シン・百貨店 第1章 第1項

百貨店の不調が止まりません。

新聞ではこの夏、百貨店は前年比二桁の伸びを取り戻したと発表され、株価も高値を付けています。しかし、残念ながら夏の復調は一過性の状況で、根本的な解決からは程遠いのが現実です。夏の売上回復はこの9月には急速に萎み、苦戦を強いられており、コロナ禍前の8割レベルにしか戻ってはいません。

「コロナ禍のせいで観光客が減ったことが売上減の最大要因なので、コロナ化が終焉すれば観光客が戻りまた爆買いで売り上げは急速回復する」と百貨店関係者はよく言いますが、本当にそうなのでしょうか?百貨店は観光客の爆買いに頼れば生き残れるのでしょうか?

コロナ禍前は中国人を始めとする観光客増加による爆買いが大きな売り上げ要素となり、どの百貨店もインバウンド客誘致に血道をあげていました。確かにその購買力は凄まじく爆買いは日本経済を動かしました。しかし、その恩恵を受けたのは大都市部の百貨店のみで、地方都市の百貨店は全くその恩恵を受けてはいませんでした。百貨店業界全体が受けたわけではないのです。

ですからコロナ禍で観光客が減り、爆買いがなくなったから百貨店が不調というのは必ずしも正しくはありません。爆買いが始まる前から百貨店の日本人消費者離れは著しく、売り上げはじり貧だったのです。その窮状を救ったのが天の恵みであった「爆買い」だったのです。それ故、根本的な売り上げ減少の原因分析とその対策は為されないまま、不振原因は「インバウンドの消滅」と一言で片付け、根本的な対策は何もしないまま全てをコロナ禍のせいにし、改革を怠り、雨乞いをするかのように爆買いの復活を祈るばかりでは復活は程遠いとしか言いようがありません。

このような理由で爆買いだけを待ち望んでいる百貨店に本当の復活があると考えるのは難しいでしょう。しかも観光客が戻っても従来のような爆買いが戻るという保証はどこにも無いのです。それより不調の原因を明確に把握し、確実にその対策を講ずることが今こそ必要な事なのです。もう一度日本人消費者のニーズを掴み、売り上げの主体を日本人に戻さない限り百貨店という業態は存続しえないのです。其の為には百貨店という業態を見直し、22世紀まで残りうる百貨店に進化させていかねばなりません。今の延長線上に未来は無いのです。

でもコロナ禍前、なぜ百貨店の存在意義が薄れ、消費者に支持されなくなってしまったのでしょうか?

ネット販売という新業態が売上を奪ったせいでしょうか?確かにこれは明治維新に匹敵する社会変革を、特に小売業にもたらしました。これまでも小売りの王者だった百貨店に対し、スーパーやGMSなどの強豪の出現があったり、専門大店は百貨店から取り扱いアイテムを多数奪っていったり、通販やTVショッピングは幅広い層の消費者に支持されており、各業態の売上高は未だに伸張し続けています。しかもネット販売はこれらの出現インパクトとは比較にならない程の影響力を持っています。これらの他の小売業態はコロナ禍でも売り上げを伸ばしたり、Ⅴ字回復したりしていますが百貨店だけが回復しないのです。それは一概にインバウンドのせいだとは言い切れません。インバウンドが始まる前からの凋落傾向だからです。

では何故百貨店の凋落は止まらないのでしょうか?

かつて百貨店の強みは、➀ワンストップショッピング ②新しいもの・トレンドのもの・ここでしか手に入らないものが揃っている ③ここで買えば安心、といったものがありました。しかし、消費者のニーズ多様化につれ、その買い方や買う場所・買い方に大きな変化が現れて百貨店の優位性は崩れていってしまいました。その最大の要因は消費ニーズに対応できなかったのではありません。しなかったからです。残念ながら長きに亘った王者の地位に慣れ親しみすぎ、自ら時代を感じ、動こうとはしなかったのです。汗をかこうとせず、安易な消化仕入れへ商売の軸足を移していったのです。※1

※1 筆者が百貨店へ入社した時代は、消化仕入れが10%を超えたら危険だと言われていました。現在では90数%が消化仕入れです。結果、取引先の売り場と化し、品揃えは取引先が売りたいモノ一辺倒になってしまい、どの百貨店へ行っても店頭にある商品は同一化してしまったのです。

現在の消費者はネット情報社会の進展につれ大きく変化しました。結果、百貨店でなければ手に入らない商品はもはやなく、何処ででも買える商品のみを扱っている業態では消費者を満足させ、集客させることは叶わないのです。

百貨店凋落の大きな要因は以下の3点が挙げられます。

➀ 消費者ニーズ変化に対応する遅れ   : 消費者の趣味嗜好・ライフスタイルの変化やSGDS・環境問題などへの未対応

② 業態の時代変化に対応する遅れ    : ネット時代の新しい店舗役割構築と消費者対応策(揃え方・見せ方・売り方)開発

③ AI技術が変える社会変化に対応への遅れ: AIを活用した新・marketing戦略構築と個人ニーズ対応

小売業は、時代毎に変化する消費者の価値観やライフスタイルに合わせて情報提供や商品提供することが必須のビジネスです。そのためのマーケティングを怠り、最新の情報データを収集・分析をせず、顧客ニーズを読まずに安易な前年踏襲の品揃え・商品展開方法・売り方では消費者が離れていくのは必然です。

ましてや、拙書(お客様、閉店です)でも書きましたが、多層化する消費者のニーズに対応するには新しい業態として百貨店を再構築することが不可欠です。その為には百貨店がかつての進取先取りの精神を取り戻し、時代の最先端の技術を活用して消費者ニーズに対応するのみならず、消費喚起を誘えるような新しい小売業を創業するべきなのです。

次回から百貨店が生まれ変わる策を提案したいと思います。

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