シン・百貨店 第1章 第3項-3

新しい業態開発・ネットビジネスの在り方

百貨店では今、右を右を見ても左を見ても「ネット販売に力を入れている」という論説ばかりが耳に痛いです。しかし通販カタログをそのまま転載したような画面造りで、どこの百貨店でも大した売り上げは取れてはいません。ネット販売技術やソフト開発は日進日歩と言うべきレベルにもかかわらず、百貨店のネットビジネスは旧世代の考え方から脱却できず、時代の波に大きく後れてしまっています。

なにより、ネット販売の根本的に不可欠な、瞬時にできる在庫確認、選びやすいサイズ表記や素材表記に賞味期限、簡単な検索機能と返品機能、無料の送料などが百貨店のHPでは全くと言ってよいほどできていません。消費者からすれば今や当たり前の機能が全く備わっていないのです。

第一に商品在庫を持っておらず、売れた商品の消込は勿論、色・柄・サイズの検索する事すら儘ならないのです。メーカーから預かった、或いは買い取った在庫が切れてしまえば完璧な売り逃しになりますし、その前にメーカーのHPに消費者は移ってしまいます。返品も複雑な手続きが無ければできません。結果、百貨店のHPで売れる商材はギフト詰め合わせ位しか無いのは頷けます。

しかもネットというこの新しい技術をどう使えばよいのか、百貨店に知恵がありません。信じられない事にただ商品を掲載さえすれば売れると思っている人が経営層に未だに数多く居るという事実です。また現場では写真の撮り方や販売員のコーディネート提案、ブロガーによる商品推薦、といったレベルの販売策しか採られてはいません。本来その使用策を検討すべき宣伝部は全く出番がありませんし、システム部などは全く存在すらしていません。他業態から100年は遅れている所以です。新しい技術やソフトの導入など、考える余裕すらないのでしょう。

ネット販売が始まってから早や二十数年経ちますが、百貨店は積極的に研究・取り組むことはしてきませんでした。何故ならまだ海のものとも山のものとも判らない技術に投資をするという先見の明が無かったのです。というよりネット技術そのものを理解する経営層や、それを支えるシステム部の理解がなかったことが最大の敗因でしょう。いつの時代も最先端技術を逸早く取り入れた支配者や国が世界を制覇してきました。小売りの覇者であった百貨店は次の時代を生き残るためにも積極的にこの新しい技術を注視し、導入すべきでした。しかし残念ながら否定から入ったのです。役員会で説明しても単語一つ理解できず、「娘に聞いたが、君の言う事は可能性であって無理がある」という、役員会で決定すべき事項を専門家に確認するのではなく、娘に確認しただけで堂々と反対するといったことを筆者は経験しています。

百貨店がネット販売事業を行うには莫大な費用が掛かります。

まず、在庫確認が即時可能なためにメーカー在庫と連動しうる在庫ソフトを開発する必要が有ります。在庫の有無や色・サイズ・柄違いのある場所提示等を即座に消費者が把握できることが初歩の初歩です。売れた場合の在庫消込や、在庫のある店舗紹介、を可能にしなければなりません。商品売り切れの場合の速やかなHPからの削除も不可欠です。当然売上管理データソフトも必要です。まずは基本的在庫管理ソフト開発です。

次に、関連商品へ簡単に移動できるメタ付け機能です。写真だけのコーディネートではなく実際に選択した商材のコーディネートをセットして見せるサービスも今や不可欠です。購入途中にECサイトを離脱する率は90%あると言われていますが、購入途中でキャンセルした顧客にお得なクーポンなどを提供するポップアップ機能など販促に関する機能は導入を図り、新機能の追加は必須です。

現在では商品にメタデータを付与し、消費者の消費性向を分析し、消費者の嗜好に沿った商品を紹介する機能もあります。この機能ですと消費者が嫌いな、或いは感じているコンプレックスなども把握でき、それに該当する商品は紹介せず、本人すら気が付いていない嗜好商品を紹介することにより売り上げを高めることができる機能まで開発されています。

また、メタデータはメーカーにとって需要予測が可能になり、生産調整や売れると予想されるSKUだけ生産することにより、無駄な生産を抑えることができるなどとのメリットもあります。完全なるバイオーダーで、余計な在庫を抱える無駄も売れ残す不安も解決されます。

次に展開商品自体のデータを一元管理するソフトや商品自体の動画紹介化するソフトなども必要でしょう。更に掲載商品の売れ行きが悪ければ価格を変えることができるダイナミックプライシングなども一部業種では当たり前になっています。これらのソフト開発は自社向けオリジナル製作かありものかで大きく開発費は変わりますが、管理運営ソフトには同額の大きな費用が掛かります。システムが予定通りに動いているか否か監視し、不都合があればシステムを止めることなく自動的に修正できるソフト開発もいる事でしょう。

思いつくだけでもこれだけの機能が必要ですが、開発には百貨店1店舗分の費用が掛かります。商品調達・商品掲載・商品受注・商品在庫確認・配送・返品受付・再在庫などの流れをこなすには膨大な設備も必要になります。これらを分業で行うやり方も今では十分開発されており、クラウドを使った商品管理の流れは当たり前になっています。

先行した企業は上記の流れを大手のプラットフォーム企業を使って行っています。楽天、ZOZOなどです。これら企業は謂わばディベロッパーで自身では販売は行いません。その代わり来街した消費者の購買・非購買を問わず膨大な商品閲覧履歴を分析し、購買へ結びつくような有料アドバイスサービスを行っています。また、検索結果の先頭に自社商品が来るような有料サービスやランキング形式の推薦方式など様々な売り込みサービスも行っています。

食べログやヒトサラのように独立したショップ紹介サービスも商売として大きく成長しています。ネットに関する新しいビジネスはありとあらゆる方面や業種を超えて広がり、従来の単純な広告や販売補助を超えた業態が出現しています。これらをどう活用するか、或いは自社が必要としているサービスが何かあれば解決しうるソフトは必ず製作可能なのです。要は新しい技術をどう活用するかの知恵がまだまだ使用者側で遅れているのです。

百貨店がこれからネット時代を生き残るために、一販売業者として参画する以外にも方法はあります。それはネット上にプラットフォーム創設というディヴェロッパー化戦略です。自社オリジナル商材も造れない、テナント商品もなかなか集まらない、ギフト商品しか売れない、というのであればいっそ自らがディベロッパーの第三極となりネット事業に参画していくという考えです。これは次回詳しく説明していきます。

シン・百貨店 第1章 第3項-2

新しい業態開発・商品について

新しい業態にはMDの揃え方・見せ方・売り方に、ブティック型式に代わる新しい展開方法開発が前回重要だと提案しましたが、商品自体はどうでしょう。

百貨店が飽きられた原因の一つに商品自体があると思います。利益率の視点から衣料中心に偏った百貨店は、同時に自身での商品開発や商品展開すら止めメーカー任せにしてしまいました。結果、どの百貨店へ行っても入っているブランドは同じで、衣料から食品まで同質ブランド化が進み、看板を外したら何処の百貨店化見分けがつかないのが現状です。

加えて費用の視点から、集客策であった文化催しや美術催し、物産展などの催しはほとんど姿を消しました。其の為消費者はわざわざ高い電車賃を払ってまで来店する意味合いが無くなってしまったのです。百貨店に来なくても駅ビルやファッションビル、近所の大型専門店・GMSで全く不自由しないのです。ラグジュアリーブランドですら路面店の直営店の方が品揃えがよく、本当に買いに行くなら直営店の方が絶対有利なのです。

更にネット販売の登場です。買い物だけならネットが便利という事は幅広い年代層に支持されています。ネットでいつでも何処ででも買える商品を百型店の館に展開しても意味はないのです。しかも百貨店では全色・全サイズが展開されている訳でもなく、結局ネットで買う羽目になるのが落ちなのです。食料品もギフト品以外は近所で十分事足りてしまいます。何処ででも買える商品をわざわざ交通費と時間をかけて買いに行く消費者はシニア層ぐらいです。結果、入店客数は年々減少の一途を辿り、売り上げも同時に下げ止まらないのです。

しかも何処ででも買える商品を、メーカーから消化仕入れ(借りてきて売れたら仕入れる方法・販売員や商品在庫もメーカー責任)したのでは、メーカー側からしたら売れる店にしか商品は回さなくなります。しかもメーカーは在庫が残るほどの商品製造はせず、売れ残るより商品が足らない方を選びます。残したら利益は全部吹っ飛ぶのですから。

結果、百貨店はA社が駄目ならB社、と次から次へ取引先を変更し続け、気が付けば地元の誰も知らない、聞いたこともない個人商店が軒を連ねる羽目となり、消費者離れに拍車をかけているのです。それでも大量生産でない地産商品や新人の商品ならこれから有名になる可能性がありますが、ただ安いだけの素材も縫製も百貨店基準に満たない商品を売っているだけでは百貨店としての存在意義は最早無いといってよいでしょう。

この状況は大手チェーン店に見放された地方の百貨店に顕著です。衣料フロアーはサッカー場と化し広大な広場がさみしき残っています。食品もスカスカの冷蔵ケースが寂し気に長期賞味期限のある加工品のみが申し訳ばかり展開されっている状況です。郊外のGMSに勝てない百貨店の現状がそこに在ります。どの商材を取っても品質・アイテム・展開量で消費者に取り魅力が全く無いのです。かろうじて集客できるのは町中から総撤退した化粧品だけでしょう。

百貨店は館として集客する役目がありますが、ポイント付与位しか集客策を持ちません。宣伝費はポイント経費に転用されてしまっているからです。現在ではほとんど集客策は行っていないといって良いでしょう。しかしどんな宣伝を行っても現状では、消費者が商品自体に興味を持っていないものばかりでは、全く効果は期待できません。ですから宣伝無しでも口コミだけで消費者が来店できる仕掛けが不可欠になりますが、それは商品自体なのです。其の一番は「此処へ来なければ買えない」商品の存在です。

商品を販売するのを諦め、見るだけの店舗を誘致している百貨店があります。一時は評判になりましたが一過性で、結局簡単に返品できるシステムの方に軍配は上がっています。実際に目で確認するのは家具・大型家電・携帯電話・車ぐらいでしょう。それに何処にでも売っている、何処ででも買える定性商品だけです。

そこで百貨店はもう一度自主で商品探し、商品制作に乗り出す必要が有ります。メーカーから商品は入ってこないなどとは夢にも思わなかったことが現実なのですから、自分たちがもう一度汗をかく必要が有るのです。

かつて百貨店は差別化戦略としてPB商品を大量に造っていました。メーカーの売れ筋商品を自社ブランドにタグだけ変えて利益率を良くした商品を大量に仕入れたのです。しかし、他社との差別化戦略が主眼の為自社以外に販売することができず、大量に在庫として抱える羽目になったのです。それは衣料品を中心に食品や雑貨にまで及びました。しかし本当に自社のオリジナルを材料から造るのではなく、メーカーの製造能力の上に胡座をかいた商材だった為、メーカーは笑いが止まらない程儲かりましたが百貨店は各社とも億単位の在庫を抱え、その処分に大量の時間と費用を費やす羽目となった苦い経験が残っているのです。現在ほとんどPBブランドは残ってはいません。残っているものはメーカー製造品に自社名を冠しただけの商品がほとんどです。PBで成功したものと言えば高島屋のフォション、伊勢丹のアナ・スイぐらいでしょう。

今回のモノ創りは今までの差別化商品ではなく、未だに一部の消費者しか知らない本物志向の商品や、若手デザイナーや小規模工房などと組み、インキュベート機能としてオリジナルを一緒に造り込んだ商品を展開することです。そこには価格帯の規制ではなく素材やデザイン、機能を優先させた本物であることが求められます。百貨店が最後にかろうじて消費者に支持されている「本物」というキーワードが絶対的な価値になるべきです。

多様化した消費者が求める新しいモノとは、全てが大量生産により低価格で大量に販売されるものではなく(確かにユニクロの商品はこれに当たりますが)、自分のライフスタイルに合った拘りのある商品を求めています。「誰かと同じだから安心」という発想はとっくに無いのです。百貨店が提供すべき商品は、消費者のライフスタイルをより完全なモノにするため、材料・機能・使い勝手・デザインが本物であること、が前提になります。どれが欠けても意味がありません。そこには価格優先はありません。

社員が自らバイヤーとなり、商材を探し、自ら売り場展開し、自ら販売するのです。そのためには見せかけの商品知識ではなく、素材・縫製・製造技術・修理まで一貫して手掛けられ、売りっぱなしの現状ではなく、修理に修理を重ねてでも100年もつ商材を開発すべきなのです。食品も老舗や有名ブランドとのコラボは勿論、原産地の生産者と加工業者を加え、3社での新商品開発をも行うことも必要です。時間がかかる製品や限定量しか取れない・造れない商品を手掛けてこそ百貨店の信用が生きてくるのです。

新人デザイナーや地方で粛々と続けられてきた職人芸の発掘や、ご当地もので未だ知られていない美味い産品紹介など、或いは有名デザイナー(当然海外デザイナーも視野に)や人気のシェフなどとのコラボ商品、または老舗の旅館やホテルが綿々と手造りしてきたお土産商品を育成・再発見するだけで新しい商材をそれほどのリスク無く調達できるのです。

これだけのモノ造りをするにはそれ相当のコストが掛かり、当然上代は上がります。今までの「良くて安い」指向から「高いけれど本物」指向に変わらねばなりません。百貨店マンは高い商品は売れないとしり込みするでしょう。今まで自分たちで販売してこなかったからです。それに少量生産者をインキュベートする意味でも力を付けるまでは高く仕入れる必要が有ります。(上代は適正に)

消費者はただ価格だけで商品を選んでいるのではないことを百貨店は知るべきです。「1点もの、売り切りごめん、などご法度」と言われてきた事は最早過去の話だという価値観変化についていけなければバイヤー失格です。何しろ、「此処でしか買えない」商品群がMDとして構築されなければならないのです。売場全部が自社商品で埋め尽くされるという事はあり得ませんが、全く無いというほうが問題ではありませんか。

ここしばらくの間、「安くて良い商品」が消費のキーワードで消費者の間で当たり前になっていました。この消費はユニクロを始めとする超大型SPA商品が牽引していました。それに引きずられあらゆる大手企業が上代見直しを図り、価格の引き下げ競争に走りました。大量生産によるコスト削減や調達先を発展途上国に移し、安い材料・安い人件費を求めて海外に生産拠点を移していった結果です。其の為国内工場はあらゆる業界でなくなり、生産は海外が当たり前になっていました。

まさか円安=150円(2022.10.23現在)になるなどと経済界は夢にも思っていなかったことでしょう。この傾向は年内~来春までは続くでしょう。こうなると人件費や商品価格は後進国と逆転し、日本は物価が安く賃金も海外より安くなってしまった現実があります。政治は二流だが経済は一流と言われたのははるか昔のことで、政治は三流、経済四流というのが実情です。

これからは価格が優先するだけでなく、商品自体の正しい価値を消費者の方が見極める時代になるでしょう。安ければ売れる時代ではもはや無いのです。安くても消費者が欲しくないものは全く売れない時代なのです。決して高ければよいというのではなく(一部のラグジュアリーブランドがそうです。不当に値付けが高いだけで品質やデザインが追い付いていません)適正な価格で販売されることが、当たり前のことですが、今求められています。そして使い捨てと同時に永く使える商品も求められているのです。

今こそ、百貨店が営々と築いてきた信用を基に、日本中から、世界中から消費者の生活を豊かにする、ライフスタイルをエンジョイできる商品やコトを消費者に紹介すべきなのです。大量生産品の低価格に対抗する術を持たない百貨店は決して安売りに走らず、本当に良い素材・縫製・無添加・天然・旬・国産・職人技・などをベースに世界のデザイナーとコラボして今の時代に合った商品を提供すべきだと思います。どんなに最高の素材で最高のデザイナーに依頼しても100万円の「モンペ」は要らないのですから。

シン・百貨店 第1章 第3項ー1

新時代の新業態開発

百貨店再生には、大きく変化した消費者ニーズの把握の次に、マス対応業態の変革が成されなければなりません。一番のターゲット層であった中間層が大きく分裂し、多様化・多層化した消費者達はどの層にターゲットの狙いをつけても昔のような塊での集客は難しい時代です。年齢別・年収別・テイスト別などの旧来のマーケティング手法ではなお更消費者を捉えきれません。「誰にでも受ける」は「誰からも受けない」時代になったことを認識すべきです。前項で述べたようにITを活用した個別マーケティングによる個別対応業態に変革しなければなりません。

では具体的にどんな業態を目指すべきなのでしょう。

ネット時代の百貨店はネット販売と実店舗販売の2軸で小売りを続けていくしかありませんが、今までのような中間搾取的な消化仕入れによるブランドブティック展開や安易なテナント貸し化では難しいでしょう。現状各百貨店指向するディベロッパー化の動きは根本的な課題が多く、なかなか進捗していません。一つ目は社員整理の問題で、二つ目は郊外店対応の問題が残っているからです。更に三つ目の課題が深刻さを増しており、想像だにしなかった事態を招いているのです。

一つ目の問題は雇用している社員数が多すぎ、収支が合わないのです。二子玉川の東神開発は50人規模で2000億円の売上があるショッピングセンターを運営していますが、テナントで入っている玉川高島屋は500人からの社員・派遣社員を抱えながら500億円規模の売上です。どちらが儲かるかは一目瞭然です。大丸百貨店を始め、ディベロッパー指向の百貨店は早期退職で社員数を如何に早く削減するかが至上命題になっています。デベロッパーになったらバイヤーも販売員も要らないのですから。

二つ目は自社でMDを組んでメーカーや小売店を呼び入れようとしても、集客力の落ちた百貨店は魅力がなく入ってくれないのです。地方店はそれが顕著に表れ、大手ファッションメーカーが幅を利かせていたフロアーは退店されてしまいサッカー場と化しています。結果MDなど全く関係なく、売り場を埋めてさえくれれば超低額家賃でも売り上げ歩合でも何でも構わず入ってもらえればよいというのが現実です。ファションビル化しようとする動きは全国の百貨店で当たり前となり、血眼で入居者を探していますが願い叶わず、空いてるフロアーが日増しに増え続けているのが現状です。従来型の食品から衣料・雑貨・食堂に催事場といった旧来型の店舗では地域一番店を取れず、郊外の大型ショッピングセンターに対抗しえないのです。

三つ目のそれは大型で一等地で展開された銀座SIXでも抜けていく店舗が後を絶たず、隣接ブランドが破格の条件で店舗を広げて穴埋めしている状態が常態化していることです。日本橋高島屋新館も鳴り物入りで入れた一等地の入口正面のパン屋はとっくに撤退し、上層階は穴だらけです。要するに大型店舗では床面積を埋めきることが最早できていないのです。特に上層階では集客ができず、渋谷で東急グループが開発した各ビルも所謂有名ブランドはあまりなく、無名だけれど面白い店が入れ替わり立ち替わり床を埋めている状態で、常設のかっちりしたブティック形式で、坪150万円も掛けた内装のブランドなどお呼びでないのです。どんなグレードでも構わないというなら、家賃次第でいくらでもいるでしょうが、館のコンセプトを崩して雑居ビルにしたらそれこそビル全体の価値が下がり、1Fのラグジュアリーは退店してしまうでしょう。一等地の百貨店だけは大丈夫と思い込んでいたメーカーからの逆選別が大きなうねりとなっているのです。

オンワードもサンヨーもそこには1店舗もありません。何処にでも在るブランド、或いは一過性の流行に乗っただけのブランドは、業種を問わず長続きしていません。結局ラグジュアリーブランドか化粧品それと食品しか消費者に支持されてはいないのです。それは一等地の高額な家賃を払う事がラグジュアリーや化粧品などの高額で高利益率商品以外はなかなか難しいという現実があります。特に衣料は価格がこの10年で1/3~1/5に下がってしまいました。その割には製造コストは逆上昇しており、利益が出にくい商材になってしまっているのです。これもマス対象商品ゆえだからなのです。百貨店の旧来型MDでは集客はできないのです。

消化仕入れ形態というのは実に百貨店側とメーカー側の意見の一致を見た最高の仕入れ方法でした。売れなければ家賃相当が発生せず、売れれば売れた分だけの支払いでよいというのは、製造コストに在庫コスト、販売員人件費を負担する側からすると願ったりかなったりだったのです。製造コストが値札の10%以内に収まっていた時代はそれでよかったのですが、上代破壊のSPA型メーカーが勃興すると、それに対抗すべく他のメーカーも上代を下げざるを得なかったのです。結果利益率は大幅に悪化し、メーカーは売れない売場を倉庫代わりに維持していくことが困難になったのです。これには消費者ニーズの変化が大きな要因でもあったのです。大量生産・大量販売品に興味が無くなってきていたのです。

現状、百貨店で売り上げが望めるのもと言えばラグジュアリーブランドと化粧品、それに食品に九州・北海道・京都展などの物産展くらいです。どれも消化仕入れで利益率が低いものばかりですが、一定の集客は見込めます。現状の業態のまま進めば遠からず都心型百貨店は1Fがラグジュアリーブランドと化粧品、地下に食料品で上層階は事務所化・ホテル化・レジデンス化してしまい、同質化することは否めませんし、中途半端なディベロップメントしかできません。銀座東急の失敗がよい例でしょう。

ではどうすれば良いのでしょう?

オンワードの鈴木恒会長が面白い話をしていました。「地方百貨店でブランドショップを展開しても、人件費や在庫だけで月に数百万円かかりますが、売り上げは数十万円台しかなりません。結果、苦渋の決断で地方店舗を数百店舗閉め、代わりに4か月に一度撤退したブランド全部のPOPUP展開を1週間だけ展開したら、4か月分以上の売上が取れているのです。」

この話は示唆に富んだ話です。消費者はいつでも買えるものは、色もサイズも揃っているネット販売で買っており、4か月に一度慣れ親しんだ販売員に会いに来るのだという事実です。消費者は何を買う、何処で買う、誰から買うという時代を経てどうやって買うという時代に入っているのです。ネットと実店舗での買い方を明確に分けているのです。地方では未だ「誰から買う」が強いのかもしれませんが。

固定化された売り場=ブティックという概念が実は私達を縛り付けている根幹かも知れません。NYのバーニーズ等には固定化されたブティックというものがありません。壁が無いのです。それ故毎シーズン毎に売れそうなブランドは展開ラックを広げ数多くのSKUが展開されそうでないものは縮小されるか消滅してしまいます。1か月も展開された商品は通路にパイプで値下げ展開され、シーズン中にもかかわらずバーゲン化してしまい、値引き幅の少ない内に販売してしまおうとしています。それ故、上備のラックは常に新鮮な商品が投入され、売れ切れ御免が販売の基本となっています。日本とは全くMDサイクルも処分スタイルも違うのです。

これは買取がビジネスの基本であって、LVとエルメス以外の、卸売りをしているラグジュアリーブランドの全てが同じような展開をしています。日本はラグジュアリーのJAPAN社が強すぎて、絶対バーゲンをしません。値下げをするくらいなら捨てたほうが良いと豪語しているのです。最も最近はアウトレットで処分しており、プラダなどはアウトレット用にモノを作っているくらいに日本人をバカにしています。

従来の固定化された理念による百貨店の再生はほぼ不可能でしょう。よれより既成概念をすっきり捨てて新しいMD、揃え方・見せ方・売り方の再構築をすることが不可欠ではないでしょうか?それに環境もブティック形式ではなく新しい展開方法の研究がやはり必要です。1階何々売場、2階何々売場という展開ももはやあり得ません。消費者ニーズに合致したライフスタイル別提案フロアーにならなければ消費者の興味は引けないでしょう。常設売り場に対抗したPOPUP売場という発想も必要でしょう。それと若いデザイナーや売場がない製造者やメーカー直販売場などを定期的に入れ替えながら展開するやり方など、ありとあらゆる観点・視点から現状を見直すことがまず第一歩でしょう。

シン・百貨店 第1章 第2項

消費者ニーズ把握

百貨店凋落の最大要因の一つは消費者ニーズの把握を怠ったことです。時代と共に変化した消費者ニーズや趣味嗜好、それに伴うライフスタイル変化の把握とその対応策を見出せなかったことです。消費者ニーズの指向まで理解せず単に商品のみの良し悪しや流行だけを追いかけていただけで、時代に沿ったマーケティングを怠り、消費者ニーズ対応を誤ってしまったのです。

消費者ニーズの変化は単に消費者自身の問題ではなく社会環境が大きくかかわってきています。例えば、商品を製造するために発生する様々な課題があります。製造コストを抑えるための過酷な低賃金労働問題や児童就労問題。大量に使用される顔料や染料による汚染水問題。あるいは大量に破棄される食品。これらの環境問題や労働問題など自然や人にやさしくない商品に対する反省や抵抗が消費者の中で大きなウェイトを占め始めているのですが、食品ロス一つとっても百貨店は何も対応できていないのです。

モノが生活の中に溢れかえった成熟社会ではもはやモノ中心ではなくコトに関心が移り始めているにも関わらず、百貨店はモノしか提供していない現状があります。昔の方が顧客囲い込み戦略の一環として、コンサートや旅行倶楽部、料理や陶芸などの趣味の教室などを主宰し、顧客固定化を図っていましたが今では費用対効果的に不採算として止めてしまっています。時代への逆行です。

百貨店は消費を文化と捉え、消費者をリードしてきた経緯があるにもかかわらず、ある時点から消費者ニーズを捉えることを放棄してしまったのです。消費者ニーズが多様化・多層化したため、塊としての消費者層を把握することが難しくなってきたのは事実ですが、一番の原因は目先の売上に拘り、机上のターゲット層を拡大することで売り上げが取れると錯覚したことによります。更に自分で汗をかき品揃えから見せ方・売り方まで自社で行わず、安易に消化仕入れを拡大することにより効率を追求したことで他社との同質化を招き、消費者から飽きられたという認識を持たなかったことです。過度の効率化追求、売り上げ至上主義が進化を阻み、事なかれのサラリーマン化が拍車をかけたのです。

消化仕入れを拡大しディヴェロッパー化しつつある百貨店の最大の役目は集客ですが、その集客策も前年踏襲主義が蔓延り、商品催しではもはや消費者を集めることができるのは北海道・京都・九州などの物産展だけで、費用の掛かる文化催しはすっかり影を潜めてしまいました。百貨店しかできなかった品揃え、見せ方、売り方、イベントなどが今や何処でもできるレベルになってしまっているのです。高い運賃を払ってわざわざ店頭に足を運ぶ必要性が無くなってしまったのです。

その最大の要因はネット販売の登場であることは否めません。サラリーマン化した百貨店は新時代を切り開く大いなる変革の波にも乗り遅れ、先行する企業からノウハウ的にも、技術的にも、運用ノウハウ的にも100年程遅れてしまいました。ネット販売も目先のテクニック策に走り、ネットの本当の可能性に気付いている百貨店は残念ながら無いのが現実です。単なる販売ツールとしか見ておらず、その可能性の探求は外部任せで、改革するためのコストの大きさに怯んでいるのが現状です。

では百貨店の再生はもはやないのでしょうか?

いや、方法はあります。消費者ニーズをしっかりと捉え、そのニーズに対応しうる新業態に進化することで百貨店は生き残れるはずです。そのためには、消費者がコトでもモノでも今何を一番欲しているのかを把握することが第一歩になります。目先の流行を追うのではなく、消費者が望むライフスタイル指向を個々のレベルで捉え、対応することが不可欠になります。今までのマス分析では対応できません。此処で言う消費者ニーズの把握とは、単に商品のみの事ではなく、消費者が望む新しい商品の揃え方、見せ方、売り方の全部を指すのであり、ネット販売時代の新しい消費ニーズ対応策の考案と実施を行わねばなりません。

現代の消費者ニーズはどのようになっているのでしょう?

➀ マスから個へ変わった消費者ニーズ

百貨店はマス顧客対応で成長してきました。高度成長と共に旺盛な消費意欲を掻き立てる舶来品やブランド品を率先して消費者に提供してきたのです。それは商品を通して新しい生活提案そのものでした。百貨店は「本物志向と商品の確かさによる安心」を販売してきたのです。消費者は流行に後れることを気にし、「他人と同じ」であることを望み、百貨店は大量生産品を大量販売することで消費者ニーズに対応してきたのです。消費者は次から次へと新しいものを購入し続け、消費が文化となっていたのです。

しかし時代の変遷とともに消費者は変化していきました。他人と同じでなければ心配だった「流行の時代」から、他人と同じでは嫌だという「個性の時代」へ。そして自分が欲しいのはモノではなくは体験することへと変化していったのです。大衆から分衆へ、更には個へ。そして個はいろいろな顔を持つ多層化へと変化しマス消費の時代は終焉を迎えたのです。

しかし百貨店の消費者対応策は変わらず、目先のトレンド追及のみでライフスタイル提案まで売場で具現化することができず、結果、売り場はメーカー主導MDとなり、何処の百貨店へ行っても同じ顔ぶれの商品が並び、百貨店の個性は全く消えてしまう羽目となりました。消費者はどこでも同じ品揃えの百貨店から個性的な専門店や在庫のきちんと揃ったメーカー直営路面店へ移動してしまったのです。百貨店はここでしか買えないといった専門店等の競合業態に負けたのです。特にSPA型専門店には太刀打ちができなかったのです。

② ネット販売登場と百貨店の対応

そんな時代がしばらく続きそこへネット販売の登場です。革命的であり百貨店にとっては致命的でありましたが大企業の御多分に漏れず、最初は各社とも否定から入りました。「試着ができない」「手に取らないと素材感がわからない」「配送費用が掛かり消費者に負担が大きい」「シズル感がない」などと、自分が理解できないものは認めようとせず、口先だけは「ネットの時代」「ネットとリアルの融合」などと言っていましたが、技術的な理解が無かったために、その小売りを変える可能性や社会全体をも変えてしまう革命性及び技術の進化スピードなどは理解どころか意識の外にあったのです。

しかもネット販売の本質を見抜けませんでした。TVショッピングのPC版くらいとしか思っていませんでした。

それ故、興味本位の取り組みは早かったですが、本格的に取り組んだ百貨店は高島屋くらいでした。それでも取引先在庫の引き当て方法や決済方法、商品検索エンジン開発など取り組まねばならない課題があまりにも多すぎ、小さな規模での展開しかできなかったのです。そうしているうち後発や新興の楽天やゾゾタウンに追い抜かれ、今では100年ほど後れを取っています。

百貨店業界は消費者がこの新しい技術に飛びつくとは誰も想像だにしていなかったのです。大手は今までの小売業が根本から揺るがされるとは思わず、売り場を持たない・持てない弱小メーカーが細々と飛びつくだけと考えていたのです。しかし技術の進歩は想像以上に早く、機能は日進日歩で、利便性や可能性はあれよあれよをいう間に進み、企業より消費者の方が先に利用方法や可能性を追求し始めていったのです。

③ 早かった消費者の反応

消費者はこの機能に飛びつきました。お仕着せの消費に飽きていた若い層は特にこの利便性にいち早く気づきました。24時間、何処からでも買え、店頭に無い商品まで探せる機能は他人と違う、あるいは自分だけの趣味嗜好を満足させてくれる格好のツールだったのです。「欲しいものが欲しい時に欲しいだけ買える」というマーケティングの理想を実現させたのです。多様化し多層化した消費ニーズ対応にはまさにうってつけのツール登場でした。

この機能をどう使うか、どう活用するか、販売以外の広告ツールとしてどう使うか、など無限の可能性が広がり、企業PRやデータ収集、配送方法などに革命的な変化をももたらして今日に至っています。「この機能をどう使うか」といったアイデアが巨万の富を生み出す宝箱になっているのです。しかし百貨店は未だネットで得られる情報の貴重性に気付いてはいません。ネットの販売機能だけに気を取られ、検索機能や購買履歴から売られる膨大な個人データの価値に気が付いていないのです。

④ 個人マーケティングの幕開け

ネットで蓄積されるデータは無尽蔵といってよいくらいの膨大なデータが収集できます。このデータをもとにマスマーケティングから個人マーケティング=個人カスタマイズされた消費対応が可能になるのです。これにより百貨店は自社ネットHPに来店された消費者の詳細まで分析することができるようになり、自社の品揃えに生かすことができるのですが、自社売り場を放棄してしまった現在、消化仕入れやテナントで入っているメーカーや小売り企業にとって多大なメリットがあるはずです。百貨店はこのデータを分析し、各メーカーや小売企業にデータを販売することさえできるはずです。そうなればマス向けのざっくりしたマーケティングではなく明確な消費性向が把握でき、モノ創りや仕入れを効果的に行うことができるのです。「個マーケティング」の始まりです。

今日ではネットに限らず来店した消費者をAIカメラで分析し、その消費性向や購買予測迄可能になっているのです。データ分析と活用という従来の手法が、桁違いのデータ量と分析力の飛躍的向上により需要予測を可能としているのです。この力を利用しない手はありませんが、現在の百貨店にその発想は未だ全くありません。

⑤ ネット販売の真の脅威

ネット販売の最大の効能は、消費者と生産者を直接結び付けたことです。中間搾取業であった小売業はその存在意義を薄めていくことになるのです。代わりにネット上の新しいデベロッパーが大きく飛躍する時代が始まったのです。消費者はいつでも好きなものを探せ、一物他価で展開される商品を自由に選べ、てリアル店舗では販売されていない商品まで探すことができるようになったかと思えば、個人が要らなくなったものを個人自ら販売できるレベルにまで進化してしまったのです。中間搾取時代の終焉の始まりです。

のようにマスマーケティングから個マーケティングの時代に突入し、明治維新と同じような革命的状況下に小売り全体が置かれることになりました。しかし残念ながら百貨店は個対応もマーケティングも対応策も未だ持ち合わせてはいないのが現実です。

百貨店はまず、ネットの機能を理解し、消費者ニーズがどう変化しているのかといったマーケティング分析から始め、どう百貨店が利用したら良いかを研究しなければなりません。ビッグデータを活用した個別マーケティング手法を開発し、そのマーケティングから個別の消費者に合った商品の揃え方、見せ方、売り方を選別し、個別対応する時代になったという認識を持つべきなのです。

上記内容を実行するためにはまずメガデータ分析マーケティングを行う部署が必要になります。消費者ニーズを個人レベルで分析し、本人でさえ認識しきれていない自己の購買予測を立てられるレベルの分析によって、品揃え・見せ方・売り方迄変えることが可能になるのです。

貨店はこの消費者のメガデータ分析と活用とを早急に始めることが百貨店復活の第一歩になります。

シン・百貨店 第1章 第1項

百貨店の不調が止まりません。

新聞ではこの夏、百貨店は前年比二桁の伸びを取り戻したと発表され、株価も高値を付けています。しかし、残念ながら夏の復調は一過性の状況で、根本的な解決からは程遠いのが現実です。夏の売上回復はこの9月には急速に萎み、苦戦を強いられており、コロナ禍前の8割レベルにしか戻ってはいません。

「コロナ禍のせいで観光客が減ったことが売上減の最大要因なので、コロナ化が終焉すれば観光客が戻りまた爆買いで売り上げは急速回復する」と百貨店関係者はよく言いますが、本当にそうなのでしょうか?百貨店は観光客の爆買いに頼れば生き残れるのでしょうか?

コロナ禍前は中国人を始めとする観光客増加による爆買いが大きな売り上げ要素となり、どの百貨店もインバウンド客誘致に血道をあげていました。確かにその購買力は凄まじく爆買いは日本経済を動かしました。しかし、その恩恵を受けたのは大都市部の百貨店のみで、地方都市の百貨店は全くその恩恵を受けてはいませんでした。百貨店業界全体が受けたわけではないのです。

ですからコロナ禍で観光客が減り、爆買いがなくなったから百貨店が不調というのは必ずしも正しくはありません。爆買いが始まる前から百貨店の日本人消費者離れは著しく、売り上げはじり貧だったのです。その窮状を救ったのが天の恵みであった「爆買い」だったのです。それ故、根本的な売り上げ減少の原因分析とその対策は為されないまま、不振原因は「インバウンドの消滅」と一言で片付け、根本的な対策は何もしないまま全てをコロナ禍のせいにし、改革を怠り、雨乞いをするかのように爆買いの復活を祈るばかりでは復活は程遠いとしか言いようがありません。

このような理由で爆買いだけを待ち望んでいる百貨店に本当の復活があると考えるのは難しいでしょう。しかも観光客が戻っても従来のような爆買いが戻るという保証はどこにも無いのです。それより不調の原因を明確に把握し、確実にその対策を講ずることが今こそ必要な事なのです。もう一度日本人消費者のニーズを掴み、売り上げの主体を日本人に戻さない限り百貨店という業態は存続しえないのです。其の為には百貨店という業態を見直し、22世紀まで残りうる百貨店に進化させていかねばなりません。今の延長線上に未来は無いのです。

でもコロナ禍前、なぜ百貨店の存在意義が薄れ、消費者に支持されなくなってしまったのでしょうか?

ネット販売という新業態が売上を奪ったせいでしょうか?確かにこれは明治維新に匹敵する社会変革を、特に小売業にもたらしました。これまでも小売りの王者だった百貨店に対し、スーパーやGMSなどの強豪の出現があったり、専門大店は百貨店から取り扱いアイテムを多数奪っていったり、通販やTVショッピングは幅広い層の消費者に支持されており、各業態の売上高は未だに伸張し続けています。しかもネット販売はこれらの出現インパクトとは比較にならない程の影響力を持っています。これらの他の小売業態はコロナ禍でも売り上げを伸ばしたり、Ⅴ字回復したりしていますが百貨店だけが回復しないのです。それは一概にインバウンドのせいだとは言い切れません。インバウンドが始まる前からの凋落傾向だからです。

では何故百貨店の凋落は止まらないのでしょうか?

かつて百貨店の強みは、➀ワンストップショッピング ②新しいもの・トレンドのもの・ここでしか手に入らないものが揃っている ③ここで買えば安心、といったものがありました。しかし、消費者のニーズ多様化につれ、その買い方や買う場所・買い方に大きな変化が現れて百貨店の優位性は崩れていってしまいました。その最大の要因は消費ニーズに対応できなかったのではありません。しなかったからです。残念ながら長きに亘った王者の地位に慣れ親しみすぎ、自ら時代を感じ、動こうとはしなかったのです。汗をかこうとせず、安易な消化仕入れへ商売の軸足を移していったのです。※1

※1 筆者が百貨店へ入社した時代は、消化仕入れが10%を超えたら危険だと言われていました。現在では90数%が消化仕入れです。結果、取引先の売り場と化し、品揃えは取引先が売りたいモノ一辺倒になってしまい、どの百貨店へ行っても店頭にある商品は同一化してしまったのです。

現在の消費者はネット情報社会の進展につれ大きく変化しました。結果、百貨店でなければ手に入らない商品はもはやなく、何処ででも買える商品のみを扱っている業態では消費者を満足させ、集客させることは叶わないのです。

百貨店凋落の大きな要因は以下の3点が挙げられます。

➀ 消費者ニーズ変化に対応する遅れ   : 消費者の趣味嗜好・ライフスタイルの変化やSGDS・環境問題などへの未対応

② 業態の時代変化に対応する遅れ    : ネット時代の新しい店舗役割構築と消費者対応策(揃え方・見せ方・売り方)開発

③ AI技術が変える社会変化に対応への遅れ: AIを活用した新・marketing戦略構築と個人ニーズ対応

小売業は、時代毎に変化する消費者の価値観やライフスタイルに合わせて情報提供や商品提供することが必須のビジネスです。そのためのマーケティングを怠り、最新の情報データを収集・分析をせず、顧客ニーズを読まずに安易な前年踏襲の品揃え・商品展開方法・売り方では消費者が離れていくのは必然です。

ましてや、拙書(お客様、閉店です)でも書きましたが、多層化する消費者のニーズに対応するには新しい業態として百貨店を再構築することが不可欠です。その為には百貨店がかつての進取先取りの精神を取り戻し、時代の最先端の技術を活用して消費者ニーズに対応するのみならず、消費喚起を誘えるような新しい小売業を創業するべきなのです。

次回から百貨店が生まれ変わる策を提案したいと思います。