シン・百貨店 第1章 第3項ー4

ネットでの宣戦布告

前回で百貨店がネット販売を強化するにはネット上でのディヴェロッパー戦略=ECプラットフォーマー化を取るべきだと申し上げました。現在のような中途半端な自社HPのままでは、在庫管理システムも十分でなく、展開商品量もすぐ切れてしまい、配送システムも未整備で返品すら満足に受けきれない現状では、とても専業ECプラットフォーマー(PF)に太刀打ちできるものではないどころか、未整備な古いシステムの維持費や人件費などで利益などとても出せる状況では無いのですから。

すでに百貨店の多くは専業ECサイトに立ち向かう事を諦め、中元・歳暮などやギフト商品を細々とカタログ販売と併用して行っているにすぎません。写真の撮り方や販売員によるブログ作成だとかを有名ブロガーに多額の金を払って教えを乞うたり商品バイイングに参加させたり、一体何をやっているのやら理解ができません。先行するPFから100年も後れを取っています。

しかし、先行するPFに意外な落とし穴が待っていました。「商品を見ないで物を買う」というネット販売の根本手法に、偽物・不良品・詐欺商品といった商品が溢れ出したのです。ECプラットフォーマーは必死になってこれらの販売業者や商品を削除すべく日々努力をしていますが、イタチごっこの態を示しており、撲滅は難しい状況です。専業ECネット上では本物であるという担保は機能していません。あくまで消費者が自己判断で購入を決めるのです。

そこで消費者は百貨店の持つ「信用」に気付き始めました。百貨店が「絶対的に信用出来るもの」のみを取引先から仕入れてきた実績の価値はここ十数年に勃興したECPF企業では真似のできないものだからです。しかも百貨店は一般大衆相手ではなく、自社カード会員やその他で囲い込んだ百万人を超える顧客をすでに持っているのです。これらの顧客を核に従来の信用のおける取引先と連動した商品展開を行えば、一見客しかいない専業ECPFとは一線を画した企業として認知されるはずです。

今がチャンスです!

百貨店は今こそ、新店舗開店と同額レベルの資金を投下し、本格的にEC販売に参入する時なのです。その為にはシステム開発(顧客データ管理・在庫把握・取引先HPとのリンクなど)に100億以上の開発費がいるでしょう。保安体制の確実な、即時取引ができる体制にはこれでも少ないくらいです。大手のサイト運営者はデータ管理に数百億円の投資を行いデータ保存・分類・安全対策を行ってきたのです。今こそネット事業に本当に参加するなら受注システム・配送システム・返品システム・再生工場まで一貫した体制を取れる仕組みを組まねばならないのです。

この基本システムの上に更にデータ分析をしてリコメンド機能まで自動的に付加する位は最早当たり前で、今後は商品を探したり、オーダーを受けたりする機能も求められるでしょう。そして売れるまでの時間を想定し、過ぎたら自動的に値下げになるシステムなどは始まっています。

ユニクロなどは流通時間の短縮や返品商品の再生期間短縮迄視野に入れた効率化を推進していると聞きます。無駄な在庫を持たず、売り切りごめんで在庫ロスを削減する、こんな芸当までやっているのです。モノを売るに「効率」を徹底したやり方の追求を行えば、此処に行き着くのでしょう。しかし百貨店のネット販売はその対極を行くものでなければなりません。

数を売るより、本物で上質なモノやコトを提供するのです。安易に値引きをするのではなく、修理や保管まで受け追うサービスを有料で付け、「高いがそれに見合う価値があるもの」を扱っていくのです。しかもトレンドや流行にはいち早く敏感に商品を取り揃えるため、バイヤー組織は長い耳を持ち、取引先と連携してモノ創りにまで入り込む必要も出てくるでしょう。

しかし残念なことに、リアル店舗でも大きな売り上げシェアを占めるラグジュアリーブランドは自前のHP以外に商品展開を許してはいません。当然と言えば当然ですが、百貨店はネット販売の黎明期からもっと早くアプローチしていれば可能性もあったものを、今となっては完全な手遅れです。替わりにラグジュアリーブランドが製造委託している工場やメーカーと提携し、オリジナル商品を開発して販売していくことが不可欠になっていくのです。

何処ででも買える商品ではなく、来店しなければ買えない商材やブランド開発の延長線として高品質でラグジュアリーブランドに勝るとも劣らない商品を適正な価格で販売することは、ネット販売の大きな柱になるでしょう。その際、定番商品より今期のトレンド商材をどこよりも早く紹介し、予約販売できたら大きな勝機が来ることは間違いありません。

この案を実行するためには、何よりもネットに明るい人材に、それも若くデジタルに強い人材を起用し、所謂経営層は口を出さず且つMD本部の機能を強化し、モノ創りができるチームを一日も早く作ることです。そして販売方法や値引き方法、返品や新商品紹介のリコメンド機能などを早急に取り入れることです。

百貨店はもう一度、「モノ創り」から始めるのです。そして百貨店復活の狼煙を上げるのです。

追伸

昨年の11月からコロナ禍の為、クーデター倶楽部の定例会を中止せざるを得ない状況下になり、当ブログをお読みいただいている皆様に大変ご迷惑をかけた事を、此処に謹んでお詫び申し上げます。尚、5月より月2回の更新を目指していきますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

クーデター倶楽部 議長

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