シン・百貨店 第1章 第3項―7

AI技術の可能性

前回、ネット上でAI接客の可能性の話をいたしましたが、チャットGPTの登場で一段と技術が進化する可能性が深まってきました。最初にチャットGPTが出た時、人々はこれが何の役に立つか十分に理解していたとは言えません。IT全般に言えることですが、その技術がどう役に立つのか、何ができるのか、全くと言ってよいほど理解できませんでした。PCが普及し始めたころ、よくSE(システムエンジニア)達は聞かれたそうです。「コンピューターで何ができるのですか?」と。SE達はこう答えたそうです。「何ができるのかではなく、あなたは何がしたいのですか?」と。

この会話が未だに続いているのです。そして「どう活用するか」という答えを考えた一部の人達に膨大な富をもたらしたのです。バナーシステム、レコメンド機能、ビッグデータ、インターネット通販などなど。初めに考えた先駆者は従来では考えられない富を得ています。

それでは新しい技術=GPTを何に使えるのでしょうか?

チャットGPTは人工知能AIの利用法の一つですが、小売りの世界では販売員として使えるのではという議論が出始めています。あらかじめ各売り場顧客の購入履歴をデータ入力すると同時に前に話した需要予測システム※1の基本データを合わせれば、その顧客に合った最適の商品やコーディネート提案ができるからです。

※1需要予測システムの詳細はクーデター倶楽部2023.06.19版をご覧ください。

AIを顧客接客に応用すれば、ネット上で販売員のアドヴァイスを受けながら顧客の好みの最適商品を提案するのみならず、同時に顧客の好みや趣味嗜好傾向、コンプレックスまでより正確なデータを取得でき、アルゴリズム化してそのデータを販売できるレベルまで高度化できるのです。普通の販売員よりより多くの顧客情報を持ち、より洗練されたコーディネート提案ができ、今年のトレンドを取り入れた顧客が望む提案を行うことがいとも簡単に可能になるのです。

この技術の応用はリアル店舗でも可能です。店舗入り口にカメラを設置し、入店者の識別を行い、判別した顧客情報を即座にデータ端末に送り返せば販売員は勿論、端末上のアヴァターが完璧に顧客と会話しながら接客を行います。あらかじめ店頭在庫情報をビッグデータで取り込んで顧客向けに商品を、色サイズともに揃えておけば確実に顧客は商品を手に取り、試着ができるのです。

実際各社は顧客データの取り込みを始め、ビジネス化しています。来店顧客を小型カメラで捉え、店内での行動を記録し、どんな顧客がどんな物に手を触れ素材を確かめ、価格をチェックし、サイズを確認し、色違い・サイズ違いの存在を調べたか、試着をして買ったか買わなかったかなどのデータを集め、顧客ニーズを把握してアルゴリズム化していくのです。このビックデータは確実に他社が欲しがり、データのアルゴリズムが詳細であればあるほど高価で取引されていきます。

こうなりますと一般の販売員は最早必要とされません。倉庫にストックを店頭に品出しする係が居れば事足りてしまいます。顧客は端末でAIとチャットしながら(文章ではなく口頭入力でまるで話すように)買い物が可能となるのです。

AIの特徴は誰にでも同じ会話をするのではなく、各個々人人別に合った接客が可能という点です。下手な販売員より数段上の、顧客ニーズに対応した接客が可能なことです。これこそが新しい時代の百貨店を始めとする小売業がネット販売に一矢報いる重要なカギになるのです。

ネット通販は基本的に消費者が自分で商品を探しに行きます。そして膨大な資料の中から自分の望む商品を見つけ出していく楽しさがありますが、同時に手間も掛るのです。一方AIでは顧客情報をあらかじめ持ち、分析してあるので接客を楽しみながら自分に合った商品を提案してもらえるという利点があり、一般のネット通販をスーパーとすればチAI接客は百貨店のサービスといったレヴェル差があるのです。

今後AIを活用したサービスは格段に増えていくと思われます。ネット販売の一つの大きな曲がり角でもあります。後れを取った百貨店のネット販売はこの機に一気に後れを取り返す大いなるチャンスでもありますが、百貨店は何処まで気づいているのでしょう。百貨店は生き残るために、今こそ全力でAIの活用に資金を投じ、時代の流れに戻らないと、増々取り残され10年後は存続できないでしょう。

シン・百貨店 第1章 第3項ー6

人材の活用と活性化

百貨店が業態として生き残るためには生産性の向上は不可欠になります。其の為には従来のようなただ集客を図り、売り上げ確保をするのではなく、客単価の向上・顧客の来店頻度の向上・購入点数の拡大を軸に売上高ではなく利益額確保を目指していくべきです。

そのためには前回➀MD強化②新しい売り場展開③新しい売り方が不可欠の述べてきました。これに加えて集客できた消費者を固定化し、再来店を確実にするためには販売員の手腕が大変重要になります。現在ではネット販売の為、コーディネートを主に掲載して販売員のファンを作る手法が流行っていますが、それより格上の接客サービスが求められます。マス相手の総花的なコーディネートではなく、個々の顧客に対するプライベートコーディネーターです。

その為にはトレンドは勿論、顧客の持っているワードロープ、色・デザインの好み、鉄板コーデからTPOを踏まえたコーデが揃えられる実力が不可欠になってきます。これはマニュアルでは設定しえない高度な接客レベルになります。

一方、AIやネット機能を十二分に理解し、活用できれば販売員は必要が無いという声があります。ネット販売こそが主流化し実店舗はそのサブでしか成り得ないという考えです。顧客のビックデータを活用できれば、シーズン最適のコーディナートを提案できるという考えです。実際、AIとチャットしながら購入する仕組みは一部で実験が始まっていると聞きます。顧客がどこまでそれで満足するかは判定までしばらく時間がかかるでしょうし、満足度が高くなるか否かは現時点では何とも言えません。

また一方実店舗の生産性を高め、安定した収入を得るためにはディヴェロッパー化が一番という考え方もあります。販売員そのものが要らない仕組みです。但しテナントには販売員が必要ですが、ディヴェロッパー側には一切販売員は必要ありません。

どちらが経営的に正解か不正解かはわかりません。しかし一つだけ言えることがあります。消費は文化であり、生活の一部であり、百貨店のそれは生活必需品以外の消費であることです。そこではモノを買うのではなく、自分の事をよく知ってくれている販売員という頼もしい味方がいるからこそ、わざわざ時間とお金をかけて来店してくれるのです。ある時は話をするため、ある時は情報を得るため、ある時は実際のモノを買うために販売員に会いに来るのです。

百貨店から販売員を排除し、「接客販売」を取り除いて効率化一本で小売業を行うとしたら他のどの小売り業態にも勝つことはおろか生き残る事さえ難しいでしょう。消費者の百貨店に期待することは「効率化販売」ではないからです。

そのための要が「販売員」なのです。

しかしその肝心かなめの販売員が今迄のように売っても売らなくても給与が一緒ではいくら旗を振っても販売員は踊りません。まして入社2~3年目の若手が売場監督然として朝礼をしても取引先からのベテラン派遣社員は動きません。派遣社員は基本的に百貨店より自社事情を優先させますので、在庫や売れ筋などの確保は派遣社員任せになり、百貨店社員は到底そこまで目が届きません。

そこで前回派遣社員ではなく百貨店自社社員を増加すべきと話しましたが、そういうと必ず人事部は反対します。何故か近年自社社員は全て管理要員で販売員は採用してはいないのです。人件費を抑えることが人事部の唯一無二の目的と化し、社員教育や自社社員の強化育成などは全く行われてはいないんです。

そこで給与体系もジョブ型に変える事を大前提に、中途社員を大量に入社させることを提案します。他社で経験あればもちろん、なくてもきっちりと自社の販売教育を施しその道のプロを育成すれば従来の売り場の壁の花の販売員の数十倍の価値があるでしょう。売れば売っただけ給与が得られれば、販売に対するモチベーションは大きく向上します。欧米の売上歩合制度の導入も検討すべきです。良い販売員を確保するためには売り上げに見合った収入を保証すべきなのです。

更に、販売員であることに誇りを持ち、他社に引き抜かれないためには大幅な給与アップだけでなく、現場を知る営業関係の役員に登用することも必要になってくるでしょう。現場に精通した者が経営層に居ることはこれからは不可欠です。それが無理なら、社長以下全役員が毎日1時間売り場に立ち最低1点販売することを義務ずけることです。

某百貨店で大変優秀な販売員&バイヤーを引き抜き中途入社してもらったことがあります。彼女らの売れ筋や流行、顧客動向やニーズに対する情報量は一般販売員の数十倍もありました。センスも良く会話も上手く瞬く間に固定客を増やす、MDも急速に良くなりましたが、人事は中途採用は社員と認めず、くだらない純血主義で昇給や昇進すらさせず、彼女達のやる気を全く奪う結果となりました。

その中の一人は全日本販売員接客コンクールで、シャネルと並び第1位を獲得したにもかかわらず、某百貨店の人事はコンクール開催も知らず、社内に紹介すらしませんでした。こんな人事部は全く存在価値が無いとしか言えません。

人事は本来の社員の能力向上策を全く持たず、時代に合った人事政策など夢のまた夢で、いくら優秀な人材を採用しても直ぐに辞めていってしまう現状を止めることはこのままでは不可能でしょう。

これからの百貨店は人事政策をメーカーからの派遣社員に頼るだけの人事政策でなく、生産性を上げるべく販売員のモチベーション向上の為の施策を早急に確立すべきです。

百貨店はそこに努める全ての社員の意識改革が不可欠です。特に上層部や各セクションの長は業態としての百貨店はどうあるべきか、そのための組織は、そして人事政策は、を真剣かつ早急に行うべきです。インバウンドが戻って浮かれている場合では無いのです。百貨店はその機能と機構とすべての部署の役割を見直さねば生き残れない時代になったのです。

シン・百貨店 第1章 第3項-5

ネット時代の店舗の在り方は

ネットが勃興し瞬く間に実店舗売り上げを凌ぐまで成長した今日、実店舗の在り方も従来通りでは立ち行かず、再構築しなければなりません。消費者の消費に対する意識の変化は、細分化し、多様化し、従来のマス対応でどこにでもあるブランド毎に店舗を並べていれば集客できることは不可能となり、過去の常識は全く通用しない時代に入っているのです。

現在各百貨店が実店舗の活用策としてネット商品の受取場化とか、試着場化とか、あるいは商品を見せるだけの展示場化などを模索しています。しかし、こんな馬鹿げた策はありません。ネット販売時代にリアル店舗はどうあるべきかという根本的解決には成り得ないモノばかりで、小売業として本気で生き残れる策とはとても思えません。

一方、大丸百貨店を中心に百貨店自体をディベロッパーに業態変更しようとする動きがあります。持て余した百貨店の売り場を改装し、テナント貸しにより収入の安定化を図ろうとするものです。

代表例はGINZA6ですが、これはこれは都心型の大型百貨店のみに通用する施策です。立地が良く集客がし易く路面程家賃や経費が掛からないメリットがあるのでテナントにはうれしい施設です。百貨店では消化仕入れの為、売上に対する歩合売上が家賃として徴収されますが、テナントでは一定額の家賃さえ払えば売り上げがいくら上がっても賃料は変わらないからです。しかも「銀座に店がある」と言えば大変聞こえが良いからです。

しかしこの策を実行するには膨大な数の社員の早期退職が不可欠になります。従来300名で運営していた店舗を場所貸し化すれば運営・管理業務だけで10名も居ればあとは外部委託で済んでしまうからです。大型店舗を多数抱える百貨店では配置転換も可能ですが中小規模の百貨店では無理な施策であります。しかし、郊外や地方店ではなかなかこのようにテナント化の推進は進んではいません。形態を変えてもテナントが商圏自体に魅力を感じなくては出店してもらえないからです。

そこで既存店舗を売却し店舗を移動・小型化する動きも出始めています。これはかつては一級であった立地が商圏の移動や来店手段の変化で一級ではなくなってしまっってしまい、現在地での復活が不可能と判断され、立地の移動と商圏に見合う大きさにダウンサイジングさせねば生き残れないと判断されているからです。

自社の商圏に見合った規模に縮小・コンパクト化し、かつ移転することにより効率の良い小型店舗として存続を図るやり方では、直近では山梨の岡島百貨店がこの手法で再生を図り、再出発しました。旧店舗は売却し、それで得た資金で移転を果たし、店舗を小型化することにより無駄なスペースや老朽化したスペースの設備維持費や人件費を削減し、収支改善を目指したのです。

小型化により残るMDは化粧品と食品が主役となり、衣料はほとんど無くなりますが、最大の課題は消費者にデイリーに足を運んでもらえるMDの構築とイベント性の保持による集客力の強化です。岡島もその点を理解し、週替わりのイベントコーナーを設けましたが、どれだけPRでき且つ集客できるかが今後見守りたいと思います。

これらは根本から生き残りをかけて百貨店を改革させようとする中から出てきた発想です。しかし、百貨店に都合の良い改革では上手くいくとは思えません。何故なら、なぜ現在のように百貨店が凋落したのかその根本原因追求が為されなければ、消費者から再び支持を得ることは難しいからです。

では百貨店凋落の原因は何なのでしょう?

最大の課題は百貨店に魅力が無くなったことです。ネット販売の急成長やライフスタイルの多様化で何処ででも買える商品をわざわざ来店して迄購入する必然性が無くなり、ネット販売では買えない商材のみが集客要因化しているからです。その他、SPA台頭による圧倒的な価格破壊、人口の減少と少子化、多様な購入チャンネルの普及など様々な要因が挙げられますが、百貨店凋落の最大の原因は「消費者のニーズの変化」に対応ができず、消費者がわざわざ来店する魅力がなくなったためなのです。

百貨店特有の接客販売も自社社員ではなく取引先からの販売員にしてしまった結果、百貨店独自のマニュアルを超えたサービスができなくなり、画一的で人間味の欠けた接客しか残っていません。かつて消費者は「何を買うか、何処で買うか、誰から買うかというように消費者は販売員に附いていくのです。

ネット時代に相応しい百貨店の魅力は何なのか?どうすれば売場に再び消費者が戻ってもらえるのか?百貨店は何をどう対応すべきなのか?やるべきことは沢山ありますが、新しい時代の百貨店売場で重要な点は3点です。

一つ目はMDです。

先にも述べましたが、何処にでも売っている商材や、ネットでも買える商材ではわざわざ来店を促すことは難しいです。やはり世界の逸品やここに来なければ買えない店のオリジナル商品を揃えることが不可欠になります。HELMESやCHANELなどの工場で一流の素材と一流の技術で制作されたものは自社のオリジナルとして十分な価値があります。数を売るためでなく、上質なものを求める百貨店本来の顧客や、若くてもモノを長く大事に使うエシカルな消費志向者向けには最善であります。かといって決して高額品ばかりでなくり上質な定番品や、未だ日本に紹介されていない銘品を探し、紹介することも百貨店の大きな使命の一つです。キーワードは「安くて、良い」ではなく「上質で適正価格、且つ品が良い」です。

「此処に来なければ買えない」商品があるという決定的な来店動機を生み出すことが不可欠です。

二つ目は売場の展開方法です。

従来のような効率を追求するために、各売り場を5~30㎡に詰めて展開し、数を追求するような売り場では消費者は満足しません。サイズや色デザイン全てが一同で見られなければネットに敵わないからです。また販売員を派遣できる消化仕入れを軸に置いたため、ナショナルブランドばかりとなり、何処の百貨店へ行っても全くと言ってよいほど品揃えが同質化してしまったのです。消費者からすればこんなに詰まらない業態はありません。わざわざ各店を見て回らなくても、いや来店などしなくても商品が全部見えているのですから。

次世代に求められる売り場創りの基本は「地域一番主義」です。これは館全体で規模やブランド集積を誇る従来の発想ではなく、展開するブランドやテナントが地域で最大の面積・品揃えを誇る「売場」を説明する言葉になります。まずネットに対抗できるフルアイテム・フルサイズ・フルカラーを展開できる売り場面積を保持し、ネットでは体験できないサービスを提供することが不可欠になります。売場が大きくゆったりと商品が見え、試せ、情報を得られる売り場開発が必要なのです。

大きな試着室に、同伴者がゆったり座れるソファ、販売員は指名制で店舗来店は完全予約制。茶菓の提供にアルコールの提供まで無料でサービスされ、その場でのサイズ直しや当日の自宅届け、修理サービスに保管サービス、洗濯サービスなどあらゆるサービスを有料・無料で執り行うことが重要になってきます。

これらの付帯サービス機能を以てして同業他社の追随を許さない売り場創りが不可欠になっていきます。あらゆる分野での1番ではなく特定分野やアイテムでの1番を目指すのが他社との最大差別化に成ります。

三つ目は新しい売り方です。

せっかく来店しても商品知識もなく、センスも良くない会社の指示通りしか話せない販売員しかいないのでは、アドヴァイスを受ける気にもなりません。販売員は売場のスターでなければなりません。一流メーカーからの派遣社員でも、メーカーの正社員ならある程度教育を受けているでしょうが、それで十分とは言えません。現在各社とも入店教育は施していますがその多くはレジの打ち方、店内符丁、カードのポイント付加率、などどうでも良いコトばかりです。

各百貨店の代表として販売する訳ですから、基本は自社販売員に戻すべきです。こんなことを言うと人件費が膨れるとか、販売員に負荷がかかりすぎるとか、人事と組合が共同戦線をがっちりと組んで迫ってくるでしょう。今までは百貨店に集客力があり、一流の顧客が数多く来店なさっており、それなりの売上が取れたからこそメーカーは派遣社員を送り込んでいたのです。しかし、販売員派遣の経費に見合う売り上げが取れなければ当然販売員は派遣してきませんし、売り上げが一定金額見込めなければ、店においてある在庫は死筋となり、期末には不良在庫としてメーカーに重く圧し掛かってきます。

コロナ禍で多くの百貨店が苦戦し、結果大手アパレルをはじめとする多くのメーカーが派遣社員どころか店自体を退店させたのは自明の理なのです。オンワードなどは数百店舗撤退したおかげで、売上減より無駄な制作費や人件費を削減でき、それだけで黒字化したほどです。

もし販売員を自社社員に切り替えたら当然仕入れ値を改定しなければなりません。最低でも10%から15%、雑貨などは20%から25%は最低改善できるでしょう。更に買取に変更したら、15%や20%の上乗せは十分可能でしょう。しかし、このままでは売上は上がっては来ないでしょう。何故なら販売員の尻を叩いても販売員自身にメリットが無ければ人はなかなか動きはしません。

そこで、販売員に対してインセンティブが必要になってきます。基本収入の70%は基本給で後は売上歩合製に変更するのです。予算達成したら基本収入100%がもらえるように制度変更し、予算を2か月続けたら売り上げの1%、3か月続けたら3%を各自にバックするのです。欧米では当たり前の制度です。逆に予算が3か月いかなければ移動対象者となり、減給されるのです。実際はもっと細かい規定が必要ですが概略はこんなものです。

まずは「そんなことはできない」と頭から否定する人材を排し、「チャレンジしてみよう」という人材を活用すべきなのです。その為には人事制度の大幅改革が不可欠になるでしょう。(次回続く)

 

シン・百貨店 第1章 第3項ー4

ネットでの宣戦布告

前回で百貨店がネット販売を強化するにはネット上でのディヴェロッパー戦略=ECプラットフォーマー化を取るべきだと申し上げました。現在のような中途半端な自社HPのままでは、在庫管理システムも十分でなく、展開商品量もすぐ切れてしまい、配送システムも未整備で返品すら満足に受けきれない現状では、とても専業ECプラットフォーマー(PF)に太刀打ちできるものではないどころか、未整備な古いシステムの維持費や人件費などで利益などとても出せる状況では無いのですから。

すでに百貨店の多くは専業ECサイトに立ち向かう事を諦め、中元・歳暮などやギフト商品を細々とカタログ販売と併用して行っているにすぎません。写真の撮り方や販売員によるブログ作成だとかを有名ブロガーに多額の金を払って教えを乞うたり商品バイイングに参加させたり、一体何をやっているのやら理解ができません。先行するPFから100年も後れを取っています。

しかし、先行するPFに意外な落とし穴が待っていました。「商品を見ないで物を買う」というネット販売の根本手法に、偽物・不良品・詐欺商品といった商品が溢れ出したのです。ECプラットフォーマーは必死になってこれらの販売業者や商品を削除すべく日々努力をしていますが、イタチごっこの態を示しており、撲滅は難しい状況です。専業ECネット上では本物であるという担保は機能していません。あくまで消費者が自己判断で購入を決めるのです。

そこで消費者は百貨店の持つ「信用」に気付き始めました。百貨店が「絶対的に信用出来るもの」のみを取引先から仕入れてきた実績の価値はここ十数年に勃興したECPF企業では真似のできないものだからです。しかも百貨店は一般大衆相手ではなく、自社カード会員やその他で囲い込んだ百万人を超える顧客をすでに持っているのです。これらの顧客を核に従来の信用のおける取引先と連動した商品展開を行えば、一見客しかいない専業ECPFとは一線を画した企業として認知されるはずです。

今がチャンスです!

百貨店は今こそ、新店舗開店と同額レベルの資金を投下し、本格的にEC販売に参入する時なのです。その為にはシステム開発(顧客データ管理・在庫把握・取引先HPとのリンクなど)に100億以上の開発費がいるでしょう。保安体制の確実な、即時取引ができる体制にはこれでも少ないくらいです。大手のサイト運営者はデータ管理に数百億円の投資を行いデータ保存・分類・安全対策を行ってきたのです。今こそネット事業に本当に参加するなら受注システム・配送システム・返品システム・再生工場まで一貫した体制を取れる仕組みを組まねばならないのです。

この基本システムの上に更にデータ分析をしてリコメンド機能まで自動的に付加する位は最早当たり前で、今後は商品を探したり、オーダーを受けたりする機能も求められるでしょう。そして売れるまでの時間を想定し、過ぎたら自動的に値下げになるシステムなどは始まっています。

ユニクロなどは流通時間の短縮や返品商品の再生期間短縮迄視野に入れた効率化を推進していると聞きます。無駄な在庫を持たず、売り切りごめんで在庫ロスを削減する、こんな芸当までやっているのです。モノを売るに「効率」を徹底したやり方の追求を行えば、此処に行き着くのでしょう。しかし百貨店のネット販売はその対極を行くものでなければなりません。

数を売るより、本物で上質なモノやコトを提供するのです。安易に値引きをするのではなく、修理や保管まで受け追うサービスを有料で付け、「高いがそれに見合う価値があるもの」を扱っていくのです。しかもトレンドや流行にはいち早く敏感に商品を取り揃えるため、バイヤー組織は長い耳を持ち、取引先と連携してモノ創りにまで入り込む必要も出てくるでしょう。

しかし残念なことに、リアル店舗でも大きな売り上げシェアを占めるラグジュアリーブランドは自前のHP以外に商品展開を許してはいません。当然と言えば当然ですが、百貨店はネット販売の黎明期からもっと早くアプローチしていれば可能性もあったものを、今となっては完全な手遅れです。替わりにラグジュアリーブランドが製造委託している工場やメーカーと提携し、オリジナル商品を開発して販売していくことが不可欠になっていくのです。

何処ででも買える商品ではなく、来店しなければ買えない商材やブランド開発の延長線として高品質でラグジュアリーブランドに勝るとも劣らない商品を適正な価格で販売することは、ネット販売の大きな柱になるでしょう。その際、定番商品より今期のトレンド商材をどこよりも早く紹介し、予約販売できたら大きな勝機が来ることは間違いありません。

この案を実行するためには、何よりもネットに明るい人材に、それも若くデジタルに強い人材を起用し、所謂経営層は口を出さず且つMD本部の機能を強化し、モノ創りができるチームを一日も早く作ることです。そして販売方法や値引き方法、返品や新商品紹介のリコメンド機能などを早急に取り入れることです。

百貨店はもう一度、「モノ創り」から始めるのです。そして百貨店復活の狼煙を上げるのです。

追伸

昨年の11月からコロナ禍の為、クーデター倶楽部の定例会を中止せざるを得ない状況下になり、当ブログをお読みいただいている皆様に大変ご迷惑をかけた事を、此処に謹んでお詫び申し上げます。尚、5月より月2回の更新を目指していきますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

クーデター倶楽部 議長

シン・百貨店 第1章 第3項-3

新しい業態開発・ネットビジネスの在り方

百貨店では今、右を右を見ても左を見ても「ネット販売に力を入れている」という論説ばかりが耳に痛いです。しかし通販カタログをそのまま転載したような画面造りで、どこの百貨店でも大した売り上げは取れてはいません。ネット販売技術やソフト開発は日進日歩と言うべきレベルにもかかわらず、百貨店のネットビジネスは旧世代の考え方から脱却できず、時代の波に大きく後れてしまっています。

なにより、ネット販売の根本的に不可欠な、瞬時にできる在庫確認、選びやすいサイズ表記や素材表記に賞味期限、簡単な検索機能と返品機能、無料の送料などが百貨店のHPでは全くと言ってよいほどできていません。消費者からすれば今や当たり前の機能が全く備わっていないのです。

第一に商品在庫を持っておらず、売れた商品の消込は勿論、色・柄・サイズの検索する事すら儘ならないのです。メーカーから預かった、或いは買い取った在庫が切れてしまえば完璧な売り逃しになりますし、その前にメーカーのHPに消費者は移ってしまいます。返品も複雑な手続きが無ければできません。結果、百貨店のHPで売れる商材はギフト詰め合わせ位しか無いのは頷けます。

しかもネットというこの新しい技術をどう使えばよいのか、百貨店に知恵がありません。信じられない事にただ商品を掲載さえすれば売れると思っている人が経営層に未だに数多く居るという事実です。また現場では写真の撮り方や販売員のコーディネート提案、ブロガーによる商品推薦、といったレベルの販売策しか採られてはいません。本来その使用策を検討すべき宣伝部は全く出番がありませんし、システム部などは全く存在すらしていません。他業態から100年は遅れている所以です。新しい技術やソフトの導入など、考える余裕すらないのでしょう。

ネット販売が始まってから早や二十数年経ちますが、百貨店は積極的に研究・取り組むことはしてきませんでした。何故ならまだ海のものとも山のものとも判らない技術に投資をするという先見の明が無かったのです。というよりネット技術そのものを理解する経営層や、それを支えるシステム部の理解がなかったことが最大の敗因でしょう。いつの時代も最先端技術を逸早く取り入れた支配者や国が世界を制覇してきました。小売りの覇者であった百貨店は次の時代を生き残るためにも積極的にこの新しい技術を注視し、導入すべきでした。しかし残念ながら否定から入ったのです。役員会で説明しても単語一つ理解できず、「娘に聞いたが、君の言う事は可能性であって無理がある」という、役員会で決定すべき事項を専門家に確認するのではなく、娘に確認しただけで堂々と反対するといったことを筆者は経験しています。

百貨店がネット販売事業を行うには莫大な費用が掛かります。

まず、在庫確認が即時可能なためにメーカー在庫と連動しうる在庫ソフトを開発する必要が有ります。在庫の有無や色・サイズ・柄違いのある場所提示等を即座に消費者が把握できることが初歩の初歩です。売れた場合の在庫消込や、在庫のある店舗紹介、を可能にしなければなりません。商品売り切れの場合の速やかなHPからの削除も不可欠です。当然売上管理データソフトも必要です。まずは基本的在庫管理ソフト開発です。

次に、関連商品へ簡単に移動できるメタ付け機能です。写真だけのコーディネートではなく実際に選択した商材のコーディネートをセットして見せるサービスも今や不可欠です。購入途中にECサイトを離脱する率は90%あると言われていますが、購入途中でキャンセルした顧客にお得なクーポンなどを提供するポップアップ機能など販促に関する機能は導入を図り、新機能の追加は必須です。

現在では商品にメタデータを付与し、消費者の消費性向を分析し、消費者の嗜好に沿った商品を紹介する機能もあります。この機能ですと消費者が嫌いな、或いは感じているコンプレックスなども把握でき、それに該当する商品は紹介せず、本人すら気が付いていない嗜好商品を紹介することにより売り上げを高めることができる機能まで開発されています。

また、メタデータはメーカーにとって需要予測が可能になり、生産調整や売れると予想されるSKUだけ生産することにより、無駄な生産を抑えることができるなどとのメリットもあります。完全なるバイオーダーで、余計な在庫を抱える無駄も売れ残す不安も解決されます。

次に展開商品自体のデータを一元管理するソフトや商品自体の動画紹介化するソフトなども必要でしょう。更に掲載商品の売れ行きが悪ければ価格を変えることができるダイナミックプライシングなども一部業種では当たり前になっています。これらのソフト開発は自社向けオリジナル製作かありものかで大きく開発費は変わりますが、管理運営ソフトには同額の大きな費用が掛かります。システムが予定通りに動いているか否か監視し、不都合があればシステムを止めることなく自動的に修正できるソフト開発もいる事でしょう。

思いつくだけでもこれだけの機能が必要ですが、開発には百貨店1店舗分の費用が掛かります。商品調達・商品掲載・商品受注・商品在庫確認・配送・返品受付・再在庫などの流れをこなすには膨大な設備も必要になります。これらを分業で行うやり方も今では十分開発されており、クラウドを使った商品管理の流れは当たり前になっています。

先行した企業は上記の流れを大手のプラットフォーム企業を使って行っています。楽天、ZOZOなどです。これら企業は謂わばディベロッパーで自身では販売は行いません。その代わり来街した消費者の購買・非購買を問わず膨大な商品閲覧履歴を分析し、購買へ結びつくような有料アドバイスサービスを行っています。また、検索結果の先頭に自社商品が来るような有料サービスやランキング形式の推薦方式など様々な売り込みサービスも行っています。

食べログやヒトサラのように独立したショップ紹介サービスも商売として大きく成長しています。ネットに関する新しいビジネスはありとあらゆる方面や業種を超えて広がり、従来の単純な広告や販売補助を超えた業態が出現しています。これらをどう活用するか、或いは自社が必要としているサービスが何かあれば解決しうるソフトは必ず製作可能なのです。要は新しい技術をどう活用するかの知恵がまだまだ使用者側で遅れているのです。

百貨店がこれからネット時代を生き残るために、一販売業者として参画する以外にも方法はあります。それはネット上にプラットフォーム創設というディヴェロッパー化戦略です。自社オリジナル商材も造れない、テナント商品もなかなか集まらない、ギフト商品しか売れない、というのであればいっそ自らがディベロッパーの第三極となりネット事業に参画していくという考えです。これは次回詳しく説明していきます。

シン・百貨店 第1章 第3項-2

新しい業態開発・商品について

新しい業態にはMDの揃え方・見せ方・売り方に、ブティック型式に代わる新しい展開方法開発が前回重要だと提案しましたが、商品自体はどうでしょう。

百貨店が飽きられた原因の一つに商品自体があると思います。利益率の視点から衣料中心に偏った百貨店は、同時に自身での商品開発や商品展開すら止めメーカー任せにしてしまいました。結果、どの百貨店へ行っても入っているブランドは同じで、衣料から食品まで同質ブランド化が進み、看板を外したら何処の百貨店化見分けがつかないのが現状です。

加えて費用の視点から、集客策であった文化催しや美術催し、物産展などの催しはほとんど姿を消しました。其の為消費者はわざわざ高い電車賃を払ってまで来店する意味合いが無くなってしまったのです。百貨店に来なくても駅ビルやファッションビル、近所の大型専門店・GMSで全く不自由しないのです。ラグジュアリーブランドですら路面店の直営店の方が品揃えがよく、本当に買いに行くなら直営店の方が絶対有利なのです。

更にネット販売の登場です。買い物だけならネットが便利という事は幅広い年代層に支持されています。ネットでいつでも何処ででも買える商品を百型店の館に展開しても意味はないのです。しかも百貨店では全色・全サイズが展開されている訳でもなく、結局ネットで買う羽目になるのが落ちなのです。食料品もギフト品以外は近所で十分事足りてしまいます。何処ででも買える商品をわざわざ交通費と時間をかけて買いに行く消費者はシニア層ぐらいです。結果、入店客数は年々減少の一途を辿り、売り上げも同時に下げ止まらないのです。

しかも何処ででも買える商品を、メーカーから消化仕入れ(借りてきて売れたら仕入れる方法・販売員や商品在庫もメーカー責任)したのでは、メーカー側からしたら売れる店にしか商品は回さなくなります。しかもメーカーは在庫が残るほどの商品製造はせず、売れ残るより商品が足らない方を選びます。残したら利益は全部吹っ飛ぶのですから。

結果、百貨店はA社が駄目ならB社、と次から次へ取引先を変更し続け、気が付けば地元の誰も知らない、聞いたこともない個人商店が軒を連ねる羽目となり、消費者離れに拍車をかけているのです。それでも大量生産でない地産商品や新人の商品ならこれから有名になる可能性がありますが、ただ安いだけの素材も縫製も百貨店基準に満たない商品を売っているだけでは百貨店としての存在意義は最早無いといってよいでしょう。

この状況は大手チェーン店に見放された地方の百貨店に顕著です。衣料フロアーはサッカー場と化し広大な広場がさみしき残っています。食品もスカスカの冷蔵ケースが寂し気に長期賞味期限のある加工品のみが申し訳ばかり展開されっている状況です。郊外のGMSに勝てない百貨店の現状がそこに在ります。どの商材を取っても品質・アイテム・展開量で消費者に取り魅力が全く無いのです。かろうじて集客できるのは町中から総撤退した化粧品だけでしょう。

百貨店は館として集客する役目がありますが、ポイント付与位しか集客策を持ちません。宣伝費はポイント経費に転用されてしまっているからです。現在ではほとんど集客策は行っていないといって良いでしょう。しかしどんな宣伝を行っても現状では、消費者が商品自体に興味を持っていないものばかりでは、全く効果は期待できません。ですから宣伝無しでも口コミだけで消費者が来店できる仕掛けが不可欠になりますが、それは商品自体なのです。其の一番は「此処へ来なければ買えない」商品の存在です。

商品を販売するのを諦め、見るだけの店舗を誘致している百貨店があります。一時は評判になりましたが一過性で、結局簡単に返品できるシステムの方に軍配は上がっています。実際に目で確認するのは家具・大型家電・携帯電話・車ぐらいでしょう。それに何処にでも売っている、何処ででも買える定性商品だけです。

そこで百貨店はもう一度自主で商品探し、商品制作に乗り出す必要が有ります。メーカーから商品は入ってこないなどとは夢にも思わなかったことが現実なのですから、自分たちがもう一度汗をかく必要が有るのです。

かつて百貨店は差別化戦略としてPB商品を大量に造っていました。メーカーの売れ筋商品を自社ブランドにタグだけ変えて利益率を良くした商品を大量に仕入れたのです。しかし、他社との差別化戦略が主眼の為自社以外に販売することができず、大量に在庫として抱える羽目になったのです。それは衣料品を中心に食品や雑貨にまで及びました。しかし本当に自社のオリジナルを材料から造るのではなく、メーカーの製造能力の上に胡座をかいた商材だった為、メーカーは笑いが止まらない程儲かりましたが百貨店は各社とも億単位の在庫を抱え、その処分に大量の時間と費用を費やす羽目となった苦い経験が残っているのです。現在ほとんどPBブランドは残ってはいません。残っているものはメーカー製造品に自社名を冠しただけの商品がほとんどです。PBで成功したものと言えば高島屋のフォション、伊勢丹のアナ・スイぐらいでしょう。

今回のモノ創りは今までの差別化商品ではなく、未だに一部の消費者しか知らない本物志向の商品や、若手デザイナーや小規模工房などと組み、インキュベート機能としてオリジナルを一緒に造り込んだ商品を展開することです。そこには価格帯の規制ではなく素材やデザイン、機能を優先させた本物であることが求められます。百貨店が最後にかろうじて消費者に支持されている「本物」というキーワードが絶対的な価値になるべきです。

多様化した消費者が求める新しいモノとは、全てが大量生産により低価格で大量に販売されるものではなく(確かにユニクロの商品はこれに当たりますが)、自分のライフスタイルに合った拘りのある商品を求めています。「誰かと同じだから安心」という発想はとっくに無いのです。百貨店が提供すべき商品は、消費者のライフスタイルをより完全なモノにするため、材料・機能・使い勝手・デザインが本物であること、が前提になります。どれが欠けても意味がありません。そこには価格優先はありません。

社員が自らバイヤーとなり、商材を探し、自ら売り場展開し、自ら販売するのです。そのためには見せかけの商品知識ではなく、素材・縫製・製造技術・修理まで一貫して手掛けられ、売りっぱなしの現状ではなく、修理に修理を重ねてでも100年もつ商材を開発すべきなのです。食品も老舗や有名ブランドとのコラボは勿論、原産地の生産者と加工業者を加え、3社での新商品開発をも行うことも必要です。時間がかかる製品や限定量しか取れない・造れない商品を手掛けてこそ百貨店の信用が生きてくるのです。

新人デザイナーや地方で粛々と続けられてきた職人芸の発掘や、ご当地もので未だ知られていない美味い産品紹介など、或いは有名デザイナー(当然海外デザイナーも視野に)や人気のシェフなどとのコラボ商品、または老舗の旅館やホテルが綿々と手造りしてきたお土産商品を育成・再発見するだけで新しい商材をそれほどのリスク無く調達できるのです。

これだけのモノ造りをするにはそれ相当のコストが掛かり、当然上代は上がります。今までの「良くて安い」指向から「高いけれど本物」指向に変わらねばなりません。百貨店マンは高い商品は売れないとしり込みするでしょう。今まで自分たちで販売してこなかったからです。それに少量生産者をインキュベートする意味でも力を付けるまでは高く仕入れる必要が有ります。(上代は適正に)

消費者はただ価格だけで商品を選んでいるのではないことを百貨店は知るべきです。「1点もの、売り切りごめん、などご法度」と言われてきた事は最早過去の話だという価値観変化についていけなければバイヤー失格です。何しろ、「此処でしか買えない」商品群がMDとして構築されなければならないのです。売場全部が自社商品で埋め尽くされるという事はあり得ませんが、全く無いというほうが問題ではありませんか。

ここしばらくの間、「安くて良い商品」が消費のキーワードで消費者の間で当たり前になっていました。この消費はユニクロを始めとする超大型SPA商品が牽引していました。それに引きずられあらゆる大手企業が上代見直しを図り、価格の引き下げ競争に走りました。大量生産によるコスト削減や調達先を発展途上国に移し、安い材料・安い人件費を求めて海外に生産拠点を移していった結果です。其の為国内工場はあらゆる業界でなくなり、生産は海外が当たり前になっていました。

まさか円安=150円(2022.10.23現在)になるなどと経済界は夢にも思っていなかったことでしょう。この傾向は年内~来春までは続くでしょう。こうなると人件費や商品価格は後進国と逆転し、日本は物価が安く賃金も海外より安くなってしまった現実があります。政治は二流だが経済は一流と言われたのははるか昔のことで、政治は三流、経済四流というのが実情です。

これからは価格が優先するだけでなく、商品自体の正しい価値を消費者の方が見極める時代になるでしょう。安ければ売れる時代ではもはや無いのです。安くても消費者が欲しくないものは全く売れない時代なのです。決して高ければよいというのではなく(一部のラグジュアリーブランドがそうです。不当に値付けが高いだけで品質やデザインが追い付いていません)適正な価格で販売されることが、当たり前のことですが、今求められています。そして使い捨てと同時に永く使える商品も求められているのです。

今こそ、百貨店が営々と築いてきた信用を基に、日本中から、世界中から消費者の生活を豊かにする、ライフスタイルをエンジョイできる商品やコトを消費者に紹介すべきなのです。大量生産品の低価格に対抗する術を持たない百貨店は決して安売りに走らず、本当に良い素材・縫製・無添加・天然・旬・国産・職人技・などをベースに世界のデザイナーとコラボして今の時代に合った商品を提供すべきだと思います。どんなに最高の素材で最高のデザイナーに依頼しても100万円の「モンペ」は要らないのですから。

シン・百貨店 第1章 第3項ー1

新時代の新業態開発

百貨店再生には、大きく変化した消費者ニーズの把握の次に、マス対応業態の変革が成されなければなりません。一番のターゲット層であった中間層が大きく分裂し、多様化・多層化した消費者達はどの層にターゲットの狙いをつけても昔のような塊での集客は難しい時代です。年齢別・年収別・テイスト別などの旧来のマーケティング手法ではなお更消費者を捉えきれません。「誰にでも受ける」は「誰からも受けない」時代になったことを認識すべきです。前項で述べたようにITを活用した個別マーケティングによる個別対応業態に変革しなければなりません。

では具体的にどんな業態を目指すべきなのでしょう。

ネット時代の百貨店はネット販売と実店舗販売の2軸で小売りを続けていくしかありませんが、今までのような中間搾取的な消化仕入れによるブランドブティック展開や安易なテナント貸し化では難しいでしょう。現状各百貨店指向するディベロッパー化の動きは根本的な課題が多く、なかなか進捗していません。一つ目は社員整理の問題で、二つ目は郊外店対応の問題が残っているからです。更に三つ目の課題が深刻さを増しており、想像だにしなかった事態を招いているのです。

一つ目の問題は雇用している社員数が多すぎ、収支が合わないのです。二子玉川の東神開発は50人規模で2000億円の売上があるショッピングセンターを運営していますが、テナントで入っている玉川高島屋は500人からの社員・派遣社員を抱えながら500億円規模の売上です。どちらが儲かるかは一目瞭然です。大丸百貨店を始め、ディベロッパー指向の百貨店は早期退職で社員数を如何に早く削減するかが至上命題になっています。デベロッパーになったらバイヤーも販売員も要らないのですから。

二つ目は自社でMDを組んでメーカーや小売店を呼び入れようとしても、集客力の落ちた百貨店は魅力がなく入ってくれないのです。地方店はそれが顕著に表れ、大手ファッションメーカーが幅を利かせていたフロアーは退店されてしまいサッカー場と化しています。結果MDなど全く関係なく、売り場を埋めてさえくれれば超低額家賃でも売り上げ歩合でも何でも構わず入ってもらえればよいというのが現実です。ファションビル化しようとする動きは全国の百貨店で当たり前となり、血眼で入居者を探していますが願い叶わず、空いてるフロアーが日増しに増え続けているのが現状です。従来型の食品から衣料・雑貨・食堂に催事場といった旧来型の店舗では地域一番店を取れず、郊外の大型ショッピングセンターに対抗しえないのです。

三つ目のそれは大型で一等地で展開された銀座SIXでも抜けていく店舗が後を絶たず、隣接ブランドが破格の条件で店舗を広げて穴埋めしている状態が常態化していることです。日本橋高島屋新館も鳴り物入りで入れた一等地の入口正面のパン屋はとっくに撤退し、上層階は穴だらけです。要するに大型店舗では床面積を埋めきることが最早できていないのです。特に上層階では集客ができず、渋谷で東急グループが開発した各ビルも所謂有名ブランドはあまりなく、無名だけれど面白い店が入れ替わり立ち替わり床を埋めている状態で、常設のかっちりしたブティック形式で、坪150万円も掛けた内装のブランドなどお呼びでないのです。どんなグレードでも構わないというなら、家賃次第でいくらでもいるでしょうが、館のコンセプトを崩して雑居ビルにしたらそれこそビル全体の価値が下がり、1Fのラグジュアリーは退店してしまうでしょう。一等地の百貨店だけは大丈夫と思い込んでいたメーカーからの逆選別が大きなうねりとなっているのです。

オンワードもサンヨーもそこには1店舗もありません。何処にでも在るブランド、或いは一過性の流行に乗っただけのブランドは、業種を問わず長続きしていません。結局ラグジュアリーブランドか化粧品それと食品しか消費者に支持されてはいないのです。それは一等地の高額な家賃を払う事がラグジュアリーや化粧品などの高額で高利益率商品以外はなかなか難しいという現実があります。特に衣料は価格がこの10年で1/3~1/5に下がってしまいました。その割には製造コストは逆上昇しており、利益が出にくい商材になってしまっているのです。これもマス対象商品ゆえだからなのです。百貨店の旧来型MDでは集客はできないのです。

消化仕入れ形態というのは実に百貨店側とメーカー側の意見の一致を見た最高の仕入れ方法でした。売れなければ家賃相当が発生せず、売れれば売れた分だけの支払いでよいというのは、製造コストに在庫コスト、販売員人件費を負担する側からすると願ったりかなったりだったのです。製造コストが値札の10%以内に収まっていた時代はそれでよかったのですが、上代破壊のSPA型メーカーが勃興すると、それに対抗すべく他のメーカーも上代を下げざるを得なかったのです。結果利益率は大幅に悪化し、メーカーは売れない売場を倉庫代わりに維持していくことが困難になったのです。これには消費者ニーズの変化が大きな要因でもあったのです。大量生産・大量販売品に興味が無くなってきていたのです。

現状、百貨店で売り上げが望めるのもと言えばラグジュアリーブランドと化粧品、それに食品に九州・北海道・京都展などの物産展くらいです。どれも消化仕入れで利益率が低いものばかりですが、一定の集客は見込めます。現状の業態のまま進めば遠からず都心型百貨店は1Fがラグジュアリーブランドと化粧品、地下に食料品で上層階は事務所化・ホテル化・レジデンス化してしまい、同質化することは否めませんし、中途半端なディベロップメントしかできません。銀座東急の失敗がよい例でしょう。

ではどうすれば良いのでしょう?

オンワードの鈴木恒会長が面白い話をしていました。「地方百貨店でブランドショップを展開しても、人件費や在庫だけで月に数百万円かかりますが、売り上げは数十万円台しかなりません。結果、苦渋の決断で地方店舗を数百店舗閉め、代わりに4か月に一度撤退したブランド全部のPOPUP展開を1週間だけ展開したら、4か月分以上の売上が取れているのです。」

この話は示唆に富んだ話です。消費者はいつでも買えるものは、色もサイズも揃っているネット販売で買っており、4か月に一度慣れ親しんだ販売員に会いに来るのだという事実です。消費者は何を買う、何処で買う、誰から買うという時代を経てどうやって買うという時代に入っているのです。ネットと実店舗での買い方を明確に分けているのです。地方では未だ「誰から買う」が強いのかもしれませんが。

固定化された売り場=ブティックという概念が実は私達を縛り付けている根幹かも知れません。NYのバーニーズ等には固定化されたブティックというものがありません。壁が無いのです。それ故毎シーズン毎に売れそうなブランドは展開ラックを広げ数多くのSKUが展開されそうでないものは縮小されるか消滅してしまいます。1か月も展開された商品は通路にパイプで値下げ展開され、シーズン中にもかかわらずバーゲン化してしまい、値引き幅の少ない内に販売してしまおうとしています。それ故、上備のラックは常に新鮮な商品が投入され、売れ切れ御免が販売の基本となっています。日本とは全くMDサイクルも処分スタイルも違うのです。

これは買取がビジネスの基本であって、LVとエルメス以外の、卸売りをしているラグジュアリーブランドの全てが同じような展開をしています。日本はラグジュアリーのJAPAN社が強すぎて、絶対バーゲンをしません。値下げをするくらいなら捨てたほうが良いと豪語しているのです。最も最近はアウトレットで処分しており、プラダなどはアウトレット用にモノを作っているくらいに日本人をバカにしています。

従来の固定化された理念による百貨店の再生はほぼ不可能でしょう。よれより既成概念をすっきり捨てて新しいMD、揃え方・見せ方・売り方の再構築をすることが不可欠ではないでしょうか?それに環境もブティック形式ではなく新しい展開方法の研究がやはり必要です。1階何々売場、2階何々売場という展開ももはやあり得ません。消費者ニーズに合致したライフスタイル別提案フロアーにならなければ消費者の興味は引けないでしょう。常設売り場に対抗したPOPUP売場という発想も必要でしょう。それと若いデザイナーや売場がない製造者やメーカー直販売場などを定期的に入れ替えながら展開するやり方など、ありとあらゆる観点・視点から現状を見直すことがまず第一歩でしょう。

シン・百貨店 第1章 第2項

消費者ニーズ把握

百貨店凋落の最大要因の一つは消費者ニーズの把握を怠ったことです。時代と共に変化した消費者ニーズや趣味嗜好、それに伴うライフスタイル変化の把握とその対応策を見出せなかったことです。消費者ニーズの指向まで理解せず単に商品のみの良し悪しや流行だけを追いかけていただけで、時代に沿ったマーケティングを怠り、消費者ニーズ対応を誤ってしまったのです。

消費者ニーズの変化は単に消費者自身の問題ではなく社会環境が大きくかかわってきています。例えば、商品を製造するために発生する様々な課題があります。製造コストを抑えるための過酷な低賃金労働問題や児童就労問題。大量に使用される顔料や染料による汚染水問題。あるいは大量に破棄される食品。これらの環境問題や労働問題など自然や人にやさしくない商品に対する反省や抵抗が消費者の中で大きなウェイトを占め始めているのですが、食品ロス一つとっても百貨店は何も対応できていないのです。

モノが生活の中に溢れかえった成熟社会ではもはやモノ中心ではなくコトに関心が移り始めているにも関わらず、百貨店はモノしか提供していない現状があります。昔の方が顧客囲い込み戦略の一環として、コンサートや旅行倶楽部、料理や陶芸などの趣味の教室などを主宰し、顧客固定化を図っていましたが今では費用対効果的に不採算として止めてしまっています。時代への逆行です。

百貨店は消費を文化と捉え、消費者をリードしてきた経緯があるにもかかわらず、ある時点から消費者ニーズを捉えることを放棄してしまったのです。消費者ニーズが多様化・多層化したため、塊としての消費者層を把握することが難しくなってきたのは事実ですが、一番の原因は目先の売上に拘り、机上のターゲット層を拡大することで売り上げが取れると錯覚したことによります。更に自分で汗をかき品揃えから見せ方・売り方まで自社で行わず、安易に消化仕入れを拡大することにより効率を追求したことで他社との同質化を招き、消費者から飽きられたという認識を持たなかったことです。過度の効率化追求、売り上げ至上主義が進化を阻み、事なかれのサラリーマン化が拍車をかけたのです。

消化仕入れを拡大しディヴェロッパー化しつつある百貨店の最大の役目は集客ですが、その集客策も前年踏襲主義が蔓延り、商品催しではもはや消費者を集めることができるのは北海道・京都・九州などの物産展だけで、費用の掛かる文化催しはすっかり影を潜めてしまいました。百貨店しかできなかった品揃え、見せ方、売り方、イベントなどが今や何処でもできるレベルになってしまっているのです。高い運賃を払ってわざわざ店頭に足を運ぶ必要性が無くなってしまったのです。

その最大の要因はネット販売の登場であることは否めません。サラリーマン化した百貨店は新時代を切り開く大いなる変革の波にも乗り遅れ、先行する企業からノウハウ的にも、技術的にも、運用ノウハウ的にも100年程遅れてしまいました。ネット販売も目先のテクニック策に走り、ネットの本当の可能性に気付いている百貨店は残念ながら無いのが現実です。単なる販売ツールとしか見ておらず、その可能性の探求は外部任せで、改革するためのコストの大きさに怯んでいるのが現状です。

では百貨店の再生はもはやないのでしょうか?

いや、方法はあります。消費者ニーズをしっかりと捉え、そのニーズに対応しうる新業態に進化することで百貨店は生き残れるはずです。そのためには、消費者がコトでもモノでも今何を一番欲しているのかを把握することが第一歩になります。目先の流行を追うのではなく、消費者が望むライフスタイル指向を個々のレベルで捉え、対応することが不可欠になります。今までのマス分析では対応できません。此処で言う消費者ニーズの把握とは、単に商品のみの事ではなく、消費者が望む新しい商品の揃え方、見せ方、売り方の全部を指すのであり、ネット販売時代の新しい消費ニーズ対応策の考案と実施を行わねばなりません。

現代の消費者ニーズはどのようになっているのでしょう?

➀ マスから個へ変わった消費者ニーズ

百貨店はマス顧客対応で成長してきました。高度成長と共に旺盛な消費意欲を掻き立てる舶来品やブランド品を率先して消費者に提供してきたのです。それは商品を通して新しい生活提案そのものでした。百貨店は「本物志向と商品の確かさによる安心」を販売してきたのです。消費者は流行に後れることを気にし、「他人と同じ」であることを望み、百貨店は大量生産品を大量販売することで消費者ニーズに対応してきたのです。消費者は次から次へと新しいものを購入し続け、消費が文化となっていたのです。

しかし時代の変遷とともに消費者は変化していきました。他人と同じでなければ心配だった「流行の時代」から、他人と同じでは嫌だという「個性の時代」へ。そして自分が欲しいのはモノではなくは体験することへと変化していったのです。大衆から分衆へ、更には個へ。そして個はいろいろな顔を持つ多層化へと変化しマス消費の時代は終焉を迎えたのです。

しかし百貨店の消費者対応策は変わらず、目先のトレンド追及のみでライフスタイル提案まで売場で具現化することができず、結果、売り場はメーカー主導MDとなり、何処の百貨店へ行っても同じ顔ぶれの商品が並び、百貨店の個性は全く消えてしまう羽目となりました。消費者はどこでも同じ品揃えの百貨店から個性的な専門店や在庫のきちんと揃ったメーカー直営路面店へ移動してしまったのです。百貨店はここでしか買えないといった専門店等の競合業態に負けたのです。特にSPA型専門店には太刀打ちができなかったのです。

② ネット販売登場と百貨店の対応

そんな時代がしばらく続きそこへネット販売の登場です。革命的であり百貨店にとっては致命的でありましたが大企業の御多分に漏れず、最初は各社とも否定から入りました。「試着ができない」「手に取らないと素材感がわからない」「配送費用が掛かり消費者に負担が大きい」「シズル感がない」などと、自分が理解できないものは認めようとせず、口先だけは「ネットの時代」「ネットとリアルの融合」などと言っていましたが、技術的な理解が無かったために、その小売りを変える可能性や社会全体をも変えてしまう革命性及び技術の進化スピードなどは理解どころか意識の外にあったのです。

しかもネット販売の本質を見抜けませんでした。TVショッピングのPC版くらいとしか思っていませんでした。

それ故、興味本位の取り組みは早かったですが、本格的に取り組んだ百貨店は高島屋くらいでした。それでも取引先在庫の引き当て方法や決済方法、商品検索エンジン開発など取り組まねばならない課題があまりにも多すぎ、小さな規模での展開しかできなかったのです。そうしているうち後発や新興の楽天やゾゾタウンに追い抜かれ、今では100年ほど後れを取っています。

百貨店業界は消費者がこの新しい技術に飛びつくとは誰も想像だにしていなかったのです。大手は今までの小売業が根本から揺るがされるとは思わず、売り場を持たない・持てない弱小メーカーが細々と飛びつくだけと考えていたのです。しかし技術の進歩は想像以上に早く、機能は日進日歩で、利便性や可能性はあれよあれよをいう間に進み、企業より消費者の方が先に利用方法や可能性を追求し始めていったのです。

③ 早かった消費者の反応

消費者はこの機能に飛びつきました。お仕着せの消費に飽きていた若い層は特にこの利便性にいち早く気づきました。24時間、何処からでも買え、店頭に無い商品まで探せる機能は他人と違う、あるいは自分だけの趣味嗜好を満足させてくれる格好のツールだったのです。「欲しいものが欲しい時に欲しいだけ買える」というマーケティングの理想を実現させたのです。多様化し多層化した消費ニーズ対応にはまさにうってつけのツール登場でした。

この機能をどう使うか、どう活用するか、販売以外の広告ツールとしてどう使うか、など無限の可能性が広がり、企業PRやデータ収集、配送方法などに革命的な変化をももたらして今日に至っています。「この機能をどう使うか」といったアイデアが巨万の富を生み出す宝箱になっているのです。しかし百貨店は未だネットで得られる情報の貴重性に気付いてはいません。ネットの販売機能だけに気を取られ、検索機能や購買履歴から売られる膨大な個人データの価値に気が付いていないのです。

④ 個人マーケティングの幕開け

ネットで蓄積されるデータは無尽蔵といってよいくらいの膨大なデータが収集できます。このデータをもとにマスマーケティングから個人マーケティング=個人カスタマイズされた消費対応が可能になるのです。これにより百貨店は自社ネットHPに来店された消費者の詳細まで分析することができるようになり、自社の品揃えに生かすことができるのですが、自社売り場を放棄してしまった現在、消化仕入れやテナントで入っているメーカーや小売り企業にとって多大なメリットがあるはずです。百貨店はこのデータを分析し、各メーカーや小売企業にデータを販売することさえできるはずです。そうなればマス向けのざっくりしたマーケティングではなく明確な消費性向が把握でき、モノ創りや仕入れを効果的に行うことができるのです。「個マーケティング」の始まりです。

今日ではネットに限らず来店した消費者をAIカメラで分析し、その消費性向や購買予測迄可能になっているのです。データ分析と活用という従来の手法が、桁違いのデータ量と分析力の飛躍的向上により需要予測を可能としているのです。この力を利用しない手はありませんが、現在の百貨店にその発想は未だ全くありません。

⑤ ネット販売の真の脅威

ネット販売の最大の効能は、消費者と生産者を直接結び付けたことです。中間搾取業であった小売業はその存在意義を薄めていくことになるのです。代わりにネット上の新しいデベロッパーが大きく飛躍する時代が始まったのです。消費者はいつでも好きなものを探せ、一物他価で展開される商品を自由に選べ、てリアル店舗では販売されていない商品まで探すことができるようになったかと思えば、個人が要らなくなったものを個人自ら販売できるレベルにまで進化してしまったのです。中間搾取時代の終焉の始まりです。

のようにマスマーケティングから個マーケティングの時代に突入し、明治維新と同じような革命的状況下に小売り全体が置かれることになりました。しかし残念ながら百貨店は個対応もマーケティングも対応策も未だ持ち合わせてはいないのが現実です。

百貨店はまず、ネットの機能を理解し、消費者ニーズがどう変化しているのかといったマーケティング分析から始め、どう百貨店が利用したら良いかを研究しなければなりません。ビッグデータを活用した個別マーケティング手法を開発し、そのマーケティングから個別の消費者に合った商品の揃え方、見せ方、売り方を選別し、個別対応する時代になったという認識を持つべきなのです。

上記内容を実行するためにはまずメガデータ分析マーケティングを行う部署が必要になります。消費者ニーズを個人レベルで分析し、本人でさえ認識しきれていない自己の購買予測を立てられるレベルの分析によって、品揃え・見せ方・売り方迄変えることが可能になるのです。

貨店はこの消費者のメガデータ分析と活用とを早急に始めることが百貨店復活の第一歩になります。

シン・百貨店 第1章 第1項

百貨店の不調が止まりません。

新聞ではこの夏、百貨店は前年比二桁の伸びを取り戻したと発表され、株価も高値を付けています。しかし、残念ながら夏の復調は一過性の状況で、根本的な解決からは程遠いのが現実です。夏の売上回復はこの9月には急速に萎み、苦戦を強いられており、コロナ禍前の8割レベルにしか戻ってはいません。

「コロナ禍のせいで観光客が減ったことが売上減の最大要因なので、コロナ化が終焉すれば観光客が戻りまた爆買いで売り上げは急速回復する」と百貨店関係者はよく言いますが、本当にそうなのでしょうか?百貨店は観光客の爆買いに頼れば生き残れるのでしょうか?

コロナ禍前は中国人を始めとする観光客増加による爆買いが大きな売り上げ要素となり、どの百貨店もインバウンド客誘致に血道をあげていました。確かにその購買力は凄まじく爆買いは日本経済を動かしました。しかし、その恩恵を受けたのは大都市部の百貨店のみで、地方都市の百貨店は全くその恩恵を受けてはいませんでした。百貨店業界全体が受けたわけではないのです。

ですからコロナ禍で観光客が減り、爆買いがなくなったから百貨店が不調というのは必ずしも正しくはありません。爆買いが始まる前から百貨店の日本人消費者離れは著しく、売り上げはじり貧だったのです。その窮状を救ったのが天の恵みであった「爆買い」だったのです。それ故、根本的な売り上げ減少の原因分析とその対策は為されないまま、不振原因は「インバウンドの消滅」と一言で片付け、根本的な対策は何もしないまま全てをコロナ禍のせいにし、改革を怠り、雨乞いをするかのように爆買いの復活を祈るばかりでは復活は程遠いとしか言いようがありません。

このような理由で爆買いだけを待ち望んでいる百貨店に本当の復活があると考えるのは難しいでしょう。しかも観光客が戻っても従来のような爆買いが戻るという保証はどこにも無いのです。それより不調の原因を明確に把握し、確実にその対策を講ずることが今こそ必要な事なのです。もう一度日本人消費者のニーズを掴み、売り上げの主体を日本人に戻さない限り百貨店という業態は存続しえないのです。其の為には百貨店という業態を見直し、22世紀まで残りうる百貨店に進化させていかねばなりません。今の延長線上に未来は無いのです。

でもコロナ禍前、なぜ百貨店の存在意義が薄れ、消費者に支持されなくなってしまったのでしょうか?

ネット販売という新業態が売上を奪ったせいでしょうか?確かにこれは明治維新に匹敵する社会変革を、特に小売業にもたらしました。これまでも小売りの王者だった百貨店に対し、スーパーやGMSなどの強豪の出現があったり、専門大店は百貨店から取り扱いアイテムを多数奪っていったり、通販やTVショッピングは幅広い層の消費者に支持されており、各業態の売上高は未だに伸張し続けています。しかもネット販売はこれらの出現インパクトとは比較にならない程の影響力を持っています。これらの他の小売業態はコロナ禍でも売り上げを伸ばしたり、Ⅴ字回復したりしていますが百貨店だけが回復しないのです。それは一概にインバウンドのせいだとは言い切れません。インバウンドが始まる前からの凋落傾向だからです。

では何故百貨店の凋落は止まらないのでしょうか?

かつて百貨店の強みは、➀ワンストップショッピング ②新しいもの・トレンドのもの・ここでしか手に入らないものが揃っている ③ここで買えば安心、といったものがありました。しかし、消費者のニーズ多様化につれ、その買い方や買う場所・買い方に大きな変化が現れて百貨店の優位性は崩れていってしまいました。その最大の要因は消費ニーズに対応できなかったのではありません。しなかったからです。残念ながら長きに亘った王者の地位に慣れ親しみすぎ、自ら時代を感じ、動こうとはしなかったのです。汗をかこうとせず、安易な消化仕入れへ商売の軸足を移していったのです。※1

※1 筆者が百貨店へ入社した時代は、消化仕入れが10%を超えたら危険だと言われていました。現在では90数%が消化仕入れです。結果、取引先の売り場と化し、品揃えは取引先が売りたいモノ一辺倒になってしまい、どの百貨店へ行っても店頭にある商品は同一化してしまったのです。

現在の消費者はネット情報社会の進展につれ大きく変化しました。結果、百貨店でなければ手に入らない商品はもはやなく、何処ででも買える商品のみを扱っている業態では消費者を満足させ、集客させることは叶わないのです。

百貨店凋落の大きな要因は以下の3点が挙げられます。

➀ 消費者ニーズ変化に対応する遅れ   : 消費者の趣味嗜好・ライフスタイルの変化やSGDS・環境問題などへの未対応

② 業態の時代変化に対応する遅れ    : ネット時代の新しい店舗役割構築と消費者対応策(揃え方・見せ方・売り方)開発

③ AI技術が変える社会変化に対応への遅れ: AIを活用した新・marketing戦略構築と個人ニーズ対応

小売業は、時代毎に変化する消費者の価値観やライフスタイルに合わせて情報提供や商品提供することが必須のビジネスです。そのためのマーケティングを怠り、最新の情報データを収集・分析をせず、顧客ニーズを読まずに安易な前年踏襲の品揃え・商品展開方法・売り方では消費者が離れていくのは必然です。

ましてや、拙書(お客様、閉店です)でも書きましたが、多層化する消費者のニーズに対応するには新しい業態として百貨店を再構築することが不可欠です。その為には百貨店がかつての進取先取りの精神を取り戻し、時代の最先端の技術を活用して消費者ニーズに対応するのみならず、消費喚起を誘えるような新しい小売業を創業するべきなのです。

次回から百貨店が生まれ変わる策を提案したいと思います。

コロナ化後の世界 №6-6

地方百貨店はどうやって生き残るべきでしょうか?

前前回に百貨店の目指すべきMDは高級化路線しかないと言いましたが、地方百貨店にも同じことが言えるのでしょうか?残念ながら同じではありません。地方でも百貨店は高度成長期やネットがない時代に消費者の上昇指向ニーズを一手に引き受けていました。都会でしか買えない商材や大手メーカーの商品をきちんと品揃えし、非日常を具現化して圧倒的支持を得ていたのです。

しかし今日、大都会の百貨店でさえネット販売に押され、消費者ニーズ&ライフスタイルの変化に翻弄され、従来のMDでは立ち行かなくなっているのです。絶対的消費者数が少ない地方では百貨店がもはや大手メーカー店舗が存立しうるだけの売り上げを維持できず、赤字拡大傾向から脱却できる見込みがない中では全国区的な大手メーカー商材を展開するのは不可能です。ラグジュアリーブランドのような高級品は売上だけでなくイメージ戦略に合わない地域には出店しませんし、国産高級品も在庫に成り易く経営を圧迫するでしょう。そこで高級品はその売り方を研究し、外商顧客中心の販売スタイルで展開すべきでしょう。

現在地方百貨店を視察に行きますと、フロアーのあちらこちらにブランドや大手メーカーが撤退した空き地が目立ち、その場所を埋めるべくちぐはぐな感が否めない、アイテムもテイストも全く違う商材がPOP・UPショップとしてだらだら展開されているのが目につきます。もはやMDがどうとかいう以前になってしまっています。取り合えず何でもよいから場所埋めをしとこうという結果でしょう。

ネット全盛時代にどうMDを組むかという課題は、A社が駄目ならB社を入れるといったことではありません。消費者ニーズ変化にどう対応すべきか、という基本的課題を解決すべきで、その結果どう館全体に集客するか、フロアー全体を構成するか、そのパーツとして具体的売り場展開策を検討すべきなのです。30年全盛を誇った商業施設としての役割、特にブランド別ブティック型売り場展開はもはや消費者の支持は得られず、百貨店側からしても面積効率を悪化させる元凶となり、改装経費も膨大になるので新しい売り場展開策を模索すべき時代になっています。

それ故、MDを組む前に実店舗の役割を明確にしておく必要があります。

従来のようにただ商品を並べても消費者は戻ってきません。それよりもう一度地元消費者が必要と思う施設として、大型店舗を活用するべきであります。百貨店は施設としては駐車場から食堂まで展開しています。飲食を新規開業しようすると莫大な経費が掛かる厨房陽が要りませんし、POPUPやイベント展開に必要な催場もあります。あとは地元に何を提供したら、消費者が集まってこれるかというこの一転に尽きます。

百貨店は大抵旧市街の一等地に立地しており、周囲はシャッター通り化しています。ちょっと離れたロードサイドには大型専門大店が軒を連ねており、各店舗の大きさと品揃えには到底勝てません。百貨店としての規模はあってもアイテム毎では到底彼らの敵ではありません。彼らに対抗するにはやはり百貨店でしか売っていない商材と、ワンストップの利便性を提供するしかありません。

時代はモノからコトへと大きく消費者ニーズを大きく変えてしまい、単に物販の店舗を集積しても消費者は呼び戻せません。ロードサイドの大型専門店や総合スーパーも決して楽な状況ではないのです。コンビニやネット販売の拡大で、「便利」というキーワードは大型商業施設からは消えてしまい、消費者は違う他の価値を求めてそれら施設へ行っているのです。残念ながら百貨店はその他の価値観から漏れてしまい、消費者のターゲットから大きく外れてしまった結果が今日なのです。

それをもう一度消費者ニーズの価値ある存在として受け入れてもらうにはどうすべきなのでしょう?

それには消費者がわざわざ来店してくれるコンテンツを店舗に積み込むことです。例えば、郵便局や銀行などの公共事業。病院に歯医者、保育園に塾、ジムやカラオケ、老人ホームやマンションがあっても良いかもしれません。更に食堂では昼間は起業したい地元主婦や若手による専門店(弁当や・ラーメン屋・焼肉屋・蕎麦屋・寿司屋/てんぷらや)。夜はクラブにバーに変化する二毛作業態化を図ります。何しろ地方都市の中核に返り咲く商品ではないMDを組むのです。

4か月に1回の外商フェアーでは普段扱えない高級品を、ファッションフェアーでは大手メーカーのPOPUP展開を、物産展や商品催しを常に展開して集客を図ることが百貨店の一番の業務になります。食品は思い切って成城石井のフランチャイズになるコトも良いかもしれません。地方に成城石井が展開できたら大型スーパーにでさえ対抗できます。制度化粧品は百貨店の独占です。地元のクリエーターの消費jjは積極的に取り上げ、ふるさと納税対象商品になるよう支援するのも手です。

百貨店のOGやOBは日給1000円の義勇兵として、店舗周辺の清掃や児童や老人の送迎バス運転、老人ホーム巡回などを行い、地元活性化を助けます。何しろ、お殿様と言われた百貨店が立ち上がり汗をかく姿を消費者に見せることが重要なのです。これなくしてMDは始まりません。地方百貨店は「街おこし」と一体になり、地域商店街や街全体の活性化の大きな役割を担うという発想が不可欠なのです。

しかし百貨店は従来の百貨店としての存続は計画してはいけません。もう百貨店形態では成立せず、存立しえないからです。あくまで地域の中核施設として、消費者が望むライフスタイル全般のニーズに対応すべき施設に転換するかが最大の問題なのです。商業施設から集合施設へ転換をすることが不可欠なのです。

地方百貨店の存続は、実店舗とネット販売との連動が不可欠になります。特に上手くネット販売を実店舗と組み合わせることが重要です。何故なら消費者が望むものすべてを店頭に揃えても、全部売れる保証はなく、衣料など特に色・サイズのあるものはどんなに売れても必ず残るものが出ることと、売れるまで時間がかかるという点です。店頭回転率は恐ろしく悪く、商材は販売チャンスを失してしまうことが多いということです。取引先は、買取以外の消化仕入れや委託仕入れでは商品を寝かすことになり、残れば在庫負担が重くのしかかります。

これを解消するのがネット販売になります。在庫はメーカー在庫を利用し、売れたらメーカーから納品しても直送しても良い、新しい売り方を研究すべきです。店頭にはフルカラー・フルサイズではなく、サンプルのみの展開で試着をして貰い、欲しければお取り寄せという方式です。この方式だと、メーカーの負担も少なく済むし、百貨店もブランド商品を維持できます。

この時店舗はブランドごとのブティック方式ではなく、メーカーの全ブランドを一か所に集め展開する方法か、テイスト毎にブランドやメーカーの垣根を越えて一緒に展開する方法が現実的でしょう。更に撤退してしまったメーカーには年4回、季節ごとに全ブランドを集めたPOPUP展開を要請します。季節商材を期間を決めて販売することにより、メーカー側も在庫を回すことができ、ロス削減になります。

実際オンワード樫山では撤退した百貨店で年3回のPOPUPショップを展開し、1年分の売り上げを超える売り上げをたった6週間でたたき出しております。経費が掛からない分確実に利益が出ており、新しい売り方として注目を集めています。

商品はネットでは全国展開商品と地域限定地元メーカー商品を掲載し、幅広い地元層に対応します。実店舗では通常ネットで販売していない地元商材と食材が中心になるでしょう。

地方百貨店は地元の郊外型総合ショッピングセンターと競合しても、ロードサイドの専門店と競合しても残念ながら勝てません。それよりわざわざ来店させる集客策を、MD面や宣伝面で徹底して研究するほうが重要です。現在ロードサイドに在ったかつての物流倉庫を専門店に貸し出したり、駐車場を完全賃貸しにしたり、自前の戦略なしで細々と生きている百貨店ばかりです。企業再生ブラーカーに頼り最後の資金を騙し取られたり、社員を減らすことばかりで一切打って出る施策を持たない経営層ばかりです。

こんな状況下になっても危機感すら持っていない経営層は想像以上に多いです。経営層も社員も自社だけは絶対つぶれないと思っている百貨店は多いです。でもそんなことはありません。閉店は目の前に迫っているのです。

 

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