コロナ禍からの復興2021№11

三度目の緊急事態宣言が出されています。人々は慣れてしまい盛り場はどこへ行っても多くの人出があります。東京がダメなら埼玉や神奈川に飲みに出かけたり、子供が我慢できないからと観光地に繰り出したり完全に全体的に気が緩んでいる感じは否めません。

こんな状況下で律儀に店を閉めている店舗もあれば、もう我慢ならんとばかり罰金払っても営業をする店舗もあります。飲食業界は酒類提供自粛で壊滅的な打撃を受けています。お酒を飲む店は当然、食事の際にも酒が飲めないとなれば外食は営業しても利益が出ないでしょう。

今回自粛対象に成った大型商業施設はどうでしょう。スーパーは生活必需品ということで全店開業していますが百貨店は贅沢品を扱っているということで食品フロア以外は一部の雑貨売り場を除いて閉店を余儀なくされています。百貨店協会会長が自粛対象外にすべく必死で訴えていましたが、一般人の共感は得られず、あえなく閉店の憂き目に合っています。

こんな百貨店のコロナ対応は各社まちまちです。

三越伊勢丹は売り場全体の商品が買えるネット販売へ大きくシフトしようとしています。2021年度のネット売上目標値は350億円で業界1位ですが全売り上げの4%に過ぎません。これでは実店舗の苦戦を止めるには程遠いと思われます。大丸は場所貸し事業への転換を急ぎ、百貨店売り上げは総額の半分をきっています。しかし買収したPARCOなどは黒字ですが大金を投じた銀座SIXなどは撤退テナントが後を絶たず、撤退したテナントに隣接している店舗に売り場を拡張してもらい体裁を繕っている状況です。高島屋は東神開発を中心にした街づくりと称する開発を推進していますが、日本橋はビル一つをテナント化しただけで「街づくり」とは笑わせてくれます。それも「街づくり」の根本コンセプトが陳腐なため、ただのテナントビル化しています。

これらの大手百貨店をはじめ全ての百貨店はひたすらコロナ禍が過去るのを祈るばかりで、具体的対策を模索すらしていません。しかしよく考えてみるとコロナ禍で顧客が減ったと思い込んでいますが、コロナの前から売り上げはインバウンド頼みでそれを外すと全ての百貨店が前年割れの状態だったのです。インバウンドの恩恵を受けない地方百貨店は確かに観光客や修学旅行生によって息を繋いでいましたが、ここにきてそれすら無くなりもはや時間の問題という店舗がほとんどです。

昨年山形県の大沼が突然閉店し、百貨店の無い県が初めて誕生し大騒ぎになりましたが、これからはほとんどの県から百貨店は無くなっていくでしょう。かろうじて県庁所在地に残れば幸いでしょう。

何故百貨店はここまで衰退してしまったのでしょう。

最大の要因は時代の変化を身をもって否定したことです。私はIT革命を明治維新と同じと考えています。それは400年間も続いた生活が一朝一夕に変わるはずが無いと誰もが思い、押し寄せる時代の変革に無関心や根拠なく安心感で無視したあの時と全く持って同じだからです。武士の時代が、農民によって覆される等誰も信じていなかったのです。IT技術革新が始まった時、当時の役員はその意味を理解しようとせず、否定から入ったのです、「こんなものは一過性ですぐ終わる」と。結果対応が遅れ、プラットフォーム企業が1000億単位で投資をして技術革新を進めているのに、5億~10億レベルの投資で紙媒体をネット化しただけで「リアルとネットの融合を果たした」などと寝言を言っている有様です。AI対応、ネット対応に大きく後れを取ったことが最大の理由です。

二つ目の要因は、取引先の上に胡坐をかいて自ら努力することを忘れ、自ら汗をかき商品を探し、造り、販売することを止めてしまったことです。結果商品の良し悪し、コストから積み上げた適正価格、話題の商品などを判断することができなくなり、取引先におんぶにだっこで、ひたすら中間搾取を続けたためであります。世の中の新しい流れであるB to BやB to C、 C to C等の流れには全くついていけない時代遅れの「販売構造」に成ってしまったのです。消化仕入れでリスクは全て取引先持ちなんて、続くはずがありません。コロナ禍で取引先が苦しんでいるのに共に苦難を分かち合おうと仕入れ率を挙げたという話は一切聞きません。自分だけが良ければ取引先等いくらでもいるといったおごり以外のなにものでもありません。いずれしっぺ返しを取引先から食らうことは明らかです。これから中間搾取業態は生き残れないことは確実です。

三つめは消費者のニーズを完全に読み間違えていることです。他業種で売れているブランドがあればターゲットもグレードも違う顧客対象でも構わず導入しようとします。目先の売上確保が最優先なのです。品質が良くて安いに越したことはありませんが、消費者はファッション全般にそれを求めている訳ではないのです。消費者は「百貨店は品質は良いけど高い」と考えているのか「百貨店は高いけれど品質は良い」と考えているのかどう捉えるかによってその意味合いは大きく変わります。今の多くの百貨店マンは自分の生活水準でモノを考えるため、「安くないと売れない」という幻想に惑わされ、UNIQLOをはじめ量販家電、ニトリ、果てはドンキホーテまで招聘し集客を頼ろうとしています。しかし低価格量販店指向の顧客にはどんなに低価格志向を百貨店が行っても、百貨店のファンに成るにはハードルが高すぎるのです。地方の百貨店は競合が郊外型量販店なのでUNIQLO等の招聘も有効性があると思いますが、都心店では全く意味が無い施策です。

特にこの三つめの理由は百貨店の存在意義を問うもので、大変重要な課題であります。長年に渡り安易な消化仕入れに頼ってきた結果、現場で汗を掻きながらお客様のニーズを理解する社員が居なくなり、サラリーマン化した社員は新しいことにチャレンジして失敗することを恐れ、無難な前年踏襲主義へ陥っていったのです。結果消費者が百貨店に求めるニーズではなく世の中ではやった安価な商品や安価なブランド導入に血道をあげ、百貨店の中にユニクロや似鳥の導入すら行ったのです。顧客が百貨店とユニクロに求めるものが違うというのに!

このような理由から百貨店は顧客のニーズから急速に乖離していったのです。頼みの綱の取り引き先がモノも人も高い歩率も払えなくなり撤退を始めた結果、売場に穴が開くどころかサッカー場ができてしまっています。しかしこの期に及んでもA社がダメならB社をと、必死で消化仕入れ先を探すのが関の山となっているのです。百貨店自体では何ら手を打つことはしていないのです。消費者が百貨店に何を臨んでいるのか全く見えていないのです。

或る経営者はこれからはルイヴィトンを目指すべきだと言っています。毎シーズン毎に新作を出し常に売り場が新鮮だからこれを真似るべきだと言っています。では具体的にどうすれば良いのでしょうか。バイヤーは出張ができず、日本のファッション雑誌を見て仕入れを検討し、昨日入社した新人が10年選手のベテラン派遣販売員を前に朝礼している現状で、百貨店が浮上するとはとても思えません。この現状は現場が招いたものではなく、売り上げ不振時に人員削減、消化仕入れ化を推進させ見せかけの利益を株主に見せてきた経営層の失政の賜物です。

ではこのまま百貨店は消滅に向かって行くだけでしょうか?

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