コロナ禍後の世界№6-2

コロナ禍後の百貨店はどう立て直していけばよいのでしょう?

コロナ禍が終焉しても一般消費者の購買は今まで以上にネットに移って行くでしょう。コロナ禍下で百貨店の主顧客層であった中年層はネットの利便性を充分知り、そのショッピングの楽しみ方も広く理解されたからです。

また、メーカーは百貨店に店舗を構えても百貨店自体の集客力が激減し集客できない現状下で、従来型店舗=15坪・販売員5名・商品在庫2000万円・売上200万円/月では全くの赤字になっています。そしてコロナ禍を口実に、従来ではとてもできなかった百貨店内不採算店舗(数百店舗~千数百店舗)の整理を一挙にこの2年間で断行してきました。 その結果、百貨店の実店舗ではフロアー丸々空いてしまったり、虫食い状態は当たり前の状況で、さらに客足が百貨店から遠のく要因になっています。特に地方の消費者は相次ぐ百貨店の破綻や商業施設の閉鎖で買いに行く場所を失い、必要に迫られネット販売に頼らざるを得ない状況下に置かれたことも大きな要因です。

百貨店では、大手メーカーがどんどん不採算店や不採算ブランドを整理してしまい一流がだめなら一流半、それでもだめなら二流でも売り場が埋まればよいとばかり、無節操に条件さえよければどんどん取引先を取り換え、結果MDは魅力を低下し続けてしまい、結果消費者が離れていく悪循環に入りつつあります。食品のみが集客と売上をかろうじて守っていますが、集客の低下を理由に他移転をチラつかされ、百貨店の利益率はどんどん下げられています。

また少しでも売り場から利益を出そうと場所貸し化=賃貸化も試していますが、華々しくデビューした超一等地の銀座SIXでさえ高い賃料に見合わず撤退するブランドが後を絶ちません。場所貸し化が成功するはずの都心の一等地ですらこの有様ですから、地方のシャッター通りに位置する百貨店ではなおさら立ち行くはずがありません。

こんな状況下なので、ネット販売へのシフトとか強化とか掛け声ばかりが威勢良く聞こえてきますが、その実態は通販事業カタログをデジタル化したくらいのレベルで、賞味期限の長い食品ギフトを展開するレベルか、取引先HPへリンクを張るぐらいが関の山です。伊勢丹が300数十億円かけて仮想空間へ出店をしましたがゲーマー向けでとてもショッピングの実用性はまだまだです。

メーカーも同様で、ネットを理解している役員があまりにも少なく、いても従来のシステム管理担当で新しいネット販売戦略やソフトの活用までは全く手つかずの状況です。大手のソフト会社は法外な料金でここぞとばかり同じシステムをあちらこちらに売りまくっており、百貨店やメーカーはいい餌食になっています。

そして百貨店もメーカーも戦略的なネット販売を構築する前にバラバラと開発してしまった顧客システムや商品管理システム、在庫管理システムなどの一本化に四苦八苦状態で、とてもネット先行のファストファッション各社には追いつくどころか、新しいシステム導入を進め、実店舗との連動を済ませたユニクロやZARAの背中すら見えないのが現実です。ましてや需要予測による生産体制構築や顧客の検索記録から消費ニーズを予測するレコメンド機能、在庫移動管理など次世代ソフトの活用策はユニクロより100年遅れているのが現状です。

百貨店はネットの有効性や可能性に本当に気付いているのでしょうか?

ネット販売を行うためのシステム構築や受注システムに連動した在庫管理、配送管理など相当額の投資が必要になるのです。販売の仕組みを作る上で重要なことの一つに在庫をメーカー管理か、さもなくば百貨店管理か、というのがあります。メーカーは自社HPで販売できれば利益率が良くなるので売れ筋商品を百貨店在庫にはしたくないのです。百貨店はそれを防ぐためと売れてから商品移動をしていては消費者に届くまで時間がかかりすぎるので在庫を自社管理下にしたいのです。このような現実を前に経営層はネットの全貌を理解しておらず、システム担当は膨大な費用の申請に尻込みし、雀の涙ほどの予算でできることのみをせっせと行い、結果継ぎはぎだらけで運用しにくく且つ新しいニーズには対応できない無用の長物だけが残る羽目になるのです。

それより重要なのは百貨店がネット時代の実店舗とネット販売の両方をどうしていきたいのか、という戦略が全く組まれておらず、ただ対処療法的に「売上を増やす」目先の戦術に無駄な資金と時間を投資しているだけという点です。本来なら「消費者はこれからどういう購入スタイルを採るのか」「自社の実店舗とネット販売の強みと弱みはなにか」といったマーケティングの大原則すら行われていなかったり、理解していなかったり、戦うための準備が全くできていません。まずは新時代消費に向けて、現在の新しい技術やノウハウを理解し、自社の顧客が何を望んでいるかを確実に把握し、そしてはじめてその対応策を戦略レベル・戦術レベルに落とし、タイムテーブルを組み実現させていくことが不可欠になってくるのです。

現在の百貨店最大の課題は実店舗でもネットでも「集客」です。

1億円の指輪を買い求めるお客様から3足1,000円の靴下を買いに来るお客様まであらゆる階層のあらゆるニーズに対応すべく今までMDを構成してきました。その中でもちょっと高級、大衆向けなどの差はありましたが、概して中産階級といわれた大多数のお客様のニーズ対応を主眼としてきました。

そして常に時代の人気ブランドやアイテムなどの商品を提供してきましたが、消費者のライフスタイルの多様化や社会環境の変化で消費に対するニーズや傾向は時代の変化とともに大きく変わりました。消費のチャンネルが多様化し、小売りの業種業態も増え、購入手段が画期的に選べる時代に、3足1000円の靴下をわざわざ買いに来る消費者は最早いなくなったのです。良いものが安くなったからといって百貨店の期末バーゲン目当てに来る時代は既に終わっているのです。 同時にあらゆる顧客に満足を提供する時代も既に終わっているのです。

私は前から「消費者ニーズの多層化」を話しています。※1   消費者は高級品なブランド品も買えば安価なユニクロも買うといういくつかの顔を持っているのです。ですから、従来のマーケティングの富裕層だとか一般層だとかの収入分けや、カジュアルだのエレガンスだのテイスト分けの売り場展開も消費者は気に入らないのです。ましてや年齢分けなどは消費者を愚弄している以外の何物でもありません。

それよりは、消費者のライフスタイルや趣味嗜好にあった商品を提供するべきなのです。全身シャネルも全身ユニクロもダサいと知っていて、自分なりのファッションを楽しんでいるのです。自分よりファッションセンスの良い友達やプロの販売員の言うことは神の言葉のように盲信しますが、昨日まで大根を売っていて今日は衣料に派遣されてきたなどというノンプロの言葉など鼻にも引掛けないのです。

百貨店に消費者を呼び戻すためには、今一度百貨店のMDを見直すことです。ターゲットを見直すことです。

次回はそのMDについて話をしたいと思います。

※1拙書 「お客様、閉店です」繊研新聞社刊

新しい時代の小売り業№3

サラリーマン化した、変化を嫌う社会   ( 続き)

今回のIT革命がもたらす意味と意義と可能性を理解し、自社に活用しようとした企業は大規模企業になればなるほど少ないような気がします。その最大の原因は日本の経営層に在ります。

IT技術の革命的進歩は単なる作業の効率化だけではなく、まさにSDGsを実現させる為の有力な手段そのものであり、働き方の改革による人々の幸せの追及や、地球環境への負荷削減、価値観の多様化への許容性拡大、など社会の在り方を大きく変える力を持っており、人々は「今まさに社会は変わらなくてはならない」と認識しています。LGBTQに対する意識やモノ寄りからコトよりなど人々の意識はコロナ禍前から少しづつ変わってきていました。しかし、既存企業の経営層は残念ながら変わってきているとは言えないのが現状です。

今迄我が国は経済一流、政治は三流と言われてきました。世界第二の経済大国へ成長し、日本の生産品は世界を席巻していたからです。それに比べ政治は腐敗しきった与党に無能な野党が万年青年のごとく青臭いカビの生えた教条主義とわいろで成り立っていたからです。現在我が国の製品で世界を席巻しているものは漫画とゲームしかありません。それすら中国や新興国のユニコーン企業には直ぐにも抜かれそうです。

日本の成長はひとえに国民の勤勉性や有能な官僚組織に支えられてきたものです。しかし今回のIT革命の進捗スピードはそれらの能力を遥に超えているのです。従来の延長線上の改革レベルでは到底世界の変化スピードに付いてゆけず、新しい技術を開発・運用するにはあまりにも過去の栄光に縋った前年踏襲主義で、所謂サラリーマン化した社会では到底改革スピードは周回遅れ以上の差が世界とできてしまっているのです。

日本の経営層がIT革命の本質を理解していないのは戦後の完全なガラパゴス的進化を是とし、今更革命的変化などに興味を持たず前年踏襲主義が最良とばかりに官僚はもちろん経済界全体を席巻しているからです。国境や時間の概念を根本から変えてしまったITの無限の可能性に気付けば今日のような対応で満足しているはずが在りません。

口先だけのDXではなく、急速に変化したマーケット状況や消費者ニーズ、ITを活用した全く新しい物流体制に生産技術、従来のマス対応ではなく完全な個対応の時代に自社がどうするべきか経営層が勉強すべきなのです。しかし経営層は未知のノウハウや今迄の経験が生かせないことに対しては否定から入ります。新技術をシステム部が提案してもITの何たるかすら理解していない経営層は、会議で「娘に聞いたが君が言っていることは未来はそうなるということで現在では無い」などと平気で言うのです。そして部下の意見を封じることで自身の存在意義が示されたと悦に入るのです。

まず経営層は日本型の年功序列型社会の総合職として経験を積んだだけで、専門分野を持たず、英語も喋れず、ましてや近年経営層で一番重要な要素と言われている「規範的判断力」不足に陥っている人が大部分であります。長年米国経済界が提唱した「企業は株主の為に存在する」という悪しき資本主義の「金儲け」しか見えない=「株主資本主義」の奴隷でしかないのです。

その米国経済界が株主資本主義からの決別を宣言し、「ステークホルダー資本主義」=従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営主義に取り組むと高らかに新時代の消費者のニーズを読んだ声明を日本の財界は全く無視したのでした。結果、世界は大きく環境問題を初めとするSDGsへ大きく舵をきったにも関わらず、我が国の経済界は口先だけのSDGsやDXを、その中身が何かも理解していないにもかかわらず騒いでいるのが現実です。

独逸では経営層の45%が、米国では62%が専門分野での博士号やMBAを取得しており、世界に目を向け日々自社の自社の存在意義と使命を考えています。日本ではたった6%しか専門領域に知識をもった経営層は存在していません。「お客様第一主義」を掲げる企業は多いですがほとんどが嘘です。どうやって顧客満足を得るかなど真剣に健闘している企業を私は知りません。

全ての日本衰退原因は企業の問題意識と情報収集の意識の差に表れているのです。それは企業のトップ達が如何に時代の変化を読めていないかによります。60代、70代が企業を引っ張っていける時代では無いのです。明治維新は20代、30代の若者達が時代を敏感に感じ取り、大局的に国の在り方を考えた結果成しえたものです。今回の技術革新はまさに令和維新と言えるレベルの変革を行わなければ生き残れないのです。その認識が果たしてどれだけの人々が持っているでしょうか。

今日、大手企業は急速に業績を回復し未曽有の利益を生んでいます。経団連としては何にもしなくても良かった、と胸をなで下ろしていることでしょう。しかし、パンデミックによる世界的規模の経済破綻が今後無いとは言えません。パンデミック以外でもIT機器普及による世界的規模でのハッキングテロやサイバーテロが世界経済にダメージを与える可能性は大きいものが在ります。それ以上に第3次世界大戦はサイバー戦争で、ロシアや北朝鮮はすでに実戦状態に入っていると言えます。自社のネット防衛は十分ですか?もはや企業のトップは他人任せにしては自社を守ることはできません。

Coup d’etat CLUB | クーデタークラブ

http://www.coupdetat.jp/

百貨店復権への道 第8回

過日、流石創造集団の黒崎社長と元伊勢丹社長の大西さんと3人で、コロナ禍後について話し合う機会がありました。その会話の中で黒崎さんから、『最近のコロナ後の話は全てどうやって以前の状態に戻すかという視点ばかりで、この禍をきっかけにどう新しい社会の仕組みや会社の在り方、働き方、取引先との在り方など進化させる議論の方向性になっていない』という話がありました。特に『百貨店は生産者と消費者の間に在り、中間搾取しているだけだから機能が便利なネットに顧客を奪われるのは当然』とも仰有っていました。正にそのとおりで、今回販売先が休業で売り先に困っている取引先に対し、何ら救済の手を差し伸べてはいません。取引先A社が潰れたらB社にすれば良いとばかり、何ら対策は取っていないのが現状です。ネットしか販売チャンネルが無くなると、我先にネットに雪崩れ込み、同じメーカーの商品があちらこちらで販売されています。当然取引先も自社でネット販売しているので、百貨店に利益を払ってまで競合するネット販売に売れ筋在庫を廻す筈もなく、百貨店が販売するネット商品は年々その売上を下げるのは誰が見ても明らかです。また、大西さんはこの話を受け、『コロナ禍前はモノが売れず、此からはコトよりだと言われ続けましたが、やはり売り方や役割の変革と同時にモノをもう一度見直す必要が有るのでは?』と言う提案がありました。こちらもごもっともで百貨店が扱うモノ自体を、そのグレードや品質、独占レベルなどあらゆる角度から再検討されるべきで、売れない商品をどんなに提案しても売れないのはモノ自体に問題があるからです。次回からはモノの観点から百貨店再生への道をさぐります。

百貨店復権への道 第4回

百貨店がネット販売に勝つためには、百貨店でしか販売していないオリジナルPB商品をメーカーと協力して開発する必要があることを前回お話ししましたが、それだけでは根本的な解決にはなりません。何が足らないのでしょう?

ネットの優位性とは時間と空間を超越してモノを買えるという事と何処にでも配送してもらえることにあります。更に定価ではなく安価であったり、販売終了品、ばら売り、ヴィンテージと更には絶版や絶品まであらゆる商品があらゆる販売形態で売られていることです。百貨店がネットに対抗できていないのはまさにこの「利便性」と「多様性」なのです。百貨店は24時間店舗を開けておくことはできませんし、限られた売場面積では展開できる商品の色・サイズ・型は限られてしまいます。在庫の取り寄せに至っては数日かかってしまい、共通在庫を持つネットの比ではありません。試着の問題についてもネットでは販売側が返品okを謳っているため、複数サイズを取り寄せ合わないものは簡単に返せるというサービスの前に百貨店は全く歯が立ちません。かような状況下では何処でも売っており何処でも買えるもので勝負しても意味がありませんが前回述べたようなPB商品だけではSKUで勝負にならず、売り場が作れません。売り場の全商品をネットで買えるようにするなどは根本的対策になるはずもなく、投資するだけ全くの無駄でしょう。

それ故、「モノを売る」だけでは無いリアルでなければ得られない消費者ニーズに対応することが重要です。そのニーズの最大のものは「サービス」です。現在の百貨店の基本接客である対面販売のレベルはまったく消費ニーズに対応できていません。商品知らず、コーディネート知らず、トレンド知らずの販売員は入金マシン化しており、消費者からみれば邪魔な存在以外の何物でもありません。消費者はモノの薀蓄・今年のトレンド・今年流のコーディネート・カラーリング・などの情報を欲しがっているのです。百貨店はどんなサービスをどんな形で新たに提供できるかを真剣に検討すべきです。そのためには徹底した顧客ニーズ調査を行うべきです。従来の既成概念に凝り固まった発想では意味がありません。優秀な販売員を確保するためには、ただ居るだけで収入になる時給制度ではなく、売上連動制の導入は待ったなしです。同時に販売員に徹底した商品情報・製品情報をはじめ、トレンドやコーディネート教育は直ぐにでも行われるべきですが、人事部は教育を放棄して久しく、誰がどのように販売員教育を行うか大きな問題です。よく外部の航空会社にお辞儀の訓練を依頼している企業がありますが、時代遅れです。消費者が望むサービスは「情報」だからです。

NY事情2019冬

米国の景気は悪くないと言われてましたが、確かにNYには例年以上のおのぼりさんが多く驚きました。それ以上に驚いたのはSAKSでもバーグドルフでも高額品の衣料を買っているスペイン語を喋る人々の多さです。かつて、バーグドルフやSAKSのラグジュアリー衣料でヒスパニックの人を見かける事なぞ無かったので大変驚きました。中国人と韓国人も多いです。中国人は家族連れ、韓国人は若いカップルかグループが圧倒的です。ラグジュアリーショップは両国に占領されたかのようですが、年末に中国でトラブったD&Gはがらがらでした。

どこまで拡がる、アリババ❗

11月11日、中国で始まった「独身の日」のネット販売が止まりません。今年は何と3兆5千億の売上で、楽天1年分の売上より多いそうです。この成功要因は3つあります。一つ目は、小規模小売り業者が販売場所としてネットに集中したこと。二つ目は

物流が未発達の中国で、ネット販売業が独自に流通網を重視し、囲いこんできたこと。三つ目は贋札が氾濫していた国内で、ネット決済は信用度が現金より高く、便利だったこと、があげられます。

しかし、本当の理由はアリババが周政府と手を結び、政府のネット戦略の一翼を担っているからです。

来年度もこの勢いは止まらないでしょう。

価値観の変化

   戦後70数年いろいろな小売業態が出現し人々の消費生活向上・改善に役立ってきました。百貨店は品揃革命を、スーパーは価格革命を起こし、ネットは時間・空間革命を起こしたと言われています。これらの業態は時代の消費者が望むモノを的確に捉え提供した結果、消費者から大きな支持を得て業容を大きく伸ばしてきたのです。この中でネットは現在単なる「小売り」の枠を大きく超え、社会自体を変える『力』を発揮し始めています。圧倒的情報量の中から欲しい情報を、PCや携帯電話のみならずあらゆる端末機器から接続でき、何処からでも即座に獲得できる検索機能は消費者が「何処ででも、いつでも、そして誰からでも、好きな価格で欲しいものが簡単に世界中から探せて買える」ので、消費者は争ってモノを買うという必要性が無くなったのです。更にはモノを持つことによる他人への優越感や、満足感が次第に薄れ、物質的満足から精神的満足感へニーズが大きく変化し、結果人々はモノを急いで買う=所持しなくても良くなり、更にはモノを『買う』のではなく『リース』であったり『シェアー』であったり、必要な時にだけあれば十分と考え始めたのです。

そして人々の興味はモノではなく「健康」「地球にやさしい」「自然との共生」「知識や体験への興味」へと大きく変わっていったのです。断捨離やサステナビリティ、オーガニックなどへの興味へと加速度的に進化していきました。そして従来の他人への優越感を得るためのファッションや、車といった小道具は売れなくなっていったのです。ネットは「価値観の変化」を消費者にもたらしたのです。

ネットは単に消費者の価値観を変えただけではありませんでした。IT化の流れは止まる事を知らず、新しい技術は日進日歩で進んでいます。無人のコンビニやスーパーの出現、車の自動運転に無人機による即日配送、全ての機械が繋がる「IOT」は何処まで消費者の生活に影響するか想像すらできません。従来の生活全般におけるあらゆる「システム」や「取り決め」が無意味になりつつあるのです。かつての技術革新は蒸気機関の発明から飛行機に自動車、果ては洗濯機やTVなど大きく人々の生活を大きく改革してきましたが、ネットによりどこまで生活が変わるのか、社会の仕組みが変わるのか、誰も予想が付いていないのです。

ネットを支えるITの進化は消費者の生活を変えると共に、全く新しいビジネスも創造しています。古いビジネスモデルでは到底IT時代に生き残ることはできません。新しいビジネスは今まで存在しなかったモノがビジネスの種になるからです。例えば消費者がモノを購入するデータはマーケティングに利用されるくらいでデータ自体が売買の対象になるとは考えにくいものがありました。データを集積分析するには分析因子が多すぎて分析を終えた頃にはデータが古くなり、一般論でしか無くなり、特定企業の個別マーケティングの制度としてはあまり高いものではありませんでした。しかし、分析速度や大量のデータ分析が可能になると、個人の購買履歴を集めたデータは、購入したあるいは購入しなかった消費者自身のデータと紐付けされ、「ビッグデータ」として新しいビジネスチャンスを生み出します。この圧倒的量のデータ集積・分析・予測が各々ビジネスとなり、そこで予測された「消費者の好み」に対して商品PRが従来のモノと比較にならない精度で可能となれば、モノ製造もロスの削減やら時間短縮で利益の大幅増が見込め、効率よく販売が可能になります。それも店頭販売では無く個人々の消費者に直接販促が掛けられ購買率は飛躍的に高まると期待されています。

こうしたネットの動きに対し現在の小売業は「自分達とは関係ない」と無理やり思い込もうとしています。「リアル店舗とネットは違う」と、それはあたかも未知のものに対して全面的に「あり得ない」と全面否定する無知そのものであります。「直接的に小売業に関係してこないはずで、小売りの業態が増えただけ」などまるで既存企業には無縁なことと耳を塞いでいるに過ぎないのです。そして中国アリババが「独身の日」と称して11月11日に2兆円もの売り上げをネットで稼ぐという話題にのみに注意を払い、「うちもネットで1千億売りたいなあ」とため息をつきながら、ネット時代の商売の仕組みを研究することなく、ブランドのAが良いだのBが良いだのアナログのカタログを電子化しただけの今や旧石器時代の石小野にも等しい武器でネット売上を取れると思っているのです。そしてネットに対する研究開発費にはせいぜい数億円しか投資せず、所詮値引きでしかないポイント経費に莫大な資金を垂れ流し続けているのです。

ネットが社会を変えていく根本には、人類がかつて経験した事が無い未曽有の技術革新があります。コンピューターの進歩は人々の想像を超えた次元を迎えています。単なる計算速度が速くなるだけの時代から自ら考え自ら進化していくレベルへと昇華しているのです。それに伴い、人類はこの機能をどう使うか、どの様に活用するかが大きく問われているのです。人々が思いも付かないような使い方が開発・発明されればそこには無尽蔵の経済効果が生まれてくるのです。商売の仕組みが構築されればその企業は地球規模で独占できるのです。単に商品を右から左に手渡しするだけの企業ではもはや絶滅危惧種と言われてもしかたのない事です。

 

 

 

 

 

 

 

無印良品成長の秘密

無印良品の金井会長と会食時に、『最近のMUJIの衣料は良くない!』と述べたら『何処がどう良くないですか?』と食い下がられたので、幾つか説明したらじっと耳を傾けられ、じっと聞き入っていました。後日、詳しく話を聞かせて欲しい、と連絡がきたので本日行って参りましたら驚きました。金井さんだけかと思っていたら、20名の衣料部隊が勢揃いでした。『外部の生の意見を聞く機会がないので』と言われ、忌憚の無い意見を1時間余り話して参りました。その後、金井会長は皆で『今のお話をどう捉え、どう活用すべきか』とブレストに入られました。自社の悪口を言っている本人を迎えて、社員に話をを聞かせ、「他人は、消費者はこう見ている。だからMUJIはどうするべきか」とすぐに、ブレストに入りました。今、小売が忘れてしまった、『謙虚』『即行動』が此処には在りました。机上ではなく、皆と徹底したブレスト、上司の率先、羨ましいとどうしたらにMUJIの強さの源を見たと思いました❗流石、MUJI、! ますますMUJIが好きに成りました!

今、考えるべき事

伊丹十三監督の「スーパーの女」をTVで見ました。1996年制作の、近所に大手スーパーが進出した事により苦戦する町のスーパーが、利益のみを追求する大手に対して、『お客様』がスーパーに『何を望んでいるのか』を徹底的に追求した結果、大手に打ち勝つというストーリーです。この中で主人公が『お客様がスーパーに望んでいるのは新鮮で安い事』と言い切るシーンがあります。正にお客様のニーズを言い当てている言葉です。続けて『これができずに高い肉や魚を一番良い場所に置くのは見栄だけ❗』とも言うのです。この言葉を聞いて、今苦戦している小売業全てに当てはまる事だと思いました。百貨店の存在意義は?メーカーが造るべき物は?目の前のお客様が自社に対して何を望んでいるのか今こそ真剣に考え直す時期が来たのです。苦戦している理由は正に此処にあると思います。

中国の百貨店事情 第二回

中国の小売業は現状どうなっているでしょう。百貨店は日本と違い、所謂ディベロッパー業態です。場所を貸しているだけで自主売場は持ちません。メーカーが直接借りる場合もありますが、大抵は代理商と呼ばれる販売専門会社がメーカーから商品を買い取り、場所を自ら借りて販売するのが一般的です。代理商は正規価格の2~3倍の上代を付け、そこから20%off30%offと下げていくやり方です。ですから隣同士の百貨店でも同一商品が違う価格で販売されていることは日常茶飯事なのです。一物多価は当たり前です。消費者は口コミで情報を得て(新聞は無いし、有っても読みません)一番安い店舗で買うのです。ですから百貨店内では至るところで年がら年中バーゲンをやっている状況になります。百貨店は家賃収入なので一切関知せずです。しっかり日本型で管理ができているのは上海にある杭州大厦と北京の新光天地位です。

大多数の地元百貨店はMDは全く無く、雑多な店舗が無秩序に並んでいるだけで、家賃を多く払える企業(個人商店も多くあります)が一階を占めるのです。故に一等地には金ショップが多く占めています。最近ではパン屋もブームなので1楷に在ることが多いです。その為、売場区画は細かく区切られ、まるで東京御徒町にあるアメ横にいるようです。

中国の小売業全体に言える事ですが、消費者は圧倒的に若手で、50代から上は全く相手にしていません。これは50代から上は収入が極端に少なく、政府の恩給や年金額が、急成長した実態経済とリンクしていないからです。その為、年よりは購買対象から全く外されてしまっています。若い層は共稼ぎが原則で、基本収入以外に必ずアルバイトをしており、結構な収入を得ています。月給二人分で35万~40万で1~2億円のマンションを平気でローンを組み、ブランド物を買うのです。この層をあらゆる小売業が狙い、競争は激化しています。特にネットの隆盛は目を見張るばかりで若い層は仕事中でもネットに夢中です。結果、中国の百貨店は一年中バーゲン競争下に在ることになったのです。

上海 杭州大厦