Pでなければなりません。顧客はここで販売員との会話と優雅な空間環境下での時間消費を楽しみ、結果としてモノがついてくるのです。そのためにはメーカー任せの消化仕入れなどに胡坐をかいていては成し得ません。バイヤーは現場の声、顧客自体をよく調べ、今年の流行を各顧客にどのように組み立てるか、販売員と徹底した当欄が行われるべきなのです。こうして仕入れられた商品は万人向きではなくA氏向けであったり、B氏向の発注内容が決まって行くのです。百貨店は万人向けから一定の層に向けたターゲットに舵を切る時期に来たのです。

百貨店はいわゆる高級路線に戻り、ユニクロやニトリとの同居をやめ、消費者が欲しいと思う高級品をセレクトし展開すべきなのです。売上はたぶん6割になりますが、最終利益率では5%と現在の3倍になるでしょう。しかも現在の大型店舗は不必要になり、自前展開できる面積は既存の4割程度(しかも食料品が2割程度占有)で十分でしょう。余ったスペースは「人々が集まる場所」という前提に新型の宴会型では無いレストラン&バー型のホテルであったり、公共施設として保育所、幼稚園、床屋に医者&歯医者、靴の修理に高級洗濯&染み抜き&かけはぎなどの修理屋を売るばっかりだった反省を込めて、一生使えるモノを売るのですから導入することも必要でしょう。また、ヘアーサロンに床屋、ネールサロンに個人旅行専門サロン、金融アドバイザーなどが常駐したら面白いかもしれません。個人的にはシャンパンバーや3つ星料亭・レストランが月替わりで入ったら最高でしょう。マスを相手にする時代は終わり、少数の新富裕層をメインターゲットにライフスタイル全般を扱う店舗に生まれ変わるべきです。