シン・百貨店 第1章 第3項―7

AI技術の可能性

前回、ネット上でAI接客の可能性の話をいたしましたが、チャットGPTの登場で一段と技術が進化する可能性が深まってきました。最初にチャットGPTが出た時、人々はこれが何の役に立つか十分に理解していたとは言えません。IT全般に言えることですが、その技術がどう役に立つのか、何ができるのか、全くと言ってよいほど理解できませんでした。PCが普及し始めたころ、よくSE(システムエンジニア)達は聞かれたそうです。「コンピューターで何ができるのですか?」と。SE達はこう答えたそうです。「何ができるのかではなく、あなたは何がしたいのですか?」と。

この会話が未だに続いているのです。そして「どう活用するか」という答えを考えた一部の人達に膨大な富をもたらしたのです。バナーシステム、レコメンド機能、ビッグデータ、インターネット通販などなど。初めに考えた先駆者は従来では考えられない富を得ています。

それでは新しい技術=GPTを何に使えるのでしょうか?

チャットGPTは人工知能AIの利用法の一つですが、小売りの世界では販売員として使えるのではという議論が出始めています。あらかじめ各売り場顧客の購入履歴をデータ入力すると同時に前に話した需要予測システム※1の基本データを合わせれば、その顧客に合った最適の商品やコーディネート提案ができるからです。

※1需要予測システムの詳細はクーデター倶楽部2023.06.19版をご覧ください。

AIを顧客接客に応用すれば、ネット上で販売員のアドヴァイスを受けながら顧客の好みの最適商品を提案するのみならず、同時に顧客の好みや趣味嗜好傾向、コンプレックスまでより正確なデータを取得でき、アルゴリズム化してそのデータを販売できるレベルまで高度化できるのです。普通の販売員よりより多くの顧客情報を持ち、より洗練されたコーディネート提案ができ、今年のトレンドを取り入れた顧客が望む提案を行うことがいとも簡単に可能になるのです。

この技術の応用はリアル店舗でも可能です。店舗入り口にカメラを設置し、入店者の識別を行い、判別した顧客情報を即座にデータ端末に送り返せば販売員は勿論、端末上のアヴァターが完璧に顧客と会話しながら接客を行います。あらかじめ店頭在庫情報をビッグデータで取り込んで顧客向けに商品を、色サイズともに揃えておけば確実に顧客は商品を手に取り、試着ができるのです。

実際各社は顧客データの取り込みを始め、ビジネス化しています。来店顧客を小型カメラで捉え、店内での行動を記録し、どんな顧客がどんな物に手を触れ素材を確かめ、価格をチェックし、サイズを確認し、色違い・サイズ違いの存在を調べたか、試着をして買ったか買わなかったかなどのデータを集め、顧客ニーズを把握してアルゴリズム化していくのです。このビックデータは確実に他社が欲しがり、データのアルゴリズムが詳細であればあるほど高価で取引されていきます。

こうなりますと一般の販売員は最早必要とされません。倉庫にストックを店頭に品出しする係が居れば事足りてしまいます。顧客は端末でAIとチャットしながら(文章ではなく口頭入力でまるで話すように)買い物が可能となるのです。

AIの特徴は誰にでも同じ会話をするのではなく、各個々人人別に合った接客が可能という点です。下手な販売員より数段上の、顧客ニーズに対応した接客が可能なことです。これこそが新しい時代の百貨店を始めとする小売業がネット販売に一矢報いる重要なカギになるのです。

ネット通販は基本的に消費者が自分で商品を探しに行きます。そして膨大な資料の中から自分の望む商品を見つけ出していく楽しさがありますが、同時に手間も掛るのです。一方AIでは顧客情報をあらかじめ持ち、分析してあるので接客を楽しみながら自分に合った商品を提案してもらえるという利点があり、一般のネット通販をスーパーとすればチAI接客は百貨店のサービスといったレヴェル差があるのです。

今後AIを活用したサービスは格段に増えていくと思われます。ネット販売の一つの大きな曲がり角でもあります。後れを取った百貨店のネット販売はこの機に一気に後れを取り返す大いなるチャンスでもありますが、百貨店は何処まで気づいているのでしょう。百貨店は生き残るために、今こそ全力でAIの活用に資金を投じ、時代の流れに戻らないと、増々取り残され10年後は存続できないでしょう。

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