価値観の変化
戦後70数年いろいろな小売業態が出現し人々の消費生活向上・改善に役立ってきました。百貨店は品揃革命を、スーパーは価格革命を起こし、ネットは時間・空間革命を起こしたと言われています。これらの業態は時代の消費者が望むモノを的確に捉え提供した結果、消費者から大きな支持を得て業容を大きく伸ばしてきたのです。この中でネットは現在単なる「小売り」の枠を大きく超え、社会自体を変える『力』を発揮し始めています。圧倒的情報量の中から欲しい情報を、PCや携帯電話のみならずあらゆる端末機器から接続でき、何処からでも即座に獲得できる検索機能は消費者が「何処ででも、いつでも、そして誰からでも、好きな価格で欲しいものが簡単に世界中から探せて買える」ので、消費者は争ってモノを買うという必要性が無くなったのです。更にはモノを持つことによる他人への優越感や、満足感が次第に薄れ、物質的満足から精神的満足感へニーズが大きく変化し、結果人々はモノを急いで買う=所持しなくても良くなり、更にはモノを『買う』のではなく『リース』であったり『シェアー』であったり、必要な時にだけあれば十分と考え始めたのです。
そして人々の興味はモノではなく「健康」「地球にやさしい」「自然との共生」「知識や体験への興味」へと大きく変わっていったのです。断捨離やサステナビリティ、オーガニックなどへの興味へと加速度的に進化していきました。そして従来の他人への優越感を得るためのファッションや、車といった小道具は売れなくなっていったのです。ネットは「価値観の変化」を消費者にもたらしたのです。
ネットは単に消費者の価値観を変えただけではありませんでした。IT化の流れは止まる事を知らず、新しい技術は日進日歩で進んでいます。無人のコンビニやスーパーの出現、車の自動運転に無人機による即日配送、全ての機械が繋がる「IOT」は何処まで消費者の生活に影響するか想像すらできません。従来の生活全般におけるあらゆる「システム」や「取り決め」が無意味になりつつあるのです。かつての技術革新は蒸気機関の発明から飛行機に自動車、果ては洗濯機やTVなど大きく人々の生活を大きく改革してきましたが、ネットによりどこまで生活が変わるのか、社会の仕組みが変わるのか、誰も予想が付いていないのです。
ネットを支えるITの進化は消費者の生活を変えると共に、全く新しいビジネスも創造しています。古いビジネスモデルでは到底IT時代に生き残ることはできません。新しいビジネスは今まで存在しなかったモノがビジネスの種になるからです。例えば消費者がモノを購入するデータはマーケティングに利用されるくらいでデータ自体が売買の対象になるとは考えにくいものがありました。データを集積分析するには分析因子が多すぎて分析を終えた頃にはデータが古くなり、一般論でしか無くなり、特定企業の個別マーケティングの制度としてはあまり高いものではありませんでした。しかし、分析速度や大量のデータ分析が可能になると、個人の購買履歴を集めたデータは、購入したあるいは購入しなかった消費者自身のデータと紐付けされ、「ビッグデータ」として新しいビジネスチャンスを生み出します。この圧倒的量のデータ集積・分析・予測が各々ビジネスとなり、そこで予測された「消費者の好み」に対して商品PRが従来のモノと比較にならない精度で可能となれば、モノ製造もロスの削減やら時間短縮で利益の大幅増が見込め、効率よく販売が可能になります。それも店頭販売では無く個人々の消費者に直接販促が掛けられ購買率は飛躍的に高まると期待されています。
こうしたネットの動きに対し現在の小売業は「自分達とは関係ない」と無理やり思い込もうとしています。「リアル店舗とネットは違う」と、それはあたかも未知のものに対して全面的に「あり得ない」と全面否定する無知そのものであります。「直接的に小売業に関係してこないはずで、小売りの業態が増えただけ」となどまるで既存企業には無縁なことと耳を塞いでいるに過ぎないのです。そして中国アリババが「独身の日」と称して11月11日に2兆円もの売り上げをネットで稼ぐという話題にのみに注意を払い、「うちもネットで1千億売りたいなあ」とため息をつきながら、ネット時代の商売の仕組みを研究することなく、ブランドのAが良いだのBが良いだのアナログのカタログを電子化しただけの今や旧石器時代の石小野にも等しい武器でネット売上を取れると思っているのです。そしてネットに対する研究開発費にはせいぜい数億円しか投資せず、所詮値引きでしかないポイント経費に莫大な資金を垂れ流し続けているのです。
ネットが社会を変えていく根本には、人類がかつて経験した事が無い未曽有の技術革新があります。コンピューターの進歩は人々の想像を超えた次元を迎えています。単なる計算速度が速くなるだけの時代から自ら考え自ら進化していくレベルへと昇華しているのです。それに伴い、人類はこの機能をどう使うか、どの様に活用するかが大きく問われているのです。人々が思いも付かないような使い方が開発・発明されればそこには無尽蔵の経済効果が生まれてくるのです。商売の仕組みが構築されればその企業は地球規模で独占できるのです。単に商品を右から左に手渡しするだけの企業ではもはや絶滅危惧種と言われてもしかたのない事です。