シン・百貨店 第1章 第3項-3

新しい業態開発・ネットビジネスの在り方

百貨店では今、右を右を見ても左を見ても「ネット販売に力を入れている」という論説ばかりが耳に痛いです。しかし通販カタログをそのまま転載したような画面造りで、どこの百貨店でも大した売り上げは取れてはいません。ネット販売技術やソフト開発は日進日歩と言うべきレベルにもかかわらず、百貨店のネットビジネスは旧世代の考え方から脱却できず、時代の波に大きく後れてしまっています。

なにより、ネット販売の根本的に不可欠な、瞬時にできる在庫確認、選びやすいサイズ表記や素材表記に賞味期限、簡単な検索機能と返品機能、無料の送料などが百貨店のHPでは全くと言ってよいほどできていません。消費者からすれば今や当たり前の機能が全く備わっていないのです。

第一に商品在庫を持っておらず、売れた商品の消込は勿論、色・柄・サイズの検索する事すら儘ならないのです。メーカーから預かった、或いは買い取った在庫が切れてしまえば完璧な売り逃しになりますし、その前にメーカーのHPに消費者は移ってしまいます。返品も複雑な手続きが無ければできません。結果、百貨店のHPで売れる商材はギフト詰め合わせ位しか無いのは頷けます。

しかもネットというこの新しい技術をどう使えばよいのか、百貨店に知恵がありません。信じられない事にただ商品を掲載さえすれば売れると思っている人が経営層に未だに数多く居るという事実です。また現場では写真の撮り方や販売員のコーディネート提案、ブロガーによる商品推薦、といったレベルの販売策しか採られてはいません。本来その使用策を検討すべき宣伝部は全く出番がありませんし、システム部などは全く存在すらしていません。他業態から100年は遅れている所以です。新しい技術やソフトの導入など、考える余裕すらないのでしょう。

ネット販売が始まってから早や二十数年経ちますが、百貨店は積極的に研究・取り組むことはしてきませんでした。何故ならまだ海のものとも山のものとも判らない技術に投資をするという先見の明が無かったのです。というよりネット技術そのものを理解する経営層や、それを支えるシステム部の理解がなかったことが最大の敗因でしょう。いつの時代も最先端技術を逸早く取り入れた支配者や国が世界を制覇してきました。小売りの覇者であった百貨店は次の時代を生き残るためにも積極的にこの新しい技術を注視し、導入すべきでした。しかし残念ながら否定から入ったのです。役員会で説明しても単語一つ理解できず、「娘に聞いたが、君の言う事は可能性であって無理がある」という、役員会で決定すべき事項を専門家に確認するのではなく、娘に確認しただけで堂々と反対するといったことを筆者は経験しています。

百貨店がネット販売事業を行うには莫大な費用が掛かります。

まず、在庫確認が即時可能なためにメーカー在庫と連動しうる在庫ソフトを開発する必要が有ります。在庫の有無や色・サイズ・柄違いのある場所提示等を即座に消費者が把握できることが初歩の初歩です。売れた場合の在庫消込や、在庫のある店舗紹介、を可能にしなければなりません。商品売り切れの場合の速やかなHPからの削除も不可欠です。当然売上管理データソフトも必要です。まずは基本的在庫管理ソフト開発です。

次に、関連商品へ簡単に移動できるメタ付け機能です。写真だけのコーディネートではなく実際に選択した商材のコーディネートをセットして見せるサービスも今や不可欠です。購入途中にECサイトを離脱する率は90%あると言われていますが、購入途中でキャンセルした顧客にお得なクーポンなどを提供するポップアップ機能など販促に関する機能は導入を図り、新機能の追加は必須です。

現在では商品にメタデータを付与し、消費者の消費性向を分析し、消費者の嗜好に沿った商品を紹介する機能もあります。この機能ですと消費者が嫌いな、或いは感じているコンプレックスなども把握でき、それに該当する商品は紹介せず、本人すら気が付いていない嗜好商品を紹介することにより売り上げを高めることができる機能まで開発されています。

また、メタデータはメーカーにとって需要予測が可能になり、生産調整や売れると予想されるSKUだけ生産することにより、無駄な生産を抑えることができるなどとのメリットもあります。完全なるバイオーダーで、余計な在庫を抱える無駄も売れ残す不安も解決されます。

次に展開商品自体のデータを一元管理するソフトや商品自体の動画紹介化するソフトなども必要でしょう。更に掲載商品の売れ行きが悪ければ価格を変えることができるダイナミックプライシングなども一部業種では当たり前になっています。これらのソフト開発は自社向けオリジナル製作かありものかで大きく開発費は変わりますが、管理運営ソフトには同額の大きな費用が掛かります。システムが予定通りに動いているか否か監視し、不都合があればシステムを止めることなく自動的に修正できるソフト開発もいる事でしょう。

思いつくだけでもこれだけの機能が必要ですが、開発には百貨店1店舗分の費用が掛かります。商品調達・商品掲載・商品受注・商品在庫確認・配送・返品受付・再在庫などの流れをこなすには膨大な設備も必要になります。これらを分業で行うやり方も今では十分開発されており、クラウドを使った商品管理の流れは当たり前になっています。

先行した企業は上記の流れを大手のプラットフォーム企業を使って行っています。楽天、ZOZOなどです。これら企業は謂わばディベロッパーで自身では販売は行いません。その代わり来街した消費者の購買・非購買を問わず膨大な商品閲覧履歴を分析し、購買へ結びつくような有料アドバイスサービスを行っています。また、検索結果の先頭に自社商品が来るような有料サービスやランキング形式の推薦方式など様々な売り込みサービスも行っています。

食べログやヒトサラのように独立したショップ紹介サービスも商売として大きく成長しています。ネットに関する新しいビジネスはありとあらゆる方面や業種を超えて広がり、従来の単純な広告や販売補助を超えた業態が出現しています。これらをどう活用するか、或いは自社が必要としているサービスが何かあれば解決しうるソフトは必ず製作可能なのです。要は新しい技術をどう活用するかの知恵がまだまだ使用者側で遅れているのです。

百貨店がこれからネット時代を生き残るために、一販売業者として参画する以外にも方法はあります。それはネット上にプラットフォーム創設というディヴェロッパー化戦略です。自社オリジナル商材も造れない、テナント商品もなかなか集まらない、ギフト商品しか売れない、というのであればいっそ自らがディベロッパーの第三極となりネット事業に参画していくという考えです。これは次回詳しく説明していきます。

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