何でも有るは何も無いと同じ

恐竜化するGMS

百貨店と同様にGMSの苦戦が伝えられてきます。先月イトーヨーカ堂が北海道・東北・信越から撤退を発表しました。全123店舗のうち17店舗が第1弾で26年までに33店舗を閉店させるとのことです。更には首都圏からの撤退も始まるようです。

1か所で何でも揃うGMSは正に百貨店の廉価版として、主として郊外や地方で圧倒的な売り上げ規模を誇ってきました。しかしGMSが出店した後はぺんぺん草も生えないと言われたくらい巨大化を続けたGMSは、同業他社や地元商店街を圧倒的規模で圧し潰し、地域の顧客を独り占めにしてきました。その無敵だったGMSも今日、規模からいえば取るに足らないコンビニや、専門店に売上を取られ今や不況業種にならんとしています。最後にはその巨大な胃袋を満足させるだけの餌が無くなり破滅した恐竜絶滅の危機と同じ状況下にあるのです。

その最大の原因は消費者ニーズの変化です。

今まで収益を支えてきた衣料品はユニクロやZARA等大型専門大店に食われてから久しいですが、具体的な対策は取られてきませんでした。ライバルのイオンは衣料品在庫整理を15年から始め、23年上期に10年ぶりに黒字化しましたが、まだまだ予断を許しません。ヨーカ堂はやっと先日衣料品の製造を外部委託=㈱アダストリアにすることを発表しましたが、企画・製造・配送まで外部で販売のみ自社ということですが、在庫を買い取るとなると今迄とどれくらい経費節減になるか興味を惹かれます。

GMSの先駆けとなったダイエーが倒産した最大の理由は、完全な計画経済=前年踏襲主義でした。全く売れないPB商品でも前年100%~103%を続けたそうです。会社の全体予算が103%ならそれを下回る計画をバイヤーや統括する部長たちは下方修正できなかったそうです。結果膨大な在庫を抱え、資金繰りが悪化し倒産しました。これは売れない理由を商品に求め、消費ニーズ対応マーケティングを怠ったからにすぎません。消費者のニーズに対応しなかったからです。

圧倒的集客を誇った食品も、肉の品揃えが良くしかも安い「ロピア」に、中食は圧倒的な品揃えの「福島屋」に、輸入品の瓶・缶物は「成城石井」に、高級品は「明治屋」に、徹底した安さ狙いは「OK」というように専門スーパーに消費者は目的買いの場所を変えてしまったのです。専門的な品揃えを行う業種業態に流れています。消費者は何でも一か所で揃う便利さではなく、自分のライフスタイルに合った商品に拘る消費スタイルに変わってしまったのです。自然食品に拘る、価格に拘る、肉に野菜に魚に拘る、時間を惜しみ中食が豊富な店に拘る、など消費者一人一人が自分のライフスタイルに忠実にこだわった結果、自分の納得できる消費スタイルに拘るのです。

つまり消費者は「何でも一か所で揃う」利便性から、「自分の望む商品がキチンと揃う」ことを望むようにそのニーズを変えてきたのです。かつて百貨店から電化製品がヤマダ電機やビッグカメラに、おもちゃはトイザらスや総合家電に、生活雑貨はMUJIやハンズに取られたように、今度はGMSが同様に専門大店にそのシェアを奪われるようになってきたのです。いくら大型店でも、自分が欲しい商品の品揃えがごく一部では消費者にとって魅力は薄いのです。特に目的買いが主役の今日の消費ニーズでは漫然と「何かないかなあ」とショッピングをする消費者は少なくなってしまい、目的をもって比較購買できることが必要になっています。特にネットで欲しいものを探し、店舗で実物を見ることが主流の今日では、「何でも揃っている」は「何もない」のと同義語なのです。

構造的な遅れ

また、GMSはレジ要員や品出し要員など人件費が嵩む構造であることと、複数の階にまたがる広い売り場を抱えて、水光熱費も重く、高コスト体質になっているのです。近年、ユニクロなどは無人レジを強化させ、ZARAは品出し要員しか店舗におらず、客がレジに来て初めて近所にいる品出し要員がレジも兼ねるといった具合です。スーパーも無人レジ導入が少しはありますが、商品自体に値札を張りにくいという商品特性から、あるいは値下げの為値札を張り替えるといった作業の為、なかなか自動化レジが進みません。一部の店舗や起業では「パワープライシング」※1導入実験が始まっていますが、もっともっとIT技術を導入すべきであります。人件費削減や値札張替えなどの人的作業を削減しなければ高コスト対してはいつまでたっても改善できないでしょう。

高コスト体質改善しなければ生き残れないことは明白ですが、スーパー業界では今また規模による拡大戦略で生き残りを図ろうとする再編が始まっています。イオン主導ですが、ドラッグストアーチェーンの合併や、中小スーパーの統合で生き残りを図ると岡田会長は話しています。地方は人口減少が特に進み、同業間の競争が激化しています。その為利益幅の大きいPB商品を開発・販売しなければならないという理論ですが、かつて百貨店も「差別化」と「利益率改善」を目標にPB戦略を取っていた時代がありました。どの百貨店も数十億から数百億の在庫を抱え、PB戦略は破綻しました。

中小のスーパーは効率の悪いアイテム(主に衣料)を切り捨て食品特化やドラッグストアーに業態変更や提携して生き残りを図っています。それ故、スーパー業界はイオン主導での生き残りを賭けた再編の嵐に突入しています。低コスト高収益のPB商品開発や電子商取引ECなどデジタル投資などの開発費は1社では負担が大きいからです。セルフレジや電子棚札などの投入も未だ十分とは言えず、コンビニやドラッグストアと共存するには競争力を早く身につけねば生き残りはほぼ不可能と言えるでしょう。その為に、単純労働作業はAI化やITの活用が不可欠であります。

これを思うと規模拡大戦略より、専門特化型スーパーをより突き詰めて開発した方が良いような気がします。同時に中央バイイング方式による物流経費の無駄(秋田のねぎを買い付け一度東京へ運び、それからまた秋田に送る、といった無駄)や売れ残り廃棄する食材を減らす方策を研究した方が、時代に合っているような気がします。2024年問題がすぐそこまで来ているときに、旧来のやり方の改良版では生き残ることは難しいでしょう。

共稼ぎ家庭が約7割の日本では、食事をする時間や育児をする時間が十分とれている状況ではありません。それ故、商品で言えば調理済み食品(中食)への要望は年々増加し、ウーバーイーツ等の利用の急速な拡大を見ても今後のスーパーの在り方の一つに中食専門スーパーが在ってもおかしくないでしょう。現に冷凍食品専門店の「ピカール」は急速に店舗数やコーナー展開を増やし続けています。

消費者ニーズに対応するには「漫然としたお買い得」ではなく、「欲しいものがきちんと揃えられている」ことのほうが重要で、価格の安さが最優先というのは極一部の消費ニーズであって、もはやマスには成り得ず、新時代の消費者ニーズに対応できません。今日の消費者は欲しいものは価格が最優先ではなく、自分の欲しいものが欲しい時に在れば買うのです。しかもニーズは多様化し、大量生産品の大量消費はごく一部のメーカーのごく一部の商品のみなのです。従来のような「欠品は悪」ではなく「売り残しこそ悪」という発想に転換すべきで、確実に売り切れる量の生産に切り替えるべきです。

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