シン・百貨店 第1章 第3項-5
ネット時代の店舗の在り方は?
ネットが勃興し瞬く間に実店舗売り上げを凌ぐまで成長した今日、実店舗の在り方も従来通りでは立ち行かず、再構築しなければなりません。消費者の消費に対する意識の変化は、細分化し、多様化し、従来のマス対応でどこにでもあるブランド毎に店舗を並べていれば集客できることは不可能となり、過去の常識は全く通用しない時代に入っているのです。
現在各百貨店が実店舗の活用策としてネット商品の受取場化とか、試着場化とか、あるいは商品を見せるだけの展示場化などを模索しています。しかし、こんな馬鹿げた策はありません。ネット販売時代にリアル店舗はどうあるべきかという根本的解決には成り得ないモノばかりで、小売業として本気で生き残れる策とはとても思えません。
一方、大丸百貨店を中心に百貨店自体をディベロッパーに業態変更しようとする動きがあります。持て余した百貨店の売り場を改装し、テナント貸しにより収入の安定化を図ろうとするものです。
代表例はGINZA6ですが、これはこれは都心型の大型百貨店のみに通用する施策です。立地が良く集客がし易く路面程家賃や経費が掛からないメリットがあるのでテナントにはうれしい施設です。百貨店では消化仕入れの為、売上に対する歩合売上が家賃として徴収されますが、テナントでは一定額の家賃さえ払えば売り上げがいくら上がっても賃料は変わらないからです。しかも「銀座に店がある」と言えば大変聞こえが良いからです。
しかしこの策を実行するには膨大な数の社員の早期退職が不可欠になります。従来300名で運営していた店舗を場所貸し化すれば運営・管理業務だけで10名も居ればあとは外部委託で済んでしまうからです。大型店舗を多数抱える百貨店では配置転換も可能ですが中小規模の百貨店では無理な施策であります。しかし、郊外や地方店ではなかなかこのようにテナント化の推進は進んではいません。形態を変えてもテナントが商圏自体に魅力を感じなくては出店してもらえないからです。
そこで既存店舗を売却し店舗を移動・小型化する動きも出始めています。これはかつては一級であった立地が商圏の移動や来店手段の変化で一級ではなくなってしまっってしまい、現在地での復活が不可能と判断され、立地の移動と商圏に見合う大きさにダウンサイジングさせねば生き残れないと判断されているからです。
自社の商圏に見合った規模に縮小・コンパクト化し、かつ移転することにより効率の良い小型店舗として存続を図るやり方では、直近では山梨の岡島百貨店がこの手法で再生を図り、再出発しました。旧店舗は売却し、それで得た資金で移転を果たし、店舗を小型化することにより無駄なスペースや老朽化したスペースの設備維持費や人件費を削減し、収支改善を目指したのです。
小型化により残るMDは化粧品と食品が主役となり、衣料はほとんど無くなりますが、最大の課題は消費者にデイリーに足を運んでもらえるMDの構築とイベント性の保持による集客力の強化です。岡島もその点を理解し、週替わりのイベントコーナーを設けましたが、どれだけPRでき且つ集客できるかが今後見守りたいと思います。
これらは根本から生き残りをかけて百貨店を改革させようとする中から出てきた発想です。しかし、百貨店に都合の良い改革では上手くいくとは思えません。何故なら、なぜ現在のように百貨店が凋落したのかその根本原因追求が為されなければ、消費者から再び支持を得ることは難しいからです。
では百貨店凋落の原因は何なのでしょう?
最大の課題は百貨店に魅力が無くなったことです。ネット販売の急成長やライフスタイルの多様化で何処ででも買える商品をわざわざ来店して迄購入する必然性が無くなり、ネット販売では買えない商材のみが集客要因化しているからです。その他、SPA台頭による圧倒的な価格破壊、人口の減少と少子化、多様な購入チャンネルの普及など様々な要因が挙げられますが、百貨店凋落の最大の原因は「消費者のニーズの変化」に対応ができず、消費者がわざわざ来店する魅力がなくなったためなのです。
百貨店特有の接客販売も自社社員ではなく取引先からの販売員にしてしまった結果、百貨店独自のマニュアルを超えたサービスができなくなり、画一的で人間味の欠けた接客しか残っていません。かつて消費者は「何を買うか、何処で買うか、誰から買うかというように消費者は販売員に附いていくのです。
ネット時代に相応しい百貨店の魅力は何なのか?どうすれば売場に再び消費者が戻ってもらえるのか?百貨店は何をどう対応すべきなのか?やるべきことは沢山ありますが、新しい時代の百貨店売場で重要な点は3点です。
一つ目はMDです。
先にも述べましたが、何処にでも売っている商材や、ネットでも買える商材ではわざわざ来店を促すことは難しいです。やはり世界の逸品やここに来なければ買えない店のオリジナル商品を揃えることが不可欠になります。HELMESやCHANELなどの工場で一流の素材と一流の技術で制作されたものは自社のオリジナルとして十分な価値があります。数を売るためでなく、上質なものを求める百貨店本来の顧客や、若くてもモノを長く大事に使うエシカルな消費志向者向けには最善であります。かといって決して高額品ばかりでなくり上質な定番品や、未だ日本に紹介されていない銘品を探し、紹介することも百貨店の大きな使命の一つです。キーワードは「安くて、良い」ではなく「上質で適正価格、且つ品が良い」です。
「此処に来なければ買えない」商品があるという決定的な来店動機を生み出すことが不可欠です。
二つ目は売場の展開方法です。
従来のような効率を追求するために、各売り場を5~30㎡に詰めて展開し、数を追求するような売り場では消費者は満足しません。サイズや色デザイン全てが一同で見られなければネットに敵わないからです。また販売員を派遣できる消化仕入れを軸に置いたため、ナショナルブランドばかりとなり、何処の百貨店へ行っても全くと言ってよいほど品揃えが同質化してしまったのです。消費者からすればこんなに詰まらない業態はありません。わざわざ各店を見て回らなくても、いや来店などしなくても商品が全部見えているのですから。
次世代に求められる売り場創りの基本は「地域一番主義」です。これは館全体で規模やブランド集積を誇る従来の発想ではなく、展開するブランドやテナントが地域で最大の面積・品揃えを誇る「売場」を説明する言葉になります。まずネットに対抗できるフルアイテム・フルサイズ・フルカラーを展開できる売り場面積を保持し、ネットでは体験できないサービスを提供することが不可欠になります。売場が大きくゆったりと商品が見え、試せ、情報を得られる売り場開発が必要なのです。
大きな試着室に、同伴者がゆったり座れるソファ、販売員は指名制で店舗来店は完全予約制。茶菓の提供にアルコールの提供まで無料でサービスされ、その場でのサイズ直しや当日の自宅届け、修理サービスに保管サービス、洗濯サービスなどあらゆるサービスを有料・無料で執り行うことが重要になってきます。
これらの付帯サービス機能を以てして同業他社の追随を許さない売り場創りが不可欠になっていきます。あらゆる分野での1番ではなく特定分野やアイテムでの1番を目指すのが他社との最大差別化に成ります。
三つ目は新しい売り方です。
せっかく来店しても商品知識もなく、センスも良くない会社の指示通りしか話せない販売員しかいないのでは、アドヴァイスを受ける気にもなりません。販売員は売場のスターでなければなりません。一流メーカーからの派遣社員でも、メーカーの正社員ならある程度教育を受けているでしょうが、それで十分とは言えません。現在各社とも入店教育は施していますがその多くはレジの打ち方、店内符丁、カードのポイント付加率、などどうでも良いコトばかりです。
各百貨店の代表として販売する訳ですから、基本は自社販売員に戻すべきです。こんなことを言うと人件費が膨れるとか、販売員に負荷がかかりすぎるとか、人事と組合が共同戦線をがっちりと組んで迫ってくるでしょう。今までは百貨店に集客力があり、一流の顧客が数多く来店なさっており、それなりの売上が取れたからこそメーカーは派遣社員を送り込んでいたのです。しかし、販売員派遣の経費に見合う売り上げが取れなければ当然販売員は派遣してきませんし、売り上げが一定金額見込めなければ、店においてある在庫は死筋となり、期末には不良在庫としてメーカーに重く圧し掛かってきます。
コロナ禍で多くの百貨店が苦戦し、結果大手アパレルをはじめとする多くのメーカーが派遣社員どころか店自体を退店させたのは自明の理なのです。オンワードなどは数百店舗撤退したおかげで、売上減より無駄な制作費や人件費を削減でき、それだけで黒字化したほどです。
もし販売員を自社社員に切り替えたら当然仕入れ値を改定しなければなりません。最低でも10%から15%、雑貨などは20%から25%は最低改善できるでしょう。更に買取に変更したら、15%や20%の上乗せは十分可能でしょう。しかし、このままでは売上は上がっては来ないでしょう。何故なら販売員の尻を叩いても販売員自身にメリットが無ければ人はなかなか動きはしません。
そこで、販売員に対してインセンティブが必要になってきます。基本収入の70%は基本給で後は売上歩合製に変更するのです。予算達成したら基本収入100%がもらえるように制度変更し、予算を2か月続けたら売り上げの1%、3か月続けたら3%を各自にバックするのです。欧米では当たり前の制度です。逆に予算が3か月いかなければ移動対象者となり、減給されるのです。実際はもっと細かい規定が必要ですが概略はこんなものです。
まずは「そんなことはできない」と頭から否定する人材を排し、「チャレンジしてみよう」という人材を活用すべきなのです。その為には人事制度の大幅改革が不可欠になるでしょう。(次回続く)