シン・百貨店 第1章 第3項-2
新しい業態開発・商品について
新しい業態にはMDの揃え方・見せ方・売り方に、ブティック型式に代わる新しい展開方法開発が前回重要だと提案しましたが、商品自体はどうでしょう。
百貨店が飽きられた原因の一つに商品自体があると思います。利益率の視点から衣料中心に偏った百貨店は、同時に自身での商品開発や商品展開すら止めメーカー任せにしてしまいました。結果、どの百貨店へ行っても入っているブランドは同じで、衣料から食品まで同質ブランド化が進み、看板を外したら何処の百貨店化見分けがつかないのが現状です。
加えて費用の視点から、集客策であった文化催しや美術催し、物産展などの催しはほとんど姿を消しました。其の為消費者はわざわざ高い電車賃を払ってまで来店する意味合いが無くなってしまったのです。百貨店に来なくても駅ビルやファッションビル、近所の大型専門店・GMSで全く不自由しないのです。ラグジュアリーブランドですら路面店の直営店の方が品揃えがよく、本当に買いに行くなら直営店の方が絶対有利なのです。
更にネット販売の登場です。買い物だけならネットが便利という事は幅広い年代層に支持されています。ネットでいつでも何処ででも買える商品を百型店の館に展開しても意味はないのです。しかも百貨店では全色・全サイズが展開されている訳でもなく、結局ネットで買う羽目になるのが落ちなのです。食料品もギフト品以外は近所で十分事足りてしまいます。何処ででも買える商品をわざわざ交通費と時間をかけて買いに行く消費者はシニア層ぐらいです。結果、入店客数は年々減少の一途を辿り、売り上げも同時に下げ止まらないのです。
しかも何処ででも買える商品を、メーカーから消化仕入れ(借りてきて売れたら仕入れる方法・販売員や商品在庫もメーカー責任)したのでは、メーカー側からしたら売れる店にしか商品は回さなくなります。しかもメーカーは在庫が残るほどの商品製造はせず、売れ残るより商品が足らない方を選びます。残したら利益は全部吹っ飛ぶのですから。
結果、百貨店はA社が駄目ならB社、と次から次へ取引先を変更し続け、気が付けば地元の誰も知らない、聞いたこともない個人商店が軒を連ねる羽目となり、消費者離れに拍車をかけているのです。それでも大量生産でない地産商品や新人の商品ならこれから有名になる可能性がありますが、ただ安いだけの素材も縫製も百貨店基準に満たない商品を売っているだけでは百貨店としての存在意義は最早無いといってよいでしょう。
この状況は大手チェーン店に見放された地方の百貨店に顕著です。衣料フロアーはサッカー場と化し広大な広場がさみしき残っています。食品もスカスカの冷蔵ケースが寂し気に長期賞味期限のある加工品のみが申し訳ばかり展開されっている状況です。郊外のGMSに勝てない百貨店の現状がそこに在ります。どの商材を取っても品質・アイテム・展開量で消費者に取り魅力が全く無いのです。かろうじて集客できるのは町中から総撤退した化粧品だけでしょう。
百貨店は館として集客する役目がありますが、ポイント付与位しか集客策を持ちません。宣伝費はポイント経費に転用されてしまっているからです。現在ではほとんど集客策は行っていないといって良いでしょう。しかしどんな宣伝を行っても現状では、消費者が商品自体に興味を持っていないものばかりでは、全く効果は期待できません。ですから宣伝無しでも口コミだけで消費者が来店できる仕掛けが不可欠になりますが、それは商品自体なのです。其の一番は「此処へ来なければ買えない」商品の存在です。
商品を販売するのを諦め、見るだけの店舗を誘致している百貨店があります。一時は評判になりましたが一過性で、結局簡単に返品できるシステムの方に軍配は上がっています。実際に目で確認するのは家具・大型家電・携帯電話・車ぐらいでしょう。それに何処にでも売っている、何処ででも買える定性商品だけです。
そこで百貨店はもう一度自主で商品探し、商品制作に乗り出す必要が有ります。メーカーから商品は入ってこないなどとは夢にも思わなかったことが現実なのですから、自分たちがもう一度汗をかく必要が有るのです。
かつて百貨店は差別化戦略としてPB商品を大量に造っていました。メーカーの売れ筋商品を自社ブランドにタグだけ変えて利益率を良くした商品を大量に仕入れたのです。しかし、他社との差別化戦略が主眼の為自社以外に販売することができず、大量に在庫として抱える羽目になったのです。それは衣料品を中心に食品や雑貨にまで及びました。しかし本当に自社のオリジナルを材料から造るのではなく、メーカーの製造能力の上に胡座をかいた商材だった為、メーカーは笑いが止まらない程儲かりましたが百貨店は各社とも億単位の在庫を抱え、その処分に大量の時間と費用を費やす羽目となった苦い経験が残っているのです。現在ほとんどPBブランドは残ってはいません。残っているものはメーカー製造品に自社名を冠しただけの商品がほとんどです。PBで成功したものと言えば高島屋のフォション、伊勢丹のアナ・スイぐらいでしょう。
今回のモノ創りは今までの差別化商品ではなく、未だに一部の消費者しか知らない本物志向の商品や、若手デザイナーや小規模工房などと組み、インキュベート機能としてオリジナルを一緒に造り込んだ商品を展開することです。そこには価格帯の規制ではなく素材やデザイン、機能を優先させた本物であることが求められます。百貨店が最後にかろうじて消費者に支持されている「本物」というキーワードが絶対的な価値になるべきです。
多様化した消費者が求める新しいモノとは、全てが大量生産により低価格で大量に販売されるものではなく(確かにユニクロの商品はこれに当たりますが)、自分のライフスタイルに合った拘りのある商品を求めています。「誰かと同じだから安心」という発想はとっくに無いのです。百貨店が提供すべき商品は、消費者のライフスタイルをより完全なモノにするため、材料・機能・使い勝手・デザインが本物であること、が前提になります。どれが欠けても意味がありません。そこには価格優先はありません。
社員が自らバイヤーとなり、商材を探し、自ら売り場展開し、自ら販売するのです。そのためには見せかけの商品知識ではなく、素材・縫製・製造技術・修理まで一貫して手掛けられ、売りっぱなしの現状ではなく、修理に修理を重ねてでも100年もつ商材を開発すべきなのです。食品も老舗や有名ブランドとのコラボは勿論、原産地の生産者と加工業者を加え、3社での新商品開発をも行うことも必要です。時間がかかる製品や限定量しか取れない・造れない商品を手掛けてこそ百貨店の信用が生きてくるのです。
新人デザイナーや地方で粛々と続けられてきた職人芸の発掘や、ご当地もので未だ知られていない美味い産品紹介など、或いは有名デザイナー(当然海外デザイナーも視野に)や人気のシェフなどとのコラボ商品、または老舗の旅館やホテルが綿々と手造りしてきたお土産商品を育成・再発見するだけで新しい商材をそれほどのリスク無く調達できるのです。
これだけのモノ造りをするにはそれ相当のコストが掛かり、当然上代は上がります。今までの「良くて安い」指向から「高いけれど本物」指向に変わらねばなりません。百貨店マンは高い商品は売れないとしり込みするでしょう。今まで自分たちで販売してこなかったからです。それに少量生産者をインキュベートする意味でも力を付けるまでは高く仕入れる必要が有ります。(上代は適正に)
消費者はただ価格だけで商品を選んでいるのではないことを百貨店は知るべきです。「1点もの、売り切りごめん、などご法度」と言われてきた事は最早過去の話だという価値観変化についていけなければバイヤー失格です。何しろ、「此処でしか買えない」商品群がMDとして構築されなければならないのです。売場全部が自社商品で埋め尽くされるという事はあり得ませんが、全く無いというほうが問題ではありませんか。
ここしばらくの間、「安くて良い商品」が消費のキーワードで消費者の間で当たり前になっていました。この消費はユニクロを始めとする超大型SPA商品が牽引していました。それに引きずられあらゆる大手企業が上代見直しを図り、価格の引き下げ競争に走りました。大量生産によるコスト削減や調達先を発展途上国に移し、安い材料・安い人件費を求めて海外に生産拠点を移していった結果です。其の為国内工場はあらゆる業界でなくなり、生産は海外が当たり前になっていました。
まさか円安=150円(2022.10.23現在)になるなどと経済界は夢にも思っていなかったことでしょう。この傾向は年内~来春までは続くでしょう。こうなると人件費や商品価格は後進国と逆転し、日本は物価が安く賃金も海外より安くなってしまった現実があります。政治は二流だが経済は一流と言われたのははるか昔のことで、政治は三流、経済四流というのが実情です。
これからは価格が優先するだけでなく、商品自体の正しい価値を消費者の方が見極める時代になるでしょう。安ければ売れる時代ではもはや無いのです。安くても消費者が欲しくないものは全く売れない時代なのです。決して高ければよいというのではなく(一部のラグジュアリーブランドがそうです。不当に値付けが高いだけで品質やデザインが追い付いていません)適正な価格で販売されることが、当たり前のことですが、今求められています。そして使い捨てと同時に永く使える商品も求められているのです。
今こそ、百貨店が営々と築いてきた信用を基に、日本中から、世界中から消費者の生活を豊かにする、ライフスタイルをエンジョイできる商品やコトを消費者に紹介すべきなのです。大量生産品の低価格に対抗する術を持たない百貨店は決して安売りに走らず、本当に良い素材・縫製・無添加・天然・旬・国産・職人技・などをベースに世界のデザイナーとコラボして今の時代に合った商品を提供すべきだと思います。どんなに最高の素材で最高のデザイナーに依頼しても100万円の「モンペ」は要らないのですから。