シン・百貨店 第1章 第3項ー1
新時代の新業態開発
百貨店再生には、大きく変化した消費者ニーズの把握の次に、マス対応業態の変革が成されなければなりません。一番のターゲット層であった中間層が大きく分裂し、多様化・多層化した消費者達はどの層にターゲットの狙いをつけても昔のような塊での集客は難しい時代です。年齢別・年収別・テイスト別などの旧来のマーケティング手法ではなお更消費者を捉えきれません。「誰にでも受ける」は「誰からも受けない」時代になったことを認識すべきです。前項で述べたようにITを活用した個別マーケティングによる個別対応業態に変革しなければなりません。
では具体的にどんな業態を目指すべきなのでしょう。
ネット時代の百貨店はネット販売と実店舗販売の2軸で小売りを続けていくしかありませんが、今までのような中間搾取的な消化仕入れによるブランドブティック展開や安易なテナント貸し化では難しいでしょう。現状各百貨店指向するディベロッパー化の動きは根本的な課題が多く、なかなか進捗していません。一つ目は社員整理の問題で、二つ目は郊外店対応の問題が残っているからです。更に三つ目の課題が深刻さを増しており、想像だにしなかった事態を招いているのです。
一つ目の問題は雇用している社員数が多すぎ、収支が合わないのです。二子玉川の東神開発は50人規模で2000億円の売上があるショッピングセンターを運営していますが、テナントで入っている玉川高島屋は500人からの社員・派遣社員を抱えながら500億円規模の売上です。どちらが儲かるかは一目瞭然です。大丸百貨店を始め、ディベロッパー指向の百貨店は早期退職で社員数を如何に早く削減するかが至上命題になっています。デベロッパーになったらバイヤーも販売員も要らないのですから。
二つ目は自社でMDを組んでメーカーや小売店を呼び入れようとしても、集客力の落ちた百貨店は魅力がなく入ってくれないのです。地方店はそれが顕著に表れ、大手ファッションメーカーが幅を利かせていたフロアーは退店されてしまいサッカー場と化しています。結果MDなど全く関係なく、売り場を埋めてさえくれれば超低額家賃でも売り上げ歩合でも何でも構わず入ってもらえればよいというのが現実です。ファションビル化しようとする動きは全国の百貨店で当たり前となり、血眼で入居者を探していますが願い叶わず、空いてるフロアーが日増しに増え続けているのが現状です。従来型の食品から衣料・雑貨・食堂に催事場といった旧来型の店舗では地域一番店を取れず、郊外の大型ショッピングセンターに対抗しえないのです。
三つ目のそれは大型で一等地で展開された銀座SIXでも抜けていく店舗が後を絶たず、隣接ブランドが破格の条件で店舗を広げて穴埋めしている状態が常態化していることです。日本橋高島屋新館も鳴り物入りで入れた一等地の入口正面のパン屋はとっくに撤退し、上層階は穴だらけです。要するに大型店舗では床面積を埋めきることが最早できていないのです。特に上層階では集客ができず、渋谷で東急グループが開発した各ビルも所謂有名ブランドはあまりなく、無名だけれど面白い店が入れ替わり立ち替わり床を埋めている状態で、常設のかっちりしたブティック形式で、坪150万円も掛けた内装のブランドなどお呼びでないのです。どんなグレードでも構わないというなら、家賃次第でいくらでもいるでしょうが、館のコンセプトを崩して雑居ビルにしたらそれこそビル全体の価値が下がり、1Fのラグジュアリーは退店してしまうでしょう。一等地の百貨店だけは大丈夫と思い込んでいたメーカーからの逆選別が大きなうねりとなっているのです。
オンワードもサンヨーもそこには1店舗もありません。何処にでも在るブランド、或いは一過性の流行に乗っただけのブランドは、業種を問わず長続きしていません。結局ラグジュアリーブランドか化粧品それと食品しか消費者に支持されてはいないのです。それは一等地の高額な家賃を払う事がラグジュアリーや化粧品などの高額で高利益率商品以外はなかなか難しいという現実があります。特に衣料は価格がこの10年で1/3~1/5に下がってしまいました。その割には製造コストは逆上昇しており、利益が出にくい商材になってしまっているのです。これもマス対象商品ゆえだからなのです。百貨店の旧来型MDでは集客はできないのです。
消化仕入れ形態というのは実に百貨店側とメーカー側の意見の一致を見た最高の仕入れ方法でした。売れなければ家賃相当が発生せず、売れれば売れた分だけの支払いでよいというのは、製造コストに在庫コスト、販売員人件費を負担する側からすると願ったりかなったりだったのです。製造コストが値札の10%以内に収まっていた時代はそれでよかったのですが、上代破壊のSPA型メーカーが勃興すると、それに対抗すべく他のメーカーも上代を下げざるを得なかったのです。結果利益率は大幅に悪化し、メーカーは売れない売場を倉庫代わりに維持していくことが困難になったのです。これには消費者ニーズの変化が大きな要因でもあったのです。大量生産・大量販売品に興味が無くなってきていたのです。
現状、百貨店で売り上げが望めるのもと言えばラグジュアリーブランドと化粧品、それに食品に九州・北海道・京都展などの物産展くらいです。どれも消化仕入れで利益率が低いものばかりですが、一定の集客は見込めます。現状の業態のまま進めば遠からず都心型百貨店は1Fがラグジュアリーブランドと化粧品、地下に食料品で上層階は事務所化・ホテル化・レジデンス化してしまい、同質化することは否めませんし、中途半端なディベロップメントしかできません。銀座東急の失敗がよい例でしょう。
ではどうすれば良いのでしょう?
オンワードの鈴木恒会長が面白い話をしていました。「地方百貨店でブランドショップを展開しても、人件費や在庫だけで月に数百万円かかりますが、売り上げは数十万円台しかなりません。結果、苦渋の決断で地方店舗を数百店舗閉め、代わりに4か月に一度撤退したブランド全部のPOPUP展開を1週間だけ展開したら、4か月分以上の売上が取れているのです。」
この話は示唆に富んだ話です。消費者はいつでも買えるものは、色もサイズも揃っているネット販売で買っており、4か月に一度慣れ親しんだ販売員に会いに来るのだという事実です。消費者は何を買う、何処で買う、誰から買うという時代を経てどうやって買うという時代に入っているのです。ネットと実店舗での買い方を明確に分けているのです。地方では未だ「誰から買う」が強いのかもしれませんが。
固定化された売り場=ブティックという概念が実は私達を縛り付けている根幹かも知れません。NYのバーニーズ等には固定化されたブティックというものがありません。壁が無いのです。それ故毎シーズン毎に売れそうなブランドは展開ラックを広げ数多くのSKUが展開されそうでないものは縮小されるか消滅してしまいます。1か月も展開された商品は通路にパイプで値下げ展開され、シーズン中にもかかわらずバーゲン化してしまい、値引き幅の少ない内に販売してしまおうとしています。それ故、上備のラックは常に新鮮な商品が投入され、売れ切れ御免が販売の基本となっています。日本とは全くMDサイクルも処分スタイルも違うのです。
これは買取がビジネスの基本であって、LVとエルメス以外の、卸売りをしているラグジュアリーブランドの全てが同じような展開をしています。日本はラグジュアリーのJAPAN社が強すぎて、絶対バーゲンをしません。値下げをするくらいなら捨てたほうが良いと豪語しているのです。最も最近はアウトレットで処分しており、プラダなどはアウトレット用にモノを作っているくらいに日本人をバカにしています。
従来の固定化された理念による百貨店の再生はほぼ不可能でしょう。よれより既成概念をすっきり捨てて新しいMD、揃え方・見せ方・売り方の再構築をすることが不可欠ではないでしょうか?それに環境もブティック形式ではなく新しい展開方法の研究がやはり必要です。1階何々売場、2階何々売場という展開ももはやあり得ません。消費者ニーズに合致したライフスタイル別提案フロアーにならなければ消費者の興味は引けないでしょう。常設売り場に対抗したPOPUP売場という発想も必要でしょう。それと若いデザイナーや売場がない製造者やメーカー直販売場などを定期的に入れ替えながら展開するやり方など、ありとあらゆる観点・視点から現状を見直すことがまず第一歩でしょう。